第21話 銃口の向こうにいた少年
お読みいただき、ありがとうございます。
どうぞ、今回の旅もお楽しみください。
カリヴァルを出た日の午後、荷馬車は街道の林で止められた。
「荷を置いていけ」
男が三人、道へ出てきた。フレイアが立とうとすると、エドガーが後ろへ手を伸ばした。
「座ってろ」
エドガーの手が外套の内側へ消えた。フレイアは、その指に従って荷台へ座り直した。前方には剣を持つ男。右の藪には杖を握る痩せた男。左から回り込む巨漢は、馬の手綱を狙っている。
「降りろ。女もだ」
「馬には近づくなよ。噛まれても知らねぇぞ」
いつもの軽口だった。だが、エドガーの目は誰の顔にも留まらない。指、肩、足元。三人が次に動かす場所を順に追っていた。御者台を降りる足が砂利を踏む。巨漢が馬へ手を伸ばし、杖の男が息を吸った。乾いた音が、森に一度だけ響いた。
「ひっ!」
木片が散った。詠唱を始める前に杖の先端が消え、男は血のにじむ手を抱えて後ずさる。シリウスが竿立ちになりかけ、ベガが横へ逃げた。馬車の軸が軋んだ。フレイアは馬の前に薄い壁を出した。シリウスの鼻先が見えない壁に触れ、身体を引く。追い立てる魔力は使わなかった。
「てめえ!」
巨漢が斧を振り上げる。エドガーは馬から離れる方へ一歩退いた。斧が空を切り、地面へ食い込む。その柄を靴底で押さえ、男の顎を銃把で打った。剣の男が横から来た。エドガーは巨漢を押し出す。仲間を斬りかけて剣が止まり、その手首が掴まれた。短い悲鳴とともに剣が落ちる。身体を捻られた男が、肩から砂利へ転がった。フレイアが二度目の瞬きをする間に、三人のうち二人が地面に伏していた。
「手を見せろ」
エドガーが言った。剣の男の額へ銃口を向けたまま、顔は杖の男へ向けている。男の手が腰の短剣から離れた。
「頭の後ろ。膝をつけ。ゆっくりだ」
命令は短く、相手が従う時間だけを空けた。怒鳴りもしない。その静けさが、先ほどの銃声より男たちを怯えさせていた。フレイアは黒い武器を眺めた。小さな鉄の筒が、人間三人の動きを決めている。相手の剣を受ければ折れる骨も、斧が当たれば裂ける肉も、商人は魔法で守っていなかった。最後の男が膝をつくと、エドガーは初めて息を吐いた。
「追ってくるな。次に馬へ手を出したら、杖じゃ済まさねぇ」
落とした武器を街道の反対側へ蹴りやる。巨漢は気を失っていなかった。呻きながら這い起き、二人に肩を貸されて藪へ消えた。エドガーは足音が遠ざかるまで銃を下ろさなかった。
「逃がすのか」
「次の関所で人相は知らせる。今ここで三人を縛って運ぶ方が危ねぇよ」
「殺せば済む」
「殺すために降りたわけじゃねぇからな」
答えながら弾倉を確かめる。その手つきは、商品の数を数える時より迷いがなかった。フレイアは荷台から下りた。エドガーは二頭の首を撫で、耳元へ何か囁いている。先ほどの冷たい目が、もうどこにもない。
「貴様、商人になる前は何をしていた」
撫でていた手が止まった。ほんの短い間だった。馬の鼻息が二人の間を抜ける。
「旅商人は自衛くらいするぜ」
「覚えたての技を試す動きではなかった。何度も同じ順序で、人を動かしてきた動きだ」
エドガーはフレイアを見た。からかうような笑みを作りかけ、やめた。
「ずいぶん見てるんだな」
「人間を見に来たのでな」
「だからって、何でも見せてもらえると思うなよ」
フレイアは口を閉じた。答えなければ、それも答えだ。御者台へ戻ろうとすると、エドガーが顎で川の方を示した。
「馬を休ませる。少し付き合え」
街道から見えすぎず、森に入りすぎない川岸を選んだ。エドガーは馬車の向きを逃げ道へ合わせ、荷台から飼葉を下ろした。水を汲み、車輪を確かめてから、自分のための火を起こす。いつもと同じ支度だった。フレイアには、その一つ一つが別の意味を帯びて見えた。馬の休息と、逃走の備え。湯を沸かす火と、近づく者を照らす明かり。
「その銃も、仕入れた品ではないのか」
「一本はな。もう一本は、もらった」
エドガーは外套を引き寄せ、膝の上へ置いた。裏地には何度も縫い直した跡がある。
「これもだ」
「大切な品なのだな」
「高かったらしいぜ。俺が買ったわけじゃないが」
冗談の形で返し、それから長く黙った。フレイアは急かさずに川を見た。水の底で、小さな魚が石の陰へ潜る。
「さっきのは、怒ったからじゃないんだ」
エドガーが言った。
「誰が一番先に撃つか、どこへ動けば馬に当たらないか。考える前に身体がやる。便利だぜ。おかげで、今でも生きてる」
「それを教えた者がいたのか」
「ああ。十二で最初の戦場へ出された」
フレイアは人間の十二歳を思い浮かべた。知識の国で追い出された子供たちより、少し大きい程度だ。
「何のために」
「祖国を守るため、って話だった」
エドガーが薪を足す。組み方を直しているうちに、炎が細く高くなった。
「俺の国はアイアン・レイブン。鉄の国と呼ばれてた。山には鉄があって、街には兵士がいて、空はいつも灰色だった」
フレイアが頭上を見上げると、葉の隙間に青があった。エドガーはそこを見ず、火の奥を見ていた。
「十四になるまで、それ以外の空があるなんて知らなかった。……教えた男がいたんだ。俺たちが、殺した男が」
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
続きも読みたいと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。




