第二十話 神代神社と宗玄
昨晩のカオス状態から翌朝。ここには神代家の家族だけが集まっていた。
ノアとラピスには、セリナとリーファ、ルカと共に別室で待っていてもらった。
◇
美琴は、少しだけ居住まいを正した。
「透さん。神代神社というのはね――もともと、退魔を担ってきた一族なのですよ」
「……退魔?」
透が眉を寄せる。
「ええ。もっとも、今では魔の者が現れること自体、ほとんどなくなりましたけれど」
美琴は穏やかな口調のまま続けた。
「お父さんが時々、ふらりと家を空けていたでしょう?」
透は隆志を見る。言われてみれば、確かにあった。理由もろくに告げず、数日ほど家を空けることが。
「……あれ、仕事じゃなかったのか?」
隆志は困ったように笑った。
「仕事といえば、仕事かな」
「お父さんには、神代家のお役目がありましたから」
美琴が言った。
「いずれ話すつもりだったのでしょうけれど……こうして私たち家族がパンゲアに集まった以上、今ここで話しておいた方がいいでしょうね」
そして美琴は、自分の胸元へそっと手を添えた。
「神代家が退魔を担う武の家なら、私の生まれた家は護りの家です」
「護りの家……?」
「ええ。護符を作り、結界を張り、人を癒やす。魔を討つのではなく、魔から人を護るための術を受け継いできました」
透は黙って聞いている。結衣も明日華も、いつになく真剣な顔をしていた。
「地球にはね、昔からいくつか存在するのです」
美琴が静かに言った。
「この世界とは異なる場所へ通じる入り口――次元の裂け目、とでも呼べばいいのでしょうか」
その言葉に、部屋の空気がわずかに変わった。
「その一つが――黄泉比良坂です」
「……黄泉比良坂」
「ええ。そして、その地を長く守護してきたのが、出雲神代本宮です」
透は思わず息を呑んだ。
自分たちがパンゲアへ来たこと。宗玄が別の場所へ転移したこと。そして、この世界と地球との間に存在する不可思議な繋がり。
それらが、少しずつ一本の線になり始めていた。
「そして――」
美琴は透をまっすぐに見た。
「なぜ神代神社が、東京の多摩、その奥深い山の中にあるのか」
透は答えられない。
何も気にせず過ごしてきた家だから、そんなことを考えたことすらなかった。
「あの土地は昔、ある強大な魔の者を討滅し、その残滓を封じた場所なのです」
「……え?」
結衣が小さく声を漏らした。
「じゃあ、うちの神社の下に……?」
「昔は、ね」
美琴は微笑んだ。
「長い年月の中で、その魔は完全に浄化されています。ですから、今はもう心配ありません」
そして、その視線が透の腰へ向かう。
「天羽々斬」
透もつられるように、自らの刀を見る。
「あれは、ただ神代家に伝わった刀ではありません」
美琴の声が少しだけ低くなった。
「神代神社の御神刀です」
「御神刀……」
「そして――かつて、その魔の者を討滅した刀でもあります」
「…………」
透は言葉を失った。
幼い頃から知っている刀だった。宗玄に剣を習い、その存在を当たり前のように受け入れてきた。
だが、その刀には、自分の知らない遥かな歴史があった。
「魔の者が浄化された後も、神代神社はその地に残されました」
美琴は続ける。
「なぜなら、あの土地そのものが、とても強い霊力に満たされた場所だからです」
「あ……」
透はそこで、ようやく気づいた。
美琴も頷く。
「そうです。真白や蒼姫さんが、あの場所へ導かれたこと。そして、人の世にありながら普通に暮らしていられたこと。それも、おそらく偶然ではありません」
「真白も?」
真白が自分を指差した。
「ええ。真白もですよ」
「ふぅん……」
真白はなぜか得意そうに胸を張った。
張るところなのだろうか。
少しだけ張り詰めていた空気が緩む。
だが、美琴はそこで改めて透たちを見渡した。
「ですから――神代家は、昔から武の一門です」
「母さん……その言い方」
「だって本当でしょう?」
美琴はにこりと笑った。
隆志が苦笑する。
「否定はできないね」
「私たちは、好んで戦う一族ではありません」
美琴の表情が変わった。
「けれど――守らなければならない人がいるなら、いざという時には先頭に立つ」
その声は静かだった。けれど、揺るぎがなかった。
「それが神代家です」
透は何も言わない。
「だから結衣も、明日華も、普通に戦えるのですよ」
「普通って……」
結衣がぼそりと言う。
「私たち、普通だったんだ……」
「少なくとも神代家では、ですね」
明日華が小さく息を吐いた。
「なんとなく納得しました……」
そして美琴は、ごく当然のことのように続けた。
「もちろん、私も戦いますよ」
「母さんも?」
「あら」
美琴が首を傾げる。
「当然でしょう?」
「…………」
透は黙った。
じいちゃんは、剣術流派の宗主。
親父は、実は退魔のお役目を持つ神職。
母さんは、護符と結界と癒やしを受け継ぐ護りの一族。
妹二人も、当たり前のように戦える。
そのうえ、家の神社はかつて魔を封じた霊地で、家に伝わる刀は、その魔を討滅した御神刀。
そして今、自分たちは異世界にいる。
「…………」
透はしばらく黙ったあと、ぽつりと呟いた。
「……俺は、何も知らなかったんだな」
部屋の中に、なんとも言えない沈黙が落ちた。
◇
「おや。ここはどこじゃ?」
暗い洞窟の中に、老人の声が響いた。
ぽたり。
どこかで水滴が落ちる。
「何やら湿気っぽいのう」
神代宗玄は、周囲を見回した。
薄暗い。岩肌には水が伝い、足元も少し濡れている。どう見ても、神社ではない。
「おお。ということは――」
宗玄はにやりと笑った。
「どうやら無事、パンゲアとやらへ転移できたようじゃの」
懐から護符を取り出す。それは、転移する前に隆志たちと互いの無事を確認するため用意していたものだった。
しばらく護符を眺めていた宗玄は、満足そうに頷く。
「隆志たちも無事のようじゃな。ならばよし」
護符を懐へ戻す。
「どれ。まずは外へ出るとするか」
宗玄が転移した場所。
それは奇しくも、かつて透や結衣たちがパンゲアへ転移した、グランドワイズ渓谷にある洞窟だった。
もっとも、本人はそんなことなど知る由もない。
数歩歩いたところで、宗玄がふと立ち止まった。
「……ん?」
自分の手を開き、握る。そして首を傾げる。
「何やら……力がみなぎるのう」
身体が軽い。足腰も妙に調子がいい。
七十七歳という年齢を忘れてしまいそうなほど、全身に力が満ちていた。
「これは……面白い」
宗玄は腰の刀へ手を伸ばした。
すらり。
何気なく抜刀する。
そして――軽く振った。
ヒュンッ!
「む?」
宗玄の目の前から、鋭い斬撃が飛んだ。
十メートル。
二十メートル。
さらに先へ。
ズバンッ!
数十メートル先にあった岩が、斜めに切り裂かれた。
ずず……。
巨大な岩の上半分が滑り落ち、轟音を立てて地面へ落ちる。
宗玄はしばらく無言でそれを見つめた。
やがて。
「ふはははは!」
実に楽しそうに笑った。
「こいつは愉快じゃ!」
刀を納める。
そして何事もなかったかのように、洞窟の出口へ向かって歩き始めた。
「さてさて。透たちはどこにおるのかのう」
一歩。
また一歩。
パンゲアへ、もう一人の神代が足を踏み出した。
「投稿100話を記念して、『パンゲア』のキャラクターや世界観をまとめた映像を作りました。
イメージソング、キャラクターイラスト、背景美術、一部アニメーションを使用しています。
お時間のある方は、よろしければご覧ください。
将来的にはPVやショートアニメ制作も考えています。
YouTube:https://www.youtube.com/watch?v=zVfVZBEK4TY
※画像・映像・音楽の制作には生成AIを使用しています。」




