↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超大陸パンゲアへ渡った神代家の異世界奮戦記  作者: 久遠 遙人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
95/143

第十六話 腹ぺこ少女の正体

 透と少女は、通りに面した食堂へ入った。


 昼時を少し過ぎているためか、店内にはいくつか空いた席がある。


「ここでいいですか?」


「うん!」


 先ほどまで道端に倒れていたとは思えないほど、少女の返事は元気だった。


 二人は向かい合って席につく。


 ほどなくして店員が注文を取りに来ると、透は少女に尋ねた。


「何が食べたいですか?」


「え?」


 少女が目を丸くする。


「好きなものを頼んでいいですよ」


「……何でも?」


「はい」


「何でも頼んでいいの?」


「いいですよ。お腹いっぱい食べてください」


 その言葉を聞いた瞬間。


 少女の瞳が輝いた。


「本当に!?」


「本当です」


 透にとっては、それほど特別なことを言ったつもりはなかった。


 幼いころから美琴には、腹を空かせている者がいたら、まず食べさせなさいと言われて育ってきた。


 それに、自分が腹を空かせているわけでもない。


 食べたいというのなら、好きなだけ食べてもらえばいい。


「じゃあ、これと、これと……これも!」


 少女はメニューを指さしていく。


「あと、これ!」


「はい」


「これも!」


「……はい」


「それから――」


 透は少しだけ眉を上げた。


 まあ、よほど腹が減っていたのだろう。


 自分は軽い食事だけを頼み、料理が運ばれてくるのを待つことにした。


 やがて。


「お待たせしました!」


 大きな皿が少女の前へ置かれた。


「いただきます!」


 少女は満面の笑みを浮かべると、すぐに食べ始めた。


 透も自分の食事へ手をつける。


 そして、しばらくして。


「おかわり!」


「はい!」


 次の皿が運ばれてくる。


「おかわり!」


「はい!」


 また一皿。


「おかわり!」


「…………」


 透の手が止まった。


 少女の横には、いつの間にか空になった皿が積み上がっている。


 食べる。


 食べる。


 まだ食べる。


「……」


 透は黙って見ていた。


 自分は普段からそれほど金を使う方ではない。


 旅の費用にも余裕はある。


 だから懐具合については、特に心配していなかった。


 問題はそこではない。


(……どんだけ食べるんだ?)


「おかわり!」


(まだいくの!?)


 透は思わず少女の腹を見る。


 あれだけの料理が、一体どこに収まっているのだろう。


 やがて。


「ふぅー……」


 少女が満足そうに息を吐いた。


「ごちそうさまでした!」


 ようやく終わったらしい。


「お腹いっぱいになりました?」


「はい!」


 少女は嬉しそうに頷いた。


 そして積み上がった皿を見る。


「……少し食べ過ぎましたか?」


「……少し?」


「ごめんなさい」


 少女が申し訳なさそうに肩をすぼめた。


「でも、本当に助かりました。ありがとうございます」


「いえ。それならよかったです」


 少女は椅子に座り直し、改めて透を見る。


「まだ名乗っていませんでしたね」


 少しだけ姿勢を正した。


「私はルクシェリア・ファフニールといいます」


 そして、にっこりと笑う。


「ルカと呼んでください」


「ルカさんですね」


 透も答える。


「俺は神代透です」


「トオル……」


 ルカが、その名を小さく繰り返した。


 そして改めて、透の顔を見る。


 黒い髪。


 黒い瞳。


 見慣れない姿だった。


 けれど。


 何かが、ルカの記憶の奥に触れた。


 幼いころ。


 眠る前になると、おばあしゃまが何度も聞かせてくれた昔話。


 かつて龍神族とともに戦った、人の騎士たちの物語。


 強く。


 勇敢で。


 竜の背に乗り、大空を駆けた騎士。


(……ドラゴンナイト)


 ルカの頬が、ほんのり赤くなった。


「……」


 無意識に指先を合わせ、もじもじと動かす。


 なぜだろう。


 胸が妙に騒がしい。


「どうかしましたか?」


「えっ!?」


 ルカの肩が跳ねた。


「い、いえ!」


「?」


「な、なななんでもありません!」


「そうですか?」


「はい!」


 ルカは慌てて顔をそらした。


(なにこれ……)


 胸の鼓動が止まらない。


 そのときだった。


「きゃあああっ!」


 店の外から悲鳴が上がった。


「!」


 透の表情が変わる。


 椅子を蹴るように立ち上がると、そのまま店の外へ飛び出した。


「あっ、透様!」


 ルカも慌てて後を追う。


 通りへ出た透が周囲を見回した。


 数十メートル先。


 コウモリを巨大にしたような魔獣の群れが、通行人へ襲いかかろうとしている。


 一人が転び、その場に伏していた。


「危ない!」


 誰かが叫ぶ。


 次の瞬間。


 透の姿が消えた。


「……!」


 少なくとも。


 周囲の者たちには、そう見えた。


 一瞬後。


 透は魔獣と倒れた人の間に立っていた。


 天羽々斬へ手をかける。


 抜刀。


 一閃。


 銀色の軌跡が、宙を走った。


 迫っていた魔獣の群れが、そのまま空中で両断される。


 遅れて、その身体が地面へ落ちた。


 透は周囲へ視線を走らせる。


 残った敵はいない。


 静かに残心。


 そして天羽々斬を鞘へ納めた。


「大丈夫ですか?」


 先ほどまでの鋭い気配が嘘のように消える。


 透は地面に伏していた人へ手を差し伸べた。


「あ……ああ」


 相手は呆然としながら、その手を取った。


「怪我は?」


「大丈夫だ……」


「よかった」


 その言葉をきっかけにしたように、周囲から声が上がった。


「すげぇ……」


「今の、見えたか?」


「いや……何が起きたんだ?」


「ありがとうございます!」


「あんた、一体何者なんだい?」


 そして、どこからともなく拍手が起こった。


 透は少し困ったように頭を掻く。


 だが。


 一人だけ。


 その光景を、まったく別の目で見つめていた者がいた。


 ルカだった。


 見えていた。


 透が地を蹴った瞬間も。


 魔獣の前へ回り込んだ動きも。


 抜刀された刃も。


 一太刀ですべてを斬り伏せた、その剣も。


 ルカの胸が大きく鳴る。


 祖母から聞いた物語が蘇る。


 竜とともに空を駆けた、人の騎士。


 ずっと。


 ずっと憧れていた。


 いつか自分も。


 そんな騎士を背に乗せて、大空を飛びたい。


 その夢が。


 今、目の前にいる。


「……見つけた」


 ルカが呟いた。


 そして駆け出す。


「透様!」


「え?」


 突然、両手で透の手を掴んだ。


「私に乗ってください!」


「…………はい?」


「行きましょう!」


「え、ちょっと待って。乗るって何に――」


 ルカは答えない。


 そのまま透の手を引いて走り出した。


「ちょ、ちょっと!」


「早く!」


「いや、早くって――!」


 驚くほど力が強い。


 透は抵抗する間もなく引っ張られていく。


 頭の中には疑問符しか浮かんでいなかった。


     ◇


 連れてこられたのは、街の外れにある大きく開けた場所だった。


 マイスターベルケンは山中に造られた洞窟都市だが、ここだけは外界へ向かって大きく開いている。


 巨大な崖を垂直にくり抜いたような空間が、その先へ広がっていた。


「ここなら大丈夫」


 ルカが透の手を離す。


「大丈夫って、何が?」


「透様」


 ルカが振り返る。


 先ほどまでの少女らしい表情とは違う。


 嬉しそうで。


 誇らしげで。


 そして、どこか期待に満ちていた。


「見ていてください」


「?」


 次の瞬間。


 光が弾けた。


「うわっ!」


 透が思わず腕で目を覆う。


 強い光が視界を満たし、風が巻き起こる。


 やがて光が収まる。


 透はゆっくりと腕を下ろした。


「…………え?」


 そこに少女の姿はなかった。


 代わりに。


 銀色に輝く竜が立っていた。


「…………」


 透は言葉を失った。


 青銀色に輝く鱗。


 大きく広がる翼。


 力強い四肢。


 そして、透を見つめる澄んだ瞳。


 恐ろしい。


 そう感じてもおかしくない姿だった。


 だが透は。


 ただ、その姿に見惚れていた。


「……綺麗だ」


 思わず、言葉が漏れた。


 竜の瞳が大きくなる。


『……!』


 ルカの胸が、また大きく跳ねた。


『さあ』


 透の頭の中へ、声が響く。


『私の背に』


「……背中?」


『はい!』


 透は青銀色の竜を見る。


 普通なら躊躇するところだったのかもしれない。


 けれど。


 なぜか怖くなかった。


「……分かりました」


 透は地を蹴った。


 ふわりと身体が浮かび、そのままルカの背へ飛び乗る。


『行きます!』


「え?」


 大きな翼が開いた。


「ちょ、待――」


 ドンッ!


 凄まじい風圧とともに、ルカの身体が一気に浮かび上がった。


「うわああっ!」


 透は慌ててルカの背へしがみつく。


 一瞬で地面が遠ざかっていく。


 十メートル。


 二十メートル。


 五十メートル。


 そして百メートル。


「ル、ルカさん!?」


『はい!』


「高い! 高いです!」


『大丈夫です!』


「俺が大丈夫じゃない!」


『しっかり掴まっていてください!』


「もう掴まってます!」


 透の必死な声とは裏腹に。


 ルカはこの上なく幸せそうだった。


 幼いころから夢見続けた。


 自分の背に騎士を乗せて、大空を飛ぶ。


 その夢が今。


 本当に叶っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。