第八話 冒険者
長らく更新が止まってしまい、申し訳ありません。
本作はカクヨムにて先行投稿しており、物語はすでに先まで書き進めています。
今後はカクヨム版に追いつけるよう、こちらでも順次まとめて投稿してまいります。
また透たちの旅にお付き合いいただけましたら幸いです。
翌朝。
神代透は、セリナと共に王城を後にしていた。
王都アストレア。
アストレア王国の中心都市であり、高い城壁に守られた、この国最大の人口を抱える城塞都市でもある。
透は歩きながら、ゆっくりと周囲を見渡した。
石畳の大通り。
整然と立ち並ぶ建物。
荷車を引く商人たち。
忙しそうに行き交う人々。
異世界だというのに、不思議なほど街には活気があった。
透は、もっと張り詰めた空気を想像していた。
三か月後、この国に災厄が訪れる。
そんな話を聞けば、誰もが怯え、街全体が沈んだ雰囲気になっていると思っていた。
だが、実際は違った。
「新鮮な果実だよ!」
「焼きたてのパンはいかがだ!」
「今日のおすすめはこっちだ!」
威勢のよい呼び込みの声が響く。
店先には多くの客が集まり、商人たちは忙しそうに働いていた。
道端では、子供たちが元気よく走り回っている。
追いかけっこでもしているのだろう。
楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
その光景を見た瞬間、透の脳裏に懐かしい記憶が蘇った。
『待つのじゃ、結衣ー!』
『真白が先に逃げたんでしょ!』
神社の境内。
逃げる真白。
それを追いかける結衣。
巻き込まれる明日華。
そして最後には、なぜか自分まで捕まる。
そんな賑やかな日常。
胸の奥が、少しだけ痛んだ。
「透さん?」
隣を歩いていたセリナが、心配そうに首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「いえ」
透は小さく笑った。
「妹たちのことを思い出しただけです」
セリナは何も言わなかった。
ただ、少しだけ表情を和らげる。
「きっと、元気にしていますよ」
「そうだといいんですけど」
透は空を見上げた。
結衣も。
明日華も。
真白も。
蒼姫も。
今頃、どうしているだろう。
突然消えた自分を、必死に探しているかもしれない。
そう思うと、申し訳ない気持ちになった。
だが、今は帰る方法すら分からない。
だからこそ、この世界で生きていくしかない。
「着きました」
セリナの声で、透の思考が途切れた。
視線を前へ向ける。
そこには、大きな建物が建っていた。
木と石で造られた三階建ての建物。
入口の上には、剣と盾を組み合わせた紋章が描かれた大きな看板が掲げられている。
「ここが……」
「冒険者ギルドです」
透は思わず建物を見上げた。
想像していたよりも大きい。
そして、随分と騒がしい。
閉じられた扉の向こうからも、笑い声や怒鳴り声が聞こえてくる。
「なんというか……」
「はい?」
「思ったより普通ですね」
セリナが思わず吹き出した。
「普通ではないと思っていたのですか?」
「もっと、荒くれ者の巣窟みたいな場所かと」
「半分は合っています」
セリナは笑いながら答えた。
「半分ですか」
「残り半分は、善良な冒険者です」
それは安心してよいのか、透にはよく分からなかった。
二人は冒険者ギルドの扉を開いた。
途端に、むっとするような熱気が押し寄せてくる。
酒の匂い。
料理の匂い。
大声で話す冒険者たち。
壁に設けられた依頼掲示板を眺める者。
受付で依頼の完了を報告している者。
武器や防具を身に着けた、様々な人間が入り混じっていた。
その中を、セリナは慣れた様子で歩いていく。
透も、その後に続いた。
やがて二人は、建物の奥にある部屋へ案内された。
セリナが扉を開ける。
部屋の中では、一人の大男が椅子に腰かけていた。
筋骨隆々とした身体。
年齢は四十代ほどだろうか。
鋭い目つきをしているが、どこか豪快な雰囲気を漂わせている。
「来たか」
男は透へ視線を向けた。
「お前が異世界人か」
「神代透です」
「冒険者ギルド長のバルドだ」
大男――バルドは、太い腕を胸の前で組んだ。
「話は聞いている」
「聞いている?」
「騎士団長からな」
透は、嫌な予感がした。
バルドがニヤリと笑う。
「模擬刀で、大岩を真っ二つにしたらしいな」
やはり、その話だった。
「いや、あれは自分でもよく分からなくて……」
「だろうな」
バルドは豪快に笑った。
「オーギュストも頭を抱えていたぞ」
透は少し申し訳ない気持ちになった。
「まあ、いい」
バルドは表情を改め、話を切り替えた。
「いくら強かろうと、新人をいきなり一人で放り出すわけにはいかん」
その時だった。
部屋の奥にある扉が開いた。
「呼ばれたので来た」
入ってきたのは、長身の男だった。
黒鉄の鎧を身にまとい、背には巨大な大剣を負っている。
鍛え上げられた堂々たる体格。
立っているだけでも、かなりの実力者だと分かる。
「ガルドだ」
バルドが男を紹介した。
「Aランク冒険者だ。今回、お前と同行してもらう」
ガルドは透を見て、軽く頷いた。
「よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
その直後。
バタン!
部屋の扉が勢いよく開き、ノーノーが飛び込んできた。
「わしも行くぞ!」
「ノーノー様?」
セリナが驚いて目を丸くする。
「聞いていませんが」
「今、決めた」
「確か今日は、王城で大事な会議があるはずでは?」
「うむ。あったな」
ノーノーは腕を組み、しばらく考え込んだ。
だが、すぐに肩を落とす。
「……残念じゃが、今回は諦めるとするか」
見るからにしょんぼりしながら、ノーノーは部屋を出ていった。
その背中を見送り、セリナが小さく息をつく。
「ノーノー様の代わりというわけではありませんが、今回は私も同行します」
「セリナ様も?」
「はい。国王陛下から、透さんの支援をするよう命じられていますから」
こうして、神代透の最初の冒険者パーティーが結成された。
◇
出発の準備を整えた透たちは、王都の門へと向かった。
その道中、隣を歩いていたガルドが透へ尋ねる。
「剣は使えるらしいな」
「多少は」
「多少では岩は斬れん」
「自分でも、何が起きたのかよく分かっていないんです」
「まあいい」
ガルドは、それ以上追及しなかった。
「いずれ分かる」
そして数時間後。
透、ガルド、セリナの三人は王都の門を抜けた。
大型の騎獣に荷を積み込み、グランドワイズ渓谷へと続く川沿いの街道を進み始める。
異世界で初めてとなる冒険者の仕事。
その先で何が待っているのかを、透はまだ知らなかった。




