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超大陸パンゲアへ渡った神代家の異世界奮戦記  作者: 久遠 遙人


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第六話 アド

 翌朝。


 獣牙族の里の広場には、討伐へ向かう戦士たちが集まっていた。


 先頭に立つのはライガ。


 その後ろには、選び抜かれた獣牙族の精鋭たちが並んでいる。


 透たちも、それぞれ騎獣のそばで出発の準備を整えていた。


 やがて、ライガが振り返る。


「行くぞ!」


「おおおおおおおっ!」


 獣牙族の戦士たちが、一斉に雄叫びを上げた。


 その声に、空気が震える。


 すると、見送りに集まった里の者たちも負けじと声を張り上げた。


「おおおおおおおおおっ!」


 ドンッ、ドンッ、と何十、何百もの足が地面を踏み鳴らす。


 地鳴りのような音が広場を揺らした。


「わっ……!」


 真白がびくりと肩を震わせる。


 ノアも目を丸くし、抱かれていたラピスは耳をぺたりと伏せた。


「みゃん……?」


 何が起きているのか分からないらしく、きょろきょろと周囲を見回している。


 透はその光景を見渡し、小さく息を吐いた。


「……気が引き締まりますね」


 その隣で、ガルドが豪快に笑う。


「いいじゃねえか。最高だぜ!」


 そう言うや否や、大きく息を吸い込んだ。


「うおおおおおおおおっ!」


 獣牙族にも負けないほどの雄叫びを上げる。


 透は思わず苦笑した。


「ガルドさんまで……」


「こういうのは乗ったもん勝ちだ!」


 ガルドは上機嫌だった。


 再び獣牙族の雄叫びが響き渡る。


 その声に送られ、討伐隊は里を出発した。


     ◇


 透たちは騎獣に跨がり、街道を北へ進んでいく。


 一方、獣牙族の戦士たちは騎獣を使わない。


 ライガを先頭に、自らの脚で街道を駆けていた。


 しかも速い。


 騎獣がかなりの速度で走っているにもかかわらず、獣牙族の戦士たちはほとんど遅れる様子がない。


 騎獣の上からその姿を見ていた結衣が、感心したように声を上げた。


「凄いね。騎獣とほとんど変わらないよ」


「これが獣牙族の身体能力なんだろうな」


 透も前方を走るライガへ目を向ける。


 険しい山道なら、彼女たちは騎獣以上の機動力を発揮するのかもしれない。


 途中、何度か休憩を挟みながら進む。


 そして里を発ってから、およそ七十キロ。


 ドワーフの里へと続く街道の途中で、先頭を走っていたライガが足を止めた。


 後続の戦士たちも次々と止まる。


 透たちも騎獣の歩みを止めた。


 ライガが街道脇へ視線を向ける。


「ここから山へ入る」


 街道の先ではない。


 その脇には、木々が密集する深い森が広がっていた。


「この先は騎獣じゃ進みにくい。ガルドたちも、ここからは降りてくれ」


「分かった」


 ガルドが騎獣から飛び降りる。


 透たちも続いて地面へ降りた。


 騎獣はここで待機させることになる。


 それぞれ装備を確認し、一行はライガを先頭に森へ入った。


     ◇


 そこから数キロ。


 森の中には獣道らしきものすらほとんどなく、太い木々の間を縫うように進んでいく。


 次第に地面の傾斜もきつくなっていった。


 誰も余計な言葉を口にしない。


 鳥の声すら聞こえなかった。


 木々の葉が風に擦れる音と、足元の土や枯れ枝を踏む音だけが続いている。


 やがて――


 先頭を歩いていたライガが拳を上げた。


 全員が足を止める。


 ライガは身を低くすると、木々の向こうを指差した。


 透たちも、そっと前方を覗き込む。


「……あれか」


 ガルドが低く呟いた。


 森の先。


 巨大な岩壁がそびえ立っている。


 高さは百メートルほどもあるだろうか。


 ほぼ垂直に切り立った絶壁。


 その根元に――巨大な穴が口を開けていた。


 洞窟。


 遠目からでも分かるほど大きい。


 まるで山そのものが口を開け、こちらを待ち構えているようだった。


 透は無意識に天羽乃斬の柄へ手を添える。


 ライガが小声で告げた。


「入り口付近に、小型の魔獣がいる」


 岩陰や茂みの間。


 三匹の魔獣が、洞窟の外を警戒するように動いている。


 ガルドが目を細めた。


「見張りか?」


「ああ。おそらくな」


 ライガが答える。


 ガルドは洞窟へ視線を向けたまま、鼻を鳴らした。


「外の様子をうかがわせてるってわけか。知恵が回るってのは、本当みてえだな」


 明日華が静かに蒼天の弓を手に取った。


「私が、あの魔獣を撃ちます」


 ライガが明日華を見る。


 わずかに間を置き、頷いた。


「任せた」


 明日華は三本の矢を取り出した。


 一本ではない。


 三本。


 それらを同時に弦へ番える。


 その様子を見た獣牙族の戦士たちの何人かが、わずかに目を見開いた。


 ライガが周囲を見渡す。


「明日華が奴らを仕留める。それを合図に突入する」


 戦士たちが無言で武器を構える。


 ガルドが盾を握り、セシリアも杖を手にした。


 透は天羽乃斬の柄を握る。


 その横では、結衣が腰の双剣へ両手を添えていた。


「よし」


 口元に笑みを浮かべる。


「この双剣のお披露目だね」


 透が横目で結衣を見る。


「結衣。中がどうなっているのかも、どんな魔獣がいるのかも分かってないんだぞ」


「大丈夫」


 結衣はまったく動じない。


「おにぃがいるんだから」


「……まったく」


 透は小さく息を吐いた。


 だが、その口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。


 その時――


「いきます」


 明日華の声。


 全員の視線が前へ戻る。


 弦が引き絞られる。


 限界まで。


 そして――


 シュッ!


 三本の矢が、ほぼ同時に放たれた。


 風を切る音。


 次の瞬間。


 三匹の魔獣の眉間へ、それぞれ一本ずつ矢が突き立った。


 声を上げる暇さえない。


 三匹は、その場へ崩れ落ちた。


「……すげえ」


 獣牙族の戦士の一人が、思わず呟いた。


 他の者たちも明日華を見る。


 三本同時。


 しかも、すべて一撃で眉間を射抜いている。


 だが明日華は何事もなかったように、次の矢へ手を伸ばした。


 ライガが武器を構える。


「行くぞ!」


 その言葉と同時だった。


 ――ォォォォォォォォォォ……!


 地の底から響いてくるような音。


「っ!?」


 全員の動きが止まった。


 直後。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 轟音。


 洞窟の奥から放たれた咆哮が、森を震わせた。


 空気そのものが殴りつけてくる。


 木々の葉が激しく揺れ、地面が震える。


「くっ……!」


 透の身体が硬直した。


 足が動かない。


 息をすることすら、一瞬忘れるほどの圧。


 真白が透の服を掴む。


 先ほどまで意気込んでいた結衣も、双剣の柄を握ったまま洞窟を見つめていた。


 ライガの表情が変わった。


 知っている。


 この声を。


 かつて自分たちを退けた、あの怪物を。


 洞窟の奥。


 まだ姿は見えない。


 だが――そこにいる。


 災害級の魔獣。


 多くの魔獣を従え、長い年月を生きてきた異形。


 獣牙族がザガンガと呼ぶもの。


 ――アド。


 その咆哮が、討伐隊を迎え入れた。


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