↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超大陸パンゲアへ渡った神代家の異世界奮戦記  作者: 久遠 遙人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
82/146

第三話 結衣勝負を挑まれる

 翌朝。


 獣牙族の里、二日目。


 族長との会談は午後からということで、午前中はそれぞれ自由に過ごすことになった。


「……ガルドさん、起きませんね」


 透が二階へ続く階段を見上げる。


「昨夜、相当飲んだみたいだからね」


 セシリアが呆れたように言った。


 朝になっても、ガルドは部屋から出てこない。


 おそらく昨晩、獣牙族の者たちと相当盛り上がったのだろう。


「まあ、午後までに起きればいいでしょう」


 セシリアはそう言うと、外出の準備を始めた。


「私は魔道具店と古物商を見てきます」


「私は図書館に行く」


 ノーノーも、早々に出かける準備をしている。


「じゃあ、私たちは町を見てくる!」


 結衣が元気よく手を上げた。


 明日華、ノア、人化した蒼姫も一緒だ。


「おにぃも行く?」


「俺はやめておくよ」


「なんで?」


 透は足元へ視線を落とす。


 そこには真白。


 そして、その隣にはラピスがいた。


「この二人を連れて町へ出たら、また大騒ぎになるだろ」


「あー……」


 昨日の出来事を思い出したのか、結衣も納得した。


 フェンリルであるラピスだけでも十分に目立つ。


 真白まで一緒となれば、落ち着いて町を見るどころではない。


「真白も今日はお留守番する!」


「ラピスも頼むな」


「うん!」


 真白は張り切って胸を張った。


 だが――。


 結衣たちが宿を出て、しばらくすると。


          ◇


「とおるん」


「ん?」


「おんぶ」


「さっきまでお姉さんだっただろ」


「今はいいの」


「そうなのか?」


「そうなの」


 宿の中庭。


 透の背中には真白。


 そして、腕の中にはラピス。


「みゃん」


『ラピスも、だっこ』


「はいはい」


 透は苦笑しながら、ラピスを抱き直した。


 背中では、真白が満足そうに透の肩へ頬を寄せている。


 普段はノアやラピスの前で何かとお姉さんぶっている真白だが、透と一緒にいる時だけは、素直な甘えん坊へ戻る。


「真白、重くない?」


「全然」


「ほんと?」


「ほんと」


 そう答えると、真白は嬉しそうに笑った。


「えへへ」


 それを見ていたラピスも、


「みゃん」


『ラピスも』


「ラピスはもう抱っこしてるだろ」


『もっと』


「どうやって?」


『もっと』


「無茶言うなぁ」


 穏やかな声が、中庭に響いた。


          ◇


 一方その頃。


 結衣たちは獣牙族の里を歩いていた。


「昨日ちゃんと見られなかったところ、行こうよ!」


 先頭を行く結衣は、右を見たり左を見たりと忙しい。


 朝の町は、昨日とはまた違う活気に満ちていた。


 家畜を連れて町外れへ向かう者。


 鍛冶場へ急ぐ職人。


 荷車を押す商人。


 広場では、子供たちがすでに走り回っている。


「結衣、前見て」


「見てる見てる」


「見てない」


 明日華がため息をつく。


 その横を、人化した蒼姫とノアが歩いていた。


 すると。


「おい!」


 突然、横から声が飛んできた。


「ん?」


 結衣が振り向く。


 そこに立っていたのは、一人の少女だった。


 結衣とほとんど変わらない背丈。


 年齢も同じくらいだろう。


 金色の鬣のような髪。


 そして――どことなく見覚えのある顔立ち。


「あんた、強いんだって?」


「私?」


「あたいと勝負しな!」


「…………」


 結衣が瞬きをする。


 そして、明日華を見る。


「勝負?」


「そう言ってるね」


「明日華、どうしよう」


「結衣の好きにすればいいんじゃない?」


「おにぃに怒られるかな」


「怪我させなければ大丈夫じゃない?」


「そっか」


 結衣は少女へ向き直った。


「で、何の勝負するの?」


「こっち!」


 少女が指差す。


 少し先に、小さな円形の競技場があった。


 地面を盛り上げ、その周囲を石で囲っただけの簡素なものだ。


 町のあちこちに、似たようなものが設けられている。


「ここから出たら負け」


 少女が円の中へ上がる。


「相手を怪我させる攻撃は禁止。武器もなし」


「なんかよく分かんないけど……相撲みたいなものかな」


 結衣も円の中へ入った。


「何それ?」


「こっちの話」


 すると、少女と一緒にいた別の獣牙族の女の子が手を上げた。


「あたしが審判するよ!」


「ねえ」


 明日華が首を傾げる。


「勝ったら何かもらえるの?」


「ないよ」


 審判役の少女は、当たり前のように答えた。


「ただの力比べだもの。あたしたちの遊び」


「へぇー」


 結衣の目が少し輝いた。


「じゃ、やる!」


 周囲にいた子供たちも気づいたのか、少しずつ人が集まり始める。


「あの子、昨日の人族じゃない?」


「ブラックファング倒した時にいた子だ」


「やるの?」


 いつの間にか、小さな人だかりができていた。


 結衣と金髪の少女が向かい合う。


 少女が腰を落とした。


 明らかに突進する構えだ。


 対する結衣は、自然体のまま。


 審判役の少女が片手を上げる。


「それじゃ――」


 一瞬の静寂。


「始め!」


「うおおおおっ!」


 金髪の少女が地面を蹴った。


 速い。


 小柄な身体からは想像できない加速で、一気に結衣との距離を詰める。


 少女が結衣へ手を伸ばす。


 その瞬間。


 結衣が――消えた。


「え?」


 少女の目の前から、忽然と姿がなくなる。


 次の瞬間。


「こっちだよ」


 声が背後から聞こえた。


「――!」


 少女が振り向こうとする。


 ぽん。


 背中を軽く押された。


「わっ!?」


 勢いのまま、前へ数歩。


 そして――円の外へ。


「はい、おしまい」


 結衣は中央で笑っていた。


「これで私の勝ちだよね?」


「…………」


 金髪の少女は、場外に立ったまま固まっている。


 審判役の少女も呆然としていた。


「……うん」


 やがて我に返り、手を上げる。


「結衣ちゃんの勝ち!」


 ぱちぱちぱち。


 周囲から拍手が起こった。


「すげぇ!」


「今、何した?」


「見えなかった!」


「速っ!」


 結衣は、ちょっと照れくさそうに笑う。


 一方。


 金髪の少女は、しばらく自分のいた場所と結衣を交互に見ていた。


「…………」


 そして。


「負けた」


 潔かった。


「あたいの負けだ」


「うん」


 少女はすぐに顔を上げた。


 悔しそうではあるが、機嫌を悪くしている様子はない。


 むしろ、その目を輝かせている。


「あたいはミルガ!」


 胸を張る。


「ライガ姉の妹だ!」


「え?」


 結衣がもう一度、少女の顔をよく見る。


 金色の鬣。


 勝ち気な目。


 豪快な話し方。


「あー!」


 ぽん、と手を打つ。


「だからライガさんに似てるんだ!」


「似てる?」


「うん、すっごく」


「へへん」


 なぜかミルガは誇らしげだった。


「ライガ姉から聞いたんだ。あたいくらいの人族の女の子で、ブラックファングに一撃食らわせた奴がいたって」


「それで私を探してたの?」


「ああ!」


 ミルガは迷いなく頷いた。


「どんな奴か、勝負してみたかった!」


「なるほどねぇ」


 結衣は妙に納得した。


 ミルガは再び円の中へ戻ると、結衣の前へ立った。


「あんた、強いんだな」


「結衣でいいよ」


「じゃあ結衣!」


「うん」


「あたいも速さじゃ負けないつもりだったんだけどな」


 ミルガは悔しそうに口を尖らせる。


「全然見えなかった」


「私、速いのだけは得意だから」


「だけ?」


 明日華が小さく笑う。


「他にもいっぱいあるでしょ」


「まあね!」


 結衣はすぐに調子に乗った。


 その様子を見ていたミルガが、にっと笑う。


「気に入った!」


「え?」


「もう一回やろう!」


「ええ?」


「今度は負けない!」


「さっき負けたばっかりじゃん!」


「だからだ!」


「どういう理屈!?」


 周囲の子供たちが、どっと笑った。


 明日華も、ノアも。


 人化した蒼姫さえ、楽しそうに二人を見ていた。


 どうやら結衣は、獣牙族の里で早くも新しい友達を作ったらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。