第十五話 それぞれの戦い
その頃。
ラザール防壁各所では、それぞれの戦いが続いていた。
◇◇◇
「これって、あの時の化け物か!」
C級冒険者パーティーのガレスが叫ぶ。
「そうみたいだな!」
「こんなのが、うじゃうじゃ出て来たってのかよ!」
リックとドルトも吠える。
「下がれ! 囲まれるぞ!」
ガルドの怒声が響いた。
大剣グラブウィンが唸りを上げ、迫る魔鋼虫を吹き飛ばす。
だが。
後方では、別の個体が兵士へ飛び掛かろうとしていた。
「しまっ――」
兵士が顔を青ざめさせた、その瞬間。
「おにいの仲間に何してんのよ!」
元気な声が響く。
結衣だった。
鉄棍が風を裂く。
横薙ぎの一撃。
魔鋼虫の脚関節が、鈍い音を立てて砕けた。
続けざまに身体を回転させる。
勢いを乗せた鉄棍が、そのまま魔鋼虫の身体を打ち抜いた。
魔鋼虫が砂煙を上げながら吹き飛ぶ。
「大丈夫!?」
「あ、ああ!」
「なら立って! まだ終わってないよ!」
結衣は笑った。
その姿に。
兵士たちの顔にも、再び勇気が戻っていた。
◇◇◇
防壁上。
蒼姫の背から降りた明日華は、静かに弓を構えていた。
騒がしい戦場の中で。
その瞳だけが、異様なほど冷静だった。
「右側から三体」
短く呟く。
矢を放つ。
一射目。
複眼を貫く。
二射目。
脚関節を射抜く。
三射目。
兵士へ飛び掛かろうとしていた個体の口腔へ、吸い込まれるように突き刺さった。
魔鋼虫が崩れ落ちる。
近くにいた弓兵が息を呑んだ。
「すごい……」
だが、明日華は表情を変えない。
「次が来ます」
それだけを告げ。
再び弦を引いた。
◇◇◇
「真白に任せるのじゃ!」
白い髪を揺らしながら、真白が駆ける。
負傷した兵士の前へ膝をついた。
小さな手から、白く柔らかな光が広がる。
砂と血にまみれた戦場の中。
そこだけに、清らかな泉が湧いたようだった。
血が止まり。
裂けた傷が、ゆっくりと塞がっていく。
「助かった……」
「当然なのじゃ!」
真白は胸を張った。
「まだまだ怪我人がおるのじゃ! 寝ておる暇はないのじゃ!」
そう言うと。
次の負傷者へ向かって駆け出していく。
その小さな背中を見送りながら。
兵士は思わず笑みを浮かべた。
◇◇◇
「明日華」
上空から声が響いた。
明日華が空を見上げる。
「お願いします」
「承知しました」
蒼姫が翼を広げる。
その身体が、みるみる巨大化していった。
群青の翼。
黄金の瞳。
巨大な八咫烏。
ラザールの兵士たちが、思わず空を見上げる。
「な……」
「あれは……」
「神獣……」
誰かが呟いた。
蒼姫は大きく羽ばたく。
暴風が砂漠を駆け抜けた。
砂塵が舞い上がり、魔鋼虫たちの動きが乱れる。
さらに。
蒼姫が翼を大きく打ち振るった。
漆黒の炎が、砂漠へ走る。
轟音。
爆炎。
群れの一角が吹き飛んだ。
「今です!」
明日華の声が響く。
ラザール兵たちが、一斉に前へ出た。
崩れた戦列へ槍が突き刺さる。
脚を失った個体。
ひっくり返った個体。
動きを止めた魔鋼虫へ、兵士たちが次々と攻撃を加えていく。
一体。
また一体。
魔鋼虫たちが砂上へ崩れ落ちていった。
◇◇◇
誰もが戦っていた。
ガルドが前線を支える。
セリナが負傷者を救う。
セシリアが魔法を放つ。
リーファが矢を射る。
ノーノーが戦場を見渡し、指示を飛ばす。
カシムが兵を鼓舞する。
結衣が駆け回り。
明日華が敵を射抜き。
真白が傷ついた者を癒やし。
蒼姫が空から戦場を支配する。
誰か一人の戦いではない。
ラザールを守るため。
ここに集った、すべての者たちの戦いだった。




