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超大陸パンゲアへ渡った神代家の異世界奮戦記  作者: 久遠 遙人


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第三話 異変

 

 十二月三十一日。


 年の瀬。


 神代神社は朝から慌ただしかった。


 参道の掃き清め。


 拝殿の清掃。


 御札や御守りの準備。


 普段は静かな神代神社も、この日ばかりは忙しい。


 もっとも、その忙しさの半分ほどは別の理由によるものだった。


「真白ぁぁぁぁっ!」


 結衣の怒声が境内へ響き渡る。


「む?」


 振り返った真白の口元には黒豆が付いていた。


 手には栗きんとん。


 そして反対の手には伊達巻。


「何をしておるのじゃ?」


「それはこっちの台詞!」


 社務所から飛び出してきた結衣が叫ぶ。


「またつまみ食いしたでしょ!」


「味見なのじゃ!」


「味見で三回目でしょ!」


「料理人は味を確かめねばならぬのじゃ」


「作ってないじゃん!」


 真白は脱兎のごとく逃げ出した。


 結衣が追う。


 境内を駆け回る二人。


 年末恒例の光景だった。


 その様子を見ていた隆志は苦笑する。


「今日も元気だな」


「毎年ですからね」


 隣で美琴が微笑む。


 その顔には呆れよりも優しさが浮かんでいた。


 真白が神代家へ来て十年。


 今では完全に家族の一員だった。


 ◇◇◇


 日が沈む。


 山々は闇に沈み。


 冷たい冬の風が境内を吹き抜けていく。


 やがて遠くの寺から除夜の鐘が聞こえ始めた。


 ごぉぉん――。


 低く澄んだ音が夜空へ広がる。


 その頃。


 透は宗玄に呼ばれ、本殿へ向かっていた。


 本殿には神代家の全員が集まっている。


 隆志。


 美琴。


 結衣。


 明日華。


 真白。


 蒼姫。


 そして宗玄。


 蝋燭の灯だけが静かに揺れていた。


「透」


 宗玄が呼ぶ。


「はい」


 透は神前へ進み出た。


 宗玄は一巻の巻物を差し出す。


「本日をもって、お前に天剣無限流免許皆伝を授ける」


 透は静かに頭を下げた。


「ありがとうございます」


 物心つく前から続けてきた修練。


 幼い頃は木刀すら満足に振れなかった。


 何度も転び。


 何度も叱られ。


 それでも続けてきた。


 その道の終着点が今だった。


 宗玄の顔にも、わずかな誇らしさが浮かぶ。


「ようやくじゃな」


「はい」


 結衣が拍手した。


「おめでとう、おにぃ!」


「おめでとうございます、あにさま」


 明日華も微笑む。


 真白はなぜか胸を張った。


「わしも誇らしいのじゃ!」


「真白は関係ないだろ」


「あるのじゃ!」


 笑いが起こる。


 宗玄も小さく笑った。


 そして。


 老人はゆっくりと振り返る。


 本殿最奥。


 御神体。


 神代神社の神剣。


 天羽乃斬。


 白木の台座に安置された一振りの刀。


 古くから神代家が守り続けてきた神剣だった。


 宗玄は刀を捧げ持ち、祝詞を奏上する。


 厳かな声が本殿へ響く。


 誰も言葉を発しない。


 ただ静かに耳を傾けていた。


 そして祝詞が終わった瞬間。


 ――カッ。


 刀身が一瞬だけ青白く光った。


 ほんの刹那。


 誰も気付かないほどの短い光。


 宗玄だけが、それを見た。


(今のは……?)


 眉がわずかに動く。


 だが光はすぐに消えた。


 まるで最初から存在しなかったかのように。


 宗玄はしばらく刀を見つめる。


 長い人生の中で、この刀を見続けてきた。


 だがこんな現象は初めてだった。


 見間違いか。


 灯火の反射か。


 答えは分からない。


「爺様?」


 透が不思議そうに声を掛ける。


「どうかしましたか」


「……いや」


 宗玄は静かに首を振った。


「何でもない」


 その違和感を胸の奥へ押し込める。


 除夜の鐘が鳴る。


 新しい年が始まろうとしていた。


 ◇◇◇


 そして元日。


 今日は結衣と明日華の14歳の誕生日でもあった。

 


 神代家の朝は賑やかだった。


 おせち料理。


 雑煮。


 新年の挨拶。


 真白は朝から餅を三つ食べて結衣に怒られていた。


「食べすぎ!」


「まだ二つしか食べておらぬ!」


「今三つ目!」


「数えたら負けなのじゃ!」


『本当に真白は食いしん坊』


 蒼姫がク、ク、クと笑う。


「成長期だから仕方ないのじゃ」


「そのうち真白は上に伸びないで横に膨れて、だるまさんのようになるね!」


「結衣ねぇが酷いことをいうのだぁ~とおるん」


 透に抱き着いて、泣いたふりをする。


「仕方ないな」といって真白の頭を撫でる。


「みんな、真白に甘いんだから」


 笑い声。


 温かな食卓。


 穏やかな時間。


 透はそんな家族を見ながら思う。


 この時間がずっと続けばいい。


 そう願わずにはいられなかった。


 ◇◇◇

 

 数日後 


 神代透は本殿の清掃をしていた。


 年始の参拝客も一段落し、境内には静かな時間が流れている。


 その時だった。


 不意に。


 本殿の奥から微かな光が漏れた。


 透は顔を上げる。


 見間違いかと思った。


 天羽乃斬が青白く輝いていた。

 

 その光に吸い寄せられるように近づいたその時。


 世界が光に包まれ。


 神代透は姿を消した。


 その瞬間。


 宗玄は本殿を振り返った。


 嫌な予感がした。


 言葉にならない胸騒ぎ。

 

 そして。


「透――!」


 老人の声が響いた。


 しかし遅かった。

  


 神代家の日常は。


 この瞬間、終わりを告げた。


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