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超大陸パンゲアへ渡った神代家の異世界奮戦記  作者: 久遠 遙人


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第十一話 オアシス都市ラザール



 旅が始まって一週間ほどが過ぎた頃だった。


 ラジール砂漠地帯を進む一行の先頭。


 周囲を警戒していたリーファが騎獣の足を止めた。


 その翡翠色の瞳が遠くを見つめる。


 そして。


「見えたわ」


 声が少し弾んでいた。


「みんな。もう少しでラザールよ」


 一瞬の静寂。


 次の瞬間。


「本当なのじゃ!」


 真白が真っ先に反応した。


 ぐったりしていたはずなのに勢いよく立ち上がる。


「結衣! 急いで!」


「えっ!? 何で!?」


「一番乗りじゃ!」


「よしきた!」


 ラプトル型騎獣の首を撫でながら結衣が笑う。


「競争だよ!」


「するな」


 透が即座に止めた。


「むぅ……」


「つまらないん」


 二人は同時に肩を落とした。


 そんな様子に皆が笑う。


 だが。


 笑顔になったのは二人だけではなかった。


 一週間。


 ほぼ野営を続けながらの旅。


 それは決して楽なものではない。


 騎獣を使っているとはいえ、慣れない長旅に全員が少なからず疲労していた。


「やっとベッドで眠れますね……」


 セリナが安堵したように呟く。


「同感じゃ」


 ノーノーが何度も頷いた。


「もう荷物の上は嫌じゃ」


「賢者様、自業自得です」


「だから騎獣との相性が悪いだけじゃと言っておろう」


 セシリアが苦笑する。


 意外だったのはノアだった。


 小柄な身体でありながら旅疲れをほとんど見せていない。


 透の前に座ったまま元気そうに周囲を見回している。


「ノアは平気なのか?」


 透が尋ねる。


「平気」


 即答だった。


「楽しい」


「そうか」


 透は少し笑った。


 一方で別の問題も起きていた。


「もう肉は嫌……」


 真白が遠い目をしていた。


「またそれか」


「だって毎日ロックリザードなのじゃ」


「文句言いながら一番食べてただろ」


「それとこれとは別なのじゃ」


 真白は真顔だった。


 その頭の上で小さな声がする。


「モモも甘いもの食べたいー」


 荷台の布袋の中からひょっこり現れたのは王都をでるときから同行していたピクシーのモモだった。


 暑さを避けるため、旅の間は荷物の中に潜り込んでいたらしい。


 ふわふわと飛び上がると、そのまま真白の頭の上へ着地した。


「む」


 真白は一瞬だけ上を見た。


 だが特に気にしない。


 すっかり定位置になっている。


 モモは花の蜜を主食とする妖精だった。


 小さな身体で花から花へ飛び回る姿は、透には地球のミツバチを思い出させた。


「甘いもの!」


 今度はリリアも飛び上がる。


「リリアも甘いもの食べたい!」


「お前もか」


「食べたい!」


 精霊と妖精が揃って騒ぎ始めた。


 そんな賑やかな一行の前方に、やがて都市の姿が見えてくる。


 ラザール。


 ラジール砂漠地帯最大のオアシス都市。


 透は少し驚いていた。


 もっと巨大な城壁都市を想像していたからだ。


「壁がない?」


「ないわね」


 リーファが頷く。


「正確には最低限しかないわ」


 周辺国家との関係は良好。


 長年大きな戦争も起きていない。


 さらに砂漠という天然の防壁もある。


 そのため防衛設備は必要最小限だった。


 建物のほとんどは石造り。


 木材が貴重だからだ。


「地下にも街があるのよ」


「地下?」


 透が聞き返す。


「暑さ対策」


 リーファは短く答えた。


 地上には市場や水場があり、地下には住居や倉庫、涼を取るための広間が広がっているという。


 なるほどと透は納得する。


 砂漠の民らしい知恵だった。


 門へ近づくと警備兵たちが姿を見せた。


 だが。


「お久しぶりです」


「あっ、リーファさん!」


 すぐに表情が変わる。


 どうやら顔見知りらしい。


 簡単な挨拶だけで通行が許可された。


 一行はそのままラザールへ足を踏み入れた。


「これは……」


 透は思わず足を止めた。


 町の中心部。


 そこには巨大な湖のような水面が広がっていた。


「オアシスよ」


 リーファが言う。


 周囲を取り囲むように並ぶナツメヤシ。


 透き通った水面。


 砂漠の真ん中とは思えない光景だった。


「大きいな」


「ラザールの命だからね」


 リーファが頷く。


「この水があるから街があるの」


 周囲には水汲み場があり、多くの住民が行き来している。


 荷車も絶えない。


 飲み水。


 生活用水。


 農地への灌漑。


 ラザールの全てを支える水源だった。


 だが。


 不思議なことに水辺で遊ぶ子供はいない。


 泳いでいる者もいなかった。


「誰も泳がないんだな」


 透が呟く。


 リーファが苦笑した。


「当たり前でしょ」


「え?」


「飲み水だもの」


 なるほど。


 透は納得した。


 砂漠において水は何よりも貴重だ。


 遊ぶためのものではない。


 生きるためのものなのだ。


「落ちたら怒られるのじゃ」


「落ちたことあるのか?」


「ない」


 即答だった。


 だが何となくありそうだと全員が思った。


 ラザールへ入った一行だったが、透はすぐに別のことへ気付いた。


 真白が目立たない。


 狐耳に尻尾。


 普通なら視線を集めそうなものだ。


 だが誰も気にしていない。


 獣人。


 エルフ。


 ドワーフ。


 妖精。


 様々な種族が行き交っている。


「すごいな」


「多種族都市だからね」


 リーファが笑った。


「ここなら真白も珍しくないわ」


「むっ」


 真白が不満そうに頬を膨らませる。


「もっと驚くべきなのじゃ」


「そこなのか」


 透は呆れた。


 まずは宿。


 そして風呂。


 それから食事。


 一行の意見は見事に一致していた。


 ただ一つ問題がある。


「お金どうするの?」


 結衣の疑問に全員が固まった。


 アストレア王国の貨幣が使える保証はない。


 だが。


「砂金があります」


 セリナが答えた。


 王都を出発する際、宰相が旅費として渡してくれたものだ。


 金はどこの国でも価値を持つ。


 貨幣制度が違っていても両替は可能だろう。


「さすが宰相だな」


 ガルドが感心したように言う。


「抜かりありませんから」


 セリナが微笑んだ。


 そしてもう一つ。


 透は街へ入ってからずっと不思議に思っていたことを口にした。


「普通に通じるな」


 言葉だった。


 ラザールの住民と問題なく会話ができる。

 

 それは便利なことだった。


 だが、便利すぎることでもあった。

 

 長らく鎖国状態だったアストレア王国。


 本来なら言葉が変化していてもおかしくない。


「確かに不思議ですね」


 セシリアも頷く。


「発音に多少の違いはありますが、普通に会話できます」


「そういえばそうね」


 リーファも首を傾げた。


「透たちと初めて会った時も普通に会話できたわ」


「確かに」


 ガルドも頷く。


「長い間交流がなかったんだろ?」


「そのはずよ」


 リーファは肩をすくめた。


「まあ、困らないからいいんだけど」


「それはそうだな」


 透も苦笑する。


 言葉が通じない旅など考えたくもない。


「そういう難しいことは大賢者様に任せましょう」


 セシリアがさらりと言った。


 一同の視線がノーノーへ向く。


 だが。


 当の本人は街並みを観察するのに夢中だった。


 建物。


 水路。


 人の流れ。


 市場。


 何やらぶつぶつ呟きながら歩いている。


「ノーノー」


 透が声を掛けた。


「なんじゃ?」


 ノーノーがきょとんと振り返る。


 どうやら全く聞いていなかったらしい。


 一瞬の沈黙。


 そして。


 皆が笑った。


 だがその疑問が本当の意味を持つのは、もう少し先のことになる。


 これだけの大所帯である。

 

 宿探しは難儀するだろうと透は思っていた。


 だが、そこは交易都市だった。

 

 キャラバンが行き交う街だけあって、一行の騎獣まで預けられる宿はすぐに見つかった。


 宿を確保した後、リーファはひとまず領主館へ向かった。


 アストレア国王から託された親書を届け、正式な謁見の約束を取り付けるためである。


 だが。


 領主は不在だった。


 そのため翌日に改めて謁見することになった。


 そして。


「ご飯だ!」


 結衣が叫ぶ。


「賛成!」


 真白も続く。


 結局。


 まずは腹ごしらえとなった。


 久しぶりのまともな料理。


 肉だけではない食事。


 野菜。


 果物。


 甘味。


 精霊も妖精も大満足だった。


 満腹になった一行は宿へ戻る。


 柔らかなベッド。


 涼しい部屋。


 久しぶりの安らぎだった。


◇◇◇


 そして翌日。


 ラザール領主館。


 いよいよ、ラザール領主との謁見の時を迎える。


 砂漠の街ラザールで、最初の対話が始まろうとしていた。



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