↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超大陸パンゲアへ渡った神代家の異世界奮戦記  作者: 久遠 遙人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/145

第十話 ラジール砂漠

 王都を発った一行は、グランドワイズ関門を越え、さらに西へ進んでいた。


 最初は緑が残っていた景色も、日を追うごとに変わっていく。


 草原はまばらになり、やがて地面を覆うのは、赤茶けた岩と礫ばかりとなった。


 ラジール砂漠地帯。


 砂の海というよりも、荒れ果てた岩石地帯に近い土地である。


 照りつける日差しは強く、熱気が地面から立ち昇っていた。


「暑い……」


 真白が結衣の後ろで、ぐったりしていた。


 ラプトル型騎獣の背に乗り、白い尻尾をだらりと垂らしている。


「真白は、どこでも同じだな」


 透が苦笑する。


「暑いものは暑いのじゃ……」


 反論する元気もない。


 結衣はそんな真白を支えながら、楽しそうに周囲を見回していた。


 ラプトル型騎獣は、すっかりお気に入りらしい。


「これ速いね、おにい!」


「だから言っただろ」


「うん! もっと早く乗りたかった!」


 その後ろで、真白が力なく手を上げる。


「速さより日陰が欲しい……」


 皆が思わず笑った。


 ◇◇◇


 一方、明日華は静かだった。


 結衣と同じラプトル型騎獣に乗り、周囲へ注意を向けている。


 右肩には、小さな八咫烏の姿へ戻った蒼姫。


 時折首を傾げながら、周囲を見渡していた。


『異常ありません』


「分かった」


 明日華が小さく頷く。


 長距離移動では、蒼姫も普段の姿に戻っていた。


 必要な時だけ飛び立ち、周囲を偵察する。


 その方が法力の消耗も少ない。


 隊列の先頭にはリーファ。


 肩には風の精霊リリアが座っている。


 ハイエルフ特有の優れた視力を活かし、遠方を警戒していた。


 最後尾は明日華。


 前後に優秀な警戒役がいることで、一行は安心して進むことができる。


 ガルドの大型駄獣には、荷物とノーノーが積まれていた。


「むぅ……暑い……」


「賢者様、荷物と同じ扱いですね」


 セシリアが、くすりと笑う。


「誰のせいじゃ」


 ノーノーはむくれた。


「わしと騎獣の相性が悪いだけじゃ」


「何度か挑戦していましたよね」


「全部振り落とされた」


「見事に」


「笑うでない」


 一同から笑いが漏れた。


 透の騎獣の前には、ノアがちょこんと座っている。


 小さな身体を揺らしながら、興味深そうに辺りを眺めていた。


 そして透のすぐ隣には、猛禽型騎獣に乗ったセリナが並走している。


 王女でありながら、今ではすっかり旅慣れた様子だった。


 ◇◇◇


 その時だった。


 先行していたリーファが、騎獣を止めた。


 長い耳が、ぴくりと動く。


「透」


「どうした?」


「この先に、ロックリザードの群れがいます」


 一行の表情が引き締まった。


 ロックリザード。


 ラジール砂漠地帯に生息する大型魔獣だ。


 全長五メートルほど。


 外見は巨大なワニによく似ている。


 分厚い鱗に覆われており、普通の武器では傷をつけにくい。


 もっとも。


 魔鋼虫と比べれば、脅威は遥かに低かった。


「肉は食べられるんだったな」


 ガルドが言う。


「うむ。なかなか美味いぞ」


 ノーノーも頷いた。


 透は少し考えてから、騎獣を降りた。


「じゃあ、行ってくる」


「あ、おにい!」


「私も行く!」


 結衣が声を上げ、真白も身を起こした。


 だが、二人とも暑さで半分溶けている。


 透は苦笑した。


「休んでろ」


「むぅ……」


「暑いのじゃ……」


 さらに透は振り返った。


「無理に全部倒す必要はないよな」


「ん?」


 ガルドが首を傾げる。


「食べる分だけで十分だろ」


 透は荒野の向こうへ視線を向けた。


「俺たちは、あいつらの縄張りを奪いに来たわけじゃないから」


 ガルドは一瞬目を丸くし、それから笑った。


「相変わらずだな」


「そうか?」


「そういうところだ」


 透は首を傾げたままだった。


 何を言われたのか、よく分かっていないらしい。


 そんな透を見て、ガルドは苦笑しながら手を振る。


「行ってこい」


「ああ」


 透は軽く手を上げ、荒野へ歩いていった。


 ◇◇◇


 数分後。


 荒野の向こうから、獣の咆哮が響いた。


 さらにしばらくして。


 透が二頭のロックリザードを引きずって戻ってくる。


 どちらも一太刀だったらしい。


 首筋には、綺麗な斬撃の跡しか残っていない。


「……相変わらずだな」


 ガルドが呆れたように言う。


「すごい切れ味だな、その刀は」


「慣れてきただけだよ」


「慣れてどうにかなる話か?」


 ガルドが笑う。


 その横で、結衣が胸を張った。


「おにいだからね」


 まるで自分が褒められたような顔だった。


 真白も大きく頷く。


「うむ。もっと褒めるのだ」


「何で真白が威張るんだ」


 透が苦笑する。


「家族代表なのじゃ」


「いつ決まったんだよ」


 皆が笑った。


 明日華も小さく口元を緩める。


 その肩の蒼姫まで、どこか誇らしげだった。


『当然です』


「蒼姫まで……」


 透は呆れたように頭を掻いた。


 ◇◇◇


「よし、解体するか」


 ガルドが腰を上げる。


 食べる分の肉を切り分け、保存できる分だけを魔導収納鞄へ収める。


 残りは荒野の魔獣や鳥たちのものだ。


 透は、それでいいと思った。


「全部は持っていかない方がいいですよね?」


 透が尋ねると、ノーノーが鼻を鳴らした。


「当たり前じゃ。一頭五メートルもある魔獣を、丸ごと運べる収納鞄など存在せん」


 そう言って、ノーノーは透の腰に下げられた魔導収納鞄を指さした。


「セリナ様から預かったそれも、入るのは大きな背負い袋ひとつ分ほどじゃ。食べる分と、保存できる肉を少し入れるくらいが限界じゃな」


「十分です」


 透は頷いた。


「必要な分だけでいいですから」


 ガルドが、にやりと笑う。


「そう言うと思ったぜ」


 こうして二頭のロックリザードは、その場で手早く解体された。


 ◇◇◇


 やがて、太陽がゆっくりと西へ傾いていく。


 ラジール砂漠地帯の空が、赤く染まり始めた。


 昼の熱気が少しずつ和らぎ、岩肌を撫でる風も心地よくなってくる。


「やっと涼しくなってきたのじゃ……」


 真白が、ほっとしたように尻尾を揺らした。


「昼間は死ぬかと思った」


「狐だからな」


「関係ないのじゃ」


 結衣が笑う。


 そんな他愛もない会話を続けるうちに、太陽はさらに傾いていった。


 やがて。


 地平線の向こうへ沈み始める。


 夕焼けが荒野を赤く染めた。


 ラジール砂漠地帯の岩山や礫が、長い影を落としていく。


 そして、ゆっくりと。


 世界から光が失われていった。


 薄暮の時間。


 昼と夜の狭間。


 王都とは違う。


 街灯もなければ、魔導灯もない。


 この世界に月は存在しない。


 星も存在しない。


 見上げた空には、何もなかった。


 ただ黒い空だけが、どこまでも広がっている。


 荒野を包む静寂。


 それはどこか神秘的であり。


 同時に、得体の知れない不安も感じさせた。


「野営の準備をしましょう」


 セリナの声に、全員が頷いた。


 ◇◇◇


 焚き火の準備が始まる。


 透はセリナから預かった魔導収納鞄から、小鍋と香草、干した野菜を取り出した。


「便利だね、それ」


 結衣が感心したように覗き込む。


「大きな背負い袋ひとつ分くらいしか入らないらしいけどな」


「それでも十分すごいよ」


「だな。旅には助かる」


 透はそう言って、ロックリザードの肉を焼く準備を始めた。


 やがて。


 香草をまぶした肉が、火の上で音を立て始める。


 脂が落ち、焚き火がぱちりと跳ねた。


「いい匂い……」


 真白の尻尾が、先ほどまでのぐったりした様子が嘘のように揺れ始める。


「元気になったな」


「食事は命なのじゃ」


 透が苦笑すると、結衣が隣で笑った。


 月も星もない、黒い空の下。


 焚き火の明かりだけが、一行の顔を赤く照らしていた。


 ラジール砂漠地帯の夜は静かだった。


 けれど。


 その小さな火の周りには、確かに人の温もりがあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。