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超大陸パンゲアへ渡った神代家の異世界奮戦記  作者: 久遠 遙人


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第九話 それぞれのちから

 王都での観光から、一夜が明けた。


 久しぶりに、慌ただしさのない朝だった。


 次の旅立ちまでは、まだ少し時間がある。


 そのため透たちは、それぞれの場所で準備を進めることになった。


 ◇◇◇


 明日華は、蒼姫と共に王城を訪れていた。


 向かった先は、宮廷魔術師長セシリアの研究室である。


 王城の一角。


 高い塔の上層。


 本棚には魔導書や古文書が隙間なく並び、机の上には魔法陣の写しや、魔素測定用の器具が置かれていた。


「ようこそ」


 セシリアは明日華と蒼姫を迎え、興味深そうに二人を見つめる。


「昨日から、ずっとお話を伺いたいと思っていました」


 明日華は丁寧に頭を下げた。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 蒼姫も静かに頷く。


「私たちの力が、この世界でどのように扱われるのか。私も興味があります」


 ◇◇◇


 話題は、すぐに魔法と法術へ移った。


 パンゲアの魔法。


 日本の法術。


 魔素。


 法力。


 魔核。


 神域。


 呪符。


 魔法陣。


 似ている部分もある。


 だが、根本的には違っていた。


「パンゲアの生物は、魔核を持ちます」


 セシリアが説明する。


「魔核が魔素を受け取り、魔力へ変換する。魔法は、その魔力を術式によって現象化するものです」


 明日華は真剣に聞いていた。


「私たちには、魔核がありません」


「はい」


 セシリアは頷く。


「そこが最も不思議なのです」


 彼女の視線が、明日華から蒼姫へ移った。


「トオル様だけではありません。神代家の皆様には、魔核反応がありません」


 明日華は少しだけ目を伏せる。


「やはり、そうなのですね」


「ですが、魔素の影響を受けていないわけではない」


 セシリアの声には、研究者としての熱があった。


「むしろ逆です。魔素によって身体能力や法力が増幅されているように見えます」


 蒼姫が静かに言う。


「この世界の理が、私たちを変質させたということですか」


「おそらくは」


 セシリアは頷いた。


「真白さんの尾が三本になったこと。蒼姫さんが巨大化できるようになったこと。結衣さんと明日華さんの身体能力や法力が飛躍的に上がっていること」


 そこで一度、言葉を切る。


「皆様は、この世界の魔素を取り込みながら、魔核を介さず、別の理で力を発揮している可能性があります」


 ◇◇◇


 明日華は静かに尋ねた。


「それは危険なことですか?」


「今のところは分かりません」


 セシリアは正直に答える。


「ですが、少なくとも現在は安定しています。むしろ魔核を持たない分、魔素の薄い場所でも活動に支障がない可能性があります」


「あにさまと同じ、ということですか」


「はい」


 セシリアは深く頷いた。


「この世界の者は、魔素の薄い高所へは到達できません。魔核が正常に機能しなくなるからです。ですが、あなた方は違うかもしれません」


 蒼姫の目が、わずかに細くなる。


「試してみる価値はありそうですね」


 ◇◇◇


 三人は、王城外にある魔法師用の訓練場へ移動した。


 そこは、宮廷魔法師たちが大規模魔法の試験を行うための場所だった。


 厚い結界が張られ、周囲には測定用の魔導具が並んでいる。


「まずは、法術を見せてください」


 セシリアが言う。


 明日華は普段、弓を主武器としている。


 だが、符を用いることで攻撃型の法術も扱うことができた。


 明日華は静かに息を整え、一枚の符を指先に挟む。


 手にした符が、淡く光った。


「火炎符」


 符が燃え上がり、前方へ炎が走る。


 魔法とは違う。


 だが、火炎系魔法に似た現象だった。


 続いて、明日華は別の符を構える。


「雷招」


 青白い雷が弾け、訓練用の標的を貫いた。


 セシリアの目が鋭くなる。


「火炎系と雷系に高い適性……」


 明日華は小さく頷いた。


「母から教わった法術です。私は特に、雷系との相性が良いようです」


 蒼姫も静かに言う。


「私は火の法に偏っています。八咫烏としての性質でしょう」


「では、こちらも魔法をお見せしましょう」


 セシリアが杖を掲げる。


「フレイム・スピア」


 短い詠唱。


 炎が槍の形を取る。


 次の瞬間。


 炎の槍は一直線に標的へ突き刺さった。


 的は一瞬で灰になる。


「おお……」


「さすがはセシリア様だ」


「術式の収束が早い」


 周囲で見守っていた魔法師たちから、感嘆の声が上がる。


「これが魔法です」


 明日華も目を見張っていた。


「すごい……これが魔法」


 戦場では離れた場所にいたため、明日華はセシリアの魔法を間近で見たことがなかった。


「魔核を通して魔素を魔力へ変える。それが、私たちの魔法です」


 セシリアは明日華の符を見つめる。


「ですが、明日華様や蒼姫様の法術は違う。魔素をそのまま使っているのではなく、元々お持ちの法力に、魔素が重なっているように見えます」


 ◇◇◇


 次に、蒼姫が本来の姿を取った。


 蒼い光が溢れる。


 風が巻き起こる。


 人の姿がほどけ、巨大な八咫烏の姿へ変わっていく。


 広げた翼は、五メートルを超えていた。


 宮廷魔法師たちが息を呑む。


「これほどの変化を、魔核なしで……」


 セシリアが呟く。


 蒼姫は翼を広げ、空へ舞い上がった。


 旋回。


 急上昇。


 急降下。


 反転。


 その動きは、大型の飛行生物とは思えないほど滑らかだった。


「運動性能も高い……」


 セシリアが測定器を見る。


 次の瞬間。


 その表情が変わった。


「待ってください」


 蒼姫は、さらに上昇していた。


 王都の上空。


 通常の飛行魔獣が到達できる限界を超えて。


 さらに高く。


「ありえない……」


 セシリアの声が震えた。


 この世界には、高度限界がある。


「魔素濃度が、もう飛行可能域を下回っているはずです……」


 測定器を見つめたまま、呟く。


「なのに、飛行が乱れない」


 魔素の薄くなる高度を超えれば、魔核を持つ生物は活動を維持できない。


 魔核が正常に働かなくなるからだ。


 だが。


 蒼姫は、その限界を超えていた。


 何事もないように。


 悠々と。


 高空を旋回している。


 ◇◇◇


 しばらくして、蒼姫が降りてきた。


 再び人の姿へ戻ると、静かに首を傾げる。


「特に苦しさはありませんでした」


 セシリアはしばらく言葉を失っていた。


「魔核がないから……」


 やがて、かすれた声で呟く。


「魔素濃度に縛られない……?」


 明日華が尋ねる。


「つまり、私たちはこの世界の生き物とは違う理で動いている、ということですか」


「はい」


 セシリアはようやく頷いた。


「少なくとも、そう考えるべきです」


 その目には、困惑と興奮が同時に宿っていた。


「研究したいことが、山ほどあります」


 蒼姫が静かに言う。


「しかし、次の旅が待っています」


「分かっています」


 セシリアは惜しそうに息を吐いた。


「今は能力確認だけに留めます。ですが、戻ったら必ず詳しく調べさせてください」


 明日華は小さく頷く。


「元の世界へ戻る方法を見つけるためにも、ですね」


「はい」


 明日華は少し困ったように微笑んだ。


「ほどほどにお願いします」


 ◇◇◇


 一方、その頃。


 結衣は真白と共に、騎士団の練兵場にいた。


 広い訓練場。


 並ぶ武器。


 訓練用の人形。


 模擬戦を行う騎士たち。


 結衣の目は輝いていた。


「すごい!」


 完全に楽しそうだった。


 北方都市での戦いで、結衣の力はすでに噂になっている。


 英雄の妹。


 鉄棍使い。


 魔鋼虫を吹き飛ばした少女。


 騎士たちが興味を持つのも当然だった。


「一度、見せてもらえませんか?」


 若い騎士が言う。


 結衣は鉄棍を肩へ担いだ。


「いいよ!」


 ◇◇◇


 結衣は短パンの下にタイツを履き、上は長袖のジャージ姿だった。


 動きやすく、なおかつ肌を守る服装である。


「いくよ!」


 元気な声。


 次の瞬間。


 結衣の姿が消えた。


 宗玄に教わった縮地。


 至近距離では、目で追えない。


 ドガンッ!


 鉄棍が訓練用人形へ叩き込まれる。


 さらに結衣は身体を回転させ、そのまま踵落としを加えた。


 訓練用人形が吹き飛ぶ。


 騎士たちが絶句した。


「十四歳……?」


「あんな小柄なのに……」


「嘘だろ……」


 その横で、真白は焼き菓子を食べながら片手を上げた。


「結衣ねぇ、身体強化なのじゃー」


 淡い光が結衣を包む。


「ありがと、真白!」


 完全に応援係のように見える。


 だが、支援役としては非常に優秀だった。


 騎士たちはさらに言葉を失う。


「支援法術まで……」


「神代家とは一体……」


 結衣は笑った。


「おじいちゃんの方が、全然強いよ?」


 騎士たちは再び絶句した。


 ◇◇◇


 一方。


 透はリーファと共に、王国の獣舎へ来ていた。


 同行しているのはリリアである。


 目的は、リーファのための騎獣を探すことだった。


 リーファはハイエルフでありながら、非常に小柄だった。


 身長は百四十センチほど。


 フェアリー族に近い血を受け継いでいるため、体格は軽い。


 その代わり、風魔法との相性が良く、機動力に優れている。


 今後、長距離移動が増えることを考えれば、彼女に合った騎獣は重要だった。


 ◇◇◇


 獣舎には、さまざまな騎獣がいた。


 二足歩行の鳥型。


 草食獣型。


 大型犬に似たもの。


 小型恐竜に似た騎獣。


 リーファは興味深そうに見て回る。


「こんなに種類がいるのですね」


「王国でも有数の獣舎らしいからね」


 透が答える。


 リリアはすでに、あちこち飛び回っていた。


「あっ、この子かわいい!」


 騎獣の頭に乗る。


 騎獣が困ったように首を振った。


「リリア、怒られるぞ」


「大丈夫!」


「大丈夫じゃないと思います」


 リーファがため息をつく。


 ◇◇◇


 やがて。


 リーファが一頭の騎獣の前で足を止めた。


 猛禽型の騎獣だった。


 鋭い嘴。


 しなやかな脚。


 背中には退化した羽がある。


 完全な飛行はできない。


 だが、高所からの滑空や、短距離の跳躍移動に優れている種だった。


 小柄なため、体格の良い大人を乗せるには向かない。


 だが、リーファには扱いやすそうだった。


「この子……」


 リーファがそっと手を伸ばす。


 騎獣は警戒するように彼女を見る。


 だが、リーファが淡い風魔法を纏わせると、少しずつ落ち着いていった。


 柔らかな風が、二人の間を巡る。


「相性が良さそうだ」


 透が言う。


 リーファは小さく頷いた。


「はい。この子にします」


 リリアが嬉しそうに飛び回る。


「かっこいい!」


 猛禽型の騎獣はリーファを見つめ、静かに頭を下げた。


「名前をつけるのか?」


 透が尋ねる。


 リーファは少し考えたあと、騎獣の首筋を撫でる。


「ルフト。風という意味を込めて」


 猛禽型の騎獣は、その名に応えるように小さく喉を鳴らした。


 どうやら気に入ったらしい。


 ◇◇◇


 その日の夕方。


 神代家の能力確認について、簡易報告が円卓の面々へ届けられた。


 魔核なし。


 魔素による身体能力の増幅。


 法力の増幅。


 火炎系、雷系に適性を持つ法術。


 真白の支援と回復。


 蒼姫の飛行能力。


 そして。


 高度限界を超えた事実。


 報告を聞いた国王は、しばらく黙っていた。


 やがて、深く息を吐く。


「なるほど……異界の者、というわけか」


 セシリアは頷いた。


「はい。パンゲアの理とは異なる存在です」


 ノーノーも腕を組む。


「だからこそ、魔鋼虫相手に切り札となり得る」


 国王は静かに頷いた。


「ならば、トオル殿の旅に神代家が同行することを、王国として正式に承認しよう」


 こうして。


 神代家の同行は、正式に認められた。


 ◇◇◇


 昼過ぎから夕方にかけて。


 それぞれの時間は、穏やかに過ぎていった。


 明日華と蒼姫は、この世界の理を知り。


 結衣と真白は、騎士団にその力を見せ。


 リーファは、新たな旅の相棒を得た。


 戦いは、少しだけ遠い。


 だが。


 誰も忘れてはいない。


 北の脅威。


 大地溝帯の向こう。


 そして、次の旅。


 準備は少しずつ進んでいた。


 それぞれの形で。


 それぞれの場所で。


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