第十八話 ドワーフの里再訪
「おい、今、例の魔導飛行船とやらに乗って、アストレアから使節が訪れているんだろ?」
「今回、魔鋼虫の巣を叩くアストレア部隊の司令官が来ているらしいぞ」
「そうなのか」
「前回、魔鋼虫と真っ向からやり合っていた、あの黒髪の兄ちゃんも来ているらしいぞ」
「そういえば、あの双子の妹二人も来てるらしいわよ」
「あの兄弟たちはとんでもねえからな」
「あいつらがいてくれると、こっちも楽なんだがな」
「まあでも、いろいろと魔鋼虫に対抗する手立てもできたって噂だから、前回のようにはならないだろうよ」
「各種族の代表たちに加えて、戦いに出向くこれだけの人数が集まるなんて、前代未聞だからな」
「あまり住民には知らされていないけど、今回は一匹たりとも魔鋼虫を残しちゃまずいらしいぞ」
「北の大地にある魔鋼虫の巣を、全部潰さなきゃいけないって話だからな。大変なこった」
「記録に残っているだけでも、巣は七つあるって話らしいしな」
「最初の巣までたどり着くのに、二週間ぐらいかかるって言ってたよな」
「まあ、どうなるか分からないけど、数ヶ月はここを留守にすることになるんだろうな。住民たちからも物資の供出が始まっているから、遠征用の物資もかなりの量になるみたいだ」
「どちらにせよ、やられれば俺らも終わりってことだから、やるしかねえな」
ラザールの冒険者ギルドでは、こんな会話が交わされていた。
◇
その頃、ハイエルフ部隊のキャンプに向かったリーファと明日華たちは――。
「姉さん!」
「あら、リーファ。来てたのね」
「はい。今回はさすがに、里一番の精霊魔法の使い手である姉さんも参加するとは思っていました」
「そうね。今回ばかりは私も頑張らないといけないわね。母さんもエルディンも来てるわよ」
「そうですか。父上と母上に会いたいんだけど」
「あそこのテントにいるはずだから、訪ねてみなさい」
「わかりました」
「あら、そちらは確か、明日華ちゃんね」
「はい。今日は、この蒼天の弓を作ってくださった弓師さんがいらっしゃれば、お会いしたいと思っていたんですけど」
「わかりました。では、私が案内しましょう。ついてきてください」
キャンプの端に設けられた、少し大きめのテントへと明日華は案内された。
「お久しぶりです」
「おお、明日華さんか」
「今日は、この弓のお礼と、少しご挨拶がしたくて参りました」
「お礼なんぞいらんよ。それよりもどうだい、その弓は?」
「すごいです。この弓があれば、魔鋼虫の硬い装甲も簡単に撃ち抜くことができます」
「そうか、そうか。でも、それも明日華さんの技量あってのことだよ」
「まだまだです。でも、この弓があると、これからの戦いもとても心強いです。ありがとうございました」
「うむ。この弓を作った甲斐があったな」
「この後、時間があれば寄っていくかい? お茶ぐらい出すぞ。少し弓の具合も見てみたいからの」
「はい。それでは、お邪魔します」
明日華は右肩に乗った蒼姫と共に、弓師のテントへ招かれた。
◇
「父上、母上、お久しぶりです」
「リーファ、元気そうですね」
「はい。みんな良い人たちばかりですので」
「それだけではないでしょう?」
リーファは言われた意味を察して、少し頬を赤らめていた。
「リーファよ、今回は何かあったのか?」
「いえ、今回は透様たちがこちらへ用事があるので、一緒についてきたのです。父上、母上にもお会いしたかったので」
「透君のお父さんの隆志さんが、アストレア部隊の司令官になったんだろう?」
「はい」
「透さんのご両親がフェンリルの祠から出てきた時は、みんな驚いていましたよ」
「フェンリルの祠の地下深くに、透さんの異世界につながる道があるという話を聞きました」
「そうらしいな。その後、我々もフェンリル様の許可を得て地下へ潜ってみたが、何も見つからなかったよ」
「透さんの妹たちも、アストレアの洞窟のようなところから現れたと言っていましたからね」
「まあ、世界には分からないことが、まだまだたくさんあるということなんだろう。でも、あの方たちはとても良い方たちだったぞ」
「ええ。私はお母様の美琴さんと意気投合してしまいましたよ」
リーファの母であるフィレオナが、優しく微笑んでいた。
「エルディンも来ていると聞きましたけど」
「ああ、向こうで多分、弓の練習をしているんじゃないか。もう成人しているからな。今回ばかりは私と共に戦いに出向いてもらう」
「私も今回は、透さんのご両親と一緒に来た暁さんという方……多分、お会いしていると思いますけれども、あのお方も蒼姫さんと一緒で大鳥に変化できるので、私はその背に乗って戦おうと思っています。私は風の精霊魔法が使えるので、とても相性がいいのだと言ってくださいました」
「そうなのか。今回は別々の場所で戦うことになるが、いずれ合流することになるであろう。怪我をせぬようにな」
「わかりました。どうか父上、母上、姉上、皆も怪我をなさらぬように」
リーファも久々の家族との再会で安心したのか、微笑みを浮かべながらキャンプを後にした。
ちょうど明日華たちもやってきたので、皆で宿に戻ることにした。
◇
「ノアは何か食べたいものとか、行きたいところはないのか?」
「私は別に何でもいい。お兄ちゃんたちと一緒にいられれば」
「ノアちゃん、私は、私は!」
「ルカお姉ちゃん」
ムフーと、ご満悦なルカであった。
「ラピスは……って、寝てるか。最近、寝てることが多いな、ラピスは」
「そうだ、ブルートリトン号に残っているパルムちゃんに差し入れを持っていこうよ、透様」
「そうだな、そうしようか」
「何にしようか?」
「はい、はい! 肉がいいと思います!」
「それって、ルカが食べたいだけだろう」
「そんなことないと思うんだけどな」
「お兄ちゃん、あそこにある平パンにお肉を挟んだやつがいいんじゃない?」
「うん、あれならちょうどいいかもしれないな」
最近はだいぶ表情が豊かになり、皆とおしゃべりができるようになったノアであった。
「パルムちゃん、いますか?」
「何だい?」
「差し入れ持ってきたよ」
「ありがとう、ルカさん」
右手には、自分用のおやつをたくさん抱えているルカであった。
「少し休憩しようか。みんな、差し入れだよ」
「おお、ありがたいね。いただこうか」
「パルムちゃんも大変だろう。いろいろ任せちゃってごめんね」
「そんなことないよ。僕は大好きだからね、機械に触っているのが。こんなすごい船を任せてもらえるなんて最高だよ。里のみんながうらやましがるよ。でも、誰にも渡さないもんね」
「⋯⋯⋯⋯そうなんだ」
「夜はみんなでご飯を食べる予定だから、パルムちゃんと技師の皆さんたちも宿へ来てもらえますか?」
「いいの?」
「当然だよ。みんなが頑張ってくれてるおかげで、無事にこうやって空を飛ぶことができているんだからさ。俺たちじゃ何もできないからね」
「ルカさんや。今日は飛んでないから、そんなにお腹が空かないんじゃないのか?」
もぐもぐと、先ほど買った平パンの肉詰めを食べているルカは、キョトンとしていた。
そんなルカを見て、ノアは微笑んでいた。
◇
それぞれの用事を済ませ、翌日、神代家一行はドワーフの里へと旅立っていった。
「おっ、戻ってきたみたいだな。俺もあっちの船の方がいいんだけどな」
「パルムがいるから、そりゃ無理だろう」
「あの子が絶対にあの船の整備を誰かに譲るなんて、考えられないからな」
「まあな。あの歳でドワーフの里きっての天才だからな」
「そうそう。でも、あの子がいろんな技術を習得してくれれば、いずれ俺たちもあの子から教わることがあるだろうからな。さらに面白いものが作れるようになるかもしれないぜ」
「だな。それよりも今回は、魔鋼虫とやらを一匹も残さないような戦いをしなきゃいけないんだろ?」
「俺は見たことないけれど、その皮っていうか、装甲なのか? 普通の刃じゃ通らないって話じゃないか」
「らしいな。でも、なんか向こうの工房で、アワアワとかいう魔鋼虫用の薬剤を大量に作ってるらしいぞ」
「そうらしいな。俺たちも工房長に呼ばれてるぞ。魔導飛行船が到着したら、会議室へ来るようにってさ」
「班長だけだろ?」
「いや、今回は工房の主だった連中がみんな来るようにって言われてるぞ」
「そうか。じゃあ俺らも行くとするか」
「ああ、あの高速魔導飛行船も見てみたいしな」
ドワーフの工房の一室では、こんな会話が交わされていた。
同じ頃、ドワーフの里の発着所へ到着したブルートリトン号から、神代家の一行が降りてきた。
「パルムよ、元気にしておったか?」
「はい、おじいちゃん。あの船は本当にすごいんだよ。もうね、ずーっとあの船の中で生活したいぐらいだよ」
「わかった、わかった。隆志さん、連絡は受けておりました。教えていただいたアワアワも製造を開始しております」
「そのことですが、一応アストレアから今ある在庫のすべてをお持ちしました。これも使ってください。それと一緒に製造に関わったデックさんに残って貰います」
「ありがたい。我々の作ったアワアワも見ていただけるか?」
「分かりました」
「では、工房へ案内しよう」
「皆までついてくる必要はないよ。夜間飛行はできないから、今日もこちらで休んで、明日の朝に発つことになるから」
「宿なら、前回利用なさった宿に行けば泊まれますよ。あそこは我が工房御用達ですから」
「それはありがたいですね」
「では、美琴さん、引率お願いしますね」
「分かりました」
「あたしはお父さんについていく。アワアワの専門家だからね」
「アワアワの専門家って?」
透はツッコミをぐっと抑えた。
「真白はかか様と行くのじゃ」
「モモも!」
「明日華はどうするの?」
「私も結衣と一緒に行きます」
蒼姫は最近、法力の消耗を避けるため、八咫烏の姿で明日華の肩に乗っていることが多くなっていた。
そして、暁も常に皆から少し離れたところで見守っていた。
「では、透さんとルカさん、ノアちゃん、リーファさんは私と一緒に行きましょう」




