第十七話 ラザールに集う者達
「おい、あれがそうじゃないか?」
「おお、東の方から飛んできたんだから、間違いないだろう」
「どうやら街の外へ降りるようだな」
「ああ、カシム様に知らせてこい」
「分かった」
東の櫓の上で監視していた兵士たちが、ラザールを目指して飛んできたブルートリトン号を見つめていた。
やがて、ブルートリトン号がラザールの東門に近づくと、住人たちが騒ぎ出した。
「なんだ、あれは?」
「空を飛ぶ船か?」
「確かカシム様が、今日この地に東から空飛ぶ乗り物がやってくると言っていたはずだぞ」
「では、敵ではないんだな?」
「ああ、間違いない」
「おっ、着陸したぞ。誰か出てくる!」
「普通の人間じゃないか」
「当たり前だろ」
ブルートリトン号から、隆志を先頭に皆が降りてきた。
「やっぱり暑いね」
「そうですね。砂漠地帯は暑いですね」
「あつっ! 暑いのは苦手なのじゃ」
「はいはい。尻尾が三本に増えちゃったから、余計に暑いんでしょ」
「そうなのじゃ」
「みんな、とりあえず街に入ろうか。門番の人に挨拶してくるよ」
「神代家の方々ですね。カシム様から聞いております。前回の危機では助けてくださり、ありがとうございました」
「いえいえ、私はその戦いには参加していませんよ。うちの透たちですね」
「そうでしたか。失礼いたしました。カシム様からご案内するよう申しつかっております。どうぞ、こちらへ」
「みんなはどうする?」
「そうですね。私たちは、とりあえず宿を取ろうかと思います」
「宿でしたら、カシム様が湖の近くに手配してくださっています。別の者に案内させましょう。君、神代家の方々をご案内してください」
カシムの元へ向かう隆志と別れ、神代家の一行は宿を目指した。
◇
カシムの元へ向かった隆志は、街の中にいつもとは違う緊迫した空気が漂っているのを感じ取っていた。
領主からある程度の説明は受けているのだろうが、住人たちも今回の作戦が大変重要な意味を持つことを、薄々理解しているのだろう。
やがて領主館に案内されると、壮年の背の高い男性が現れた。
「ようこそいらっしゃいました。あなたが透君のお父上ですか?」
「そうです。透がお世話になりました」
「とんでもない。透君たちがいなかったら、この街も大変なことになっていましたよ」
「そうですか。街が無事であったのが何よりです。ところで、出発間近というのに、お時間を取らせてしまい申し訳ありません」
「いえ、ピクシーネットワークを通して連絡が来ました。あなたが今回の作戦の司令官に任命されたと」
「非力ではありますが、思うところがありまして、この大役を引き受けることにいたしました。本日は、アストレアとエルフ連合軍による魔鋼虫の巣掃討戦に向けて、作戦を共有したいと思っております。何かの参考になればと思いますので、各代表の方たちと一度お話ししておければと思いまして」
「それは非常に助かります。私たちは組織立って戦うという経験がありません。これほど大勢の方々に集まっていただいても、うまく魔鋼虫と戦えるかどうか……。私も今回の《バラン》掃討作戦の責任者になっておりますが、私自身、そのような戦い方を経験したことがないものですから」
「では、各代表の方たちが集まっておりますので、ご案内いたします」
「よろしくお願いします」
領主館の議場には、各種族、各都市の代表が集まっており、隆志から《トーラス》掃討作戦の詳細が説明された。
◇
「これが今回、アストレア・エルフ連合軍による魔鋼虫の巣掃討作戦の概要になります。何かご質問のある方は、挙手をお願いいたします」
ドワーフの代表が挙手をした。
「そのアワアワというのは、確実に効果があるのか?」
「あります。実際に2回ほど試しましたが、2回とも効果がありました。今日もアストレアで製造した分をドワーフの里へお届けするために運んできております。空から散布するのが一番効果的ですので、ドワーフの里にある貨物型の魔導飛行船で同じようなことができれば、かなり有利に戦いを進めることができると思います」
「一緒に来られたデック殿にも製造を手伝って貰いましたので、ドワーフの里に残って貰おうと考えています」
「デックなら安心だ。助かる」
「カシム様、できれば帰りにヤシ油をいただきたいのですけれども」
「先だって、ヤシ油については連絡があったから、できるだけ用意はしている。持てるだけ持っていってくれたまえ」
「ありがとうございます。ドワーフの里でも必要になると思いますので、その分も運んでいきたいと思います」
「先ほども申し上げましたが、魔鋼虫はどうやら魔素を利用して外殻を硬化させているようなんですよね。この世界でいうところの強化魔法のようなものでしょうか。魔素の効果を弱めたり、阻害したりする『マジックキャンセラー』という魔法や魔道具を使えば、普通の剣でも魔鋼虫の外殻を貫くことができます」
「ということは、前回のようなことはないということだな。こちらの攻撃も通じるということか?」
冒険者ギルドの代表が尋ねた。
「そうですね。普通の剣でも確実に貫くことができますよ。当然、弓も通用します。ただ、大型個体に関してはまだ実験したことがないので、どこまで有効かは分かりません」
「ギルド所属の魔法士と各都市の魔法士が連携して、少しでも魔鋼虫を倒すための有効な手段を講じるしかないだろう。ハイエルフの里の方々の精霊魔法に、似たような作用をする魔法はないのかね?」
「おそらく、精霊魔法の中にある浄化魔法なら、魔素を排除できるはずです」
ハイエルフの里の代表、ファルゼンが答えた。
「それならば、我が獣牙族がハイエルフの皆を守りながら戦おう」
「ファルガ殿、獣牙族の方々は本当に頼もしいな」
「我々は戦うことが好きな馬鹿が多いからな。ハハハ!」
ファルガの発言で、場の空気が和んだ。
「それともう一つ、我々が乗ってきたブルートリトン号の900年前の資料にあった『疑似魔核』というものがあります。それをここでお見せいたします」
「疑似魔核ですか?」
「ええ。魔鋼虫はパンゲアに住む人々の魔核を餌と認識しています。その習性を逆手に取って、この疑似魔核、つまり魔核に見せかけたものを使い、魔鋼虫を誘導するものです」
「うまく利用すれば、こちらの意図に従って魔鋼虫を誘導できるということか」
「そういうことです。この球体に魔力を込めると赤色に変化しますので、それで使用できるようになります」
「なるほど」
「構造は比較的簡単ですので、これをドワーフの里へ持ち込み、技術者にできるだけ多く製作してもらおうと思っています」
「あとは魔法使いの方々に魔力を注入していただければ、疑似魔核の完成です」
「これでさらに、魔鋼虫に対抗する策が増えたということですね」
「どう使うかは皆さんで考えていただき、有効に活用してください」
「本当にありがたいことです。魔鋼虫に対する様々な対抗手段といい、巣の攻略方法といい、まさに天啓です」
「いえ、今回は一匹たりとも魔鋼虫を残してはいけない戦いになります。今使えるあらゆる手立てを尽くしていかなければなりません。皆さんの奮闘にかかっています」
話を聞いていた各代表は、それぞれの思いを胸に、改めて気を引き締めていた。
「十分に戦えるだけの手立ては用意できたと思います。あとは、我々神代家遊撃隊が《トーラス》の掃討を終え次第、こちらに向かいますので、よろしくお願いします」
「大変ありがたい。我々だけでは巣の攻略は難しいと考えていたので」
「できるだけ早くあちらを片付けて、こちらに参りたいと思います」
「では、皆さん、ご武運をお祈りしております。できることなら、一人も欠けずに戻ってこられますように」
明日から始まる《バラン》掃討作戦に向けて、各代表たちは最後の会議を終え、それぞれのキャンプへと帰っていった。
◇
宿に着いた美琴たち一行は、それぞれの行動について話し始めた。
「お母さん、私は獣牙族のキャンプに行ってくるよ。友達になったミルガに会いに行ってくる。多分、作戦に参加してると思うんだよね」
「真白も行くのじゃ!」
「じゃあ、モモも行くの!」
「行き先は分かっているのか?」
「明日華、どっちだと思う?」
「獣牙族のキャンプって、誰に聞いたの?」
「街の人たちが、各種族の人たちがキャンプを張っているって言ってたんだよね。食料を届けるんだって」
「なら、見回りをしていた兵士の方に聞いてみたら?」
「明日華はどうするの?」
「私は、できればハイエルフの人たちのキャンプに行きたいんだよね。蒼天の弓のことがあるから」
「じゃあ、私と一緒に行きましょう。多分、父たちも来ていると思うから」
結衣は真白とモモを伴って、明日華はリーファと共に、それぞれのキャンプへ向かった。
「私は隆志さんが戻ってくるのを待っているから、あなたたちは街へ出てみたらどう?」
「透様、行きたいです!」
ルカが元気よく手を挙げた。
「じゃあ、ノアとラピスはいつもどおりだから、みんなで出かけようか」
「うん!」
「みゃ!」
「やった!」
◇
「あっ、真白様!」
「え?」
「お忘れですか? ザガンガと一緒に戦ったのを」
真白はキョトンとしていた。
「あっ、あの時の!」
「おお、結衣殿でしたか」
「こっちで獣牙族のキャンプで間違いないかな?」
「はい。族長たちも来ていますよ。あちらのテントにおります」
「ミルガも来ていますか?」
「ええ、族長のテントにいると思いますよ。行ったらきっと喜びますよ。ご案内しましょう」
案内されて族長のテントに入ると、族長のファルガと次女のミルガが何やら話をしていた。
「ミルガ!」
「結衣!」
「どうしたんだ、お前?」
「お父さんたちの用事があって、一緒についてきたんだよ。ミルガに会いたくて」
「そうか。今回はあたしも参加するぜ」
「うん。でも気をつけてね。魔鋼虫は数が多いし、とても硬いから。向かってきても絶対まともに受けちゃダメだよ」
「結衣は戦ったことがあるんだな」
「うん、大変だったよ。私も接近戦だからさ。魔鋼虫って青い血でさ。いつも青い血まみれになって、生活魔法とか使えないから」
「うえぇ、そうなのか」
「あっ、すいません、族長さん。おしゃべりが過ぎました」
「いいや、そんなことで遠慮するな。それより、うちのライガは元気にやってるか?」
「とても元気ですよ。よくガルドさんとお酒を飲んでいます」
「相変わらずか」
「ですね。でも、戦場のライガさんは鬼神のごとくですね。何度も助けてもらいました」
「鬼神とな?」
「戦いの神様みたいな感じですかね」
「そうか、そりゃよかった。ハハハ」ファルガが豪快に笑った。
「ところで、今回はフェンリル様の御子はどうしたのだ?」
「来ていますが、今は宿にいると思います」
「そうか。戦いの前に一度お会いしたいところだな」
「分かりました。このあと時間があれば、一緒にうちの宿へ行きませんか?」
「そうか、そうしてもらえるとありがたいな」
「フェンリル様は、私たちにとって神のような存在だからな。戦いの前に一度お会いしておきたい」
「あれ、真白は?」
「真白ちゃんは、さっき皆に連れて行かれたぞ。甘いものをご馳走すると言われてな」
「まったく、真白はすぐ甘いものにつられるんだから」
「真白ちゃんも、あの子は霊獣なのだろう? 我々獣人にとっては、あの子も神聖な存在なのだよ。戦いの前だから、皆を許してやってくれ」
「分かりました。皆さんの迷惑でなければ、本人もとても喜んでいるはずですので」
真白は獣牙族の兵士たちに思い切り甘やかされて、大層満足していた。




