第十六話 それぞれの決意
出陣式の前。
「この戦いには、私も参加しよう」
「国王陛下!」
「国が滅んでしまっては、国王など何の意味もない。戦いの役には立たんかもしれんが、兵を鼓舞することぐらいはできよう」
「そこでだ。隆志殿には、今回の作戦の総指揮を執ってもらいたい」
「私ですか?」
「そうだ。君は作戦の立案や遂行に長けている。アワアワの開発といい、ほかにも策を考えていると聞き及んでいる。それに、異世界人ならではの知識と発想、透君の武力。今回の戦いは、君たちの活躍にかかっていると言っても過言ではないのだ。頼む」
「私もそう思います。ぜひ、総指揮をお引き受けください」
「分かりました。期待に応えられるかどうか分かりませんが、やれるだけのことはやってみます」
「では、グランツよ。全部隊に通達せよ。隆志殿の指示に従うようにとな」
「かしこまりました」
◇
「このような戦装束に袖を通すのは久しぶりだな」
「そうですね。いつ以来でしょうか」
「私が留守にしている間は、皆と共によろしく頼むぞ」
「分かりました。私も神殿に赴き、皆で無事を祈っております」
◇
「ここに集った戦士達よ。私は誇らしく思う。この世界を守るために、これほど多くの民が立ち上がってくれたことを。残る我々も、皆が無事に戻れるよう、心から願っている。皆の健闘を祈る」
「出陣!」
「「「おおーーー!」」」
◇
「出陣式が終わったので、これからの予定について話します。先ほど国王から、今回の作戦の総指揮を執ってほしいとお願いされました。力不足かもしれませんが、引き受けることにしました」
「そこで、まずはラザールへ向かい、集結している各種族の代表の方たちと会合を開きたいと思います。その後、現在あるアワアワを持ってドワーフの里へ向かいます。製造方法は伝えてありますが、現物を届けた方が良いと思いますので」
「お父さん、このままブルートリトン号でラザールに向かうってこと?」
「そうなるね」
「忙しいけれど、ドワーフの里へアワアワを送り届けたら、技術者の一人に里へ戻ってもらい、アワアワの製造に力を尽くしてもらいたいと思っていルカと天狗激突」
「危険はないと思いますが、念のためルカさんと透には同行してもらいたい。あとのみんなは、どうするか決めてください」
「私もラザールへ行っていい? ミルガに会いたいんだ」
「構わないよ。ほかのみんなはどうする?」
「里のみんなが来ているかもしれないから、私も同行させてください」
「お父さんは地上部隊のみんなと一緒に行くのですか?」
「そうじゃのう。わしは白と一緒に、地上部隊に合流するとしようかのう」
「明日華と蒼姫、暁さんはどうします?」
「私もみんなと一緒に行きます」
「蒼姫のいる場所が私の場所ですから」
「わしも一緒に行こう」
「では、とりあえずアワアワを積み込んでから出発しましょう」
こうして、神代家の面々も、それぞれの役目を果たすために動き始めた。
勿論、ノア、ラピす年少組は当然同行する。
◇
「アストレアからラザールまでは、5時間ぐらいってところかな。アワアワの積み込みが1時間ぐらいで終わったとしても、お昼は回ってしまうかもしれないね」
「では、船内で簡単なお食事を作るようにしましょうか」
「一応、キッチンは備えてあるみたいですから。ただ、簡単なものしか作れませんけどね」
「足りなければ、ラザールに着いてから考えようか」
「一応、こちらから出向くことは伝えてあるから、ラザールに集結している西方都市連合の部隊には、出発を明日の早朝まで延ばしてもらったんだ」
「お父さん、連合軍でいいんじゃないの?」
「それがさ、この世界では今まで一度も戦争がなかったらしいんだよね。だから、騎士団はあっても軍隊はないんだよ」
「だから『軍』っていう言葉に、僕も違和感があるんだよね」
「お父さんらしいですわね。でも、軍でいいんじゃないですか?」
「明日華の言うとおりだよ」
「そうか、僕の考えすぎだね。じゃあ、これからは軍隊として扱おう。まあ、地球の組織の呼び名に合わせようかな」
「デックさん、アワアワの方は大丈夫ですかね?」
「製造方法は簡単だからな。うちの連中なら大丈夫じゃろ。椰子油はラザール以外でも採れるしな」
「それなら安心ですね」
「向こうの貨物型の魔導飛行船も無事に起動できたそうですしね。戦場では大いに役立ちますよ」
こうして、一行は一路ラザールへと向かった。
◇
神殿都市ミルファでは、神殿長エルシアの側仕えが、遠征の準備について尋ねていた。
「エルシア様、今回はだいぶ長い遠征になると聞いておりますが、何か準備しておくものがあれば教えていただきたいのですが」
「そうですね。今回の遠征に参加する者の人選は、もう済んでいますから。それぞれが必要な準備を整えていれば、私から特に指示することはありませんよ」
「分かりました。しかし、どうなるのでしょうか。こんなことは初めてですから、皆、不安がっております」
「そうですね。私にも、その不安はよく分かります。ただ、今回は魔鋼虫というものを駆逐しなければ、この世界そのものが滅びる可能性があるということですから。私たちも、戦いで負傷した方々を癒やすことで力になりたいと思っています。あとは神に祈り、最善を尽くすだけですね。では、神殿騎士団と共にラザールへ向かいましょう」
「分かりました。それでは、皆に出発する旨を伝えてまいります」
こうして、神殿都市ミルファでも、魔鋼虫の巣掃討戦に向けて、着々と準備が進められていた。
◇
時を同じくして、ハイエルフの里でも、決戦に向けた準備が進められていた。
里の族長ファルゼン・シルバリウスの屋敷でも、家族が遠征について話し合っていた。
「父上、今回は私も参加させていただけませんか?」
長男のエルディンが、父ファルゼンに願い出た。
「お前も成人した身だからな。今回の戦いには、私と共に参加するように。ただし、実際に戦った経験がない以上、決して無理は許さないぞ。常に私と行動を共にするように」
「分かりました、父上」
「私も参加しますわ。私の精霊魔法も、きっとお役に立てるでしょうから」
長女のエルフィナも、遠征への参加を申し出た。
「そうだな。エルフィナは、この里きっての精霊魔法の使い手だからな。しかし、無理はせぬように」
「私も参加しますからね」
今度は妻のフィオレナまでが、参加の意思を示した。
「フィオレナまでも参加したら、誰もこの家に残らないではないか」
「お爺さまたちから話を聞いたでしょう。三千万人もの人々が、わずか二年で魔鋼虫に滅ぼされてしまった。精霊魔法を使える私が、ここで座して待つわけにはいきませんよ」
「分かった。リーファもアストレアで戦いに参加するようだからな。ただし、皆、無事に帰ってこられるよう、決して無理はしないことだ」
「では、そろそろ皆も集まってきているだろう。私たちも合流して、ラザールへ向けて出発しよう」
◇
一方、フェンリルの祠では、ラピスの母親が、遠く離れた我が子に思いを馳せていた。
「あの子も、もうすぐその時を迎えるのでしょうね。ラピス、あなたが大切なものを守るために、その力を使える日が来ることを願っています。母はいつでも、遠くからあなたを見守っていますよ」
◇
オアシス都市ラザールへ向かうブルートリトン号の船内では、隆志が今後の作戦について説明していた。
「今分かっていることを、少し整理しておこうか。アストレアから大地溝帯までは約150キロ。それから《トーラス》までが約150キロだから、全部で300キロぐらい離れているはずなんだ。この船なら、おそらく1時間ちょっとで行ける距離なんだけどね」
「ただ、地上部隊となると話は別だ。どんなに頑張っても、1日に30キロぐらいしか行軍できないだろうから、単純に計算しても10日はかかるんだよ」
隆志はさらに説明を続けた。
「しかも、最初に工作部隊が大地溝帯に入って、進路を確保しながら進むことになると思うから、さらに1日か2日の余裕を見ておく必要があるんだよね」
「一応、僕たちは工作部隊が大地溝帯に入る辺りで合流しようと思っている。つまり、5日後位になるから、それまでにアワアワや、ほかの準備を進めておこうと思うんだ」
「西方都市の部隊も、おそらく同じぐらいの日数がかかると思うんだよね。だから、西方都市部隊が《バラン》に到着するまでには、2週間ぐらいかかると考えている」
「問題は、その間に魔鋼虫の巣がどんな動きを見せるか、まだ分からないことなんだ。できれば、この船で何度か偵察を繰り返したいと思っている」
「ラザールでの会合が終わったら、そのままアストレアへ戻って準備を進めるつもりだから、皆もそのつもりでいてね」
「「「はい!」」」
ぐぅ〜。
ちょうどその時、船内に大きなお腹の音が響いた。
「簡単ですけど、お昼にしましょうかね」
「はい!」
大きなお腹の音を立てた張本人が、元気よく右手を上げて返事をしていた。




