第十四話 それぞれの役割
「お早う、パルムちゃん」
「お早うございます」
パルムはブルートリトン号の船底の下で作業をしていた。
「隆志さん、何かご用ですか?」
「うん、それなんだけど。この間話した爆弾とは違うんだけど、空から何かを落として魔鋼虫に打撃を加えられるものが作れないかなと思ってね。時間が無いから、出来ることでさ」
「そうですね。爆弾は分かりませんけど、この投下口を利用して物を運ぶことは出来ますから、適当なものがあれば⋯⋯」
「どれくらいのものなら運べるかな」
「そうですね、あのくらいなら」
パルムが王城の脇を指さした。
そこには、補修用と思われる古い石柱が置かれていた。
「あれなら使えるか。でも、あのままだと方向が定まらないか」
「矢羽根のようなものをつければ良いですか?」
「良く分かっているね。出来るかい?」
「出来ますよ。半日もあれば。ただ、あれをここまで運ばなくてはならないので」
「分かった、ノーノーさんにでも相談してみるよ」
そう言って、隆志はその場を離れ、ノーノーの元へ向かった。
◇
王城に到着した美琴たちを、王妃が出迎えた。
「すみません、王妃様直々にお迎えいただいて」
「いえいえ、美琴様のお願いですからね」
王妃に案内され、美琴たちは王城の一室へ向かった。
奥まった部屋の扉を侍女が開けた。
「皆さん、美琴様がいらっしゃいましたよ」
一人の女性が歩み出た。
「美琴様、頼まれていた衣装ができました。確認をお願いします」
「こんなに早くですか、ありがとうございます」
「いえいえ、私たちに出来ることはこれくらいしかありませんから」
部屋には、徹夜して仕上げたであろう奉納の舞の衣装が掛けられていた。
「では、皆さんの衣装合わせをします」
「結衣さんたちの衣装も少し直してもらいました」
美琴がそう告げると、セリナが尋ねた。
「美琴様、私も着るのですか?」
「そうです。セリナさん、リーファさん、ルカさん、ノアちゃんの分も用意してもらいました」
「一人ずつ合わせていきますよ」
「「はい!」」
侍女の一人と明日華も美琴を手伝い、衣装の着付けが始まった。
「セリナさん、胸はきつくないですか?」
「大丈夫です」
「袖も丈も良さそうですね」
「とてもよく似合っていますよ、セリナ」
王妃が優しく声を掛けた。
「はい、おかあさま」
セリナは頬を染め、嬉しそうにしていた。
「リーファさんは問題なさそうですね」
「リーファさん、天女みたい!」
結衣が声を上げた。
「天女?」
「天女は、私たちの世界の妖精のような存在です」
明日華が補足した。
「ルカさんは少し丈が短いようですね」
「もっと短くても大丈夫ですよ」
ルカはくるりと回り、ニコニコしながら返事をした。
「ルカ姉、それじゃだめだよ」
「そうなんですか?」
「結衣ねえが言うと⋯⋯普段、袴をたくし上げて真白と追いかけっこしてるくせに」
「もうー、明日華は!」
そう言って、結衣は頬を膨らませた。
「はいはい。ノアちゃんは少し丈が長いかしら。調整しますね」
美琴が手際よく、裾を上げていった。
結衣と明日華も、二人で衣装の具合を確かめていた。
「皆さん素敵ですね。王城でも取り入れてみたいですね。美琴様、その時はお願いしますね」
「分かりました」
「では、私はこれで失礼します」
「「王妃様、ありがとうございました!」」
王妃が部屋を後にすると、美琴が皆に声を掛けた。
「さて、これから明日の奉納の舞の打ち合わせをしたいと思います」
◇
「ノーノーさん、相談したいことがあります。少しよろしいでしょうか?」
その頃、隆志は大賢者ノーノーの私室を訪れていた。
「なんじゃな?」
「今回のトーラス掃討作戦ですが、最初に直接尖塔に向かい、攻撃を加えようと思っています」
「ほう、どんなふうにじゃ?」
「重量物を尖塔にぶつけて、破壊するんです。うまくいけば、飛行型の魔鋼虫を閉じ込められますし、場合によっては地上の魔鋼虫にも被害を与えられると思います」
隆志の説明を聞いたノーノーは、興味深そうに頷いた。
「して、何が必要なのじゃ?」
「王城の片隅に放置されている、補修用の石柱です」
「なるほどのう」
「そのために、石柱を運ぶ作業を手伝ってくれる人員をお借りしたいのです」
「分かった。すぐに手配しよう。儂も行くぞ」
「お願いします」
◇
「パルムちゃん、石柱を運ぶ算段がついたから、取りかかろうか」
「分かりました。まずはここへ運んでもらって、簡単な矢羽根の代わりになるものを取り付けます。みんな、手伝ってくれる?」
「「いいぜ!」」
ドワーフの里から一緒に来ていた技師たちが頷いた。
「皆さん、こちらへ運んでください」
隆志の指示により、石柱がパルムの指定した場所へ運ばれていった。
「ほう、これを船底に取り付けるのか」
「ええ。この船には、何かを投下する仕組みがあるんですよ。ただ、もともと何を投下するためのものだったのかは分からないんです」
隆志は船底を指しながら説明を続けた。
「そこで、パルムちゃんたちに少し改良してもらい、石柱を船底に吊り下げる形で取り付けて、手動で投下できるようにします」
「これで尖塔を破壊できれば、地上部隊の助けになるのう」
「ええ、必ず成功させてみせますよ」
隆志は力強く宣言した。
「騎士団長たちには、儂から伝えておこう」
そう言い残すと、ノーノーは足早に城内へと消えていった。
◇
「しかし、おぬしが里を離れると言ったときは驚いた。同族も数を減らし、おぬしが最後の一羽だからのう。神話の時代には、他にも各地におったのじゃが、信仰が失われるにつれ、生まれなくなってしもうた」
八咫烏の暁が傍らの蒼姫に語りかけた。
「じゃが、おぬしが幸せそうで何よりじゃ」
「はい、始祖様。私は明日華と出会ったとき、縁を感じました。蒼姫という名もいただき、あの子とは霊力でつながっています」
「しかし、ずいぶんと遠くまで来たものじゃ」
「そうですね。でも、こちらの世界はとても居心地が良いと思いませんか?」
「そうじゃのう。魔素とやらの影響もあるが、人々に邪気がない」
「そうですね。様々な種族が暮らしていますが、あちらの世界とは違う気がします」
「さて、もうすぐあの虫どもとの戦いが始まるのう。負けるわけにはいかんな。我らの役割も大きい。魔素とやらを十二分に取り込んで、なぎ払ってくれようぞ」
「そうですね。私も始祖様に後れを取らないよう、頑張ります」
そんな会話が、白や宗玄たちを見下ろす高い枝の上で交わされていた。




