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超大陸パンゲアへ渡った神代家の異世界奮戦記  作者: 久遠 遙人


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第十一話 勝機といつもの家族

「いたぞ」


「何かしてるよ」


「魔獣の群れを襲ってるのか?」


「そうみたい」


 前方には、数体の魔鋼虫がいた。


 どうやら魔獣の群れを襲い、捕食している最中らしい。


「ルカ、暁さんに横付けしてくれ」


「はい」


 ルカが翼を動かし、暁の横へ並ぶ。


 透は暁の背に乗るセシリアへ声をかけた。


「セシリアさん、先に《マジックキャンセラー》を掛けてください」


「分かりました。暁さん、もう少し近づいてもらえますか?」


「分かった」


 暁が高度を落とし、魔鋼虫へ接近していく。


 その背の上で、セシリアが呪文を唱えた。


「《マジックキャンセラー》」


 魔法が魔鋼虫へとかかる。


 捕食の最中だった魔鋼虫が動きを止め、こちらを振り向いた。


「ギィ、ギチギチ!」


 次の瞬間、透が普段の力をおさえて、一本の槍を投擲した。


 魔鋼虫の外殻がどれほど硬いのか。それを確かめるために用意した、訓練用の木槍である。

「それっ!」


 透の手を離れた木槍が、一直線に魔鋼虫へ飛んでいく。


 そして――。


 木槍は魔鋼虫の背中から突き刺さり、そのまま胴体まで深々と射貫いていた。


「うまくいきましたね。念のため、もう一体試してみます。セシリアさん、詠唱をお願いします」


「分かりました」


 透は背中へ声をかける。


「ラピス、しっかり捕まっているんだぞ」


「みゃ」


 最近では、どこへ行くにも透の背中に張り付いているラピスだった。


 セシリアが再び《マジックキャンセラー》を掛ける。


 透はもう一本の木槍を構え、その個体へ向けて投擲した。


 今度の槍も外殻を貫通し、魔鋼虫はその場へ倒れ込んだ。


「これなら、使えそうね」


「そうじゃの」


「じゃあルカ、残りにアワアワを散布する。横から近づいてくれ」


「はい」


 透は、あらかじめ用意していた革袋を担ぎ上げた。


 魔獣の胃袋から作った袋の中には、アワアワが詰められている。


 ルカがさらに高度を下げ、残った魔鋼虫の横から接近する。


 透は革袋の口を開いた。


 中から飛び出した大量のアワアワが空中へ広がり、そのまま魔鋼虫たちへ降りかかっていく。


 魔鋼虫が一斉に透たちを見上げた。


「ギチギチ!」


 直後、その身体が激しくもだえ始める。


 やがて動きは目に見えて鈍くなり、残っていた五体ほどのうち、三体がその場で動かなくなった。


「よし」


「後は私が」


 ルカが残る二体へ狙いを定める。


 ブレスショットが放たれ、残った魔鋼虫も撃破された。


 周囲に動く魔鋼虫がいないことを確認すると、透はルカを暁の横へ寄せた。


「戻りましょう。この成果を知ったら、みんな喜びますよ」


「ええ。これで魔鋼虫との戦いも有利になるわ」


 ルカと暁は翼を並べる。


 そして二騎は、ブルートリトン号へ向けて帰還を始めた。


        ◇

 

 ブルートリトン号へ帰還した透たちを、ノーノーたちが迎えた。


「どうであった?」


「うまくいきましたよ」


 セシリアが答えると、ノーノーは大きく頷いた。


「よし。帰ったら魔道具をできるだけ準備するかの」


「私たちも準備しますよ。まず《マジックキャンセラー》を使える魔法士を集めなさい」


「「はい」」


「帰ったら魔法教練をしますよ」


 セシリアの言葉に、フェリスとリネットが揃って頷く。


「決め手がなかった地上部隊にも、これで有効打が手に入ったな」


 ノーノーがそう言ってから、透へ顔を向けた。


「トオルの方は?」


「うまくいきましたよ。確実に、魔鋼虫には効きます」


「そうか」


 ノーノーは満足そうに髭を撫でた。


「後は、どう散布するかじゃな。ブルートリトン号から散布するのが一番か」


「まだ大量生産ができていないから、有効に使わないとですね」


「ああ。無駄にはできん」


 透が小さく息を吐く。


「帰ってから大忙しですね」


「そうじゃな」


 魔鋼虫へ通用する手段は、確かに見つかった。


 後は、それを戦場でどう生かすかだった。


        ◇

 

 透たちの報告を受けたアストレア陣営は、大いに沸いた。


 魔鋼虫と優位に戦える算段が、また二つも増えたのである。


 帰還したノーノーたちは、それぞれの準備に入った。


 セシリアも弟子たちを伴い、宮廷魔術師配下の魔道士隊の教練、及び魔道具開発部へ魔素阻害用魔道具の量産を指示した。


 透たちはいったん屋敷へ戻り、待っていた結衣たちに報告した。


「結衣、アワアワは大成功だったぞ」


「本当に? やったね!」


「母様のおかげですね」


「そんなことはないですよ。皆の頑張りのおかげですから」


 美琴が微笑む。


「今日は役目を果たしたから、少しゆっくりしようか」


「ルカちゃんもお疲れさん」


 隆志が労う。


「いえいえ。透様を乗せて飛べたので、楽しかったですよ」


「本当に嬉しそうだね、ルカ姉ちゃんは」


「ルカ姉ちゃん……」


 ルカは目を輝かせ、にやけていた。


 その横で、透は苦笑している。


「夕食が終わったら、皆に話があります」


 美琴の声が少しだけ改まった。


「大事な家族会議です。私と隆志さんは王城へ行ってきますので、夕飯の準備を透さん、お願いできますか」


「分かりました」


「結衣と明日華もですよ」


「まかせて!」


「はい」


 美琴は今度はルカへ顔を向けた。


「ルカちゃんはお腹空いたでしょう。台所におにぎりの作り置きがあるから、食べていいですよ」


「ありがとうございます、お義母様」


 ルカは嬉しそうに頭を下げた。


       ◇


 夕食の支度の前に、透たちはいつもの食堂兼団欒ルームで、たわいもない会話を楽しんでいた。


「そういえば、兄さま。《マジックキャンセラー》の方はどうでした?」


「あれもうまくいったよ。セシリアさんの仮説は正しかった。魔鋼虫は魔素の力で、肉体を硬化させていたみたいだ」


「でも、魔核は無いんだよね?」


「そこが不思議なんだけど、この世界は魔素が満ちているから、その魔素の影響なのかもって、ノーノーさんが話していたよ」


「へえー。なんか虫のくせして肉体強化なんてムカつく」


「あれを虫と言っていいのかな」


「虫よ」


「虫です」


「だって、アワアワ効いたじゃん」


「そうかな」


「ただ、どちらにせよ大量には用意できないからな」


「そうなんだ。なら、あたしたちが頑張るしかないね」


 結衣が力こぶを作ってみせる。


 その脇では、リーファが静かに会話を聞いていた。


 蒼姫と暁も、八咫烏の姿で止まり木に止まっている。


 そしてルカだけは、時折相づちを打ちながら、もぐもぐとおにぎりを頬張っていた。


 宗玄と真白、モモは相変わらず白の食事に付き合って、草原へ出かけていた。


        ◇


「ところで、お父さんたちは王城に何しに行ったんだろう」


「父さんは、この間の魔鋼虫の巣の映像を見せるためって言ってた。バタバタしていて忘れてたって」


「あのお父さんが珍しいね」


「ここ最近、あまりにめまぐるしいからね。仕方ないよ」


「リーファさんは、どんな感じですか?」


「そうですね。前にここへ来てからは、透さんたちとほぼ一緒に行動していますから、忙しないですよね。ただ、私たちの古老の話を聞いて、改めて魔鋼虫という存在の恐ろしさが分かった気がします」


 リーファは少し間を置いて続けた。


「父からも言われました。お前のできるだけのことをしなさい、と。ですので、これからも皆さんと一緒に行動することになります。宜しくお願いしますね」


「リーファさんも戦いに出るの?」


「出ます。暁さんが私を乗せて戦うと言ってくれたので、空中での戦闘と地上への援護に回ります」


 リーファは手にした弓へ目を向けた。


「このエルフフィンボウは、見かけは小さいですが、風の精霊魔法が付与されているので、魔鋼虫の鋼殻を射貫くことができます」


「凄いですね。私の弓は力尽くですから」


 明日華が苦笑する。


「いえ、明日華ちゃんの弓は、ハイエルフの里始まって以来の剛弓ですから。私の弓とは比べものになりませんよ」


 その頃には、ルカはお腹もくちたと見えて、こくり、こくりと船をこぎ始めていた。


 もちろん、透の背中のラピスはお昼寝中である。


 最近は、寝ていることが特に多くなっていた。


        ◇

 

「あにさま、母様は?」


「母さんは、分からないかな。用事があると言っただけ」


「帰ってきたら分かるんじゃない?」


「さてと、夕食の準備を始めようかな」


「おにぃ、何にしようか?」


「結衣たちが食べたいものでいいよ」


「リーファさんは、何かリクエストある?」


「別にありませんよ。透さんたちの世界の食べ物に興味がありますので、お任せです」


「何人分だ?」


 透がルカの方を見る。


 寝ていた。


 透たちは苦笑する。


「パンゲア風鍋がいいんじゃない?」


「パンゲア風鍋って?」


「パンゲア風はパンゲア風だよ。ね、明日華」


「それでは分かりませんよ」


「じゃあ、市場へ行って食材を見てから考えるか」


「それと、デザートも用意しないと。真白とモモが寂しがるから」


「で、結衣は何のデザートなんだ?」


「うーん。獣人の里で食べた……そうだ、プリン作ろうよ」


「じゃあ、私と結衣ねぇで作ります」


「頼んだ」


 透は眠っているルカへ声をかけた。


「ルカ、買い物行くけどどうする?」


「……」


「幸せそうに眠っていますから、このままにしてあげましょう」


 リーファが言った。


「じゃ、行こう、おにぃ。美味しいものを探しに」


 みんな苦笑しながら席を立った。


「透様……おにぎりください……もう一つだけ……むにゃむにゃ」






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