↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超大陸パンゲアへ渡った神代家の異世界奮戦記  作者: 久遠 遙人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
131/145

第九話 それぞれの備え

 円卓の間へ戻ったセリナを確認すると、ノーノーが皆を見回した。


「さて。昨日、隆志殿が持ち込んだ薬剤の効果を、今一度試そうと思う」


 ノーノーが席を立つ。


「皆、研究室へ参ろう」


 一同は王城脇の研究施設へと移動した。


 研究室では、昨日薬剤を掛けた魔鋼虫がケージの中に入れられている。


 すでに昨日ほどの勢いはない。


 脚の動きも鈍く、明らかに弱っていた。


 隆志がその様子を確認してから、透へ声を掛ける。


「透。昨日と同じように掛けてくれ。さすがに大分弱っているから、効果はすぐに出るはずだ」


「分かった」


 透は用意されていた薬剤を手にすると、ケージの上から魔鋼虫へ掛けた。


 液体が黒い外殻を濡らしていく。


 魔鋼虫が脚を動かした。


 だが、昨日のように激しく暴れることはない。


 やがて動きがさらに鈍くなり――。


 ほどなくして、完全に動かなくなった。


「死んだようじゃな」


 ノーノーが確認する。


 弱っていたこともあったのだろう。


 今回は、効果が現れるまでほとんど時間が掛からなかった。


「おお、これなら魔鋼虫への対策に使えるではないか」


 宰相グランツが声を上げた。


「大量生産して、空中から散布するのが一番効果的かと思います」


 隆志が答える。


「うむ。それが一番有効な使い方であろうな」


 ノーノーも頷いた。


「ブルートリトン号には、散布装置を取り付ける予定です」


 隆志は隣にいるパルムへ目を向けた。


「私の地球での知識と、ドワーフの技術力があれば何とかなると思います。それに、幼いながら、ここにいるパルムさんは大したものです」


 突然名前を出されたパルムが、少し驚いたように隆志を見る。


 グランツは大きく頷いた。


「では、そのように進めてもらおう」


「それと、この薬剤の大量生産だが、必要な物資はこちらで用意する手筈を整えよう。何が必要なのか書き出してくれ」


「ありがとうございます。まず、椰子油が大量に必要です」


「椰子油か」


 ノーノーが考えるように髭を撫でた。


「この国にもあるが、ラザールにも協力を求めよう」


「お願いします。その他の必要なものについては、書面にしてお渡しします」


 隆志は続ける。


「生産についても、パルムさんと一緒に簡易的な工場を作ろうと思っています。場所と人員をお貸しいただければ助かります」


「儂も協力しよう」


 ノーノーが言った。


「ありがとうございます」


 国王は一同の話を聞き終えると、満足そうに頷いた。


「まずは一つ、魔鋼虫に対する有効な手段ができたことは僥倖であった」


 そして、ふと思い出したように透を見る。


「確か、結衣殿の発案であったな」


「はい」


「して、この薬剤は何というのだ?」


 透が一瞬黙った。


 そして、少しだけ言いにくそうに答える。


「……アワアワと、本人が申しておりました」


「アワアワとな?」


 国王は目を丸くしたあと、


「分かりやすくてよいではないか。ハハハハ!」


 豪快に笑った。


 つられるように、その場の空気も少しだけ和らぐ。


「では皆、作業に掛かってくれ」


「はい」


 こうして、魔鋼虫に対する新たな対抗手段――アワアワの大量生産へ向けた準備が、正式に動き始めた。


        ◇


 その頃、


「いいですか。アワアワの販売については、ひとまず置いておきます」


 美琴が皆を見回した。


「これから魔鋼虫の駆除作戦が始まります。私たちもしっかり準備しなければなりません」


「はい!」


 結衣が元気よく返事をする。


「はい」


 明日華も頷き、真白、リーファ、ルカもそれぞれ返事をした。


 蒼姫と暁は、少し離れた止まり木から皆を見ている。


「私はこれから毎日、暁様と護符を作ります。命、大事ですからね。セリナさんにお願いして、霊力の高い神殿の一室を借りるつもりです。夕食には帰りますよ」


 美琴は続いて結衣を見る。


「結衣は、お義父さんに稽古をつけてもらいなさい」


「はい!」


「真白も一緒ね」


「うん!」


「明日華は、蒼姫さんと空中での連携を確認してください」


「はい」


 明日華が蒼姫を見る。


 蒼姫も小さく頷いた。


「暁さんは、リーファさんのことをお願いします」


「よかろう」


 暁が答える。


「風の子は儂との相性が良いからのう」


「よろしくお願いします」


 リーファが頭を下げた。


「ノアちゃんは私と一緒です」


「うん、分かった」


 ノアが素直に頷く。


 すると、ルカが待ちきれない様子で手を挙げた。


「私は? 私は? 美琴様」


「ルカさんは、透と連携を取ってください」


「はい!」


 美琴は少し微笑んだ。


「透のことを頼みますね」


「はい。旦那様は私が守ります!」


 胸を張るルカに、皆の視線が集まった。


 美琴はそのまま話を続ける。


「それと今日は、皆の装備について検討しましょう」


 そして、少し強い口調で付け加えた。


「命大事に、ですからね」


 誰一人として異論はなかった。


「これから武器屋と防具屋へ向かいます。費用については王宮から支給されています。昨日、セリナさんから受け取っています」


「おお!」


 結衣の顔が明るくなる。


「王国騎士団御用達のお店へ行きますよ」


 美琴は宗玄へ顔を向けた。


「お義父様はどうします?」


「儂も行くか」


 宗玄は髭を撫でながら、にやりと笑った。


「少し考えていることがあるからの」


「分かりました」


 美琴が立ち上がる。


「では、出かけますよ。皆さん」


「はーい!」


 こうして神代家一行は、本格的な魔鋼虫駆除作戦に備え、装備を整えるため王都へ繰り出すことになった。


        ◇

 その日の朝。


 セシリアは王宮魔法士の修練場で、弟子である双子の姉妹、フェリスとリネットを前にしていた。


「昨日、魔鋼虫を弱らせることのできる薬剤が、隆志殿から持ち込まれました」


 二人が真剣な顔でセシリアを見る。


「そして今朝、改めて実験が行われ、その効果が確認されています」


「それはすごいですね」


 リネットが声を上げた。


「ええ。これは画期的なことです。魔鋼虫との戦いは、かなり有利になるでしょう」


 セシリアはそこで一度言葉を切った。


「ですが、私たち魔法士も何もしないわけにはいきません。巣の存在や魔鋼虫の特性について、かなりのことが分かってきました」


 そして二人を見渡す。


「魔法による有効な対抗手段も考えなければ、皆に遅れを取ってしまいます」


「はい」


「そこで今日は、魔鋼虫に有効な魔法を模索したいと思います」


 セシリアは二人へ尋ねた。


「何か考えはありますか?」


「はい!」


 フェリスが元気よく手を挙げる。


「大きいのを、ドカーーンと!」


「フェリス」


 セシリアが即座にたしなめた。


「大規模魔法は魔素枯渇を起こすと教えたでしょう」


「あ……」


「お姉ちゃんってば……」


 隣でリネットが呆れたようにため息をつく。


「では」


 今度はリネットが口を開いた。


「兵士の方々が使っていたエストックのように、魔法を一点へ収束させて撃ち込むのはどうでしょう」


「そうですね」


 セシリアが頷く。


「それなら、魔鋼虫の外殻を貫けるかもしれません」


 だが、すぐに考え込む。


「ただ……魔鋼虫は死ぬと外殻が柔らかくなってしまうのよね」


「はい」


「今は硬さを確認できるサンプルがありません」


 セシリアは少し黙った。


 そして、ふと顔を上げる。


「……そうか」


「どうしました?」


「魔鋼虫も、身体強化魔法のような仕組みを持っているのかもしれません」


 リネットが目を見開いた。


「それなら、マジックキャンセラーを使えば」


「そうね」


 セシリアの表情が明るくなる。


「もし外殻の硬さに魔素が関係しているのであれば、マジックキャンセラーでその働きを抑えられるかもしれません」


「それなら兵士の人たちと連携すれば、もっと楽に倒せますね」


「ええ」


「機会があれば私が試してみます」


 セシリアは頷いた。


「マジックキャンセラーは普段ほとんど使わない魔法です。これから徴兵される魔法士たちを集めて、訓練を行いましょう」


「はい」


「あなたたちも一緒に訓練しなさい」


 そしてリネットを見る。


「リネットは指導力もありますから、私を手伝ってください」


「分かりました」


「では、準備を始めますよ」


 セシリアは二人へ背を向けかけてから、もう一度振り返った。


「それと、戦闘時には必ず自分自身へ強化魔法を掛けるよう、皆に指導してください」


「強化魔法ですか?」


「ええ」


 セシリアは真顔で答えた。


「魔鋼虫は強靱です。体当たりされただけでも、死ぬ可能性がありますから」


「…………」


 フェリスの顔から、すっと血の気が引いた。


 先ほどまで「ドカーーン」と言っていた勢いは、どこかへ消えていた。


         ◇


 時を同じくして、冒険者ギルドでは


「ガルド、俺たちも今度は一緒に戦うぜ」


 一人の冒険者が声を上げる。


「でもよ、ここにいる連中の中で魔鋼虫と戦ったことがあるのは、ガルドとグランドワイズで戦った数人だけだろう?」


 別の男が腕を組んだ。


「俺たちゃ騎士様じゃねえからな。集団戦なんて得意じゃねえ」


「だったら、ガルドよ。俺たちの頭になってくれよ」


「そうだ。ガルドの指示に従って戦うぜ」


 周囲から次々に声が上がる。


「俺からも頼む」


 ギルド長バルドが言った。


「国内のこともあるから俺はここに残るが、こいつらを頼む」


 ガルドは集まった冒険者たちの顔を見渡し、やがて頷いた。


「分かった」


 それまでのざわめきが静まる。


「まず、俺が魔鋼虫について知っていることを全部教える。それから、有効な攻撃手段もだ」


 そこでガルドは、にやりと笑った。


「それと――とんでもねえ仲間がいることもな」


「とんでもねえ仲間?」


「話が終わったら訓練場へ行くぞ」


「おお!」


 冒険者たちが一斉に声を上げた。


 その横で話を聞いていたライガが、ガルドへ声を掛ける。


「ガルド。あたしらも連携の訓練をするか」


「だな」


 ガルドはライガの装備へ目を向けた。


「それとライガ、お前も装備を揃えた方がいいな。王宮騎士団御用達の店に顔が利く。後で行ってみるか」


「ああ、そうするか」


 その後もガルドの説明は続いた。


 魔鋼虫がどのような相手なのか。


 どう戦えばいいのか。


 冒険者たちは時に顔をしかめ、時に驚きながら、その話に聞き入っている。


 だが、中でも彼らが強く興味を示したのは、前回の戦いで凱旋した神代家という異世界人たちの話だった。


 その時ばかりは、誰もが聞き逃すまいと耳を傾けていた。


 そして説明が終わると、一行は訓練場へ向かった。


「そこだ! 止まるな!」


 ガルドの怒号が響く。


 ガキン!


 ギィン!


 剣戟の音が、途切れることなく訓練場に鳴り響いた。


 しばらくして。


 ようやく音が収まった訓練場には、地面に転がる冒険者たちの姿があった。


「う……」


「きつすぎるだろ……」


「集団戦って、こんな大変なのかよ……」


 まさに死屍累々といった有様である。


 その中で、ガルドとライガも額に汗を浮かべていた。


「行くか」


「ああ」


 二人は汗を拭うと、そのまま王家御用達の武器・防具店へと足を向けた。


        ◇


  街の装備店へ入った結衣は、見覚えのある二人の姿を見つけると、すぐに声を上げた。


「ライガさーん! と、ガルドさん!」


「俺はおまけか」


 ガルドが呆れたように返す。


 その横で、ライガが笑いながら結衣たちへ顔を向けた。


「お前たちも装備を買いに来たのか?」


「うん。次からはコロニー潰し、害虫駆除だからね。怪我しないようにって」


「お前はすぐ突っ込んでいくからな。ハハハハ!」


「ガルドさんも似たようなもんじゃん」


「違いねえ!」


 わいわい、がやがや。


 戦いを前にしているとは思えないほど、店の中にはいつもの賑やかな声が響いていた。


 それぞれが必要な装備を探す中、宗玄は店内に並べられた盾を眺めながら店員へ声をかける。


「一番デカい盾はあるかのう」


「じいちゃん、何するの?」


 結衣が不思議そうに振り返った。


「まあな」


「ふーん」


 宗玄がそれ以上説明する気がないと分かると、結衣も深くは追及せず、自分の買い物へ戻っていった。


 やがて一通りの買い物を終え、ガルドが皆へ声をかける。


「じゃあな。出発は五日後だったよな。結衣たちも遅れんなよ」


「俺たちは冒険者ギルドから出る。グランドワイズで集合だな」


「ガルドさんも二日酔いで遅れないでよ」


 結衣が笑うと、ライガが胸を叩いた。


「任せておけ。あたしが叩き起こしてやるから」


「おい」


 また皆から笑い声が上がる。


 そのまま店を出ようとしたところで、宗玄だけが足を止めた。


「わしは後で行くから、先に行ってくれ」


「分かりました。じゃあ、みんな帰りましょう」


 美琴の言葉に促され、結衣たちは店を後にした。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。