↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超大陸パンゲアへ渡った神代家の異世界奮戦記  作者: 久遠 遙人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
130/146

第八話 虫退治と石けん

 王城脇の研究施設。


「蛹が割れたぞ!」


 学者の声が響いた。


 ギチ、ギチ――。


 硬いものが擦れるような音を立てながら、蛹の殻が少しずつ割れていく。


 やがて、その中から黒い外殻を持つ生物が姿を現した。


「これが……魔鋼虫……」


 周囲で見守っていた者たちが息を呑む。


 まだ外殻は完全に固まりきっていない。


 だが、その姿は間違いなく、これまで何度も人々を襲ってきた魔鋼虫だった。


 ギチギチ。


 次の瞬間。


 ガン!


 魔鋼虫がケージへ体当たりした。


「うわっ!」


 さらにもう一度。


 ガン!


 ガン!


 何かを求めるように、何度もケージへ体をぶつける。


「ノーノー様たちに知らせろ!」


「はっ!」


 一人の兵士が研究施設を飛び出していった。


       ◇


「蛹が割れて、魔鋼虫が出てきたとな?」


 知らせを受けたノーノーは、国王、宰相グランツらと共に急いで研究施設へ向かった。


 中へ入るなり、ケージの中を確認する。


「おお……まさしく魔鋼虫ではないか」


 ガン!


 ケージが揺れる。


「ずいぶん暴れておるの」


「餌を求めているのでしょうか」


 グランツが眉をひそめる。


「その可能性は高いのう」


 ノーノーはしばらく観察してから、兵士へ顔を向けた。


「隆志殿にも知らせよ」


「はっ!」


        ◇


 しばらくして。


 研究施設へ、一抱えもある壺を抱えた透がやってきた。


 その後ろには隆志、結衣、明日華、ルカ、リーファ、蒼姫。


 そして透の背中には、ラピスがしっかりと張りついている。


「魔鋼虫が羽化したんですね」


 隆志がケージを覗き込む。


「そうじゃ」


 ノーノーが頷いた。


「出てきてからずっとこの調子での。おそらく餌を求めておる。このままでは、そう長くはもたんかもしれん」


 ガン!


 魔鋼虫が再びケージへ体当たりする。


 隆志はしばらくその様子を見た後、透が抱えている壺へ目を向けた。


「分かりました。試してみたいことがあるんですが、いいですか?」


「何をする気じゃ?」


「地球の昆虫に生態が似ているようなので、もしかしたら、この薬剤が効くかもしれません」


「薬剤?」


 隆志が壺の中を示す。


「先ほど、作ったものです」


 ノーノーは興味深そうに覗き込んだ。


「これを魔鋼虫に?」


「はい。ただし、最初から全部にかけるのはやめておきます」


 隆志は透を見る。


「透。体の半分だけに掛けるんだよ」


「分かった」


 透は壺から液体を汲み、慎重にケージの上へ回った。


 狙いを定める。


「いくぞ」


 液体が魔鋼虫の体へ降りかかった。


 ただし、全身ではない。


 体の半分ほどだけ。


 魔鋼虫は一瞬激しく身を震わせた。


 ガン!


 再びケージへぶつかる。


 だが、しばらくすると。


「あれ?」


 結衣が身を乗り出した。


「動き、遅くなってない?」


 先ほどまで何度もケージへ体当たりしていた魔鋼虫の動きが、目に見えて鈍くなっていた。


 脚の動きも重い。


「やったね!」


 結衣が声を上げる。


「これで虫退治だ!」


「だな」


 透もケージを見ながら頷いた。


「これは使えるぞ」


 ノーノーだけが、事情を理解できずに隆志を見る。


「これは一体、何が起きておるのじゃ?」


「魔鋼虫が地球の昆虫と同じように、体にある気門で呼吸しているとすれば、この液体がその気門を塞いでいるんだと思います」


「気門を塞ぐ?」


「はい。呼吸がうまくできなくなって、動きが鈍っているのでしょう」


 ノーノーは驚いたように、もう一度魔鋼虫へ目を向ける。


「つまり……これを使えば」


「大量に作ることができれば、ブルートリトン号から空中散布することもできます」


 隆志が答えた。


「すべてを倒せるかは、まだ分かりません。でも、撃退したり、動きを鈍らせたりすることはできるかもしれません」


「なるほどのう……」


 ノーノーは感心したように髭を撫でる。


 結衣は嬉しそうに壺を見た。


「やっぱり虫には石けんだね」


「だから石けんそのものじゃないって」


 透が呆れたように言う。


 だが、その場にいた者たちの表情には、先ほどまでとは違うものが浮かんでいた。


 魔鋼虫に通じるかもしれない、新しい手段。


 その可能性が、ようやく形になり始めていた。


        ◇


 研究施設から帰宅すると、待っていた結衣がすぐに隆志へ駆け寄った。


「お父さん、どうだった?」


「何とかなりそうだぞ。数で押し寄せてくる魔鋼虫には、特効薬になるかもしれない」


「やったね!」


 結衣が振り返り、パルムとぱん、と手を合わせる。


「うん!」


 パルムも嬉しそうに笑った。


「後は大量に作る用意と、どうやって散布するかを考えないとな」


 隆志はそう言いながら、先ほどの試験結果を頭の中で整理している。


 ところが。


「ねえ、パルムちゃん」


 結衣が壺の中身を見ながら言った。


「これって汚れもよく落ちるし、香りをつけて固めれば、普通に売り物になるよね?」


「そうだね。僕も作業服の汚れがよく落ちる石けんが欲しかったから」


 パルムも素直に頷く。


「いや、魔鋼虫対策の話だぞ」


 透が思わず口を挟んだ。


「何言ってるのかなあ。高級石けんだよ。絶対売れるって」


 結衣はすでに完全に商売の顔になっている。


「私もそう思います。これだけ汚れが落ちるのでしたら」


 セリナまで賛成した。


「いやいや、そういう話では……」


 透が困ったように言う。


「そうですね。私たちも、こちらでお金を稼ぐことを考えないといけませんから、商品にしてみますか」


 美琴がさらりと言った。


「えー……」


 透は父を見る。


「父さん……」


 しかし隆志は反応しなかった。


 大量生産するなら原料をどれだけ確保する必要があるか。


 ブルートリトン号から散布するなら、どのような仕組みが必要になるのか。


 完全にそちらへ意識が向いている。


 どうやら隆志は、女性陣の話へ介入する余裕はないらしい。


 というより、介入できない。


「じゃあ、商品名を考えなくちゃね」


 美琴の一言に、結衣の手が勢いよく上がった。


「はい! はい、はい!」


「はい、結衣」


「アワアワがいいと思う!」


「アワアワって……なんだか、そのままだな」


 透が苦笑する。


「良いんじゃないですか?」


 セリナは楽しそうに微笑んだ。


「分かりやすくってね」


 リーファも頷く。


 その横ではルカがまったく興味を示していなかった。


 石けんは食べられない。


 それだけで、ルカにとっての商品価値はほぼ消滅している。


 ノアも特に口を挟むことなく、皆のやり取りを静かに聞いていた。


「じゃあ、アワアワで決まりね」


 美琴があっさり締めくくった。


「パルムちゃん。今後の商品開発について、みんなで考えましょう」


「うん」


「私も行く!」


「私も」


 いつの間にか始まった商品開発会議の一行は、そのまま別の部屋へ移動していく。


 ルカだけは途中で方向を変え、台所へ向かった。


 そしてその場には、隆志と透だけが残された。


 ――いや。


 透の背中には、相変わらずラピスがぴったりと張りついている。


「透」


「……」


 隆志が息子を見る。


 透も父を見る。


 二人はしばらく、誰もいなくなった廊下を見つめていた。


        ◇


 昨晩、女性陣の間でどのような話が交わされたのかは分からない。


 ただ、出来上がった石けんを浴場で実際に使ってみたところ、かなり満足のいくものだったらしい。


 翌朝。


 美琴たち女性陣は、揃ってご機嫌だった。


 朝から、昨夜そのまま神代家に泊まっていたセリナと共に、隆志、透、パルムは王城へ向かった。


 王城では、隆志たちの到着を待って、昨日確認された事象について検討することになっている。


 さらに、残っている魔鋼虫の蛹にもう一度薬剤を使い、その効果を改めて確認する予定だった。


 やがて一行は王城へ到着し、円卓の間へ入った。


 国王をはじめ、宰相グランツ、ノーノーらがすでに席についている。


 その中で、グランツが透を見て、何とも言えない表情を浮かべた。


「透殿。その……」


「はい?」


「背中に、獣人の子供が……」


「あっ」


 透はそこで初めて気づいた。


 忘れていた。


 背中には、いつものようにラピスがぴったりと張りついている。


「ラピス」


 透は困ったように振り返った。


「今日は大事なお話があるから」


「……」


 ラピスが、うるうるとした目で透を見る。


「うっ……」


 その視線に透が詰まったところで、セリナが助け舟を出した。


「ラピスちゃん、私と一緒に私のお部屋へ行きましょう」


「……うん」


 ラピスはようやく透の背中から剥がれた。


 そのままセリナに抱き上げられる。


「では、行きましょうか」


「うん」


 セリナに抱っこされたラピスは、何度か透を振り返りながら、円卓の間を出ていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。