↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超大陸パンゲアへ渡った神代家の異世界奮戦記  作者: 久遠 遙人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
129/146

第七話 石けんと魔鋼虫

 王城。


 円卓の間には、国王をはじめ、宰相グランツ、ノーノー、セシリア、隆志らが集まっていた。


 卓上には、今回の強行偵察で確認した地点を書き込んだ地図が広げられている。


「では、強行偵察の報告を」


 宰相グランツの言葉を受け、隆志が地図を指し示した。


「位置関係は、この地図に示した通りです。後ほど皆さんで共有してください」


 隆志の指先が、大地溝帯付近の一点で止まる。


「最初に確認した巣ですが、規模は直径百メートルほどでしょうか。過去の記録に残されていたコロニーのような尖塔はまだ形成されていませんでした。小規模な巣だと思われます」


「直径百メートルで、小さいと?」


 グランツが思わず聞き返した。


「そうですじゃ」


 ノーノーが答える。


「その後、北の大地へ向かい確認した巣には、巨大な尖塔が出来ておった」


「先に見た巣とは比較にならん規模でしたな」


 隆志も頷いた。


 そして地図のさらに北を指す。


「場所も、過去の記録と一致します。そのコロニーから出た群れが、アストレアやエルフの里を襲ったのでしょう」


 円卓の空気が重くなった。


「では、次はそのコロニーを叩く必要があるということか」


 国王が低い声で言った。


 その時だった。


「失礼いたします!」


 一人の兵士が円卓の間へ駆け込んできた。


 全員の視線が向く。


「何事だ」


 グランツが尋ねる。


 兵士は息を整えながら答えた。


「研究施設より報告です。持ち帰った魔鋼虫の卵が……溶けたとのことです」


「何?」


 隆志が顔を上げる。


「それと、幼体も死んだそうです」


 国王が立ち上がった。


「至急、研究施設へ向かう」


        ◇


 一行が研究施設へ駆けつけると、学者たちが慌ただしく動き回っていた。


 厳重に管理されていた容器の中では、魔鋼虫の卵が形を失っている。


 ノーノーが顔を近づけた。


「……溶けておるのじゃ」


 別の容器では、白い幼体が動かなくなっていた。


「これは……餌がもらえずに死んだのか?」


 国王の言葉に、隆志が首を傾げる。


「可能性はあります。幼虫には、成体とは別の特殊な餌が必要な場合がありますから」


「なるほどのう」


 ノーノーは死んだ幼体をじっと見つめた。


「仕方がない。解剖してみるかの」


 グランツがすぐに兵士へ指示を出した。


「解剖する手はずを整えよ」


「はっ!」


 兵士が駆け出していく。


 隆志は残された蛹へ目を向けた。


「蛹は餌を必要としないはずですから、こちらはまだ生きているようですね」


「そうか」


「ただ、分からないことだらけです。今は観察を続けるしかないでしょう」


 隆志はさらに付け加えた。


「透が地下で記録した映像があります。巣の内部や幼体の様子も映っていますので、そちらも確認をお願いします」


「分かった」


 国王が頷いた。


「今日のところは、いったん解散としよう」


 こうして円卓での報告は中断された。


 隆志は屋敷へ戻り、ノーノーはそのまま研究施設に残って、幼体の解剖に立ち会うことになった。


        ◇


 下賜された屋敷へ戻った隆志が玄関を開ける。


「ただいま」


「おかえりなさい、隆志さん」


「お父さん、お帰り」


「ととさま、お帰りなのじゃ」


 美琴、結衣、真白。それぞれの声が返ってくる。


 隆志は居間へ入り、テーブルにつくと、王城で起きたことを皆に話した。


 持ち帰った魔鋼虫の卵が溶けてしまったこと。


 幼体も死んでしまったこと。


 そして、蛹だけは今のところ生きていること。


「卵、溶けちゃったの?」


 結衣が眉をひそめる。


「そうなんだ。理由はまだ分からない。幼体の方も、ノーノーさんたちがこれから調べることになったよ」


「せっかく持って帰ったのにね」


「まあ、仕方ないさ。分からないことだらけだからね」


 隆志がそう答えたところで、美琴が立ち上がった。


「隆志さん、夕食にしますね」


「ああ」


 やがて料理が並び、皆が食卓についた。


「では、いただきます」


「いただきます」


 神代家の面々に、ノア、ラピス、セリナ、リーファ、パルム。


 蒼姫も人の姿になり、一緒に食卓を囲んでいる。


 ラピスは、いつものように透の膝の上。


 その隣にはルカとノアが座り、透の正面にはセリナとリーファ。


 いつの間にか、それぞれの座る場所もだいたい決まっていた。


 食事が始まってしばらくすると、結衣が隆志へ尋ねた。


「お父さん、あれって虫なんだよね?」


「そうだね。少なくとも、昆虫に生態がよく似ていると思う」


「じゃあさ」


 結衣が箸を止める。


「殺虫剤って効かないかな?」


「結衣ちゃん、あんなに大きいのに?」


 明日華が驚いたように言う。


「どんだけでかいの作る気だよ」


 透も呆れた顔を向けた。


「だって、おにぃ。虫は殺虫剤って決まってるんだよ」


「んな馬鹿な」


 透が苦笑する。


 すると、美琴が何かを思い出したように口を開いた。


「そういえば、私が家の畑を手伝っていた時、気門封鎖剤っていうのを撒いたことがあるわ」


「気門封鎖剤?」


 結衣が聞き返す。


「虫の気門を塞いで、窒息させる薬ね」


「界面活性剤なら……」


 隆志が呟いた。


「二人して何の話してるの?」


 結衣が首を傾げる。


「界面活性剤って、洗剤にも使われているものだよ」


 透が答えた。


「へぇ。おにぃ、物知り」


「それくらいは知ってるよ」


「で、どうするの?」


「洗剤が虫の体につくと、気門を塞いでしまうことがあるんだ。泡なんかがくっついてね」


 結衣が目を見開いた。


「じゃあ、洗剤を大量に作って、我がブルートリトン号から撒けばいいんだ」


「我がって……」


 透が呆れる。


 明日華は少し考えてから、隆志を見た。


「それで、何とかなりますかね?」


「いや……」


 隆志はすぐには否定しなかった。


「何とかなるかもしれない」


「本当?」


「魔鋼虫も気門で呼吸しているなら、試してみる価値はある。ただ問題は、必要な量をどうやって用意するかだな」


「はい、はい!」


 結衣が勢いよく手を上げた。


「パルムちゃんに石けん作ろうって話してたから、一緒にやってみるよ。ね、パルムちゃん」


 突然話を振られたパルムが、少し驚きながらも頷く。


「僕でよければ、一緒にやるよ」


「よし、決まり!」


「じゃあ明日、僕も立ち会おう」


 隆志が言うと、結衣は嬉しそうに頷いた。


 その後も食卓では、取り留めのない話が続いた。


 魔鋼虫の話。


 ブルートリトン号の話。


 明日の予定。


 そんな話をしながら、皆で食事を囲む。


 強行偵察を終えた日の夜。


 神代家の屋敷には、いつもの賑やかな時間が流れていた。


        ◇

  

 翌朝。


 セリナは神殿へ向かい、宗玄は白に跨がって草原へ出かけていった。


 白に草を食べさせるためである。


 石けん作りには興味がなかったのか、真白も宗玄についていった。


「モモのところにも行ってくるのじゃ」


 森へ戻っているピクシーのモモに会うつもりらしい。


 一方、隆志たちは屋敷の中庭に陣取っていた。


「さて、石けんを作るのに材料をどうするか」


「材料の買い出しだね。今朝、セリナさんから石けんを扱っているお店を聞いておいたから、そこへ行こう」


 パルムが答える。


 買い出しには透とルカも同行することになった。


「透様と一緒に買い物だね」


 ルカは朝から上機嫌だった。


「材料を買いに行くだけだぞ」


「分かってます」


 そう言いながらも、その足取りは軽い。


 透の背中には、いつものようにラピスが張りついている。


 市場では石けん作りに使う椰子油などの材料を揃え、さらに大きな鍋も購入した。


「これ、結構でかいな」


 透が鍋を持ち上げる。


「こっちは私が持ちます」


 ルカも別の荷物を軽々と抱えた。


 必要なものを買い揃え、一行は屋敷へ戻った。


        ◇


 中庭では、すぐに気門封鎖剤作りが始まった。


 大きな鍋に材料を入れ、隆志とパルムが様子を見ながら作業を進めていく。


 やがて表面に泡が立ち始めた。


「おお、泡出てきた」


 結衣が鍋を覗き込む。


「これ、香りつけたらよくない?」


「何のために?」


 透が聞き返す。


「だって、石けんでしょ」


「魔鋼虫用の薬剤を作ってるんだぞ」


「分かってるけどさ。ここの石けん、ただの石けんなんだもの」


「ただの石けんって何だよ」


 その横から美琴も鍋を覗き込んだ。


「そうねぇ。もう少しきめ細かい泡の方が……」


「母さんまで」


 透が呆れた声を上げる。


「泡が細かい方がいいんじゃない?」


「だから目的が違うって」


 そんなやり取りをよそに、隆志とパルムは淡々と作業を続けていた。


 隆志が出来上がりつつある液を確認する。


「これなら粘り気も強くないし、上空から散布するにはちょうどいいかな」


「パパさん、僕もいいんじゃないかと思う」


 パルムも頷いた。


「一応、粘性を確かめてみるか」


 隆志は市場で買ってきた、茅の茎で作られた細いストローを手に取った。


 先端に出来上がったばかりの気門封鎖剤をつける。


「何するの?」


 結衣が覗き込む。


「ちょっと試すだけだよ」


 隆志が息を吹き込む。


 ふわり。


 丸い泡がストローの先から膨らみ、そのまま宙へ浮かんだ。


「あっ!」


「シャボン玉!」


 結衣が声を上げた。


「きれい!」


 明日華も思わず見上げる。


 もう一つ。


 さらにもう一つ。


 日の光を受けたシャボン玉が、中庭をふわふわと漂っていく。


「ラピスも!」


 透の背から降りたラピスが、嬉しそうに手を伸ばした。


「みゃん!」


 結衣もストローを手に取る。


「貸して、貸して!」


「遊ぶために作ったんじゃないぞ」


「分かってるって」


「絶対分かってないだろ」


 中庭に笑い声が広がった。


 隆志は漂うシャボン玉を見ながら、改めて液の状態を確認する。


「これなら使えそうかな」


 その時だった。


「透殿!」


 屋敷の門から王城の兵士が駆け込んできた。


 皆が振り返る。


「どうした?」


「至急、王城へお越しください」


 兵士は息を整えながら続けた。


「蛹が割れ、中から魔鋼虫が出てきたとのことです」


 中庭の空気が変わった。


「出てきた?」


 隆志が鍋を見る。


 そして、口元を緩めた。


「これは……ちょうどいいな」


「お父さん?」


「これを試せるかもしれない」


 隆志は嬉々として気門封鎖剤の準備を始めた。


「城へ行くぞ」


「私も行く!」


 結衣が真っ先に手を上げる。


「俺も行くよ」


 透が立ち上がると、ラピスがすぐにその背へ張りついた。


「ラピスも」


「はいはい」


「私も行きます」


 明日華も続く。


「私も」


「私も行くわ」


 ルカとリーファも立ち上がった。


 蒼姫も当然のようについてくる。


 こうして隆志たちは、出来上がったばかりの気門封鎖剤を携え、王城へ向かうことになった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。