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超大陸パンゲアへ渡った神代家の異世界奮戦記  作者: 久遠 遙人


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第五話 北の大地へ

 巣の調査を終えた透たちは、ブルートリトン号へと戻った。


 後部ハッチを上がってくる一行を、隆志が迎える。


「お疲れ様でした。それなりの成果もあったようですし、何事もなく戻れて何よりです」


「うむ。巣の構造もおおよそ分かった。卵と幼体も手に入ったからのう」


 ノーノーが回収したものへ目を向ける。


「では、王都へ帰還するとするかの」


「待ってください」


 隆志が呼び止めた。


 そのまま機関部の方へ顔を向ける。


「パルムちゃん、この船、あとどれくらい飛べる?」


 パルムが計器を確認する。


「そうですね。あと半日くらいなら余裕かと」


「ありがとう」


 隆志は少し考え、ノーノーを見る。


「ノーノーさん。できれば、このまま北の大地を偵察しておきたいと思うのですが」


「北を?」


「はい」


 隆志は頷いた。


「この船に残されていた記録では、魔鋼虫は八十年以上の休眠期を経て、再び活動を始めたとありました」


 船内が静かになる。


「こちら方面のコロニーが活動期に入っているのは、もう間違いないでしょう。なら、今のうちに北のコロニーがどうなっているのか、見ておいた方がいい気がするんです」


「……そうじゃのう」


 ノーノーは髭を撫でながら考える。


 やがて頷いた。


「分かった。行ってみるとするか」


「北か」


 宗玄が楽しそうに口元を緩めた。


「透よ」


「はい?」


「一当てしてみるか?」


 透は少し考えた。


「そうですね」


「やる! やる!」


 突然、元気な声が響いた。


「あたしもやりたい!」


 ルカが両手を上げ、その場でぴょんぴょんと跳ねている。


「…………」


 セリナが固まった。


 リーファも何とも言えない顔でルカを見る。


 ノーノーは髭を撫でていた手を止め、セシリアもわずかに頬を引きつらせている。


 その中で、神代家の面々だけは誰一人として疑問を抱いている様子がない。


 なお、ラピスはといえば――。


「とおる、おんぶ」


 昼寝を終えたらしく、戻ってきた透の背中にすでに張り付いていた。


「起きてたのか」


「みゃん」


 透の肩越しに顔を出し、満足そうに尻尾を揺らしている。


 隆志はそんな一同を見回した。


「では、行けそうなら一当てしてみてください」


「隆志さんまで……」


 セリナが思わず呟いた。


 誰も聞いていない。


 隆志は操縦席へ向かって声を掛ける。


「では、美琴さん。北へ進路を」


「らじゃぁ」


 美琴が軽い調子で答える。


 ブルートリトン号の後部ハッチが閉じる。


 低い駆動音が船内へ響き始めた。


 やがて青い船体はゆっくりと浮上する。


 目指すは、大地溝帯の向こう。


 かつて魔鋼虫によって生き物の姿が消えた、北の大地。


 ブルートリトン号は進路を北へと変えた。


        ◇


 ブルートリトン号は、大地溝帯を越えて北へ進んでいた。


 窓の外に広がるのは、乾いた大地。


 木々はほとんどなく、動くものの姿も見えない。


 結衣が窓の外を眺めながら呟いた。


「なんか……何もないね」


 少し間を置いて。


「死の大地って感じ」


「そうですね」


 隣に立つ明日華も、小さく頷いた。


 隆志は地上へ目を向けた。


「大地に残っている魔鋼虫の跡をたどりましょう」


 そして操縦席の脇に立つ透を見る。


「透、痕跡を追ってくれ」


「分かった」


 透は前方の窓から地上を見渡した。


 地表には、ところどころ大きく抉られた跡が残っている。


 幾筋にも枝分かれしながら、それらは北へ向かって続いていた。


「あっちです。北へ続いてる」


「了解」


 美琴が船の進路をわずかに修正する。


 ブルートリトン号は痕跡に沿って北へ進んでいった。


 しばらくすると。


「おにぃ、あれ」


 結衣が前方を指さした。


 遠くに、尖った岩山のようなものが見えている。


 だが、近づくにつれ、それが自然にできたものではないことが分かってきた。


 巨大な尖塔。


 その表面は黒褐色で、いくつもの突起が不規則に伸びている。


 透が目を細めた。


「記録にあった、コロニーの尖塔でしょうか」


「おそらくそうじゃろうな」


 ノーノーが答える。


「あっ」


 ノアが声を上げた。


「あっちに飛んでるのがいる」


 透が視線を向ける。


 尖塔の周囲を、小さな影がいくつも飛び回っていた。


「飛行種かな」


「たぶん」


 ノアが答える。


 透はすぐにノアを見る。


「ノア、もう無理して見なくていいよ」


「うん」


「一当てしたら帰還するから」


 透はそう言って後部へ向かった。


「行くよ、ルカ」


「はい、透様!」


 待ってましたと言わんばかりに、ルカが立ち上がる。


 後部ハッチが開く。


 風が一気に船内へ吹き込んだ。


「行きます!」


 ルカが勢いよく飛び出す。


 透もその後を追った。


 外へ出た瞬間。


 尖塔の周囲を飛んでいた飛行種が一斉に向きを変えた。


 ルカめがけて殺到してくる。


「来たよ!」


「一当てしたら離脱するぞ!」


「うん!」


 ギャァ!


 ギャアァ!


 飛行種たちが耳障りな威嚇音を響かせる。


 ルカは空中で身体をひねり、ルカが大きく息を吸い込む。


「いくよ!」


 ボッ!


 ボッ!


 ボッ!


 ブレスショットが連続して放たれる。


 迫ってきた飛行種が次々と吹き飛ばされた。


 透も空中で天羽乃斬を振るう。


「飛燕!」


 放たれた斬撃が空を走る。


 飛行種の群れをまとめて切り裂いた。


 ギャァァ!


 残った個体が散開する。


 その間も、透のヘッドセットに取り付けられたアクションカメラは動き続けていた。


 尖塔。


 その周囲。


 飛行種の数。


 地表に残された無数の痕跡。


 できるだけ多くの情報を映像に収める。


「ルカ、もういい!」


「うん!」


 二人はすぐに反転した。


 追ってくる飛行種を振り切りながら、ブルートリトン号へ戻る。


 後部ハッチへ戻ってきた透とルカ。


 透が船内へ足を下ろした瞬間。


「…………」


 なぜか、皆の視線が透へ集まった。


「どうした?」


 透が首を傾げる。


 美琴が目を丸くしたまま、透の背中を指さした。


「透さん……あなた、ラピスちゃんが……」


「え?」


 透が振り返ろうとする。


「とおるー」


 背中から、眠そうな声がした。


「……あ」


 ラピスだった。


 透の背中にしっかりと張り付いたまま、銀色の尻尾をぱたぱたと揺らしている。


「ずっといたの!?」


 結衣が叫ぶ。


「うん」


 ラピスは満足そうに返事をした。


「いや、透よ……」


 隆志が額に手を当てる。


「さすがに気づこうよ」


「……気づかなかった」


「おにぃー!」


 船内に結衣の声が響いた。


 その横で宗玄だけが、腹を抱えて笑っていた。


「はっはっは! さすがはわしの孫じゃ!」


「褒めるところじゃないです!」


 セリナの突っ込みとともに、ブルートリトン号は王都への帰路についた。


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