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超大陸パンゲアへ渡った神代家の異世界奮戦記  作者: 久遠 遙人


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第四話 女王種

 午餐を終え、船内には束の間の静けさが戻っていた。


 隆志は席を立つと、透へ視線を向けた。


「では、透。巣の調査をもう一度お願いするよ」


「分かった」


 透も立ち上がる。


 隆志は船内を見回した。


「メンバーは、さっきと同じでいいかな」


 すると、ノーノーが手を上げる。


「それほど危険がないのであれば、わしも同行したいのう。実際に巣の中を見ておきたい」


「でしたら、私も同行します」


 セシリアも続いた。


「魔法士がいた方が、何かあった時に対応しやすいでしょう」


 隆志は二人を見て頷いた。


「分かりました。では、皆さん準備してください」


「了解じゃ」


「はい」


 それぞれが装備を整え始める。


 その間も、ラピスは透の席の近くで丸くなったまま動かない。


 昼食をたっぷり食べたせいか、すっかり夢の中だった。


「ラピスは?」


 結衣が覗き込む。


「置いていこう」


 透が苦笑する。


「起こしたら絶対ついてくるからな」


「それがよいのじゃ」


 真白も頷いた。


「腹いっぱい食べた後は寝るのが一番なのじゃ」


「真白も残る?」


「行くのじゃ」


「だと思った」


 結衣が笑う。


 やがて準備が整うと、パルムが後部ハッチの操作盤へ手を伸ばした。


「開けます」


 低い作動音とともに、ブルートリトン号の後部ハッチがゆっくりと開いていく。


 外の乾いた空気が船内へ流れ込んだ。


 透が先頭に立つ。


「じゃあ、行ってきます」


「気をつけてくださいね」


 セリナが声を掛ける。


「はい」


 透は軽く手を上げ、ハッチを降りていった。


 その後を結衣、明日華、真白、ノア、宗玄が続く。


 さらにノーノーとセシリアも船を降りた。


 八人は再び、盛り土の地下へと足を踏み入れた。


        ◇


 先ほど通った螺旋状の通路を下っていく。


 すでに倒した魔鋼虫の死骸が、ところどころに転がっていた。


 時間が経ったせいか、その外殻はわずかに柔らかくなり始め、嫌な臭いが漂っている。


「うえぇ……やっぱり臭う」


 結衣が鼻を押さえる。


「長居はしたくないのじゃ」


 真白も顔をしかめた。


「調査が終わったら、さっさと出よう」


 透はそう言いながら先へ進む。


 やがて一行は、先ほど幼体と蛹を確認した部屋へ戻ってきた。


 床や壁際には、まだ小さな幼体が蠢いている。


 ノーノーは部屋の中をゆっくりと見回した。


「ふむ……」


 やがて首を傾げる。


「ここには卵はないようじゃの」


 透も周囲を見た。


「別に部屋があるんでしょうか。それとも、女王が卵を産む場所が……」


「その可能性は高そうじゃな」


 ノーノーが答える。


「育てる場所と、産む場所を分けておるのかもしれん」


「行ってみるしかないですね」


「そうじゃの」


 一行はさらに奥へ向かった。


 途中には、前回奥から襲ってきた強化型の魔鋼虫が倒れたままになっている。


 宗玄は一瞥しただけで、その横を通り過ぎた。


 しばらく進んだところで、ノアが足を止めた。


「待って」


 透もすぐに止まる。


「どうした?」


 ノアは通路の先をじっと見つめていた。


「この先に、大きいのがいる」


「大きいの?」


「うん」


 ノアは少し考えるように目を細める。


「それと、いつものが五……六匹」


 宗玄が刀の柄に手を掛けた。


「まだ護衛がおるということか」


「あと……」


 ノアが小さく呟く。


「小さい光が、いっぱいある」


 透が振り返った。


「小さい光?」


「うん。すごくいっぱい」


「動いている?」


「ほとんど動いてない。でも……いる」


 ノーノーが顎髭を撫でる。


「どうやら、その先が目的の場所らしいのう」


 セシリアも杖を握り直した。


「女王種……でしょうか」


「可能性は高いですね」


 透は前方を見る。


「この先を曲がったところだな」


「うん」


 ノアが頷く。


「すぐそこ」


 透は天羽乃斬の柄に手を掛けた。


「みんな、気をつけて」


 一行が慎重に進む。


 曲がり角を抜けた。


 その瞬間、視界が大きく開けた。


「……広い」


 明日華が呟く。


 そこには巨大な空洞が広がっていた。


 天井までは十メートルほど。


 広さは、小さな体育館ほどもある。


 ギチ。


 ギチギチ。


 硬い外殻が擦れ合う音が、空洞の中に響いていた。


 壁際には、見慣れた魔鋼虫が五、六体。


 だが、透たちの視線はすぐに、その奥へ引き寄せられた。


「……なんだ、あれ」


 透が思わず呟く。


 空洞の最奥。


 そこに、一際巨大な魔鋼虫がいた。


 全長は八メートルほど。


 だが、これまで戦ってきた大型種とは姿が違う。


 特に腹部が異様なほど大きく膨れ上がり、床の上に重たげに横たわっている。


 ノーノーが目を細めた。


「どうやら……女王種とやらにご対面のようじゃの」


 その時。


「透お兄ちゃん」


 ノアが透の袖を掴んだ。


「あれ」


 ノアが指さす。


 女王の周囲。


 床一面に、白い楕円形のものがびっしりと並んでいた。


 数十どころではない。


 見渡す限り、無数にある。


「……卵?」


 結衣が声を落とした。


 ノアが頷く。


「うん」


 そして、卵の群れを見つめたまま言った。


「さっき言った、小さい光……全部これ」


 透は黙って卵を見た。


 動いてはいない。


 だが、その一つがわずかに震えた。


 ぴし。


 小さな音が響く。


 白い殻の表面に、細い亀裂が走った。


 ノーノーの表情が変わる。


「……孵る寸前ということか」


 ノアには見えていた。


 殻の中にいる、無数の小さな魔鋼虫が。


 その時だった。


 ぴしり。


 先ほど亀裂の入った卵が割れ、中から小さな幼体が這い出した。


 まだまともに歩くこともできないのか、床の上でもぞもぞと脚を動かしている。


 一匹の魔鋼虫が近づき、その幼体を器用に顎でくわえた。


「運ぶのか?」


 透が小さく呟く。


 魔鋼虫は幼体をくわえたまま、透たちのいる通路へ向かってくる。


 だが、透たちを見ても反応しない。


 そのまま進んできた魔鋼虫が――ふいに動きを止めた。


 ノーノーとセシリアの姿を捉えた瞬間だった。


 ギチギチギチッ!


 激しく顎を鳴らす。


「気づかれた!」


 結衣が身構える。


 直後。


「ギェェェ――!」


 空洞の奥から、甲高い叫び声が響いた。


 女王種が巨大な腹部をよじらせている。


 それに呼応するように、周囲にいた魔鋼虫たちが一斉に動き出した。


 透は迫ってきた一匹を一太刀で斬り伏せる。


 残った魔鋼虫は襲いかかってくることなく、女王種の前へ集まった。


 その巨体を守るように陣取る。


「どうします?」


 透が尋ねる。


 ノーノーは卵と女王種を交互に見ながら、しばらく考えた。


「そうじゃの。まず卵を二つほど持ち帰るとするか」


 そして宗玄を見る。


「宗玄殿、頼めますかの」


「分かった」


「それと透殿」


「はい」


「あれの動きを止めることはできるかのう。できれば、少し調べてみたい」


 透は女王種を見る。


「やってみます」


 天羽乃斬を抜いた。


「結衣、明日華。周りのやつを任せる」


「うん!」


「はい」


「真白、念のため結界を」


「分かったのじゃ」


 真白が両手を前へ出す。


 薄い光が広がり、一行を包み込んだ。


 結衣は双刀を抜いた。


「明日華、やるよ」


「はい」


 双刀を低く構えた結衣の姿が沈む。


 次の瞬間。


 一気に女王種の手前まで肉薄した。


 低い姿勢のまま、魔鋼虫の脚の関節へ刃を滑り込ませる。


 その勢いのまま身体を回転させ――。


 首を刎ねた。


 シュッ!


 ほぼ同時に明日華の放った矢が飛ぶ。


 二本の矢が、それぞれ別の魔鋼虫の頭部へ突き刺さった。


 結衣は止まらない。


 反転。


 もう一匹の懐へ飛び込み、その頭部を斬り飛ばした。


 最後に残った個体も、明日華の矢が頭部を射抜く。


 あっという間だった。


「おう、うまくなったのう!」


 宗玄が豪快に笑う。


「さすがはわしの孫じゃ。はっはっは!」


 セシリアは目を丸くしていた。


「すごいわね……。結衣ちゃんたちが戦っているところを間近で見るのは初めてだけど、とても十四歳とは思えないわ」


「えへへ」


 結衣が照れくさそうに笑う。


 だが、透はすでに女王種へ向かっていた。


「縮地」


 姿が消える。


 次の瞬間には、女王種の懐へ入り込んでいた。


 閃光のように刃が走る。


 一本。


 二本。


 三本。


 透は女王種を支えていた脚を、次々と切断した。


「ギェェェッ!」


 巨体が床へ崩れ落ちる。


 傷口から青い体液を流しながら、女王種は巨大な腹部をわずかに震わせた。


 だが、それ以上襲いかかってくる様子はない。


 透は刀を構えたまま様子を見る。


「……攻撃手段はないようですね」


 ノーノーとセシリアが慎重に近づいてくる。


「繁殖に特化した個体なのかもしれんのう」


 ノーノーは女王種を興味深そうに観察し始めた。


 その間に、透はノアを見る。


「ノア。周りはどう?」


 ノアは目を閉じるようにして周囲を探る。


「うん。この近くには、もういないよ」


 そこで首を傾げた。


「でも……」


「どうした?」


「あっち。この先の上の方に、大きなのがいる」


「大きい?」


「うん。でも、さっきの女王種とは違う感じ。何だろう……」


 透が奥を見る。


 空洞の壁際に、さらに続く通路がある。


「別の通路があるのか」


「たぶん、あっちから上に続いてる」


「分かった。行ってみよう」


 その時、ノーノーが透を呼び止めた。


「透殿」


「はい」


「その前に、この辺りを撮影してもらえんかの」


「はい、分かりました」


 透はヘッドセットに取り付けたアクションカメラを確認する。


「この辺りですね」


「うむ。女王種と卵、それから部屋全体が分かるようにな」


「了解です」


 透はゆっくりと空洞を見回し、女王種や卵、周囲の様子を映像に収めていった。


 撮影を終えると、再び奥の通路を見る。


「ノーノーさん。俺たちは、この先へ行ってみます。別の通路が上へつながっているみたいなので」


「分かった」


 ノーノーは頷いた。


「では、わしらは女王種を調べながら、ここで待っておるとしよう」


 セシリアも女王種のそばに残る。


「こちらは任せてください」


「透」


 宗玄が声を掛けた。


「気をつけるのだぞ」


「はい」


 透が頷く。


「結衣、明日華、ノア。行こう」


「うん」


「はい」


「分かった」


 透を先頭に、結衣、明日華、ノアの四人が空洞の奥へ進んでいく。


         ◇

 部屋の奥には、さらに通路が続いていた。


 透たちはノアの案内に従い、その通路へ足を踏み入れる。


 再び螺旋状の通路だった。


 ただし、今度は下ではない。


 緩やかに上へ向かっている。


 しばらく進んだところで、ノアが立ち止まった。


「そこ。この先」


 ノアが右手を指さす。


 通路の壁に、薄い膜のようなものが張られていた。


 先ほど幼体を見つけた部屋とよく似ている。


「また育成室かな」


 透が天羽乃斬を抜く。


「少し離れてて」


 膜へ刃を入れ、そのまま切り裂いた。


 べりっ。


 薄い膜が左右へ垂れ下がる。


「……うわ」


 結衣が思わず声を漏らした。


 その先にも、育成室らしき空間が広がっていた。


 だが、先ほどの部屋とは明らかに違う。


 もぞ。


 もぞもぞ。


 床の上で蠢いている幼体が――大きい。


「ひゃあー! おにぃ、大きい! 大きいよ!」


「うん……これは大きいな」


 透も思わず見上げる。


 まだ成体とは呼べない姿をしているものの、その身体はすでに人間をはるかに上回る大きさだった。


 明日華も困ったように眺める。


「これでは、持ち帰れませんね」


「そこ?」


 結衣が振り向く。


「いや、明日華。問題そこなの?」


「え?」


 真顔で返され、結衣が肩を落とした。


 透は巨大な幼体へ目を戻した。


「どうするかな。ノーノーさんたちを呼んでくるか」


「そうですね。一度見てもらった方がいいと思います」


 明日華が頷く。


 四人は来た道を引き返した。


「ねえ、おにぃ」


 歩きながら結衣が尋ねる。


「あれって、ガニメデ種とか指令種の幼体じゃないの?」


「そうかもしれないな」


 透にも断定はできない。


 だが、通常の魔鋼虫になる幼体とは、とても思えない大きさだった。


        ◇


 女王種の部屋へ戻ると、ノーノーとセシリアはまだ巨体を調べていた。


「ノーノーさん」


「おお、戻ったか。どうじゃった?」


「上にもう一つ育成室がありました。ただ……幼体がものすごく大きいんです」


「大きい?」


「はい。普通の個体になるとは思えないくらいです」


 結衣が横から口を挟む。


「ガニメデとか、指令種の子供じゃないかって話してたの」


「ほう」


 ノーノーの表情が変わった。


「それは見ておいた方がよさそうじゃな」


 女王種へ視線を戻す。


「では、ここは任せるとするかの」


「わしが片付けておこう」


 宗玄が答えた。


「お主らは行ってくれ」


「頼みますぞ」


「うむ」


 ノーノーとセシリア、それに真白も加わり、一行は再び上方の育成室へ向かった。


        ◇


 膜を切り開いた育成室へ戻る。


 ノーノーは中へ入るなり、巨大な幼体をじっと見つめた。


「これは……」


 もぞ。


 巨大な幼体が身体をくねらせる。


「ガニメデ種かのう」


 セシリアも興味深そうに観察している。


「指令種の可能性もありませんか?」


「否定はできんのう。成長するまで見届けるわけにもいかんし、今の段階では何とも言えん」


 ノーノーはしばらく考えた後、透を見る。


「映像だけ残しておこうかの」


「分かりました」


 透はアクションカメラを育成室へ向ける。


 巨大な幼体。


 周囲の膜。


 部屋全体。


 大きさが分かるよう、ゆっくりと映像に収めていく。


 そこへ宗玄が戻ってきた。


「終わったぞ」


「ありがとうございます」


 宗玄も育成室を覗き込む。


「ほう。こいつはまた大きいのう」


 ノーノーが苦笑した。


「さすがに、これは持ち帰れん」


「そりゃ無理だよ」


 結衣が即座に答える。


「巣の基本的な構造も分かった。卵と幼体も確保した。女王種やこの個体の映像も撮れた」


 ノーノーは巨大な幼体を見上げる。


「調査としては十分じゃろう」


「それに……」


 セシリアが小さく鼻を押さえる。


「匂いも、かなりきつくなってきましたね」


「船にまで持ち込むのは勘弁してほしいのう」


 ノーノーも顔をしかめた。


 宗玄が刀へ手を掛ける。


「なら、こいつもわしが処置しておこう。皆は先へ戻っておれ」


「待ってください」


 セシリアが巨大な幼体を見る。


「念のため、最後に私が焼いていきます」


 まだ他にも小さな幼体や蛹が残っている。


 生きたまま放置する理由はない。


 セシリアは透を見る。


「透さん、護衛をお願いできますか?」


「分かりました」


「では、わしらは先に戻るとするかの」


 ノーノーが頷く。


 宗玄、結衣、明日華、真白、ノアたちは先に育成室を後にした。


 透はセシリアの傍らに残る。


 セシリアが杖を構えた。


 炎が灯る。


 透は周囲に目を配りながら、その様子を見守った。


        ◇


 こうして、魔鋼虫の巣の調査は終了した。


 女王種。


 卵。


 幼体。


 蛹。


 そして、通常種とは明らかに異なる巨大な幼体。


 巣の内部構造についても、多くの情報を得ることができた。


 回収した卵と幼体を携え、一行は地下を後にする。


 長い螺旋通路を上り、ようやく地上へ出た。


 その先には、青い船体のブルートリトン号が待っている。


「ただいまー!」


 結衣が大きく手を振った。


 開いた後部ハッチの向こうから、セリナたちが彼らを迎えた。



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