↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超大陸パンゲアへ渡った神代家の異世界奮戦記  作者: 久遠 遙人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/145

第十一話 グランドワイズ防衛戦Ⅰ



 グランドワイズ関門からの急報が王都へ届いたのは、その日の夕刻だった。


 未確認生物の大群接近。


 数は不明。


 地平線を埋め尽くす規模。


 その報せは瞬く間に王城へ届けられた。


 ◇◇◇


 アストレア王城。


 円卓の間。


 国王アルベルトをはじめ、王国の重鎮たちが集まっていた。


 騎士団長オーギュスト。


 宰相グランツ。


 大神官オルド。


 宮廷魔法師長 アストリア最強の魔法師セシリア

 

 そして王女でもある聖女セリナ。


 室内には重苦しい空気が漂っていた。


「関門までの距離は約二百キロか」


 国王が静かに言う。


「はい」


 オーギュストが頷いた。


「仮に突破された場合、王都到達まで数日の猶予しかありません」


「防衛準備を急がせよ」


「すでに開始しております」


 王都周辺の防壁強化。


 避難計画の策定。


 食料備蓄の確認。


 騎士団の再編。


 できることは全て進められていた。


 だが誰もが理解していた。


 問題は数ではない。


 敵が何者なのか。


 それすら分からないのだ。


「神託にあった黒い群れ……」


 大神官オルドが呟く。


 セリナは唇を噛んだ。


 あの日見た光景。


 王都を覆う黒い波。


 燃え上がる街。


 そして絶望。


 それが現実になろうとしていた。


 ◇◇◇


 その夜。


 王都には静かな不安が広がっていた。


 市場は開いている。


 酒場も営業している。


 人々も日常を続けている。


 だが。


 誰もが耳を澄ませていた。


 関門で何かが起きている。


 西から災厄が来る。


 そんな噂が広がり始めていた。


 ◇◇◇


 大神殿。


 祈りの間。


 そこには大勢の市民が集まっていた。


 老いた者。


 若者。


 母親。


 幼い子供。


 皆が膝をつき祈りを捧げている。


 祭壇の前にはセリナがいた。


 王女として。


 そして神託の巫女として。


「どうか、我らをお導きください」


 静かな祈り。


 その声に人々も続く。


 不安を押し殺すように。


 希望へ縋るように。


 だが。


 神託は降りなかった。


 静寂だけが広がる。


 セリナは胸の奥に広がる焦りを押し殺した。


 災厄は迫っている。


 それなのに答えがない。


 ◇◇◇


 一方。


 王都東区。


 透は借りた家の庭で一人空を見上げていた。


 薄暮の空。


 夜のない世界。


 風が静かに吹いている。


 手には天羽乃斬。


 無意識に柄を握る。


(俺に何ができる)


 関門。


 二百キロ先。


 災厄。


 未知の敵。


 もし関門が破られれば王都は危険になる。


 セリナも。


 ガルドも。


 ノーノーも。


 皆が戦場へ向かうことになる。


 透は目を閉じた。


 自分は戦える。


 それは分かる。


 だが。


 何と戦うのかが分からない。


 だからこそ。


 自分の目で見たかった。


 神託が示した災厄を。


 ◇◇◇


 翌朝。


 冒険者ギルド。


「行くのか」


 ガルドが腕を組む。


「はい」


 透は頷いた。


「災厄を見ておきたい」


「俺も同意見だ」


 ガルドは不敵に笑った。


 セシリアもいる。


 ノーノーもいる。


「わしは観察じゃ」


「絶対それだけじゃないですよね」


「もちろんじゃ」


 即答だった。


 結局、一行は冒険者部隊の一員として関門へ向かうことになった。


 ◇◇◇


 透を背に騎獣のラウルが駆ける。


 大地を蹴る。


 風が頬を叩く。


 透は鞍の上で前を見据えていた。


 王都を離れ。


 街道を西へ。


 さらに西へ。


 途中、補給拠点を経由しながら進む。


 そして数日後。


 一行はグランドワイズ関門へ到着した。


 ◇◇◇


 巨大な城壁。


 幾重にも築かれた防壁。


 無数の兵士。


 騎士。


 弓兵。


 魔術師。


 関門全体が緊張感に包まれていた。


 透は城壁の上へ上がる。


 そして。


 言葉を失った。


 数キロ先。


 大地が黒かった。


 いや。


 黒いものが大地を覆っていた。


 蠢いている。


 揺れている。


 波のように。


 生き物の群れが。


 果てしなく。


 赤い光が無数に瞬く。


「目……か」


 透が呟く。


 ガルドも表情を消していた。


「あれは軍勢じゃない」


 軍勢ならまだ理解できる。


 だが違う。


 あれは生物の群れだった。


 ◇◇◇


 その時だった。


「飛行体接近!」


 見張り兵の声が響く。


 全員が空を見上げた。


 ブォォォォォン――


 不快な羽音。


 大量だ。


 黒い影が空を埋めている。


 巨大な蚊。


 人ほどの大きさを持つ異形。


 黒い外殻。


 赤い複眼。


 長い口吻。


 それが数百。


 一直線に関門へ飛来していた。


「迎撃!」


 号令が飛ぶ。


 矢が放たれる。


 魔法が炸裂する。


 だが。


「硬い!」


 兵士が叫ぶ。


 矢が弾かれる。


 剣が滑る。


 黒い外殻は異様な硬度を持っていた。


 モスキート型が防壁へ取り付く。


 長い口吻が兵士へ突き刺さった。


「ぐああああ!」


 悲鳴。


 兵士の身体から淡い光が吸い出される。


「魔素を吸われている!」


 セシリアが叫ぶ。


 炎槍が放たれた。


 一体が焼け落ちる。


 だが数が多い。


 次々に飛来する。


 ◇◇◇


 透は駆けた。


 見える。


 線が。


 羽の付け根。


 腹部。


 関節。


 そこだけが切れる。


 天羽乃斬が閃いた。


 一閃。


 羽が飛ぶ。


 モスキート型が墜落する。


 二体。


 三体。


 四体。


 次々と地面へ落ちていく。


 ガルドの大剣が叩き潰す。


 セシリアの炎が焼く。


 騎士たちも続く。


 激しい戦いだった。


 だが。


 先遣隊に過ぎなかった。


 ◇◇◇


 一時間後。


 最後のモスキート型が地面へ落ちた。


 歓声は上がらない。


 防壁の上には倒れた兵士たちがいた。


 魔素を吸われ衰弱した者。


 命を落とした者。


 負傷者は少なくない。


 たった数百。


 それだけでこの被害だった。


「助かった」


「終わったのか」


「これが災厄……」


 透は呟く。


 その時。


 地面が震えた。


 ドン。


 ドン。


 ドドドドドドドド――


 遠雷のような音。


 いや違う。


 足音だ。


 誰かが震える声で言った。


「あれを見ろ……」


 全員の視線が西へ向く。


 黒い大地。


 その正体が見え始めていた。


 無数の脚。


 無数の複眼。


 無数の黒い外殻。


 地平線の果てまで続く大群。


 その中心には。


 周囲よりも巨大な影がいくつも見えた。


 兵士の一人が膝をつく。


「なんだ……あれは……」


 誰も答えられない。


 ただ一人。


 ノーノーだけが顔色を失っていた。


「まさか……」


 大賢者の声が震える。


「古文書にあった黒き災いとは……」


 黒い海が迫る。


 千年前。


 パンゲア中央を滅ぼした災厄。


 その名を知る者は、まだここにはいなかった。


 だが。


 誰もが理解していた。


 これこそが。


 世界を滅ぼす敵なのだと。


 ――続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。