↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超大陸パンゲアへ渡った神代家の異世界奮戦記  作者: 久遠 遙人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
109/146

第三十話 始動

 その日の午後。


 竜人族の里では、各地域の代表を集めた会議が開かれた。


 もちろん透も出席する。そして、かつて魔鋼虫との戦いを経験したエリーゼも、その席に加わっていた。


 透から改めて、現在パンゲア各地で起きていることが説明される。


 九百年の時を経て、再び活動を始めた魔鋼虫。


 すでにアストレアでは、その群れとの戦闘が始まろうとしていること。そして今後、さらに大規模な戦いになる可能性が高いこと。


 長い話し合いの末、竜人族も魔鋼虫との戦いに加わることが決まった。


 ただし――。


「われらが前線に立つべきではない」


 一人の代表が静かに言った。


 それは、誰もが理解していることでもあった。


 竜人族は長いあいだ、外界から隔絶された環境で暮らしてきた。魔鋼虫との戦いが終わって以降、大きな争いもない。


 元来、温和な種族でもあり、現在の竜人族で実戦を経験した者はほとんどいなかった。


 加えて、竜化できるのは女性だけだ。


 戦力として強大な力を持つ一方で、無闇に前線へ投入すれば、里そのものの将来にも関わる。


 そうした事情を踏まえ、竜人族は主に後方支援を担当することになった。


 物資の輸送。負傷者の搬送。緊急時の救援。


 空から行える役割は多い。


「それなら、あたしが選ぶよ」


 エリーゼが言った。


「エリーゼさん?」


「誰でも連れていけばいいってもんじゃない。空を飛べるからって、戦場で役に立つとは限らないからね」


 若い竜たちを無闇に危険へ晒すつもりはない。


 参加するのは、エリーゼ自身が選んだ成人女性たちに限定されることになった。


 そして――。


「あたしも行くよ」


 エリーゼが当然のように言った。


「おばあしゃまも?」


 ルカが目を丸くする。


「あたりまえだろう」


「でも……」


「さすがに若い頃みたいには飛べないさ」


 エリーゼは笑った。


「それでも、あたしが一緒に飛んでやれば、あの子たちも少しは安心するだろうよ」


 真龍。


 かつて人族の騎士と共に戦場を駆けた竜。


 そのエリーゼが先頭に立つ。それだけで、初めて戦場へ向かう竜人族たちにとって、大きな支えになる。


「それに」


 エリーゼはルカを見る。


「戦場へ出るってのは、飛べればいいって話じゃないんだ」


「……はい」


「これから少し鍛え直してやらないとね」


 そう言って、楽しそうに笑う。


 参加する竜たちの訓練は、エリーゼが担当することになった。


 連絡については、ピクシーネットワークを利用する。


 ちょうどその頃、ピクシーの村を訪れていたモモも戻ってきた。


「ただいまですー!」


「おかえり」


「いっぱいお話してきたです!」


 どうやら久しぶりに同族と過ごせて、かなり満足したらしい。


 必要な連絡体制も整った。


 竜人族側では、これから戦いへ向けた準備が始まる。


 透たちも、いつまでもここに留まっているわけにはいかない。


 ルカ。ラピス。そしてモモ。


 三人を伴い、透は竜人族の里を後にすることになった。


        ◇


 ちょうどその頃。


 ドワーフの里、マイスターベルケンでは――。


 魔導工房の研究者や技術者たちが、一か所に集まっていた。


 彼らの視線の先にあるのは、一隻の小型魔導飛行船。


 明日華が持っていた金属片。


 オリジェンの欠片。


 そこから判明した触媒を利用し、ようやく完成した魔素変換モジュールが搭載されている。


「始めるぞ!」


 工房長の声が響いた。


 技術者たちが次々と最終確認を行う。


 そして――。


 魔素変換モジュールが起動した。


 ヴゥゥゥン――。


「おお……」


 周囲から声が漏れる。


 隆志も思わず身を乗り出した。


 もっと激しい音がするものだと思っていた。しかし実際には、低く響くような音が続いているだけだった。


 船体が、ゆっくりと浮き始める。


「浮いたぞ!」


「成功だ!」


 格納庫に歓声が響き渡った。


 技術者たちが抱き合う。


 何百年もの間、失われていた魔導飛行船の技術。


 それが今、再びパンゲアの空へ戻ろうとしていた。


 小型飛行船は慎重に高度を上げる。


 魔導工房の外れに造られた格納庫から抜け出し、周囲に何もない広い場所へ出た。


「安定してるな」


「魔素供給も正常!」


「推力も問題なし!」


 さらに高度を上げる。


 やがて飛行船は機首をゆっくりと前へ向けた。


 水平飛行へ。


 速度はまだ遅い。だが確かに進んでいる。


「飛んでる……」


 隆志が小さく呟いた。


 搭乗しているのは、工房長をはじめとした魔導工房の技術者たち。


 ノーノー。セシリア。そして隆志。


 さらにもう一人。


 大きな帽子を被った、小柄なドワーフの姿があった。


 隆志はその姿をちらりと見たあと、目の前の操縦装置へ視線を戻した。


「なるほど……」


 意外だった。


 操縦桿というよりも、どこかゲーム機のコントローラーに似ている。


 左右へ動かすレバー。いくつかのボタン。速度や高度を示す計器類。


 思っていたほど複雑ではない。


「これなら……」


「どうしたんじゃ?」


 隣からノーノーが尋ねる。


「いや」


 隆志は少し笑った。


「僕にも動かせそうだなと思って」


「ほう?」


 機械いじりが好きな隆志にとって、初めて見る装置ではあっても、その考え方は理解しやすかった。


 むしろ興味が湧いてくる。


「旋回するぞ!」


 工房長の声が飛ぶ。


 飛行船がゆっくりと機体を傾けた。


 左旋回。続いて右旋回。上昇。下降。


 急な動きは避けながら、一つひとつ性能を確認していく。


 魔素変換モジュールも安定していた。


 船体にも異常はない。


 しばらく空を飛んだあと、小型飛行船は再び魔導工房へ向かった。


 速度を落とし、慎重に高度を下げる。


 そして――。


 静かに地面へ降り立った。


 一瞬の静寂。


 次の瞬間。


「やったぞぉぉぉ!」


 大歓声が上がった。


 処女飛行は成功。


 事故も、故障もない。


 さすがは魔導工房。


 そして――。


 さすがはドワーフだった。


         ◇


 処女飛行を無事に終えたあとも、魔導工房の面々は休もうとはしなかった。


 再び格納庫へ収められた小型魔導飛行船の船内では、技術者たちによる点検が始まっている。


「魔素変換モジュール、異常なし!」


「推進系も問題ない!」


「船体にも歪みはないぞ!」


 あちこちから声が飛ぶ。


 隆志も操縦室から船内へ出て、興味深そうに内部を見て回っていた。


「ん?」


 そこで、あることに気づいた。


 壁の一部が淡く光っている。


 飛行前には、こんなものはなかったはずだ。


「これは……?」


 隆志が光っている部分へ手を触れた。


 すると――。


 プシュッ。


「うわっ」


 小さな空気の抜けるような音とともに、壁の一部が横へ滑った。


「なんじゃ?」


「何かあったの?」


 ノーノーとセシリアも近づいてくる。


 壁だと思っていた場所の奥には、小さな収納空間が隠されていた。


 両側には棚があり、見た目はクローゼットに近い。


「こんなものが……」


 工房長も驚いた様子で中を覗き込む。


「今まで開いたことはなかったぞ」


「飛行船を起動したことで、船内設備のロックが解除されたんじゃないでしょうか」


 隆志が言った。


「なるほどのう」


 ノーノーが髭を撫でる。


 調べてみると、同じように光り始めた場所が船内のあちこちに見つかった。


 壁面収納。小さな物入れ。工具らしきものが収められた区画。


 そして――。


「これは何じゃ?」


 ひとつの収納庫から、いくつもの薄い箱が出てきた。


 隆志には、書類ケースのように見えた。ただし紙でできているわけではない。


 金属とも石ともつかない、黒みを帯びた薄い素材でできている。


「開かないな」


 隆志が縁に指を掛ける。


 力を入れてみるが、びくともしない。鍵穴らしいものもなかった。


「ここ……光ってますね」


 セシリアが指差す。


 ケースの角に、小さな丸い部分がある。


 そこだけが淡い光を放ち、ゆっくりと明滅していた。


 ひとまず見つかったケースを操縦室へ運び込む。


 工房長。ノーノー。セシリア。隆志。そして技術者たちが、それを囲んだ。


「何かの鍵か?」


「押してみるか」


「いや、待て。壊したらどうする」


 ドワーフたちがあれこれ議論を始める。


 隆志も裏返したり、光に透かしたりしてみたが、仕組みはまったく分からない。


 その時だった。


「……これ」


 セシリアが呟いた。


「どうしたのですか?」


 隆志が尋ねる。


「微かですけど……魔力を感じます」


「魔力?」


「ええ」


 セシリアはケースの角で明滅している丸い部分へ指を伸ばした。


「たぶん、ここから」


 指先が触れる。


 そしてセシリアは、ほんの僅かに魔力を流し込んだ。


 次の瞬間。


 ピッ。


 小さな音が鳴った。


「お?」


 ケースの表面に細い光の線が走る。


 そして――。


 シュッ。


 蓋が静かに横へ滑った。


「開いた……」


 中に入っていたのは、薄い板状のものだった。


 一枚ではない。何枚も重ねられている。


 その一枚を工房長が慎重に取り出した。


「なんじゃ、これは……」


 表面には、古い文字が刻まれていた。


 ノーノーが目を細める。


「かなり古いものじゃぞ」


 セシリアも覗き込む。


「読めますか?」


「待ってくれ」


 ノーノーが慎重に文字を追っていく。


 やがて――。


 その顔から、笑みが消えた。


「……どうしたんです?」


 隆志が尋ねる。


 ノーノーは答えない。ただ、さらに先を読み進めていく。


「ノーノー?」


 セシリアもその表情の変化に気づいた。


 やがてノーノーが、小さく息を吐いた。


「これは……」


 震える指で、板の一部を指差す。


「魔鋼虫について書かれておる」


「え?」


 室内が静まり返った。


 工房長が身を乗り出す。


「何が書いてある?」


「まだ分からん。じゃが……」


 ノーノーは開かれたケースを見る。


 そこには、同じような記録板が何十枚も収められていた。


 さらに他のケースもある。


「これはただの飛行船の資料ではないぞ」


 九百年近く。


 誰にも開かれることなく、魔導飛行船の内部に眠り続けていた記録。


 それが今。


 再び飛行船が空へ上がったことで、その封印を解かれた。


 そしてそこには――。


 これから始まる魔鋼虫との戦いを左右するかもしれない情報が、残されていた。

ショートアニメ用のオープニングムービーが完成しました。

YouTubeにアップしていますので、もしよろしければお時間のある時にご覧ください。

小説のキャラクターたちが実際に動いているのを見ると、作者ながら少し感動しました(笑)。

【YouTube】

URL https://youtu.be/yeFL6cDFdQM

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。