↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超大陸パンゲアへ渡った神代家の異世界奮戦記  作者: 久遠 遙人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
101/146

第二十二話 魔導飛行船

 街から戻った透たちは、評議会へ出向いていた一行と宿で合流した。


 もっとも、全員が揃ったわけではない。


 ガルドたちは評議会を終えると、そのまま酒場へ繰り出したらしい。


「まあ、あの人たちらしいね」


 透が苦笑すると、セリナも小さく笑った。


 一方、ノーノーは宿へ戻るなり、


「確認したいことがある。わしは工房へ戻るぞ」


 と言い出し、食事もそこそこにセシリアを伴って魔導工房へ向かってしまった。


 結局、宿に残った者たちだけで夕食を済ませ、その日は早めに休むことになった。翌日から、またそれぞれに予定がある。


 部屋割りも、これまでとは少し変わった。


 透は久しぶりに隆志と男同士、二人で同じ部屋。美琴はセリナ、リーファ、ルカと一緒。結衣、明日華、真白、蒼姫、暁、ノア、ラピスは大部屋を使うことになった。


 美琴は部屋へ入ってからも、三人へ余計なことは聞かなかった。


 セリナもリーファもルカも、透に対してそれぞれ特別な思いを抱いていることくらい、美琴には何となく分かっている。だが、それを母親である自分が聞き出す必要はない。


 ただ寝支度を済ませた頃、美琴が三人へ声をかけた。


「皆さん、明日は何か予定がありますか?」


「私は特にはありません」


 セリナが答える。


「私もありません」


 リーファも続く。


「私もです!」


 ルカが元気よく手を上げた。


「それなら、よかったら四人で街へ買い物に行きませんか?」


 三人が顔を見合わせる。


「買い物、ですか?」


「ええ。せっかくですから」


 美琴が微笑む。


「はい。ぜひ」


「私もご一緒します」


「行きます!」


 三人ともすぐに同意した。


「では、明日は四人でお出かけですね」


 それ以上、美琴は何も言わなかった。


 ほどなく灯りが消され、部屋は静かになった。


 一方、その頃。


 透は隣の寝台に横になった隆志へ声をかけた。


「父さん」


「ん?」


「じいちゃん、どうしてるかな」


 隆志は少しだけ考えてから笑った。


「お父さんなら、きっと楽しくやっているだろうさ」


「そうかな」


「大丈夫だよ」


 隆志は天井を見上げながら言った。


「神代宗玄だからね」


「……それもそうか」


 透も笑った。


          ◇


「ぶわっくしゅーーっ!」


 静かな山中に、盛大なくしゃみが響き渡った。


「……誰か噂でもしておるのかの」


 宗玄は鼻の下を指で擦った。


「白よ」


「ぶもぉー」


「さて、行くかの」


「ぶもぉ!」


 宗玄はひょいと白の背へ乗る。


 そして一人と一頭は、何事もなかったかのように再び進み始めた。


          ◇


 翌朝。


 朝食の席で、ノーノーが戻ってきた。


「今日は魔導飛行船を見に行くぞ」


 開口一番、それだった。


「魔導飛行船?」


 結衣が目を輝かせる。


「見たい!」


「私も興味があります」


 明日華も反応する。


「真白も行く!」


 真白まで手を上げた。


「モモも!」


 いつの間にかモモまで加わる。


 蒼姫も静かに頷いた。


「私もご一緒いたしましょう」


 隆志はノーノーを見る。


「僕も行っていいのかな?」


「むしろ、おぬしには来てもらいたい」


「僕に?」


「地球の機械を知っとる者の意見が欲しい」


「なるほど」


 こうして工房へ向かうのは、ノーノー、セシリア、隆志、結衣、明日華、真白、蒼姫、モモ。


 一方、美琴は昨日の約束どおり、セリナ、リーファ、ルカと街へ出ることになった。暁も護衛を兼ねて同行する。


 そして透は、ノアとラピスを連れて街へ出ることにした。


          ◇


「美琴様。今日はどちらへ?」


 宿を出てしばらくしたところで、セリナが尋ねた。


「まずは食品を扱っているお店ですね」


「食べ物を?」


「ええ」


 美琴は楽しそうに街並みを見回した。


「今日は皆さんに、私たちの世界の料理を作ってあげようと思っているんです」


「地球のお料理ですか?」


 セリナが興味深そうに聞き返す。


「ええ。こちらで手に入る材料で作れるものになりますけれど」


 その横で、ルカの顔がぱっと明るくなった。


「透様の好きなものもですか?」


「そうですねえ」


 美琴は少し考えた。


「あの子は好き嫌いがほとんどありませんから。何を作っても美味しそうに食べますよ」


「そうなんですか……」


 ルカが何やら真剣な顔になる。


 リーファは黙ったまま、その様子をちらりと見た。


 美琴はそんな三人を見ながら、何気ない調子で尋ねる。


「ところで皆さん、お若いですけれど、お料理はなさいます?」


「料理……」


 セリナが止まる。


「…………」


 リーファも黙る。


「…………」


 ルカも黙った。


 三人の間に、何とも言えない沈黙が流れた。


「あら」


 美琴は口元に手を当てる。


 考えてみれば無理もない。


 セリナはアストレアの王女。リーファもハイエルフの族長の娘。ルカも竜人族の長の娘である。


 日常的に台所へ立つ環境ではなかったのだろう。


「透さんは、お料理が得意ですよ」


「え?」


 三人がほとんど同時に美琴を見た。


「透様が?」


 ルカが一番大きく反応する。


「ええ。結衣や明日華がいますからね。私たちが忙しい時には、透さんが食事を用意してくれることも多かったんですよ」


「兄が妹たちに……」


 セリナが少し驚いたように言う。


「透様が作った料理……」


 ルカの瞳が輝き始めた。


「お腹いっぱい……」


 リーファが、無言でルカを見る。


 美琴がくすりと笑った。


「では、今日は皆さんにも手伝っていただきましょう」


「はい」


「分かりました」


「はい!」


「それと――」


 美琴は少し楽しそうに続けた。


「帰ったら透さんにも手伝ってもらいましょうか」


「はい」


「はい」


「やったー!」


 一人だけ反応が違った。


「では、買い出し開始です」


 美琴の言葉に、四人は朝のドワーフの街へ歩き出した。


 ちなみに買い物の資金は、昨晩透から預かっている。


 これまでの報奨金や素材の代金などで、いつの間にか透は結構な額を持つようになっていた。


『必要な分だけあればいいから』


 そう言って、かなりの額を美琴へ渡していたのだ。


 お金に執着しないところは昔から変わっていない。


          ◇


 その頃。


 透はノアとラピスを連れて、少し静かな通りを歩いていた。


 昨日は皆で賑やかに街を歩いた。今日は三人だけだ。


「ノア」


「なに?」


「ちょっと話しておきたいことがあるんだ」


 ノアが透を見上げる。


「うん」


 透は少し歩いてから、ゆっくり口を開いた。


「俺さ、本当は神代家の子供じゃないんだ」


「……え?」


 ノアが足を止めた。


 透も立ち止まる。


「血が繋がってないって意味だよ」


「トオル……神代家じゃないの?」


「いや」


 透は笑った。


「神代家だよ。俺はそう思ってる」


 ノアは黙って透を見ている。


「父さんと母さんが俺を引き取ってくれたんだ。小さい頃から、本当の息子みたいに育ててくれた」


「…………」


「結衣も明日華も、本当の妹だと思ってる。向こうがどう思ってるかは知らないけどね」


 透が苦笑する。


「きっと同じだと思う」


 ノアが小さな声で言った。


「そうかな」


「うん」


 透は少し照れたように頭を掻いた。


「だからさ」


 そして、ノアの目を見る。


「血が繋がってるとか、そういうのは俺にはあまり関係ないんだ」


 ノアが目を瞬く。


「ノアのことも大切にする。だから安心していい」


「……うん」


 ノアが小さく頷いた。


 透は今度は足元のラピスを見る。


「お前もだぞ」


「みゃん」


「お母さんから預かったんだからな。ちゃんと守るよ」


「みゃん」


 ラピスは透を見上げた。


 最近、ラピスはほとんど念話を使わない。言葉を忘れたわけではないらしい。ただ、何かを一生懸命考えているように見える。


 透はその小さな頭を撫でた。


「まあ、焦らなくていいさ」


 ラピスは目を細めた。


          ◇


「うわぁ……!」


 同じ頃。


 結衣は巨大な船体を前に、ぽかんと口を開けていた。


 ドワーフの巨大工房。


 その奥に据えられていたのは、長い年月眠り続けてきた魔導飛行船だった。


 表面は丁寧に磨かれ、ところどころ新しい部品へ交換されている。


「すごい! ぴかぴか!」


 結衣が船体を見上げる。


「なんか地球のスペースシャトルみたい!」


「確かに少し似ているね」


 隆志も興味深そうに眺める。


「飛行船というくらいだから胴体はずいぶん太いけれど」


「これが空を飛ぶの?」


 真白が首を思い切り反らしている。


「予定ではな」


 ノーノーが答えた。


「もっとも、今は飛ばん」


「飛ばないの?」


「肝心の部品が足りん」


 ノーノーは隆志へ手招きした。


「こっちじゃ」


 一行は船体内部へ入り、そのまま機関部へ案内された。


 太い配管。


 複雑に組まれた魔導回路。


 地球の機械とはまったく違う。それでも隆志には、何となく各部の役割が想像できた。


「これが推進用の魔導エンジン?」


「そうじゃ。そしてこっちが――」


 ノーノーが、大きな円筒状の装置を示す。


「魔素変換モジュールじゃ」


 隆志が近づく。


「魔素をエネルギーへ変換する?」


「大まかにはそういうことじゃ」


 ノーノーが装置の一部を指差した。


 そこには、何かを収めるための空洞がある。


「ここに本来、特殊な触媒が使われておった」


「今はない?」


「ない。失われた」


 ノーノーの顔が険しくなる。


「同じものを作ろうにも、何で出来ていたのかすら分からん。こいつが動かん限り、魔導飛行船はただの大きな箱じゃ」


 そのときだった。


「……あれ?」


 明日華が小さな声を上げた。


「どうした、明日華?」


 隆志が振り返る。


「何か……」


 明日華が自分の服のポケットを見る。


「光っています」


「え?」


 ポケットの布越しに、確かに光が漏れている。


 明日華が恐る恐る手を入れた。


 そして取り出したのは――小さな金属片だった。


「わ……」


 その金属片は、淡い光を放っている。しかも魔素変換モジュールへ近づけるほど、その光が強くなっていた。


 近くにいた工房のマスターが、その金属片を見た瞬間。


「…………!」


 顔色を変えた。


「ま、まさか……」


 勢いよく明日華へ近づく。


「嬢ちゃん! それをどこで手に入れた!」


「えっ」


 明日華が思わず身を引いた。


 隆志がすぐ二人の間へ入る。


「落ち着いてください」


「……!」


「娘が驚いています」


「あ……」


 工房マスターは我に返った。


「す、すまん。つい……」


「いえ」


 明日華も小さく頭を下げる。


 工房マスターは改めて金属片を見た。


「嬢ちゃん。それを少しだけ貸してもらえんか?」


「……分かりました」


 明日華が金属片を手渡す。


 工房マスターは慎重にそれを受け取ると、魔素変換モジュールの触媒が本来収まっていた場所へ近づけた。


 瞬間。


 ヴン――。


 低い振動音が機関室全体へ響いた。


「なっ……!」


 金属片の光が一気に強くなる。


 同時に、沈黙していた魔導回路へ淡い光が走った。


 一つ。


 また一つ。


 まるで長い眠りから目覚めるかのように、魔素変換モジュールの各部が反応を始める。


「動いた……」


 セシリアが呟く。


 ノーノーの目が見開かれていた。


「これは……」


 工房マスターの手が震えている。


「間違いない。少なくとも、こいつは触媒に反応しておる」


 そして再び明日華を見る。


 今度は先ほどよりずっと落ち着いた声だった。


「嬢ちゃん。これをどこで手に入れた?」


「ラジェールの露店です」


「露店?」


「はい。店主さんは、何なのか分からない古代の遺物かもしれないと言っていました」


 明日華は少し考えてから続ける。


「なんとなく気になったので買いました。二つあります」


「二つ!?」


 工房マスターの声が裏返った。


 結衣が横から口を挟む。


「明日華、こういう変な物見つけると買っちゃうんだよね」


「結衣ったら」


「でも役に立ったじゃん!」


「もう……」


「おい!」


 工房マスターが部下を呼ぶ。


「解析班へ持っていけ! 最優先じゃ! 材質、魔素反応、全部調べろ!」


「はい!」


 部下が慎重に金属片を受け取る。


 工房マスターは明日華へ向き直ると、その両手をがしっと掴んだ。


「お嬢ちゃん!」


「は、はい?」


「さっきは本当にすまなかった!」


 そのまま明日華の手をぶんぶん振る。


「じゃが、もしこれが使えるなら……魔導飛行船が飛ぶかもしれん!」


「は、はい……」


「ありがとう! 本当にありがとう!」


 明日華は完全に困った顔になっている。


「明日華、やったね!」


 結衣が嬉しそうに笑った。


「変な物収集癖が役に立った!」


「姉さま、もう!」


「ははは」


 隆志も笑う。


 だが、その視線はすぐに魔素変換モジュールへ戻った。


「ノーノーさん」


「なんじゃ」


「これが本当に動いたら……この船はどれくらいのものを運べるんです?」


「船の仕様通りなら、人も荷もかなり運べる。速度も地上の移動とは比べものにならん」


「そうですか……」


 隆志は静かに考える。


 人を運べる。


 物資を運べる。


 負傷者を後方へ送ることもできる。


 地形に左右されず遠くまで飛べる。


 そして何より――。


 離れて暮らす種族同士を、短い時間で結ぶことができる。


「これは……」


 隆志が、巨大な機関を見上げた。


「戦うためだけの船じゃありませんね」


 ノーノーが隆志を見る。


「ほう?」


「使い方次第では、パンゲアそのものを変えるかもしれない」


 隆志の目の前で、長く沈黙していた魔素変換モジュールが、わずかな光を残していた。


 まだ何も決まってはいない。金属片の正体さえ分からない。


 それでも。


 止まっていた何かが、確かに動き始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。