確かにあった未来(2)
「ノラ~……ノラ~?どこにいるの?」
場面はレフィーが十五歳になり初めての冬、それはとても寒い日だった。
勉強の時間が終わり、いつもなら一番に扉を開けて自分の所に来るノラが今日はいくら待っても来ることはなかった。
そのため自分からノラが行きそうな場所を探しに来ていた。
(おかしい……ノラがどこにもいない……。使いの人達に聞いても知らないとしか返ってこない、こんなことは初めて。あの子に何もなければいいのだけれど……一度お母さんの下に向かってみよう)
両親は今城の外にある別邸に住んでいる。
レフィーやノラもそこから城まで通っている。
「お母さんただいま~今ノラいる?」
「あら?おかえりなさい。ノラならあなたを迎えに行ってまだ帰ってきてないわよ?」
「やっぱり……ノラ、私の所には来てないよ」
「え?おかしいわね?どこに行ったのかしら?」
「……やっぱり何か嫌な予感がするの。もう一回お城回りを見てくる」
「わかったわ、私もお父さんに声をかけて探してみるわね!」
「お願い!」
レフィーは通常は透明になっており見えない四枚の翼を顕現させて大きく空に羽ばたく。
普通天使種の翼は二枚だが大天使のみが四枚の特徴的な翼を持っている。その能力は通常の天使とは比較にもならない。
ジェット機と見間違えるほどのスピードで天城を駆け巡る。
ジェット機レベルのスピードを出していても大天使の目であれば地上を鮮明に見分けることができるため捜索には一切の支障はない。
ただ十分ほどでアドラス全域を捜索し終えたが彼女の姿はどこにもいない。
「ダメだ……どこにもいない……」
普通ならこれだけ探し回れば痕跡の一つでも見つけられるはずなのにノラの気配というものが何一つ感じられない。
「ノラ、どこにいるの?」
(あと行っていないところとなると外層になる。……一度行ってみるしかないか)
翼を広げ再び大空を舞う。
レフィーが向かっている場所は外層、空に浮かぶ島アドラスの淵だ。
外層は全面立ち入り禁止であり、危険であるため誰も近づこうとはしない。
飛べる天使たちにとってなぜ外層が危険なのか、それは外核と呼ばれる天使の力を失わせる力が存在しているためである。
それに触れた天使は瞬く間に天使としての力を失い人間とほぼ変わらない身体能力まで低下する。
外核は外層付近を回っており、天使にとっても毒ではあるがそれは他の生物であっても同じで、近づけば天使の比ではないほどの呪いを受けるためこの外核を敵の侵入から守る結界のような役割も果たしている。
結界の役割があっても近づくだけで力が弱まり並みの天使なら気絶してしまうほど強力なため外層には天使たちは近づかない。
普通ならいるはずないのだが何故かそこにいるという嫌な予感が拭いきれず、レフィーは外層へと向かった。
「着いた、けどやっぱり気配は感じないか」
大天使のレフィーにとって外核に直接触れない限りは不快な感覚がするな程度の影響しか受けないため外層での行動には支障は出ない。
「一度全体的に外層を洗うべきね」
そう言ってレフィーは一言、天恵そう告げた。
クアンシ―、大天使のみが使えるロストマジックであり、一日に一度だけ使える思い浮かべた人を探し出せる魔法だ。
内層、つまり自分たち天使たちが住んでいる場所でのロストマジックの使用は禁止されているため外層へ来て魔法を使用する。
クアンシーを唱えると潜水艦のソナーのようなものがアドラスの外層、内層含め全域に向け飛ばされる。すると、自分とは反対側の外層に探し人の気配が引っ掛かる。
「…………ッ!?いた!!」
探し人、ノラの居場所に向け翼を広げて急行する。
五分もせずに目的地に着いた上空で見つけた、今にも外層から落ちそうになっているノラとそのノラに群がる四人の天使が。
「貴様らァァァ―――――!!!ノラに何をしている!!!」
四翼を限界まで大きく広げノラと四人の間に割って入る。
着地の衝撃で砂ぼこりが舞う。レフィーは着地と同時に自分の翼の内側にノラを匿うように優しく包み込み四人を睨みつける。
「な、なんだ!?」
「クッソ!砂ぼこりで何も見えん」
「風よ、吹け―――送風」
天使の一人が魔法を唱えると、風が吹き、立ち込めていた砂ぼこりが晴れる。
「―――――ッ!?お前は!?」
「クハハハハハッ!!やっと来たか、レフィー!!!」
「…………お前は、ゼノ」
―――ゼノ・アドラス、現王の第一子の息子であり、現王がなくなった場合の代理王位を継ぐことができる。
ただ、代理は大天使が生まれるまでであるため、今まさに生まれている大天使のレフィーがいる場合王位を継ぐことはできない。
「あなたたち!こんなことしてただで済むと思っているの!?」
「思ってないですよ?ただね?それを告げるやつがいなければどうなることもないと思いませんか?」
「ゼノ……!」
レフィーはゼノを睨みつけるが当の本人はそんな睨みつけなど気にもとめていないようであっけらかんとした態度を見せている。
「お姉ちゃん?」
「―――ノラ!!無事!?ケガはない!?」
「う、うん……」
ゼノに意識を向けていたため声を掛けられるまでノラの安否を確認するのに遅れが生じた。
顔はそのままに視線だけノラの方を見るとどこも怪我をしてないように見える。
ただひどく衰弱している、外層にいるせいだろう。早くここから離れなければ……。
「ご、ごめんなさいお姉ちゃん……」
「ううん、気にしないで!それよりもノラ、私の腰にしっかりとつかまって!全力でここから離れるよ!!」
「わ、わかった!」
ぎゅーーっと腰にしがみつくノラ、それを確認して左手をノラの腰に回して翼に力を込めて飛び上がろうとした……――――ができなかった。
「――――――ッ!?何が!?」
翼を見ると四枚の翼すべてに黒色の鎖が巻き付いており、飛行を妨害されている。
「だから言ってるだろう?逃がさないっと」
「くっ……!」
大天使を縛り付け動けなくするほどの鎖はほとんど存在しない。
あるとすればそれは天使にとっての大敵、悪魔種のロストマジックのみ。
「この鎖、まさか……ゼノ!あなた悪魔種と手を組んだの!?」
天使の対となる存在で悪魔領と呼ばれる魔界とは少し違った地下世界に住み、人間を誘惑し堕落させたり争いを起こさせたりする存在。
そして悪魔にも上位種がおりそれが大悪魔と呼ばれる存在で大悪魔もまた悪魔側のロストマジックを使用することができる。
今レフィーを縛り付けている魔法もまた大悪魔が使用できるロストマジック、天縛の鎖。相手を縛り付け生命力を奪う設置型の魔法だ。
「そうさ!俺の知り合いに大悪魔がいてな、そいつにお前を消すために手を貸してくれと頼んだら快く快諾してくれたんだ」
「あんたそれ本気で思っているの!?悪魔は私たちの大敵なのよ!?それに奴らはとても狡猾だって先生から習ったでしょ!?あなた絶対騙されてるわよ!?」
「そんなこと知ってるさ!ただな?悪魔は約束は守るんだよ、あいつらプライドだけは高いからな。その悪魔がそれも大悪魔が自分の名に懸けて俺を天使種の王にしてくれると約束してくれたんだ。だから俺はあいつらと手を組んだ――――邪魔なお前を消すためにな!!」
「……」
ノラを自分に抱き寄せながら悪魔の気配を探る。
ただ、どこにも悪魔らしい気配は感じない。やはり、外核があるから外部からは入っては来れないのだろう。
悪魔に関しては今は気にしないでおこう。それよりもこの鎖を早く解いてノラだけでも逃がさないと!
「お姉ちゃん……」
「大丈夫よノラ。お姉ちゃんに任せておきなさい」
レフィーは天縛の鎖に対抗するためのロストマジックを唱える。
「天使の羽衣!」
レフィーの周りに白い羽がひらひらと降り注ぎ、その羽が鎖に触れた瞬間鎖が消滅し始める。
「な!?なんなんだその魔法は!?」
「あなたじゃ絶対に使えない魔法よ」
鎖が完全に消え、空に飛びあがる。下に見えるゼノ達は無視して城へ向かおうとしたその時だった。
「いけません、いけませんよ~それは。誰があなたたちの退場を許可したというのですか?」
「は……?」
耳元で聞こえた声、気づくことに遅れてしまったがために対応が遅れる。
ザクッという音と共にレフィーの腹部に重い痛みが走り、黒くドロッとした血が口からこぼれる。
「―――ッ!?」
重い首を下に向けると自分の腹部に深々と突き刺された血で真っ赤になった槍が見えた。
「お、おね……お姉ちゃん!」
「それでは主演者は主演者らしく舞台にお戻りください」
落ちる衝撃に備えるためノラを抱きしめ自分をクッションにするために地面に背を向ける、その時に見えた。
空と言う空間にポツンと一つ真っ黒な靄のようなものが浮かび、そこに悪魔の顔が一瞬だけ見えた。
「くっ……そぉ……」
自分の羽をクッション代わりに背で着地の衝撃を受けたためダメージはそこまでなかったが傷が悪化し吐血してしまう。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
ぼやけた目で見える景色は泣きながら自分の名前を呼ぶノラとその後ろから気味の悪い笑みを浮かべて近寄ってくるゼノ達の姿だった。
「ノ……ラ……逃げ、て……」
「いやーーー!!!!嫌だ!嫌だ!!お姉ちゃんを置いて逃げるなんて嫌だ!!!」
「お願い……ノラ……!」
「ハハハッ!いや~まさかバルゲロ様が見ていらっしゃったとは!危うく取り逃すところでした、ありがとうございます!……さてノラ、一つお前の命が助かる良い提案をしよう。俺の嫁になれ!俺の嫁になるのならお前の命だけは助けてやろう!」
(こ……こいつ!なんてゲスな……くそ……体が思うように動かない……)
「いやーーー!!!絶対に嫌だ!!お姉ちゃんにこんなことする奴なんか大っ嫌い!!!」
ノラ……。
「はあ~~~、せっかく助けてやるって言ってんのによ……。仕方が無い、そんなに姉と一緒がいいのなら姉と同じ場所に送ってやるよ」
「――――!や……め、ろォ……」
動けないと悲鳴を上げる体に鞭を打ち、右手を上げて魔法を使おうとした―――ができなかった。
レフィーが刺された槍にはアンチマジックの回廊が組み込まれており、刺された本人による魔法を阻害してしまう魔法師殺しの槍だったのだ。
「く……そぉ……!!な、んで!なんで出ないんだよォ―――!!」
そんなことを知らないレフィーは魔法を発動することもできず、無力感に苛まれながらただ大切な妹が首をはねられるところを見ていることしかできなかった。
「あ、あ……ああああああぁぁ––––!––––ノラ……ノラあぁ……!」
「クハハハハハッ!ああ、お前のその顔が見たかったんだよ!絶望しきったその顔がァ!」
「ゼノォ――――!!!!」
血を吐きながらもそれでも叫ばずにはいられない。ゼノへの怒りで感情が埋め尽くされる。
「今のお前に何ができる?それにお前はもう時期死ぬ運命だ。お前じゃもう俺を殺せない」
そう言ってゼノは右の脇腹を思いっきり蹴り飛ばす。
抵抗することのできないレフィーはけられた衝撃で血反吐を吐きながら外層から突き落とされる。
「くそ……くそぉ……!」
(ああ、ごめんねノラ。こんな不甲斐ないお姉ちゃんで……もしお姉ちゃんにあなたを守れるだけの力があればあなただけでも助けられたかもしれないのに……ごめんね、ノラ……)
落ちていく天使、その天使は手を伸ばし何かを掴もうとするがもう届くことはない。
羽は落下の衝撃でもげ、腹部には穴が開き、起きている体力も残っていない。
天使は静かに目を瞑る、そしてゆっくりと意識が堕ちていく。彼女の目にはもう何も映らない。
ザザッ――!と直人の頭にノイズが走り、気がつくと目の前に先ほど殺されたはずのレフィーがこちらの顔を覗き込んでいた。
「あのぉ~大丈夫ですか、直人さん?」
「はあ……はあ……あ、ああ大丈夫……だ」
実際に自分が体験した出来事のように鮮明に記憶が残っており、自身が刺されたわけでもないはずなのに腹部に異様な痛みが渦を巻き、額から嫌な冷や汗が溢れ出す。
「ほ、本当に大丈夫ですか、直人さん!?」
「はあ……はあ……はあ……―――すまん、やっぱ少しだけ休憩させてくれないか」
「あ、わかりました!直人さんはそこの木陰で休んでいてください!私、ちょっと近くの川から水を汲んできますね!」
そう言い残すとレフィーは森の奥へと入っていったため直人はレフィーに言われた通りに傍の木陰に腰を下ろす。
「大丈夫ですか、直人様?」
「ああ、にしてもクッソ胸糞の悪い話だったな」
「はい……」
「それで?バグっていうのはあの大悪魔のことなのか?」
大悪魔、先ほどの追憶に現れ、あのクソ天使と手を組んでレフィーを嵌めた相手、名前は確かバルゲロとか呼ばれていたか。
「はいそうです」
「やっぱりか……」
「私も予想外でした。本当は悪魔種に大悪魔などの種族を作った覚えはなかったんです。そしてさらに予想外だったのが大悪魔が大天使であるレフィーさんを攻撃できたことです」
「というと?」
「大天使とは神の使い、つまり私の分身体でもあるわけです。私の分身体であるのですから基本的に未熟であっても悪魔種であれば攻撃は一切通りません、例えそれが魔法師殺しの槍だったとしてもです」
つまり大悪魔の誕生、それと大天使の殺害、この二点がおかしな問題だったというわけか。
もしそれが本当の話なのであればどうやって生まれ、そしてその力をどうやって手に入れたのか、その疑問が大きくなる。
「本当にどうなっているのか、その原因はわかりませんが私はバグだと判断したため処分しました。その判断が間違っていたとは思えませんが時期尚早だったとは言わざるを得ませんね……」
「まあ過ぎたことは仕方がないさ、それよりもこれからのことを考えよう」
多分このクエストのクリア条件はあの大悪魔、バルゲロの討伐となるだろう。
情報が少なすぎるが戦わないといけないことは明白なため今ある情報だけで何とかレイシスと対策を話し合う。
そうこうしていると、レフィーが竹のような筒いっぱいに酌んできた水を持って森の奥から帰ってきた。
「ただいま戻りました直人さん!こちらお水です、どうぞ!」
「ありがとう、いただくよ」
持ってきてもらった水を口に含み、ほっと一息息を吐く。
「落ち着きましたか?」
「ああ、ありがとう」
「いえいえ、それじゃあ向かいましょうか」
「ああ」
大悪魔の対策をレイシスと考えながら直人はレフィーの後をついていくのだった。
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