もう一つの世界
直人が目覚めるとそこは完全な別世界だった。
先ほどまでいたじめっとした洞窟などではなく、サンサンと照らす太陽に見渡す限りの原っぱが広がり、また空気が薄いのか呼吸がしづらい。
「はあ……はあ……この呼吸のしづらさ……普通にいる分には活動できるが走ったりましてや戦闘するってなると相当きついぞ……」
「私、呼吸しないのでわからないのですがここ、そんなに空気が薄いんですか?」
「ああ、山を登っている時の山頂付近の空気層に似ているな」
直人は喉を抑えながら安定した呼吸を行うためゆっくりと深呼吸をし始める。
なるべく早くこの場所に慣れるため、浅く吸わないように深く空気を吸い込んでいると空気の質が一瞬で変わる。
「―――ッ!?」
どんよりと重い空気が全身にこびりつくようにまとわりつき、嫌な汗が頬をつたうのを感じ取る。
「直人様、あそこ!!」
レイシスの見ている先にこの空気をもたらした元凶がいた。
「気持ち悪ぅ!?」
そこに居たのは人面花とでも呼ぶべきか、ラフレシアのような大きな花弁の真ん中に人間の苦しんだ顔のような悲痛な顔がくっついており、花弁の下からは木の根やツルとは似ても似つかないようなおぞましく生理的に受け付けられない気色の悪い触手が無数に生えた化け物がそこに居た。
「直人様来ます!」
「ギョ……ギョギョギョエエエエエ」
「鳴き声まで気持ち悪いな!!」
こっちに気づいた人面花は奇声をあげてこちらに突っ込んでくる。
でかい図体のわりに人面花の動きが意外に早くステータスを閲覧する時間がないため武器を亜空間倉庫から取り出して装備する。
【目黒直人は愚苦蛇のナイフ、名もなき英雄のブーツ、ウェザードラゴンの首飾り、賢者のピアスを装備しました】
「まあスキルの試し打ちには丁度いい相手か」
「強さがわからないのが不安材料ではありますが今の直人様なら勝てます!!」
「いったいその自身はどこから出てくるんだよ……」
レイシスに呆れつつも獲得した能力アップ系統のスキルをすべて発動する。
【身体能力強化Lv2】
【ステータスアップLv3】
【素早さ上昇Lv3】
【体力上昇Lv3】
【攻撃力上昇Lv1】
【脚力上昇LvMAX】
スキルを発動するとスッと直人の全身から力が溢れ出す。
戦闘態勢に入り改めて取り出したナイフを握り直すとさらにとあるスキルが発動する。
【スキル万能武器種が自動発動します】
スキルの発動に合わせて自動的に体が動く。
直人はその状態で一歩踏み出す、すると一瞬にして人面花の背後へと移動する。
「ギョ……ギョエ?」
突然目の前から姿を消した直人を探し辺りをキョロキョロと的外れな場所を探す人面花、そんな無防備な背中に直人は亜空間倉庫から取り出した愚苦蛇のナイフで切りつける。
「ギュギョエエエエエェェッ――――!!!」
切りつけた背中にある触手部分から黄緑色の血がとめどなくあふれ出し人面花が苦しみの声を上げる。
「はあ……はあ……きっついな……」
「だ、大丈夫ですか、直人様!?」
「ああ、……はあー、それにしてもすごいな、このスキルとアイテムたちは―――」
直接戦闘という面を見ればこれが初の直人にとっての戦闘だ。そんな初戦にもかかわらずここまで動けたのはもちろん進化によるステータスの上昇の面もあるが今直人が装備しているアイテムの恩恵と発動したスキルによるものが大きいだろう。
「さすがガチャ産と言うべきか相手の行動パターンを予測し、次に行動するべき最適解を導き出すS級の賢者のピアスに切ったところから猛毒を付与し切られたところからとめどなく出血を促すB級の愚苦蛇のナイフ、そして初めて持つ武器でもベテランのように使いこなすことができるようになるスキル、万能武器種―――これらがあれば一対一の戦闘ではまず負けないだろうな……」
そのほかにも直人が装備した名もなき英雄のブーツ、ウェザードラゴンの首飾りにももちろん効果はありブーツには自身の速度を、首飾りには自身の攻撃力を上げる効果が付与されている。
「これ、このまま放置していても倒せますかね?」
「倒せると思うぞ、主に出血多量でだがな」
この愚苦蛇のナイフには出血の付与以外にも動くたびに毒の巡りを速くする効果もあるため暴れまわっている様子を見るに時期に息絶えるのは目に見えている。
「ただまあずっとこの叫び声をあげ続けてほかの敵を呼び寄せられても厄介だしとっとと始末してしまうか」
このナイフに切られる苦痛は相当なものらしく人面花は地面をのた打ち回りながら耳を割るような悲鳴をあげ続けている。
どこまで届いているのかはわからないが結構な範囲届いていることは叫び声を聞けばわかるためほかの敵にこの叫び声を聞かれて集まられても困るためさっさと始末をつける。
ザシュ――――
「ギョ……?エエエエェェェ……ェ……」
ドスンと派手な音をあげ顔から倒れこむ人面花、気色の悪い触手はシナシナと縮こまっていき直人が生死の有無を確認する頃にはピクリとも動かなくなっていた。
「初戦闘にしてはあっさりだったな」
「それは直人様のスキルと装備が強くなりすぎたせいですよ!」
「そうだな、あまりこれらに頼りすぎるのはよくはないだろが今はそんな四の五のいてられる状況じゃないからな……」
改めて辺りを見渡して見てみる。
あるのは人面花の死骸とその奥の方に木々の生い茂る森、その反対側には軽い丘になっている草原、スキルに頼らずに見える範囲はその辺りだ。
「さて、ここがどこなのかもわからないがこれからどこに行くべきか……」
「標高が高いせいなのかはわかりませんがここは空気が薄いですからね……。さらに標高が高くなってしまう草原方向はやめておいた方がいいかもしれないですね」
レイシスの言う通り空気の薄さは今も直人にとって結構な深刻な問題であり、直人もどちらかといえば森方面へ足を向けるのには賛成だった。
「じゃあとりあえず森方面に進んでみるか」
「ですね!」
二人は人面花の死骸を超え森へと足を向けた時、飛行機が通ったときのような空気を割るような音が直人たちの頭上から聞こえてくる。
二人が慌てて音のする後ろを振り返ると見覚えのある顔が空を羽ばたいていた。
「うそ!人面花が死んでる!?あんな凶悪な魔物をどうやってって……―――あなたたちがやったの?」
空を飛ぶ少女はガチャで引いたあの女性、レフィー・アドラスを十歳ほど若返らした姿に瓜二つだった。
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