視る妖精
「ところでジョーの兄貴、可愛い狼娘っ子がいねぇけど、今日は留守番かい?」
「いえ、今お使いをさせています。果物を買いにね。マルさんの肉入り料理が食べられない妖精達の食事ですよ」
「あ~あ、成る程な。どうりでジョー兄貴に何時もくっついている妖精も居ない訳だ」
「はい、一緒に行ってますよ。好きな果物を選んでいるのだと思いますよ」
「でも、この広場にも悪党が彷徨いてねぇ訳じゃねぇから、狼娘っ子と妖精だけじゃ危なくねぇか?」
「はははは、ご心配無用です。強力な用心棒の狼が一緒ですから」
「ああ、成る程な。そりゃフェンリル様が一緒なら、余程の馬鹿でもちょっかいは出さねぇな。はははは……」
すると、噂をすれば何とやら……。
コロコロと小さな箱車を引きながら、フェンリルに跨ったコロニと妖精二人が帰ってきた。
小さな箱車には果物だけでは無く、何故か沢山のお菓子も積み込まれている。
「主様、屋台の店主さん達がコロニちゃんへ、お使いのご褒美だと言って沢山くれたのです!」
「へえ、コロニは中央広場でも人気者だね」
「コロニは可愛い」
ケサラの報告で沢山の菓子の理由が判った。
そして、それをパサラが自慢げにコロニを称える。
コロニの可愛い尻尾が激しく左右に振られ、その尻尾の揺れに同期するかのようにフェンリルの尻尾も左右に大きく振られた。
"九ノ一"のウメとヒタキの尻尾も、まるでコロニに共振したかのように振られている。
これはウメやヒタキから聞いた話だが、"九ノ一"のメンバーは意識すれば尻尾を自由に制御できるのだが普段は無意識なので勝手に振られてしまうのだとか。
そんな修行まで"九ノ一"は行うのか……。
それだけは、コロニには修行させないで欲しいものだ。
コロニの買ってきた果物を手際よく皮を剥いてから、食べやすくカットする"九ノ一"達。
見様見真似でコロニも自分の89式多用途銃剣を用いて皮剥きとカットを行う。
"九ノ一"のメイド達は89式多用途銃剣をスカートの中に隠して装着している。
しかし小さなコロニは、背中に89式多用途銃剣を背負っておりまるで剣のようだ。
89式多用途銃剣の扱いに関しても、しっかりと"九ノ一"達が仕込んでくれたから、慣れたもので危なっかしくもない。
そしてブドウなどは、そのまま器の皿に盛りつける。
そのブドウを盛りつけた皿には、既にケサラとパサラが降り立ちブドウを美味しそうに食べ始めていた。
二人の妖精だけでは当然ながら食べきれない量の果物なので、我々も頂くことにする。
「うん、甘くて美味しいブドウだね。みんなも頂くと良いよ」
「ジングージ様、その前にコロニちゃんとフェンリル様へ、お料理を頼んであげないと……」
「おっと、そうだったね。ごめん、ごめん。ミラに言われるまで気づかなかったよ。コロニ、何でも好きなモノを頼んでね。フェンは何が良い?」
『神宮司さん、私は皆さんと同じ料理で構いません』
「そうなの。肉を多くしてもらおうか? 肉、大好きだよね?」
『ありがとうございます。コロニも肉が好きなの、そうして下さいますか?』
「うん、判った。マルさん、お好み焼きの肉多めを追加ね」
「あいよ、コロニちゃんとフェンリル様用じゃ肉も上等なのにしておくな」
「ありがとう。良かったなコロニ」
コロニは笑顔で何度も頷く。
もちろん、尻尾は激しく振られている。
フェンリルの尻尾も同様だ。
お好み焼きはフェンリルも大好物で、どうも俺の元居た世界の料理が好物らしい。
コンビニで買ったカツ丼弁当が一番の好物なのだが、カレー弁当も捨てがたいと本人が言っている。
もっとも最近では、俺の作った鶏の唐揚げが人気急上昇中だ。
既に作り方は"九ノ一"達やベルにも教えて有るので、頻繁に食卓に出てくる。
そのうち、屋台でも売られるようになるのは間違い無いだろう。
合わせて大人気なのがタルタルソースだ。
マヨネーズを作った段階でも大好評だったが、それを応用したタルタルソースは更に大好評で、鶏の唐揚げとのコンビは最強となっている。
新鮮な卵さえ手に入ればマヨネーズもタルタルソースも手間はかかるが簡単だ。
特に体力、腕力に優れている"九ノ一"の獣人メイド達やベルにとっては、朝飯前の撹拌作業だった。
そして既にマヨネーズは、マルドックさんの屋台でも使われており、お好み焼きに無くてはならない調味料になっている。
フェンリルは特にマヨネーズが大好物だ。
マヨラーの神獣フェンリルとは、益々フェンリルの評価が俺の脳内では絶賛降下中となっている。
そんなたっぷりのマヨネーズが乗った肉のはみ出たお好み焼きがテーブルに運ばれてきた。
未だ相当に熱いはずだが、熱さも気にせずフェンリルはお好み焼きにかぶりつく。
流石にフォークやナイフを仕える訳ではないので、そのまま皿から食っている。
フェンリルの口の周りはスベニの特製ソースとマヨネーズで、もはや大変な事になっていたが、そんな事は全く意に介すことなく、ガツガツと食い続ける神獣フェンリル。
コロニはと言うと、ちゃんとフォークで小さくしてからフーフーして口へ運ぶ。
そして一口食べる度に、故他方のてで自分のほっぺを押さえて微笑む。
パサラが「コロニ美味しい」と通訳しているが、その通訳も不要な程にコロニの尻尾が左右に振られる。
もちろん、皿から直接大胆に食しているフェンリルの尻尾も当たると怪我をしそうな勢いで振られているのは言うまでもない。
美味しい料理を、家族や仲間と一緒に食べる幸せをより一層感じる一時だ。
そんなコロニとフェンリル、そしてケサラやパサラの微笑ましい食事姿を見ていると、シエラ・ザード姫が口を開いた。
「ジョー様、妖精と契約している事はお聞きしましたが、狼人族の少女と一緒にいる妖精とも契約しているのでしょうか?」
「いいえ、自分が契約しているのはケサラだけです。パサラはコロニと契約しているのです」
「……それでは二人は念話で会話していると?」
「そのとおりです。コロニは生まれた時から喋れません。パサラも生まれた時から耳が聞こえません。二人はお互いを補完しあっているのですよ」
「そうなのですか。ガウシアン帝国にも妖精族が住んでおりますが、この子達と違って人族の言葉を喋ることはできませぬ」
「え? では念話だけですか?」
「そうです。ただ、その狼人族と契約している妖精が耳代わりをしているように、妖精が見たものをそのまま念で伝えてきたりもします」
「それは、もしかして視力を念で共有するということですか?」
「そのとおりです。かなり離れていても念話と同じく通じるので、斥候兵は妖精と契約できる者が徴用されます」
「ケサラ、今のシエラ・ザード姫の話、知っていたかい?」
「いいえ、主様。私達の仲間では視力を共有して念で伝える事はできませんです」
「ふーん、妖精の種族によっても能力が違うという事かな」
「そうです。そうだと思いますです」
俺はシエラ・ザード姫からの視力を共有する妖精の話を聞き、直ぐにレティシア姫の方を見た。
レティシア姫は俺に視線を感じ取ったのか、俺の方を向いて微笑む。
「ジングージ様、お考えの事は良く判りますわ。でも遠いガウシアン帝国のある南の大陸へ私が行くなど無理でございます」
「レティシア様、私めがお供いたします故、ガウシアン帝国まで行きましょう!」
「ローラン、気持ちは嬉しいのですが、そんな外洋を超えて旅できる船は、イサドイベにはありません」
「くっ……姫様!」
「イサドイベの姫よ、ガウシアン帝国まで行きたいのであれば、妾の船を貸すぞ」
「シエラ・ザード姫、お気持ちだけ有り難く頂いておきます。でも多くの方々にご迷惑をお掛けしてしまうのが、最初から判っている旅。私にはそんな危険を冒すことは出来ません。ましてや、妖精との契約は非常に困難だとも聞いております故……」
「確かに妖精との契約は難しい。妾も幼少の頃に契約しようとしたがあっさり断られた」
「姫様、あの妖精は特に気難しい性格だったからでございます」
「よい、よい。契約出来なんだは妾だけではないからな。逆にジョー様のように、こともなく契約してしまう方も居られる」
「自分の場合は……」
「ケサラの方から主様にお願いをして契約してもらったです!」
「な、なんと……妖精の方からとな。流石、我が夫となる勇者様!」
「な、なにが我が夫ですか。寝言は寝てから言いなさいまし!」
「ふんっ。貧しい乳の……」
「はい、はい、そこまでです。仲良くしないと、もう一緒に食事はしませんよ」
「「ぐっ……」」
これは益々ガウシアン帝国へ行く必要がある。
視力を共有できる妖精とレティシア姫が契約できれば、彼女は視力を得ることが出来るのだ。
それは、レティシア姫の今後の生活を考えれば、絶対に必要な事だ。
妖精との契約は難しいと言われてはいるが、俺の場合やコロニの場合にはいとも簡単に行えた。
既に妖精と契約している仲間がいると判れば、契約のハードルも下がるかも知れない。
よし、ガウシアン帝国まで行こう。
なにしろ送り届けない限りは、自分からは絶対に帰ろうとしない頑固なシエラ・ザード姫だ。
とは言え、海を渡るには準備が不可欠だ。
俺は新たに追加された装備を、一体どうやって運用すれば良いかを考えあぐねていた。
外洋を渡る船を運用するには、大勢の乗員が必要不可欠なのだ。
それは、この世界の大型船であっても俺の元居た世界の護衛艦であっても同じ。
いや、護衛艦を運用するには、今の仲間達でも不可能なのだ。
可能だとしても、可能になるまでの運用技術を習得するには長い年月を要してしまう。
護衛艦の運用は、そう簡単にできるものでは無いのだ……。
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