コナモン再び
「ところでフーリエ艦長にお聞きしたいのですが、ガウシアン帝国から港湾都市イサドイベまでの航路で、途中に寄港したりしているのですか?」
「いいえ、無寄港です。途中に大きな島などはありませぬ故」
「小さな島はあるのですか?」
「言葉が足りませんでした。岩礁程度しかございません」
「そうなのですか。無寄港での長旅は大変そうですね」
「外洋での航海に慣れていれば、それ程でもありません。激しい海流などもありませんので」
「なるほど……。勇者コジローさんは、仲間の方々と航海したのでしょうね……」
「はい。そうだと思います」
西住小次郎大尉殿が、旧陸軍の保有していた揚陸艦の神州丸か、あきつ丸でガウシアン帝国まで行った史実。
恐らく東へ向かっての航海がメインだったのだろうが、南下してガウシアン帝国まで足を伸ばしたのだろう。
そして、フーリエ艦長からの情報で港湾都市イサドイベからガウシアン帝国までの間、寄港できる島は無い事も判明した。
実は、スマートフォンによるマップ表示でガウシアン帝国までの航路を調べようとしたのだが、何故か途中の海上から何も表示されなくなってしまったのだ。
現在位置からある程度離れた場所はマップ表示が出来ない仕様なのだろう。
東の果てのアズマ国も大陸の頭注から何も表示が出来ないのだ。
ガウシアン帝国まで空路で行こうとすれば、途中で燃料補給は不可欠だ。
しかし、ヘリコプターが着陸できる島もないとなれば、やはり船に頼らざるを得ない事が判明した。
ガウシアン帝国に用が有るわけではないので、なにも行く必要は無いのだが……。
正直な話、押しかけ女房的なシエラ・ザード姫を始めとする使節の方々を送り届けたかった。
更には、西住小次郎大尉殿の足跡も辿ってみたかったし、なによりもゲルセミと呼ばれる女神様の詳細が知りたかったのだ。
全く姿が同一なのに、何故に名前が異なるのか。
いや、同一の女神様なのか、別の女神様なのかも知りたかった。
少なくともフノス様のお名前は、シエラ・ザード姫や、使節の面々は誰一人として知らなかったのだ。
俺が会ったフノス様は、確かにこの世界を「自分の管理する世界」と仰った。
そうなると、ゲルセミ様の管理する世界が別に有り、そことは空間が繋がっているということなのか。
考えても判らないことなので、やはりガウシアン帝国まで行って確かめる方が早そうだ。
そんな事を考えているとそろそろ昼食の時間なので、みんなで中央広場へと向かう事にする。
「そろそろ昼時だね。久々に広場の屋台でお昼ご飯にしようか?」
「うん、久々にマル兄貴の屋台へ行こうよ」
「そうでしゅね。マル先輩のお好み焼きが食べたいでしゅ」
「……たこ焼き」
「良いですわ。私は、久々にクイティアオをいただきますわ」
「僕は、ぅどんが食べたぃな」
「やっぱり、みんな"コナモン"だね。ミラも一緒に行かないか?」
「お兄ちゃんも行くのなら……司教様、宜しいでしょうか?」
「行ってらっしゃい、ミランダ。ジングージ様、宜しいでしょうか?」
「もちろんですよ。マーガレット司教も、ご一緒に如何ですか?」
「いえ、私は子供達の昼食の支度もありますので……」
「では、また今度という事で。たまにはマルドックさんの屋台へも、お出かけしてやって下さい」
「はい、ジングージ様にご心配いただいて、あの子も幸せ者でございます」
「あっ、いや……。マルドックさんも孤児院出身ですから、マーガレット司教の息子さんのようなモノでしたね。ははははは……」
「ジョー様は、屋台などで食事をとられたりもなさいますの?」
「はい。友人のやっている屋台なんです。故郷の料理を作ってくれますし、自分の好きな料理も作っていただけるのです」
「帝国の姫はご存じないでしょうが、コナモンと言って美味しいお料理ばかりですのよ。先代の勇者様が伝えた料理や、ジングージ様が広めたスベニ発の料理ばかりですの」
「そ、そうなのですか。では妾も頂きましょう。楽しみですわ」
「お口に合えば宜しいのですが……。リズさんと来るのも久しぶりですね」
「そうですわ。以前はサンダースの愚か者が邪魔をして、本当に申し訳ありませんでしたわ」
「あははは。そんな事も有りましたね。そう言えば、サンダース卿は元気でしょうか」
「父上の警護で忙しいらしいですわ。何でもゴライアス殿と再戦をしたとか……」
「えっ! ゴライアスさんと再戦ですか? で、勝敗は?」
「今回も引き分けだったそうですけど、ゴライアス殿の"鉄壁の盾"の防御力が向上して苦戦したとか……」
「あぁ、成る程……。流石、サンダー・ドラゴンの鱗の効果ですね」
「サ、サンダー・ドラゴンの鱗ですか?」
「はい、大量に手に入れたので、ゴライアスさんに差し上げたのですよ」
「……さ、流石ジングージ様ですわ」
「ジョー様、サンダー・ドラゴンを、倒されたのでしょうか?」
「いいえ、残念ながら倒すことは出来ませんでした。しかし、部位や鱗は大量に手に入れましたので……」
「そうなのですか……サンダー・ドラゴンが倒されていればと思ったのですが……」
「シエラ・ザード姫? ガウシアン帝国へも、サンダー・ドラゴンが襲来するのですか?」
「はい。何年かに一度、帝都の近くにある古代遺跡を襲撃に来るのです。その際に、帝都も攻撃してくるのですわ」
「そうですか……。次に遭遇した時は、必ず葬り去ってやります。次こそは絶対に逃がしませんよ」
「流石、妾の夫。頼もしいお言葉ですわ」
「な、何が夫ですか、戯言もいい加減になさいませ、帝国の姫」
「……貧しい乳の……」
「はーい、そこまでにしておきましょう。屋台に着きました!」
「……くっ」
「ジングージ様……」
「マルさん、ご無沙汰! 元気してました?」
「よっ! ジョーの兄貴、久しぶりだね。いや、何だかお仲間が増えてる?」
「うん、ガウシアン帝国からの使節の皆さんが一緒なんだ」
「なるほど……。それにしても美女揃いだな。アンやベルも霞んじまうなあ」
「マル兄貴、どういう意味かな?」
「マル先輩、ひどいでしゅ……」
「さあ、さあ、みんな好きなのを頼んで。今日は奢るよ!」
「「「「「やった!」」」」」
中央広場の一画にある"コナモン"ばかりの屋台コーナー。
マルドックさんが元々やっていたお好み焼き。
そして俺が孤児院の子供達へ伝授した、たこ焼き。
さらには、うどんやクイティアオなどの汁付のコナモン。
お好み焼きは、俺のアドバイスで中の具のバリエーションが増えた。
と言うよりも俺好みのアレンジされた、お好み焼きの種類が増えたのだ。
それらを一斉にアンやベル、ナークやミラとロックらが注文する。
同行している"九ノ一"のメンバーやサクラも思い思の"コナモン"を注文。
エリザベス姫もなれたもので、クイティアオを注文している。
以前、スベニを訪れた事のあるレティシア姫も、思い出すようにお好み焼きを注文した。
そして初めての屋台なのだろう。
戸惑うシエラ・ザード姫を初めとするガウシアン帝国の使節団の面々。
俺が全品を注文するので、少しずつ食べてみるように提案する。
するとメイド頭の女性が、毒味をした後にシエラ・ザード姫へ食べて貰うと言う。
俺は、その提案を受け容れてマルドックさんや、他の屋台へ注文を出した。
暫くするとそれぞれの屋台から、焼きたて、出来たての"コナモン"料理がテーブルの上に並べられた。
各自、自分の注文品が届くと「いただきます!」と言って「ふーふー」と冷ましながら食べ始める。
同様にガウシアン帝国のメイド頭達も手分けして冷ましながら毒味をしていく。
なんだか、役得な毒味役だ。
あまり冷まし過ぎないようにとメイド頭伝えてると、冷めない内にシエラ・ザード姫の口にも、お好み焼きが届く。
スベニ特製ソースのかかった、お好み焼きを一口食べたシエラ・ザード姫。
「お、美味しいですわ!」
「お気に召して幸いです。その料理は勇者コジローさんが狼人族に伝えたものです。そして、ソースは自由交易都市スベニの名物ソースなんですよ」
「勇者コジロー様の……。それはジョー様のお国のお料理でしょうか?」
「はい。ここの屋台の料理は全てそうです」
俺の言葉に納得した表情をみせ、更に嬉しそうにお好み焼きを食するシエラ・ザード姫。
フーリエ艦長や他の従者達も、同様な表情を見せて目の前の"コナモン"料理を頬張る。
俺も、たっぷりとスベニソースのかかった肉入りお好み焼きを口に運ぶのだった。
読者の皆様の応援のお陰で拙作『目指せ!一騎当千 ~ぼっち自衛官の異世界奮戦記~』の書籍化を、ご報告できる事になりました。
書籍は集英社様のダッシュエックスノベルからの発刊です。イラストは「機巧少女は傷つかない」などのイラストを描いておられる、るろお先生が描いて下さいました。
詳細は活動報告を、ご覧頂ければ幸いです。本当に有り難うございました。
舳江爽快




