地上戦開始
午前零時を過ぎ、無限収納からの召喚制限がリセットされた。
直ちに追加の戦闘車両を召喚する。
召喚した戦闘車両は、10式戦車、16式機動戦闘車、の二輛。
二輛の戦闘車両が召喚されると、直ちにツバメ、ホタル、マユ、そしてイズミが駆け寄って乗車した。
更に、既に召喚してある守護者ゴーレム四体が、ロックの操る指揮者ゴーレムによって管理下に置かれて待機状態だ。
これで向かって来る魔物のスタンピード軍団を迎撃する。
俺は、召喚してあるAH-64Dアパッチ・ロングボウへ新たなハイドラ70ロケット弾ポッドを召喚して両翼へ装着した。
後部座席のメインパイロット・シートにはナークが既に搭乗しており、何時でも飛び立てる状態だ。
遠距離攻撃用のロケット・ランチャーも召喚してあるが、これは巨亀の魔獣クールマへの攻撃用に温存する。
しかし、ロケット攻撃が魔獣クールマに対して、どれだけ有効なのかは全く判らない。
これは、雷竜との戦闘経験から、最新式の現代兵器であっても、この異世界の魔獣には致命的な攻撃を与えられない事が判っているからだ。
だが、今はそんな不安よりも向かってくる魔物のスタンピードを迎撃しなければならない。
『全員へ連絡。これより魔物の迎撃行動を開始する。各自、作戦どおりに行動を開始してくれ。送れ』
『了解だよ、アン発進するよ!……ザッ』
『了解でしゅ。ベルも発進しましゅ!……ザッ』
『主様、マユも発進致します!……ザッ』
『同じくホタル、発進します!……ザッ』
『了解、みんな気を付けてな』
陸上自衛隊の最新戦闘車両部隊が、第一陣として出撃する。
夜間での戦闘能力に優れ、進行速度も速く火力も強力だ。
『ロック、守護者ゴーレムを進行させてくれ。送れ』
『了解です。火と風の守護者ゴーレムを最高速度で走らせます。……ザッ』
『それじゃ、ロックも頼んだよ。送れ』
『はぃ、指揮者ゴーレム発進します!』
二体の火の守護者ゴーレムと、同じく二体の風の守護者ゴーレムが勢いよく走り出す。
地面からは、守護者ゴーレムが起こす地響きの振動が伝わってくる。
そして、ロックの操る指揮者ゴーレムも巨大な魔剣を片手に携えて走り出す。
『お兄ちゃん、気を付けてね』
『ぁぁ、ミラもな』
ミラの乗る飛行装置は、この場所で待機だ。
万が一、魔物の攻撃で負傷した仲間が出た時には、ミラが直ちに現場へ向かう手筈だ。
飛行装置の速度であれば、連絡が有ってから急行すれば間に合うだろう。
贅沢な空飛ぶ聖女のメディックと言ったところか。
『サクラ、テンダーさん、発進して下さい。送れ』
『主様、了解です。サクラ、発進いたします。……ザッ』
『判ったわい。儂も発進するぞい。……ザッ』
速度の遅いセンチュリオン戦車と、更に遅い八九式中戦車は、最後尾からの発進だ。
『くれぐれも先行する味方の車輌やゴーレムを撃たないでね。送れ』
『主様、お任せ下さい。私は夜目が利きますから。……ザッ』
『主様、ツキでございます。主様のお貸し下さいました暗視装置は、暗闇でもハッキリと先行する車輌が見えますので大丈夫でございます。……ザッ』
『了解。それじゃ頼んだよ。以上、通信終了』
第二次大戦中の戦車では、暗視装置などは標準装備されていない。
サクラは狐人族なので夜でも見える。
しかし、人族のツキには暗闇では視力が落ちてしまうので、個人用暗視装置JGVS-V8を与え88式鉄帽へ装着させたのだ。
夜間の真っ暗闇でも見えると言うと、もちろんテンダーのおっさんが黙って居なかった。
「小僧……ジョー。儂にもその装置を貸すのじゃ」
「判りました、テンダーさん。但し扱いには注意して下さいね。絶対に炎などを見ないで下さい」
「?? 何故じゃ?」
「炎が明るすぎて、この装置が壊れてしまうのです」
「むむ……。では、火炎弾や大砲の爆裂なども駄目か?」
「はい。装置は壊れても構いませんが、目に負担が掛かりますから」
「判ったぞい。どれ……。ぐぬぬぬ! なんじゃこの薄気味悪い緑色の風景は?!」
「それが暗視装置の映像です」
「凄い装置じゃな……しかし、片眼でしか見えんとはな」
「そうですね。両眼用のもあるのですが……今回は、それで我慢して下さい。遠近感がつかめないので操縦には注意してください」
「うむ、判ったぞい」
新しい玩具を手に入れた子供のように、テンダーのおっさんはテッパチに取り付けた暗視装置を嬉しそうに覗きながら八九式中戦車の操縦席へと乗り込む。
八九式中戦車にはレーザー・サイトも装備されていないので、89式小銃用のレーザー・サイトを臨時で取り付けようとしたが、取り付け工作に時間がかかりそうだったので止めた。
下手にガムテープで括り付けても、正確な照準にはならないので、むしろ邪魔になるだけだ。
俺は、センチュリオン戦車と八九式中戦車が発進するのを見送ってからナークへ言う。
「ナーク、俺達も発進しよう」
「……了解。アパッチ発進する」
ナークの操縦で、闇夜へとAH-64Dアパッチ・ロングボウが上昇して行く。
地上には、純白の飛行装置が静かに駐機している。
『ミラ、それじゃ行ってくるよ』
『ジングージ様、ご武運を女神様に祈っております』
『ああ、何かあれば連絡するから、その時は頼んだよ』
『はい、お任せ下さい……いえ、出来れば、私は呼ばれない方が良いですね』
『そうだね、ミラを呼ばないで済むように頑張るよ』
『はい! お気を付けて』
比較的、低空をAH-64Dアパッチ・ロングボウは高速で水平飛行して行く。
既に、先行して発進した10式戦車と16式機動戦闘車を追い越した。
AN/APG-78 ロングボウ・レーダーには、味方の車輌やゴーレムがハッキリと映っている。
特に10式戦車と16式機動戦闘車と指揮者ゴーレムには、C4Iシステムと連携する広帯域多目的無線機(車両用)が搭載されているので、ロングボウ・レーダーの情報も伝わって行く。
そして、ロングボウ・レーダーの35GHz帯のミリ波レーダーが、地上を進行してくる魔物の群を捕らえた。
それは、まるで蠢く雲のような反応だ。
どんな魔物なのかは、ロングボウ・レーダーの反応からは全く判別が出来ない状態だ。
真夜中なので肉眼でも、スタンピード群は全く見えない。
俺は、自衛隊仕様のAH-64Dの独自装備、アローヘッドを機動する。
アローヘッドは、赤外線センサーによるシステムで、暗闇であっても正確に敵を捕捉できる。
言わばAH-64Dアパッチ・ロングボウ専用の赤外線暗視装置だ。
アローヘッドによる赤外線映像には、まるで押し寄せる波のように魔物が押し寄せてくる映像が映し出される。
魔物の種類は、多種多様であるが夜間なので飛行する魔物は見えない。
この状態であれば、バード・ストライクならぬ魔物ストライクによるエンジン損傷やローターの損傷を心配しなくても済む。
スタンピードの先頭は足の速い四つ足系の魔物集団だ。
その後に、ゴブリンや、オーク、そして足の遅いオーガなどが続いてくる。
少しスタンピードの塊から外れた両脇にも、小型の魔物が進行している。
スタンピードの集団の上空を何度か旋回して更に奥へと飛行していくと、集団の切れ間が見える。
そして、その切れ間の遙か彼方に大きな反応をロングボウ・レーダーが捕らえる。
巨亀の魔獣クールマだ。
その進行速度は遅く、この速度であれば未だ攻撃対象にしなくても大丈夫だろう。
再び、スタンピードの集団の上空まで戻り、その集団の規模を全てロングボウ・レーダーが捕らえ終わる。
これらの情報は、C4Iシステムを通して10式戦車と16式機動戦闘車の戦闘用コンピューターへも同時にデーターが送られた。
『アン、ベル、こちらジョー。聞こえるか? 送れ』
『こちらアン、聞こえるよジョー兄い。……ザッ』
『ベルでしゅ。良く聞こえましゅ。……ザッ』
『マユ、ホタル、聞こえるか? 送れ』
『主様、マユです。……ザッ』
『ホタルでございます。……ザッ』
『了解。魔物暴走集団の位置情報は送った。行進間射撃を自動追尾で開始だ。送れ』
『『『『了解。砲撃開始!』』』』
連絡後、直ちに急上昇を行う。
同時に、魔物の集団へ次々と砲撃が着弾して行くのだった。




