燃料切れ
聖都から戦闘車輌でインターセプト・ポイントへ進行している地上部隊は、順調に進行していた。
既に日が沈みかけており、間もなく夜の闇に周囲は包まれようとしている。
上空から進行中の戦闘車両に近づき、その後方へとAH-64Dアパッチ・ロングボウを着陸させると、全車輌が一斉に進行を止めて停車した。
続いて指揮者ゴーレムがゆっくりと隣に着地する。
背中には飛行装置を合体させたままだ。
停車した16式機動戦闘車、10式戦車、そして96式装輪装甲車から、"九ノ一"の面々やアン、ベル、そして最後にテンダーのおっさんが下車し、アパッチ・ロングボウの元へと走り寄ってきた。
待機状態の姿勢へと移行した指揮者ゴーレムから、ロックとミラが指揮者ゴーレムの掌に乗って降りてくる。
俺とナークも、アパッチ・ロングボウのキャノピーを開き、未だ回転しているローターに注意しながら、機体から降りた。
「ジョー兄い、無事で良かったよ」
「ジョー様、ご無事で何よりでしゅ」
「ああ、有り難う。危ない所をロックとミラに助けられたよ」
「えっ! 何があったのですか? 主様?」
「いや、蜂の魔物に襲われたんだ。ナークの防御魔法で助かったけどね」
「……魔物を焼き殺したのはロックさん達」
「蜂の魔物って、大きな針で刺してくるやつだよね」
「アンは知っていたのか、あの巨大な蜂」
「うん、知っているよ。スベニの北の森に居るんだよ」
「あんなのに刺されたら、人間なんてひとたまりも無いだろう」
「もちろんだよ。見たら逃げるさ。でもあの針は素材として高く売れるんだよ」
「で、小僧……ジョーよ。ワイバーンや蜂の魔物はどうしたんじゃ?」
「素材回収なんて、そんな余裕はありませんでしたよ、テンダーさん」
「ふん、捨ててきたのか、情けない。戦いが終わったら回収に行くぞい」
「……無理だと思いますよ……あの巨大亀が踏み潰してしまうでしょうから」
「ぐぬぬ、クールマが居ったのを忘れていたわい……くそっ!」
流石にマイペースが売りのテンダーのおっさんも、あの巨大亀の魔獣クールマには敵わない。
実際、既に撃墜したワイバーンや空飛ぶ昆虫の魔物の多くは、地上を暴走する魔物共に踏みつぶされているし、その屍に食らいついていた魔物も目撃している。
どうせならば、暴走ついでに共食いでもして数を減らしてくれれば良いのだが、何故か暴走中は種族が違っても敵対行動を起こさない。
通常ならば、弱いゴブリンをオークが襲って食うのが当たり前なのにだ。
この妙な現象も、恐らくは悪魔族アナクロンが仕掛けた術によって抑制されているのかもしれない。
「よし、ここを補給基地にして、取り敢えず夕食を取ろう」
「「「「「はいっ!」」」」
俺は無限収納から宿営用のテントや装備を次々と召喚して行く。
それらの装備を、慣れた手つきで"九ノ一"達やベルやアンが手際よく設営する。
食事用の装備の他、今回は燃料補給用の車輌も召喚しておく。
陸自の戦闘車両は殆どがディーゼル燃料だが、センチュリオン戦車や八九式中戦車はガソリン・エンジンなのでガソリン・タンクの補給車輌も忘れずに召喚だ。
加えて、AH-64Dアパッチ・ロングボウ用のジェット燃料補給車輌の召喚も忘れない。
更には召喚可能な弾薬や攻撃兵器は、全て召喚しておく。
センチュリオン戦車や八九式中戦車も召喚した。
この段階で、戦闘車両として戦車が三輛に機動戦闘車が一輛、そして装甲車が一輛だ。
これだけでは、まだ魔物暴走を迎撃するには不十分な戦力なので、更に戦力を増やす。
無限収納から古代遺跡都市で回収してきた守護者ゴーレムを取り出した。
火炎弾を放つ赤目の守護者ゴーレムを二体。風刃を撃てる緑目の守護者ゴーレムを二体。
合計、四体の守護者ゴーレムが戦車隊の横へ整列した。
既に偵察者ゴーレム四体は保養地へ集結させてあるので、そのまま停止させても問題は無い。
保養地は、魔物暴走の進路からは外れているので、被害も全く無い状況だ。
既にロックからは、指揮者ゴーレムで制御出来るゴーレムは、新しくリンクした四体が優先し、古いリンクのゴーレムはリンクが解除されると聞いていた。
守護者ゴーレムは、ある程度の自律行動が行えるので、魔物暴走の撃退には好都合だ。
本当は手持ちの守護者ゴーレムを全数、戦いに投入したいのだが最大で制御出来るのが四体なので、それは出来ない。
後は午前零時を過ぎれば、更に戦闘車両や装備も召喚できる。
魔物暴走の進行速度から逆算すると、深夜を大分回った頃にインターセプト・ポイントへ移動すれば良い。
それ以前に遠距離攻撃によって、可能な限り撃退するのは言うまでもないが。
無限収納の装備品リストを見ながら、召喚漏れがないかを確認して行く。
駄目もとで既に召喚済みの装備を召喚しようとしても、何も現れないだけだ。
おっと、忘れるところだった。
テンダーのおっさんにも、召喚した防弾チョッキやテッパチを着てもらう。
テンダーのおっさんは、渋々ながら防弾チョッキを身につけテッパチを頭にかぶった。
そしてその格好のまま、召喚した八九式中戦車へ乗り込むとエンジンを始動し、いきなり前進を開始する。
少し前進してから、右へと曲がりながら、今度はこちらへと向かって来る。
10式戦車の前までくると、そのまま左へと曲がり10式戦車の前で止まる。
なかなか慣れた操縦で、俺がスベニに残してきた八九式中戦車で、そうとう練習したようだ。
クラッチの繋ぎ方などもミスは無く上手にこなしている。
八九式中戦車の操縦席ハッチが開き、テンダーのおっさんの頭が出てきた。
「どうじゃ、小僧……ジョー。儂の操縦は?」
「上手ですよ、テンダーさん。中々のものです」
「実はな……お前が置いていったスベニにある勇者の戦車、燃料が切れてしまい、動かなくなったんじゃ……」
「えっ? もう燃料切れなんですか?」
「……すまん。楽しくて動かし過ぎたんじゃ……」
「はははは……構いませんよ。スベニに戻ったら、燃料を補給しますから」
スベニで召喚した八九式中戦車は、最初は教会の前で召喚し、それを中央広場まで移動させただけだ。
従って燃料は殆ど満タンの状態だったのだが、それをガス欠になるまでテンダーのおっさんは乗り回したというのだ。
いやはや、操縦が上手になる訳だ。
それにしても、我が家の増築工事現場には、ちょくちょく顔が見えていたのに、よくそんなに乗り回す時間が有ったものだ。
偵察者ゴーレムで、我が家だけではなく、スベニ全体を見て回るべきだったか。
とは言え、燃料切れくらいは全く問題ない。
事故でも起こしたり、住人の家に突っ込んだり壊したりしなくて幸いだったと思う。
そもそもテンダーのおっさんから謝罪の言葉があるとは思わなかった。
恐らくアントニオさんやアルバートさんからは、しこたま怒られたのだろうな。
燃料切れとなった戦車は、人の力や馬の力では動かす事も、ほぼ不可能だから。
そんな憎めないテンダーのおっさんに、俺は思わず笑ってしまった。
俺が笑うと、それに釣られるようにアンやベルも笑い出す。
更にはロックやミラも笑い、あまり笑う事の無いナークまでもが笑っている。
もちろん、"九ノ一"もサクラを始め全員が大笑いだ。
そして、八九式中戦車の操縦席ハッチから、テッパチをかぶったテンダーのおっさん自身も、大きな声を出して笑い始める。
これから壮絶な戦いが始まる前、一時の安らぎをテンダーのおっさんがくれたのだ。
夕食を全員で済ませ、設営したテントはそのまま休息用にして交代で仮眠をとる。
仮眠を取らずに居る者は、それぞれ装備の点検などを行う。
サクラは召喚されたセンチュリオン戦車を丹念にチェックし、エンジンを始動して砲塔の旋回動作などを行っている。
今回、センチュリオンに乗るのは車長と砲手をサクラが行い、装填手を狼人族のウメが担当。
操縦は一見すると日本人女性のようにみえるユキだ。
テンダーのおっさんが操縦を担当する八九式中戦車へは、砲手として人族のツキが乗り込み、装填手は猫人族のヒグラシが担当だ。
このチームの車長はツキが担当なのだが、テンダーのおっさんが大人しく言う事を聞いてくれるかどうかが不安要素だ。
とは言え、もっとも走行速度が遅い八九式中戦車なので、先行する戦車に砲撃さえしなければ問題にはならないだろう。
その辺りは砲撃担当のツキが注意してくれれば良いだけだ。
残っている"九ノ一"のメンバーは、ツバメ、ホタル、マユ、そしてイズミの四人だけだ。
午前零時を回ったら、もう一輛の10式戦車と16式機動戦闘車を召喚して搭乗してもらう事になるが、16式機動戦闘車には装填手が必要だ。
しかし、怪力のマユは一人で装填手と砲撃手を行うと言っている。
普段は重機関銃M2を、まるで89式小銃を扱うかのように使いこなしている強者なので、今回も任せることにした。
むしろ、機関銃の掃射によって小型の魔物を撃ち払ってくれると有り難い。
戦車の操縦は、水魔法の使い手イズミが行う。
もう一輛の10式戦車には、ツバメとホタルが乗り込み運用だ。
二人とも人族だが装填手の不要な自動装填機能付きの10式戦車なので、獣人のような腕力は不要となるのが有り難い。
さあ、間もなく魔物暴走を撃退するための第二ラウンドとなる地上戦の開始だ。




