空中戦
『ロック、こっちは今発進した。そちらの様子を教えてくれ』
『ジョーさん、こちらはワイバーンと交戦中です! 遭遇した地点が悪く、樹海と草原の境の上空です……』
『魔物の数は? ワイバーンの他にもいるのか?』
『ジングージ様、兄は今、魔剣での攻撃中なので、私から報告します。飛行する魔物はワイバーンの他に、昆虫型が無数に飛んでいます。数は多過ぎて判りませんが、魔剣の火炎弾で大分少なくなりました』
『了解した。ワイバーンの方は?』
『ワイバーンに対しては、魔剣の風刃が効果的です。それから直接魔剣によってワイバーンを切り裂く事も出来ます。飛行装置からの射撃でも、かなり数を撃墜しました』
『そうか、有り難う。こちらの射程距離に入り次第また連絡するので、もう少しの間だけ頑張ってくれ』
『了解です。ワイバーンや巨大な蜂の攻撃では、指揮者ゴーレムも飛行装置も全く無傷なので問題ありません。兎に角、魔物の数が多すぎるという印象です』
『判った。出来るだけ急いで合流する。それと、ロック。攻撃の合間で構わないので、偵察者ゴーレム四体すべてを保養地へ集結させて待機状態にしておいてくれ』
『了解です、ジョーさん。命令してぉきます』
ロックとミラは既にワイバーンを初めとする魔物と交戦状態へ突入していた。
ワイバーンの大群と言っても、指揮者ゴーレムを攻撃して損傷を負わせる事は不可能だろう。
唯一の不安は、飛行装置のコクピットであり、それが最大の弱点かもしれない。
ガラスでは無く材質は不明だが、透明なキャノピーは強度的にも神鉄よりは劣るだろう。
故に、搭乗員に余裕がある場合には、飛行装置の後部座席にナークを乗せているのだ。
それらの情報は、既に何度もミーティングを行いロックもミラは承知している。
空中戦のシミュレーションも何度も行っているので、今回の実戦でもそれが生かされているはずだ。
「ナーク、全速力だ」
「……了解。速力を上げる」
『地上迎撃部隊へ連絡。現在、指揮者ゴーレムは樹海と草原の境界地点上空にて交戦中。ワイバーンや飛行型昆虫の魔物を撃退している』
『了解。ジョー兄い、ワイバーンへ魔法攻撃が通じているの? 送れ。……ザッ』
『ああ、魔剣の火炎弾や風刃が有効だそうだ。それと魔剣で直接叩き切っているそうだよ。送れ』
『それを聞いて安心したよ。悪魔族が強化魔法でも掛けているんじゃないかと不安だったんだよ。送れ。……ザッ』
『それは無かったようだ。だから俺達の攻撃も問題なく通じる。ただ数が多すぎるので、それだけが心配だ。アパッチ・ロングボウの索敵データは随時送って行くから、各自搭載しているC4I端末の情報も確認しながら進行してくれ。以上だ』
『『『了解! ……ザッ』』』
全速力で暫く飛行していくと、索敵レーダーに無数の飛行物体が表示された。
その中で、高速に移動しながら空中戦を行っている大型の反応が一つある。
この大きな反応が、ロックとミラが搭乗する指揮者ゴーレムと飛行装置に違い無い。
指揮者ゴーレムが空中戦を行っている空域までは、まだ距離が有りすぎてハイドラ70ロケット弾の射程距離外だ。
『ロック、ミラ。今ロングボウの索敵範囲にそちらを捕らえた。間もなくアパッチからの攻撃を行う』
『了解しました。半数近くは落としましたけど、未だこれだけ居ます』
『本当に数が多いな……よし、あと10分後にロケット弾攻撃を行うから、上空へ待避してくれ』
『10分後ですね、了解です。よろしくぉ願ぃします』
『ついでに地上の魔物も巻き込みたいな……。出来るだけ奴らを低空へ、おびき寄せておいてくれないか』
『やってみますが……集めるだけで精一杯かもしれません』
『それで十分だ。それじゃカウントを始めるぞ』
『了解!』
俺はナークへ指示してAH-64Dアパッチ・ロングボウの速度を少し下げてもらう。
そして逆に高度を上げてくれと加えてナークへ指示する。
そしてワイバーンの群までの距離を測定し、ハイドラ70ロケット弾への起爆時間設定を行う。
今回は空対空の空中戦だ。
しかも、敵機となるのは魔物のワイバーンが主なる敵機。
その数も多いので効率的な攻撃が不可欠となる。
今回使用する弾頭は、誘導型や自動追尾型の弾頭では無い。
M255フレシェット弾頭だ。
フレシェット弾頭とは、爆発すると複数のダーツ状の金属釘が爆散するのだ。
爆発による拡散範囲は約35メートル。
その数は一発のM255弾頭につき2500発のフレシェットを拡散できる。
搭載しているM261ポッドには、19発のロケット弾が収納されているので、それが4個。
合計76発のM255フレシェット弾頭が発射可能で、しかも時限信管なので設定した時間で爆発する。
そして爆発と同時に2500発のフレシェットが拡散されと言う訳だ。
数では太刀打ち出来ないので、一発のミサイルでもより多くの効果が得られる弾頭を選ぶ。
そして、どうせならワイバーンだけでは無く地上を進行してくる魔物にも被害を与えたい。
出来るだけ低空にワイバーンが集まってくれれば、そこへハイドラ70/M255フレシェット弾頭を撃ち込みたいのだ。
『ジョーさん、ワイバーン達が低空に集まってきました。20m位です』
『良くやったロック、地上には魔物が居るか?』
『凄い数のオークやオーガ、それに知らなぃ大型の魔物も居ます』
『良し、良いぞ! 離脱して急速上昇してくれ』
『はいっ! 急速上昇します』
ロックでは無くミラの言葉で指揮者ゴーレムが、ワイバーンの群の中から飛び出し、亜音速で上昇して行く。
俺は同時にハイドラ70の発射ポッド2個から、合計38発のM255フレシェット弾頭を発射した。
予め時限信管は、ワイバーンの群に到達する時間で爆発する。
そして38発のロケット弾は、広がりながらワイバーンの群目掛けて音速の二倍で飛んで行く。
時限信管なのでワイバーンに着弾する必要は無い。
コクピットのディスプレイにセットしたタイマーの数値がゼロを表示した瞬間、ハイドラ70ロケット弾がワイバーンの群の中で次々と爆発して行く。
運悪くハイドラ70の直撃を受けたワイバーンは、片翼を吹き飛ばされて墜落していく。
直撃を免れたワイバーンも、爆発によって撒き散らされた無数のフレシェットが身体や頭を貫き、次々に地上へと墜落していった。
加えて、撒き散らされた多数のフレシェットが、地上を闊歩していた魔物達も倒していく。
しかし、魔物の進行を止める事は出来ず、魔物達は仲間の死体を気にすることも無く屍を踏みつけて聖都への進行を止めない。
ワイバーンの群は、殆どが地面へ墜落して空中に留まっているのは数匹だ。
俺は固定武装のM230A1/30mm機関砲を操作して、残ったワイバーンを攻撃した。
チェーンガン独特の機械音と同時に、30mmという大口径の銃弾が残ったワイバーンを次々に撃墜していく。
既に空中を飛行しているワイバーンは全滅だ。
地上へ墜落していったワイバーンは、魔物によって踏みつぶされてしまったので、もはやその姿も見えない。
しかし、まだ魔物の大群の上空には大型の昆虫型の飛行する魔物が多数居た。
特に多いのはスズメバチが巨大化したような蜂の魔物だ。
AH-64Dアパッチ・ロングボウのエンジン音やM230A1/30mm機関砲の発射音で、こちら目掛けて尻の針を向けて攻撃態勢で飛行してきた。
あの針で刺されたら、容易にコクピットを突き破られてしまう。
更にローターにでも特攻されたら、ローターが折られて墜落は免れない。
俺は直ちに、蜂の魔物の大群へ向けてチェーンガンで攻撃を仕掛けた。
しかし、向かってくる蜂の数は落とすそばから増えて行き、切りがない。
「ナーク、上昇してくれ!」
「……了解。急速上昇する」
アパッチ・ロングボウのローターの回転速度が上がり、機体が急速に上昇し始めた。
しかし、蜂の魔物は上昇する機体を追いかけるように追撃を止めない。
蜂の群までの距離が近すぎて、ロケット弾攻撃は出来ないから逆に厄介だ。
距離をとってからハイドラ70によるロケット弾攻撃を行うしか無いのか。
こんな蜂の魔物の群に手を焼いてしまうとは、思っても見なかった。
機体を上昇させながら、俺はM230A1/30mm機関砲を発射し続ける。
次々と墜落して行くスズメバチの魔物だが、終わりが見えない。
その時、別の方角からも蜂の魔物が機体目掛けて攻撃した来た。
ヤバイ、チェーンガンをそちらへ向ける事も出来ない。
その時、ヘルメットからロックの声が聞こえてきた。
『ナークさん、防御魔法でアパッチ全体を包んで下さぃ!』
『……判った』
「……防御魔法を張ったからアパッチが落ちる……」
ナークが防御魔法を張ると同時に、防御魔法の光に包み込まれたAH-64Dアパッチ・ロングボウは、ローターが回転しながらも自由落下を始める。
ローターによる上昇力が防御魔法で無くなってしまったからだろう。
と同時に、俺達の周りを巨大な火炎弾が包み込んだ。
俺達を追撃してきた蜂の魔物が炎に包まれ墜落していく。
更には緑色の風刃が、次々と蜂の魔物を切り刻んでいる。
『蜂の魔物は殆ど片付けました。ナークさん防御魔法を解いて下さぃ』
『……ありがとう。助かった』
『どぅぃたしまして』
ナークが防御魔法を解くと、アパッチは下降していくのが止まりホバリング状態となる。
目の前には、魔剣を構えた指揮者ゴーレムが、同様にホバリングをしていた。
『ロック、有り難う。ワイバーンは全滅させたようだから、魔物を少しでも多く倒してから帰還しよう』
『了解です。樹海へ火炎弾を数発撃ち込みましょぅ』
『仕方ないな。樹海から湧き出てくる魔物の数が多すぎる』
ロックはそう言うと樹海へ向かって魔剣を向け巨大な火炎弾を発射した。
火炎弾の攻撃を何度か繰り返すと、巨大な樹海は炎に包まれ山火事状態となる。
それによって、巨大な亀の魔獣クールマの進行が止むとは思えないが、樹海から出てくる魔物の数は少なくなった気がする。
そう、気がする程度だ。
俺もハイドラ70の残っている38発のM255フレシェット弾頭を、オーガなどの比較的大型の魔物の群目掛けて発射して行く。
爆発点から70m四方の魔物は次々と倒れて行くが、直ぐに魔物の群は何事も無かったように進軍を進めている。
本当に撃っても撃ってもきりがなく、気持ち的に弱気になってしまいそうだ。
全てのハイドラ70ロケット弾を打ち尽くしたので、一度地上部隊と合流して態勢を立て直す事にする。
ロックへも一度帰還すると連絡を入れ、状部隊へも合流すると通信を入れた。
第一迎撃目標のワイバーンは、何とか空中戦で殲滅出来た。
しかし、数万の魔物の群には正攻法の地上戦で迎撃するしかないのだろうか。
悪魔族アナクロンの仕掛けた魔物暴走との攻防戦は、始まったばかりなのだが先が全くもって見えない混沌とした戦況だった。




