スタンピード
「スタリオン教皇、事態は急を要します。自分達は直ちに魔物や魔獣達を迎撃するため出撃します」
「まさか伝説の魔物暴走が起こるとは……。使徒様、いやジングージ様、魔物を壊滅出来るのでしょうか?」
「正直なところ、判りません。あまりに数が多すぎます。しかし、全力で防衛します。ですから聖都の住民の皆さんを聖都から避難させるかどうかの判断は、スタリオン教皇に委ねます」
「ジングージ様……。仮に住民を避難させたとして、無事に逃げられるのでしょうか?」
「マーガレット司教、それは自分にも判りません。悪魔族アナクロンがどんな方法で魔物を暴走させたかが全く判りません。魔物暴走の真の目標が住民なのか聖都なのかも不明です。しかし、あの巨大な魔獣の亀……クールマが聖都へ到達すれば、聖都は跡形も無くなるでしょう」
「むむ……。では住民だけでも避難させるべきか……」
「判断は難しいところです。魔物が避難した住民を優先して追い、そして襲うとすれば聖都内に居た方が安全かもしれませんが、いずれクールマが来れば……」
「私の判断次第ですか……」
「兎に角、ワイバーンの群や飛行型の魔物は、聖都まで来るのが速いので自分達は二手に分かれて迎撃のため出撃します。魔物の大群や巨亀のクールマによる進行速度であれば、まだ猶予があります。しかし、早急な決断をお願いします」
「判りました……。ジングージ様達のご武運を女神様に祈っております」
「ギルさん達"雛鳥の巣"は、マーガレット司教とコロニの警護をお願いします。何かあればトランシーバーで連絡します」
「判ったぜ、ジョー。俺達が一緒に行っても足手まといになっちまうからな」
「ジョーの兄貴、マーガレット司教とコロニちゃんは俺達が守り抜くよ」
「うん、任せておいてよ、ジョー兄さん~」
「コロニも、しっかり留守番してくれ」
コロニは、笑顔で頷く。
そして頭の上に座っていたパサラが言う。
「コロニ、良い子で留守番しているから速く帰って来て」
「ああ、パサラも危険が近づいたら警告を頼んだぞ」
俺の言葉をコロニが念話で伝えたのだろう。
少し間を置きパサラが言う。
「判った。がんばる」
「ジングージ様、コロニの事は私達にお任せください」
「頼みます、マーガレット司教。テンダーさんは……」
「小僧……ジョー。儂は、お前達と一緒に行くぞい!」
「えっ、それは……」
「ふん、邪魔者にするで無い。儂もあの勇者の鉄の箱車、ハチキュー式戦車と言ったか、お前がスベニに残しておったから、操縦だけは出来るようになったわい」
「そうだったんですか。そうですね、テンダーさんは火魔法で火炎弾も放てますからね。それじゃ、一緒に地上迎撃部隊に参加してください」
「任せておけ。返す返すも儂では大砲やキカンジューが使えぬのが歯痒いわい」
「それでは、自分達は出撃します。スタリオン教皇、ギャラン隊長、防衛の為に北の城壁を魔法、いや神術使いの方々や、聖騎士の弓部隊で固めてください」
「「判りました。使徒様の御心のままに!」」
事態の報告は済んだ。
俺達は"白の広場"まで戻り、ロックとミラは直ちに指揮者ゴーレムと飛行装置に搭乗する。
ワイバーンの飛行速度は速い。
まごまごしていれば、あっという間に聖都まで飛来するだろう。
俺達"自衛隊"の航空戦力は、飛行装置と合体した指揮者ゴーレム、そして攻撃ヘリコプターのAH-64D、アパッチ・ロングボウしかない。
ここは指揮者ゴーレムにフルスピードで先行してもらい、ワイバーンの群を迎撃してもらう事にする。
『ロック、ミラ、疲れているだろうが、ワイバーンの迎撃を頼んだぞ』
『もちろんです、ジョーさん。途中で飛行する魔物も、行きがけの駄賃で攻撃して行きます』
『ジングージ様もお気を付けて。ご武運を女神様にお祈りします』
『ああ、有り難う。俺達も直ぐにアパッチで後を追うから二人も気を付けてな』
飛行装置の通信機能を使い、ロックとミラへ連絡をすると、指揮者ゴーレムはそのまま大空へと舞い上がり、進路を北へ向けて亜音速で飛び去って行った。
指揮者ゴーレムが飛び立った後、俺は無限収納からAH-64D、アパッチ・ロングボウ攻撃ヘリコプターを召喚する。
直ぐにナークがアパッチへ向かって走り出す。
一瞬だけ俺の方を振り返り、少しだけ頷いた。
ナークがAH-64Dのパイロット席である後部座席へ乗り込み、エンジンを始動する。
「キーン」というジェット・タービンの回転音が聞こえ、メインローターがゆっくりと回転を始めた。
俺は更に無限収納から16式機動戦闘車を召喚する。
既に搭乗員は決まっているので、何も言わなくてもアンが16式機動戦闘車へ向かって走り出す。
その後を追って、"九ノ一"のハヤブサとヒタキが続く。
砲手はもちろんアンだ。
そしてハヤブサが操縦を受け持ち、装填手はヒタキ。
車長はアンが兼任して乗員は通常よりも一人少なく三名となる。
そして、雷竜との一戦後に新たな装備として無限収納に加わった車輌を召喚した。
「召喚! 10式戦車!」
"白の広場"へ陸上自衛隊の最新式戦車である10式戦車が現れる。
10式戦車が現れると、それに向かってベルが真っ先に駆け出す。
そしてベルに続いて"九ノ一"の最年少、14歳のモモが続く。
10式戦車は自動装填式の主砲が装備されているので、装填手は不要だ。
砲手と車長をベルが兼務し、操縦をモモが行う。
コンピューター制御された主砲は、アンにとって扱いづらい代物であり、逆にベルには使い易いと言う事から10式戦車の砲手はベルとなった。
「よし、残った者は96式装輪装甲車へ搭乗だ」
「小僧……ジョーよ。勇者のハチキュー式戦車は出さぬのか?」
「テンダーさん、八九式中戦車は走行速度が遅いので、戦闘直前に出します」
「ぬぬ……あの兎娘の乗り込んだ戦車は、そんなに速いのか?」
「最高速度は時速70Kmです。それに対して八九式中戦車は時速20Km程度なのです」
「ぐぬぬ……そんなにあの戦車は速いのか……」
「はい。カーティス・オブライエン少佐のセンチュリオン戦車であっても、時速30Kmしか出ませんから、センチュリオンも戦闘直前で出します」
「判ったぞい」
テンダーのおっさんは、渋い顔つきで96式装輪装甲車へ乗り込んで行く。
恐らく魔物の大群と遭遇するのは明日になってからだろう。
そうであれば、午前零時前にセンチュリオンや八九式中戦車を召喚し、零時を過ぎてから更に戦闘車両を召喚すれば戦力は倍になる。
戦闘車両を扱えるのは、俺達"自衛隊"と"九ノ一"だけだ。
特に主砲や機関銃は、俺達以外は扱えない。
テンダーのおっさんが、八九式中戦車の操縦をマスターしてくれていたのは予定外だったが人員の少ない俺達には助かる。
「ギャラン隊長、申し訳ありませんが、北門まで聖騎士の騎馬隊の方々で先導していただけますか?」
「承りました。お任せ下さい。おい、騎馬隊で使徒様の軍を先導して差し上げろ!」
「はっ、直ちに!」
ギャラン隊長の命令によって、"白の広場"へ聖騎士の騎馬隊が直ちに集合する。
そして、聖騎士の騎馬隊に先導されて16式機動戦闘車、96式装輪装甲車、10式戦車の順で隊列を組んで北門へ向かう。
16式機動戦闘車の砲塔のハッチが開き、アンが俺に向かって自衛隊式の敬礼をしてくる。
俺もそれに応えてアンに敬礼を返すと、アンが悪戯っぽくニヤと笑った。
同様に96式装輪装甲車の車長ハッチが開き、サクラが俺に対して敬礼をしてくる。
再び俺も敬礼を返すと、サクラは頭を少し下げて笑う。
最後は10式戦車の砲塔ハッチが開き、ベルが俺に向かって敬礼をしてきた。
俺が敬礼を返すとベルの兎耳が少しだけピンと伸び、そして満面の笑みを返してくる。
みんな危険の真っ直中へこれから出撃するにも関わらず、あまりにも穏やかな表情だ。
それとは対照的に、俺達の出撃を見守っていたスタリオン教皇の表情は険しい。
しかし、隣に居るマーガレット司教の表情は違っていた。
その表情は慈愛に満ちている。
マーガレット司教の側にいるギルさん達、"雛鳥の巣"の面々の表情も明るかった。
コロニも笑顔で俺達を見ている。
俺との付き合いが長い彼らの気持ちはわかるが、今回は俺の不安な気持ちが消えない。
そんな俺の気持ちを察したのだろうか。
大勢の神殿関係者達が居る中から、一人の修道女が俺に近づいて来る。
それは聖女セレステだった。
「使徒様……ジングージ様。ご無事でのご帰還を、女神様に願っております」
「有り難うございます、セレステさん。では自分も出撃します」
「はい、ご武運を!」
俺は聖女セレステの言葉に多少なりとも不安が拭えた。
そしてナークが主操縦席で待つAH-64D、アパッチ・ロングボウの前席へと乗り込む。
「ナーク、待たせたね。俺達も出撃しよう」
「……判った。アパッチ・ロングボウ発進する」
ナークの発進の言葉と共に、ゆっくりとAH-64Dアパッチ・ロングボウが浮き上がる。
俺は前席のコックピットから、見送ってくれている神殿関係者の皆さんへ敬礼をした。
すると見送ってくれている神殿関係者人々が、一斉に跪いて片膝をつき頭を垂れる。
"白の広場"の中央では聖女セレステが、一人で片膝をつき頭を垂れる姿が見えた。
唯一、"雛鳥の巣"の三人とコロニだけは大きく俺達へ手を降り続けている。
さあ、これまでで最大となる戦闘への出撃だ。
俺とナークの乗るAH-64Dアパッチ・ロングボウは、一路北へと向かって最高速度で飛行を開始したのだった。




