聖都トセンセー
俺は、捕縛されている教会本山からの使者二人の所まで行き、彼らの猿ぐつわを外してから尋ねた。
「これから不本意だが、お前達を聖都まで連れて行く」
「そ、そうした方が身のためだ」
「そうかい。で、尋ねるが、速く着くのが良いか? それともゆっくりと着くのが良いか? ああ、どちらも空の旅だ」
「空の旅? 空を飛んで行くのか? あの空飛ぶ鉄の箱車か……。速いと言うのは?」
「あの空飛ぶゴーレムだ。どっちでも、好きな方で連れて行ってやるよ」
「空飛ぶゴーレム……。嫌だ! 鉄の箱車に乗せてくれ」
「誰も乗せてやるとは言っていない。だが、お前達の希望は叶えてやろう」
そして、二人の使者が再び騒がないように猿ぐつわをしてから、今度は馬車の御者へ尋ねる。
「馬車の車輪は修理できるか?」
「は、はい、予備の車輪が積んであります」
「そうか。それでは、お前達二人は馬車の車輪を修理してから、聖都へ自力で向かってくれ。後ろの馬車から、馬を外して一緒に連れて来い」
「わ、判りました」
二人の御者は、何度も頷いてからアンによって車輪が破壊されて傾いている馬車へ走って行き、素早く馬車から四頭の馬を外し、前の馬車の後方へと繋いだ。
そして、"九ノ一"達へ指示し、チヌークから太く長いロープを持って来させ、そのロープで傾いた馬車をしっかりと縛り付けてもらう。
もちろん、ロープの反対側は、チヌークの牽引用金具へ固定した。
二本の吊り下げ用ロープで、馬車の筐体の前後をしっかりと固定したので、落とす事は無いだろう。
吊り下げの準備が出来たので、教会本山からの使者二人と聖騎士を馬車の中へとギルさん達に連行してもらう。
俺は、ギルさん達に礼を言った後、アマンダ隊長へ聖都へ向かう事を伝える。
「アマンダ隊長、訳あって自分達とマーガレット司教は、これから聖都へ向かいます」
「これから聖都へですか? 相変わらず、ジングージ様は忙しい方ですね」
「はい、スベニに戻って、自分達の家にも未だ帰っていないのです。すみませんが、これをアリスさんとエリスさんへ届けて下さい」
そう言い、教会本山からの使者から取り戻した、双子の光結晶のペンダントをアマンダ隊長へ渡した。
「はい、お預かりします。二人も喜ぶで事しょう」
「ギルさん達は、どうなさいますか? 自分達と一緒に聖都まで行きますか?」
「ジョーの空飛ぶ鉄の箱に乗せてくれるのか?」
「はい。既に先客が居りますよ」
「先客? まさか……」
「そのまさかです。テンダー生産ギルド長です」
「テ、テンダー会長が乗っているのか?」
「はい。スベニの街で、飛び乗ってきましたから、仕方なく……」
「なら、テンダーのおっさんを監視する必要があるよな。はははは……そう言う事なら、一緒に行かせてもらうぜ、ジョー。ガレル、ハンナ、お前達は聖都へは行った事がねぇから、良い機会だな」
「ジョー兄貴、一緒に行かせてもらうよ」
「ジョー兄さん、空飛ぶ鉄の箱、楽しみだな~」
「それじゃあ、"雛鳥の巣"も一緒にと言うことで。馬は連れて行けないので、アマンダさん、頼んで良いですか?」
「大丈夫ですよ。それでは、ギル殿、荷物を馬から外してください。少し休憩したら、我々はスベニへ戻ります」
「ビル隊長へは、無事にマーガレット司教は救い出したと伝えてください。宜しくお願いします」
「はい。ジングージ様。聖都で何が有るかは知りませんが、お気を付けて下さい」
「有り難うございます。アマンダ隊長達も気を付けてスベニまで帰って下さい」
"雛鳥の巣"の三人は、自分達の乗ってきた馬から荷物を持って来て、俺達と合流してチヌークへと乗り込む。
俺も、アマンダ隊長以下、警備隊や冒険者の人々へ別れを告げ、チヌークへと乗り込んでから、テンダーのおっさんへ尋ねた。
「テンダーさん、指揮者ゴーレムへ乗って行きますか?」
「何? 乗って良いのか?」
「構いませんよ。アンとサクラは、こっちへ乗りますから、座席は空いています」
「良し、儂はゴーレムへ乗って行くぞい」
そう言うと、テンダーのおっさんは、チヌークから居りて、ロックの乗る指揮者ゴーレムへと走って行った。
その姿に、ギルさん達"雛鳥の巣"の面々が笑い出し、「本当に好きだよな」とギルさんが言う。
俺は、ロックへ『テンダーのおっさんを乗せてやってくれ』と連絡をすると、指揮者ゴーレムは直ぐに待機状態へと腰を屈めて掌を地面へ差し出した。
その掌には、ナークが乗っており、テンダーのおっさんと入れ代わりに地面へと降り、ミラの乗り込んでいる飛行装置へと走って行く。
よし、これで聖都へ向けての出発準備は完了だ。
『ミラ、ナークが乗り込んだら直ちに離陸して、指揮者ゴーレムと合体だ』
『了解しました。飛行装置、離陸します』
『こちらロック、テンダー会長が乗り込みました。何時でも合体できます』
『了解、こちらも離陸準備が整った。では、聖都へ向かって発進だ』
『『了解!』』
ミラとナークが乗る飛行装置は、ゆっくりと上昇してから指揮者ゴーレムへ近づき、機体の態勢を垂直状態へと変え、ゆっくりと指揮者ゴーレムの背中へ合体する。
古代遺跡都市で何度も訓練を行ったので、その合体シーケンスは見事だ。
合体が終わると、そのまま指揮者ゴーレムは上昇を開始し、上空でホバリング態勢を取る。
俺も、チヌークを離陸させてから、ゆっくりと上昇を開始する。
チヌークの底部へ繋がれたロープが、その先へ繋がれている馬車をチヌークの上昇と共に空中へと引っ張り上げた。
馬車は、振り子のように左右へと大きく揺れている。
「ジョー兄い。馬車から凄い悲鳴が聞こえてくるよ」
「放っておけ。少し、怖い目に遭わせてやらないと、俺の気が済まない」
「あははは……。ジョー兄いを怒らせた報いだよ」
「そんな事は無いよアン。俺は彼奴らに選ばせたじゃないか。指揮者ゴーレムを選べば、揺れずに聖都まで抱えて行ってやったんだけど、こっちを選んだのは彼奴らだ」
「確かにね。まさか、吊られて運ばれるなんて思って無かったろうけど」
「ジングージ様、馬車を吊っているロープは切れないのですよね?」
「大丈夫ですよ、マーガレット司教。もっと重い鉄の箱車も運べますから」
「そうですか、そのお言葉で安心しました」
「院長先生は優しいでしゅ。先生を攫った人達なのに……」
「イザベル、彼らも命じられて行った事です。人を無闇に恨んではなりません」
「はい、申し訳ありましぇん、院長先生……」
「しかしジョー、この空飛ぶ鉄の箱は、凄いな。音が五月蠅いのを我慢すればだが」
「そうですね。大きな声で話さないと会話出来ないのが欠点です」
初めて空を飛ぶ、ギルさん、ガレル君とハンナさんは、もう大興奮だ。
それは、テンダーのおっさんと全く同じで、初めての空の旅なのだから、仕方の無い事だろう。
そして、先行する指揮者ゴーレムと飛行装置に乗りテンダーのおっさんも、今頃はその亜音速の旅を満喫している事だろう。
同じように初めて空の旅を経験するマーガレット司教は、じっと目を閉じて下界の風景を見る事もしていない。
ひょっとして、高所恐怖症だったのだろうか?
その様子を見ていたベルが、マーガレット司教へ声を掛けた。
「院長先生、大丈夫でしゅか?」
「大丈夫ですよ、イザベル。このような高い所へ昇ったのは初めてですから、女神様へ感謝の祈りを捧げていたのです」
「高い場所で、お祈りするのでしゅか?」
「そうです。女神様のいらっしゃる天界へ、少しでも近づけば我らの祈りも届きやすくなるやもしれませんからね」
「判りましゅた。私も祈りましゅ」
「アタイも祈るよ」
成る程、女神様は天界に住むと言い伝えられているのか。
宗教的な儀式は、確かに高い場所を神聖な場所としている事が多い。
この異世界でも、女神様は天界に住んでいると信じられているのだろう。
実際、女神様と会った俺としては、あの空間は全くの別な空間だと思うのだが、それを言う程、俺も空気が読めない性格では無い。
マーガレット司教の言葉で、チヌークへ乗っている全員が祈りを捧げると言う行動を起こし、チヌークは、まるで空飛ぶ礼拝堂と化してしまった。
『こちらロック。唯今、聖都の上空へ到着しました』
『了解。そのまま低空で、何度か聖都の上空を旋回して待機してくれ』
『了解しました。旋回して待機します』
流石に、時速1000Km/hの亜音速で飛行すると、あっという間に聖都へ到着だ。
チヌークは、余計な荷物を運搬しているので、速度も巡航速度で飛行しているから、まだ聖都までは暫く飛行しなければならない。
「マーガレット司教、聖都に広い空き地はありますか?」
「ございます。教会本山に"白の広場"と言う場所がございます」
「判りました。そこからは教会の本山も近いのですね?」
「はい、目と鼻の先です」
「判りました。そこへ着陸しましょう」
指揮者ゴーレムに大分遅れてしまったが、眼下には聖都の街並みが見えて来た。
既に、指揮者ゴーレムは水平飛行の態勢から、着陸態勢の立った姿でホバリングをしている。
俺は、マーガレット司教に教えられた"白の広場"を目指し、チヌークを低空飛行させて、吊している馬車が建物に接触しないよう慎重に操縦して行く。
やがて、教会本山の建物らしき巨大な神殿と礼拝堂が見えてきて、その真ん前に広い広場も見えた。
あれが、マーガレット司教の教えてくれた"白の広場"か。
チヌークを着陸態勢にし、吊した馬車を地面へ激突させないよう慎重に下降させ、俺達を乗せたCH-47JA チヌークは、聖都トセンセーへと到着したのだった。




