聖都へ
俺は、CH-47JA チヌークを着陸態勢にし、静かに指揮者ゴーレムの側へ着陸して行く。
そして、飛行装置の翼の上で、腹ばいになって馬車を狙っているアンの射撃の射線を避けて着陸した。
直ぐにチヌークの後部ドアを開くと、普段は大人しいベルが真っ先に89式小銃を手にして飛び出して行く。
今回の作戦では、自分だけが先行した救出部隊から外れていたのが、悔しかったのかもしれない。
アンとミラとは、孤児院時代の仲間だったし、マーガレット司教を院長先生と慕うベルだから、尚更なのだろう。
そして、ベルに続いて、"九ノ一"達も89式小銃を各々が手に持ち、後部ドアから飛び出して行く。
いや、一人だけ、重機関銃M2を軽々と肩に担ぎ、平然と走って行く者がいた。
"九ノ一"メンバー随一の力持ち、虎人族のマユだ。
あの細い身体の何処に、重機関銃M2を軽々と扱う筋肉が隠されているのか、未だに謎としか言いようが無い。
チヌークの中には、俺とコロニ、二人の妖精、ケサラとパサラ、そしてコロニと同じ背丈のドワーフ、テンダーのおっさんだけが残された。
俺は、チヌークのエンジンを切り、コロニに言う。
「コロニ、君はこの中に居なさい」
コロニが何度も頷くと、頭の上に乗っていたパサラが「判った。中にいる」と言う。
そして俺も、チヌークの操縦席を後にして、表へと出て行こうとしたが、テンダーのおっさんの姿に気がつき言う。
「テンダーさん、ここに居ても構いませんが、操縦席の装置類には絶対に触らないでくださいね!」
「ぐぬぬぬ……判っておるわい。儂も馬鹿では無いぞ、二度と無闇に触らん」
「お願いしますよ。それじゃ、行ってきます」
「狼娘は、儂に任せておけ」
「お願いします。それじゃ」
俺は、テンダーのおっさんに念を押してから、機外へと出る。
既に、"九ノ一"達はベルを筆頭にして馬車を包囲し、聖騎士や魔術師に狙いを付けていた。
もちろん、飛行装置からはアンがバレットM82A3で狙いを付けている。
俺は、89式小銃の安全装置を外してから、包囲網をゆっくりと出て行く。
二輛の馬車からは、既に御者を除いて、全員が外へ出ている。
魔法発動用の杖をアンに破壊された二人は、既に戦闘力はゼロだろうから、残るは聖騎士の四人だけを注意すれば良い。
「剣を捨てろ。無益な殺生はしたくない」
「き、貴様は何者だ!?」
「それは、こっちの台詞だ。お前達こそ、マーガレット司教を誘拐し、俺の宝珠を盗んだ盗人どもめ。人さらいは重罪だが、この場では無くスベニへ連行して裁判を受けて貰おう」
「な、何を戯けた事を。我らは教会の本山、聖都トセンセーの聖騎士だ。女神様の命によってマーガレット司教をトセンセーまでお連れしているだけだ」
「へぇ、そうかい。では、何故スベニの教会へ俺とミラに聖都まで来いなどと言い残したんだ。それを聞いたから、こうやってやって来たんだ」
「き、貴様がジングージか?」
「そうだ。俺の名はジングージ、ジョー・ジングージだ」
「あ、あの空飛ぶゴーレムも貴様の仲間なのか?」
「ああ、そうだとも。なんなら、あのゴーレムにお前らを踏みつぶさせても良いんだが、盗人にも裁判を受ける権利は有るから、それは勘弁してやろう。さあ、さっさと剣を捨てるんだ」
「き、貴様ごときの指示は受けん!」
そう言い放つと、二人の聖騎士が剣を抜いて俺達へ向かって走り寄って来た。
と、同時に一人の振りかざしていた剣が木っ端微塵に砕け散ると同時に、バレットM82A3の発射音が轟く。
そして、もう一人の聖騎士は、"九ノ一"が発射した89式小銃によって、剣を持った腕を撃たれて、その場に叫び声を上げて倒れ込んだ。
撃ったのは、ツバメとハヤブサだ。
この二人は、アン直伝の射撃術を学んだ"九ノ一"の中でも、眼が良いので狙いが正確だった。
「ば、爆裂魔法を使うのか……」
「そうだ。既に、魔法使いの魔法発動用の杖を破壊したから、判っていると思ったがな」
「馬車の車輪を破壊したのも、爆裂魔法だったのか」
「今頃気がついたとはな。あそこから狙っている」
俺は、89式小銃の銃身を、飛行装置の方へ向けてやる。
剣を抜かなかった二人の聖騎士は、飛行装置の方を向くと、唖然とした表情をして言った。
「あ、あんなに遠方から爆裂魔法を放って、剣や杖を破壊したと言うのか……」
「そうだ。お前達の頭を狙わなかった事に感謝して欲しいな。さあ、剣を捨てろ」
「判った……」
二人の聖騎士は、鞘ごと腰から吊していた剣を外し、地面へ投げ捨てる。
すると、魔法使い達が乗っていた馬車から、二人の男達が降りてきて言う。
「何故、戦わないのです! 貴方達、それでも女神様へ使える聖騎士ですか!」
「そうですとも、は、早くこの狼藉者達を片付けなさい!」
どうやら、この二人が教会の本山から来た使者らしい。
一人は、俺の宝珠を後生大事に抱えている。
「お前達が、盗人の使者か。俺の宝珠を返してもらおうか。ああ、それと双子結晶もな」
「な、なにを言っているのです。この宝珠は、聖都に奉納してもらいますよ」
「そ、そうです。この双子結晶は、聖女様に使っていただくのです」
「お前ら、馬鹿か? どちらも俺の物だぞ。自分の物を盗まれて、はいどうぞと言う程、俺はお人好しじゃ無い!」
「す、全ては女神様のお導きです」
「そのとおり……女神様の」
「使徒……ジングージ様、この者達に何を言っても無駄でございます」
俺は、声の主の方を振り向くと、そこには指揮者ゴーレムから降りて来た、マーガレット司教の姿があった。
そして直ぐ側には、飛行服姿のナークも立っている。
教会本山からの使者との会話は、どうやら全く無意味らしい。
「マーガレット司教、来るのが遅くなってしまい申し訳ありませんでした。怪我が無くて何よりでしたね」
「はい、ジングージ様のお陰でございます。有り難うございました」
「ジングージ様、先ほどから聞いておりましたが、取り敢えずこの者達は捕らえてしまいましょう」
「ああ、アマンダ隊長。ご無沙汰でした。そうですね、お願いできますか?」
「ジョー、俺達に任せておけって。聖騎士や魔法使いが片付いたし、人質のマーガレット司教さえ救出されちまえば、こんな奴ら、俺達だけで十分だぜ」
「ギルさん、ご無沙汰です。では、お願いできますか?」
「任せてよ~、ジョー兄さん」
「ああ、任せてくれよ、ジョー兄貴」
「此奴ら、爆裂のジョーを知らねぇとは、完全に潜りだぜ、なあみんな?」
「「「「「ああ、そのとおりだ。さっさと捕らえようぜ」」」」」
「ガレル君、ハンナさん、それに冒険者の皆さん、お願いします」
「「「「「任せておけ!」」」」」
追跡隊の面々は、俺も良く知る冒険者で構成されていた。
そして、ギルさん達は一斉に剣を捨てた聖騎士や、魔法使いを捕らえた。
最後まで足掻き続けた使者の二人は、冒険者達にぼこぼこにされながらも「女神様の天罰が……」とか喚き続けていたが、やがて猿ぐつわをされて静かになる。
持っていた宝珠と、双子の結晶のネックレスも慎重に奪い返して俺の手元へと戻った。
俺は、ミラへ飛行装置を離陸させ、こちらへ近づくように指示をする。
ミラは、翼の上にアンを乗せたまま、ゆっくりと飛行装置を浮かせて、こちらへ近づき再び着陸した。
そして、直ぐに操縦席から降りてくると、マーガレット司教の元へと駆け寄って来た。
「司教様、ご無事で何よりでした」
「ミランダ、有り難う。暫く会わない間に、凛々しくなりましたね」
「そ、そうでしょうか?」
「ええ、そうですとも。これもジングージ様の元で修行した成果なのでしょう」
「はいっ! 有り難うございます」
ミラは、マーガレット司教に褒められ、少し頬を染めて嬉しそうに笑う。
「ミラ、悪いが怪我をした魔法使いと聖騎士へ治癒を頼む。回復はしなくても良いよ」
「はい。ジングージ様」
ミラは、胸の光結晶へ手を翳して呪文を唱えてから、治癒魔法を発動する。
既に、離れた場所からでも怪我人だけを狙って治癒を施す事も出来るようになっていたので、わざわざ怪我人の所まで近づく事もない。
「見事ですよ、ミランダ」
「あ、有り難うございます。司教様」
「……せ、聖女様の治癒か……、いや、それ以上か」
「まさか、これほどの治癒術の使い手とは……」
「あ、有り難うございます。新しき聖女様……」
「忝ない。……感謝いたします」
怪我を治癒してもらった二人はもちろんの事、冒険者達に捕縛された聖騎士二人も、ミラの治癒魔法に驚いている。
猿ぐつわをされた使者二人も、声を出す事は出来ないが、驚愕の眼差しでミラの治癒術に驚いているようだ。
捕縛された者達と、御者の二人を一箇所に集め、これからどうしようかと俺が考えていると、サクラが俺の元へ駆け寄って来て耳元で言う。
「主様、たった今、女神様からのお言葉が聞こえました」
「えっ、女神様から? なんて仰っていたの?」
「マーガレット司教も伴い、直ぐに聖都へ行けと仰せです」
「えぇ?! 聖都へ? 理由は?」
「判りません。ただ聖都へ行けとだけ……」
「そう……。マーガレット司教、お聞きのとおりですが、ご一緒願えますか?」
「もちろんですとも。ジングージ様、いいえ、女神フノス様の御心のままに」
理由は不明だが女神様は、俺にマーガレット司教を伴い聖都へ行けと神託を下してきた。
一体、聖都で何が俺達を待ち受けていると言うのだろうか……。




