救出作戦
スベニの街の教会から、再び警備隊の修練所へ戻った俺達は、直ちに追跡の準備を始めた。
飛行装置へ搭乗してもらうナークには、気密服を着用して貰わねばならないので、警備隊宿舎の更衣室を借りる。
アンとサクラには、そのまま戦闘服で指揮者ゴーレムへ乗ってもらい、操縦者のロックにだけは、通信用の飛行装置専用ヘルメットを着用してもらう。
もちろん、俺も飛行装置用のヘルメットを着用し、通信回線の確保だ。
このアーティファクトのヘルメットが、もっと有れば便利なのだが5個しか無いのが本当に悔やまれた。
CH-47JA チヌークの燃料は、まだ十分な残量が有るので取り敢えず補給は不要であるため、既にエンジンを起動し、ローターを回転させている。
そして程なくして、ナークが着替えを終わり警備隊の宿舎から走って来る。
「……また、この服を着る事になるなんて……」
「ゴメンよ、ナーク。飛行装置に乗って貰うための安全策だから……」
「……判っている。言って見たかっただけ」
「それじゃ、直ぐにミラと一緒に指揮者ゴーレムへ乗り込んで、飛行装置へ搭乗してくれ」
「……判った。先に行ってる」
「ああ、頼むよ。直ぐに追いつくから」
指揮者ゴーレムの掌へミラと共に乗り、指揮者ゴーレムの胸の中の操縦席へと入っていき、更に合体している間だけ開く飛行装置との連絡用搭乗口へと潜り込んだ。
指揮者ゴーレムの背中へ合体している飛行装置のコクピットには、ミラとナークの姿が見える。
そして、既に指揮者ゴーレムの操縦席に乗り込んでいたロックから、ヘルメットを通じて連絡が聞こえた。
『ジョーさん、発進準備は完了しました』
『了解。最高速度で追跡してくれ。そして逃走中の馬車を発見したら、兎に角奴らを止めてくれ』
『判りました。ミラ、最高速度での飛行だよ』
『はい、お兄ちゃん。指揮者ゴーレムと合体しているので亜音速ですね』
『そぅだね。訓練の成果を発揮しよぅ。では、発進します!』
ロックがそう言うと、指揮者ゴーレムは大空へと舞い上がり、姿勢を横へ変えてから一直線に真北へ向かって飛び去って行った。
かなりの急加速なので、相当の加速度が身体に掛かる筈だ。
高速飛行に慣れて居ないアンやサクラは、大丈夫だろうか。
取り敢えず、ロックからは通信が無いので、問題は無いのだろう。
良し、俺達も直ぐに発進だ。
「よし、俺達も後を追うぞ。CH-47JA チヌーク発進!」
「主様! 誰かが走ってきます!」
「えぇ、誰だ? ……て、テンダーさん?」
離陸直前に、チヌークへ走り寄って来る小さな人影は、生産ギルドのギルド・マスター、テンダーのおっさんだった。
そして、チヌークの直ぐ側まで来てから、大声で怒鳴った。
「小僧!……ジョー、儂も一緒に行くぞい。儂も乗せるんじゃ!」
もう断って口論になるよりは、さっさと搭乗させて出発するしかない。
全く、自らの好奇心に忠実なおっさんだ。
俺は、「は~っ」と溜息を吐きながら、後部の扉を再び開けた。
完全に、扉が完全に開くのを待つ事無く、テンダーのおっさんは飛び込む様にしてチヌークへ乗り込んで来た。
俺は、再度安全確認を行い、直ぐにチヌークを離陸させて、真北を目指して飛行を開始する。
短時間であれば、巡航速度ではなく最高速度での飛行も可能なので、飛行速度を300Km/hまで上げ、指揮者ゴーレムの後を追う。
俺の無限収納には、もっと高速で飛行可能なV-22、オスプレイは無いので、現時点で大量人員輸送が可能なのは、このチヌークだけだ。
何れ、装備品にオスプレイが加われば、時速500Km程度での速度で移動可能になるから、そうすれば指揮者ゴーレムの半分程度の速度で移動可能にもなるだろう。
「小僧……ジョーよ、何時、空飛ぶ鉄の箱を使える様になったんじゃ?」
「テンダーさん、お久しぶりですね。イサドイベでの事件後ですよ。ですから、古代遺跡都市から帰ってくるのに、自分も初めて使ったのです」
「そうか、それにしても凄いもんじゃな。こんなにも大勢を乗せて、こんな高速で飛ぶとは……信じられんわい」
「ロックとミラが操る指揮者ゴーレムと飛行装置は、これより三倍以上、速いですよ」
「うむ、儂もさっき見たが凄いのう。あの背中に付いていた羽根もアーティファクトか?」
「はい、古代遺跡都市で入手しました。操れるのは、ミラだけですけど」
「ふん、聖女専用の羽根とはな……何時か、儂も乗せて貰うぞい」
「いいですよ。あの飛行装置単体なら、音よりも速く飛べますよ」
「な、なんじゃと? 音よりも速いだと? 小僧、儂を誑かすのも大概にせい!」
「本当ですよ、テンダーさん。音の伝わる速度は、大凡ですが時速1200Kmです。それよりも飛行措置は速く飛べるのです。指揮者ゴーレムと合体した状態でも、時速1000Kmで飛べますから」
「ぐぬぬぬ……。音の速度よりも速いとは、どんな速度なんじゃい……」
「アンが使っている銃の、弾丸速度とほぼ同じくらいですね」
「じゅ、銃の弾丸速度と同じとは……。古代人の文明とは、本当に凄かったんじゃな……」
「はい。自ら考えるアーティファクトも有りましたよ」
「なんじゃと? 考えるアーティファクトじゃと?」
「はい。自分は、その知能を持ったアーティファクトと友人になりました」
「うぬぬぬ……やはり、儂も一緒に行けばよかったわい……くそっ」
テンダーのおっさんは、俺の話す古代遺跡都市の事に、本当に悔しがった。
そして、コロニやケサラ、パサラを紹介すると、更に驚いて「妖精と契約しただと?!」と大きな声を上げた。
テンダーさんが言うには、元々ドワーフ族とエルフ族は、妖精族だったのだが、長い年月の間に実体化したままになったのだと言い、言わば妖精族とは親戚筋なのだそうだ。
ケサラとパサラも、その事を否定する事無く「ドワーフさん、一緒に遊びましょう」と言いながら、テンダーのおっさんの周りを飛び回って、はしゃいでいる。
そして暫く、テンダーのおっさんと喋りながら飛行を続けて行くと、ロックから通信が入った。
『ジョーさん、今、ァマンダ隊長達の追跡隊を確認しました。ァマンダ隊長やギルさん達が手を振ってぃます』
『了解。教会本山の馬車は見えるか?』
『はぃ、前方1Km程先に二台の馬車が走ってぃます』
『良し、それじゃ馬車の前方へ回り込んでから着陸して、奴らを足止めしてくれ。アマンダ隊長らと挟み撃ちにするんだ』
『了解しました。何とか止めてみます。剣で威嚇しても構ぃませんか?』
『マーガレット司教が人質だから、注意してやってくれ』
『了解です。では、これから彼らを威嚇攻撃した後、降下して着陸します』
『頼んだ』
なんとか、聖都へ逃げ込まれる前に、奴らへ追いつけた様だ。
馬車を止めさえすれば、アマンダさん達の追跡部隊と挟み撃ちして、逃げることだけは阻止出来る。
問題は、どうやってマーガレット司教を、奴らから奪い返すかだが、此処はアンとナーク、そしてサクラに活躍してもらうのが、一番安全だろう。
俺は、チヌークを操縦しながら、人質となっているマーガレット司教の奪還作戦をシミュレートし始める。
しかし先ずは、ロックが指揮者ゴーレムで奴らを威嚇攻撃して、奴らの馬車を止める事が先決だ。
幸い、本山の使者や聖騎士達は、指揮者ゴーレムの存在は知らないだろうし、例え噂で知っていたとしても、実際に見た事は無い筈なので、その姿や大きさに驚き馬車を止めてくれるだけで良い。
ロックは、これから奴らの馬車を足止めするために、指揮者ゴーレムの魔剣による威嚇攻撃を行ってから着陸するので、一時的にでも奴らは停止せざるを得ない。
馬車の足止めに有効な威嚇攻撃は、水弾による攻撃だ。
これは、既に何度も訓練で行ってきているので、魔剣の水弾の威力も良く判っている。
その威力は、ほぼ守護者ゴーレムの攻撃魔法と同等だ。
馬車が逃走している街道は、水弾によって水溜まりが出来、それを馬車で乗り切るにはある程度の時間を要するだろう。
そして俺は、馬車が止まるまでの僅かな時間で、マーガレット司教を救い出す作戦を考えた。
『ロック、ミラ、ナーク、マーガレット司教の救出作戦を考えた。これから伝える作戦を、アンとサクラにも伝えてくれ。この作戦は、全員の連携が重要だから頼んだぞ。作戦はこうだ……』
俺は、マーガレット司教救出作戦を、先行する指揮者ゴーレムに搭乗しているメンバーへ伝えたのだった。




