追跡
俺達がCH-47JA チヌークから全員降りると、ビル隊長に率いられた警備隊の兵士達が集まって来る。
チヌークのローターは未だ回転している状態なので、不用意に近づくのは危険を伴う。
特に前方のローターは、地面からの高さが低いので更に要注意なのだ。
「ビル大佐、近づくと回転している羽根に当たってしまう可能性が有るので注意して下さい!」
「ジングージ殿、良く帰ってきてくれた。大変な事態なのだ!」
「どうしたのでしょうか? ビル大佐が、そんなに深刻な顔をされるとは……」
「実はな、教会のマーガレット司教が拉致されたのだ!」
「えっ! マーガレット司教が拉致? 一体、何処の誰が?!」
「詳しい話は、教会へ行ってからアリスとエリスの両シスターから話させよう」
「判りました。直ぐに教会へ行きましょう。ミラ、聞いての通りだ。直ぐに教会へ行くぞ」
「は、はい。何故、司教様が……。大丈夫なのでしょうか?」
「ミラ、心配するな。マーガレット司教に怪我は無い。既に、アマンダ達が追っている」
「そ、そうですか……アリス姉様や、エリス姉様は、ご無事でしょうか? それと、孤児院の子供達は?」
「皆、怪我は無いので、安心してくれ」
「ビル大佐、自分達は、直ぐに教会へ行きます」
「そうしてくれ。俺も、教会へ同行しよう」
「はい、お願いします」
よりによって、マーガレット司教が誘拐されるとは、一体何て事だろうか。
詳細が判らないので、何とも言えないが、教会には光の宝珠を守る為に、警備兵や冒険者が常に護衛で常駐している筈だ。
怪しい人物が教会へ入り込めば、直ぐに警備兵や冒険者に取り押さえられてしまうだろうに。
何れにしても、アリスさんとエリスさんに詳細を聞かねばならない。
俺は、全員が乗り込める大型車両を、無限収納から召喚する。
「召喚! 3 1/2トラック」
「よし、全員、後部へ搭乗してくれ」
「「「「「はいっ!」」」」」
「ビル大佐、自分と一緒に前席へどうぞ。警備兵の方で、同乗される方は、後部へ乗って下さい」
「うむ、悪いな。良し、教会警備担当の者だけ、同行しろ」
「「「「「はっ!」」」」」
俺の指示で、パーティー"自衛隊"と、パーティー"九ノ一"、そしてミラとコロニが、3 1/2トラックの後部へ搭乗し、教会担当の警備兵も乗り込む。
俺は、運転席に乗り込み、直ぐさまエンジンを始動する。
ビル大佐は、戸惑いながらも助手席への乗り込んで来ようとする。
そう言えば、ビル大佐を装備品の車両に乗せるのは、初めてのことだったか。
ドアの開け閉めに戸惑っていたので、俺が代わりにドアを開いてから、ビル大佐が乗り込んでから、今度はドアを閉める。
そして、全員が乗り込んだのを確認し、直ちに教会へ向かって出発した。
警備隊の修練場から、教会まではスベニの北地区から南地区の中央までなので、それ程急がなくても直ぐに到着できる。
スベニの街中を走る馬車や道路を歩いている歩行者に注意しながら、かなりの低速運転だったが直ぐに教会の前まで到着した。
俺は、教会の真ん前に駐車し、エンジンを切り直ちに運転席から降りる。
後部の荷台からは、全員が続々と降りてきて、最後にコロニを抱きかかえる様にして、"九ノ一"のウメが降りた。
助手席に座っていたビル大佐も、ドアの開閉方法が判った様で、既に下車している。
俺とビル大佐を先頭に、教会の中へと駆け足で入って行く。
そして、俺の直ぐ後ろからは心配そうな顔をした、ミラ、ベル、アンが続く。
この三人は、孤児院に居た仲間の間柄なので、やはりマーガレット司教との絆が強いのだろう。
しかし、ロックや、ナーク、サクラ達"九ノ一"のメンバーも、同様に心配そうな表情を崩さない。
俺達の仲間の誰もが皆、マーガレット司教を慕っているのだ。
もちろん、俺もそうなのは、言うまでも無い。
「アリスさん、エリスさん、いらっしゃいますか?!」
「使徒さ……ジングージ様、お戻りになられたのですね! マ、マーガレット司教が、連れ去られました!」
「アリスさん、落ち着いて下さい。先ずは、状況を詳しくお聞かせ下さい」
「ジングージ様、お帰りなさいませ。詳細は、私からお話致します。アリス姉さんは、気が動転しておりまして、昨夜も一睡も出来ませんでしたので……」
「エリスさん、それでは、お聞かせ下さい。アリスさんは、少しお休み下さい」
「いえ、大丈夫です。では、エリス、ジングージ様へ事の次第をお話して……」
どうやら、姉のアリスさんよりも、妹のエリスさんの方がしっかりしている様で、エリスさんはマーガレット司教が拉致された顛末を語り始めた。
先ず、事件が発生したのは、二日前の昼過ぎで教会の本山から使者がやって来た事から始まったそうだ。
本山からの使者は、どうやらミラが聖女として覚醒した事を聞きつけ、ミラを本山へ差し出せと命じたらしい。
マーガレット司教は、それを拒否したのは勿論なのだが、そこで本山の使者が目にしたのが、光の宝珠と、アリスさんとエリスさんが持つ、双子の光結晶だった。
使者は、アリスさんとエリスさんから双子の光結晶を取りあげ、更に光の宝珠をも持ち去ろうとして、警備兵と冒険者との争いになった。
しかし、使者達の警護で同行して来ていた聖騎士達が、卑怯にもマーガレット司教を人質にしたので、警備兵や冒険者は使者達に手出しが出来ず、光の宝珠を彼らに奪われたのだと言う。
その際、光の宝珠に名付けられていた"ジングージ宝珠"と言う名を知り、新たに聖女となったミラと、光の宝珠を奉納した俺に対して、教会の総本山まで出頭しろと命じて、そのままマーガレット司教を拉致し、教会の本山へと帰って行ったのだと。
それが、二日前の出来事で、彼らを追って直ちにミランダさんと警備隊の精鋭、そして冒険者ギルドからパーティー"雛鳥の巣"のギルさん、ガレル君とハンナさんが加わって、追跡を開始したとの事。
しかし、マーガレット司教を人質に取られているため、無闇に接近する事は憚られ、付かず離れずの状態で追跡していると言う。
「判りました。それで、教会の本山までは、馬車だとどの位の時間を要するのでしょうか?」
「はい、急いでも馬車では三日を要しますから、明日には本山の有る聖都へ到着すると思います」
「相手の人数は?」
「使者が二人と聖騎士が四人、それと神術使いが二名でした。後は馬車を操る者が二名です」
「神術? それは、どんな術なのでしょうか?」
「教会関係者の魔術師が使う術で、魔法使いの事でございます」
「ああ、成る程。魔結晶を結晶と言うのと同じですね。どんな魔法を使うかご存じですか?」
「判りませんが、恐らく火と風だと思います」
「判りました。では、今から自分達が、直ちに追跡を開始します。今日中には追いついて、マーガレット司教を必ず救い出します」
「えぇ、今日中でございますか?」
「はい、今日中です。実は、今朝がた古代遺跡都市を出発して、先ほどスベニに付いたばかりです」
「な、なんと古代遺跡都市から、僅か半日でスベニまで……流石、使徒……いえ、ジングージ様です」
「では、早速出発します。みんな、帰って来たばかりで悪いが、聞いての通りだ」
「勿論だよ。アタイもは直ぐにでも院長先生を助けに行きたいよ!」
「私もでしゅ! 直ぐに行きたいでしゅ!」
「私もです。お兄ちゃん、構わないよね」
「当たり前だよ、ミラ。ジョーさん、僕たちが先行して先に行き、足止めをします」
「そうだな。それが良いだろう。指揮者ゴーレムと飛行装置で5人乗れるな……。良し、ロックとミラ、そしてアンとナーク、サクラが先行部隊だ」
「「「「「はいっ!」」」」
「指揮はサクラが執ってくれ。全員が89式小銃を携帯し、アンは合わせてバレットM82A3も忘れるなよ」
「はい、主様。指揮を執らせて頂きます」
「判ったよ。勿論、愛銃は忘れないよ」
「ビル大佐、一つお聞きしたのですが、教会関係者であっても、盗みや誘拐をした場合、スベニの法律では、どうなりますか?」
「所属がどうあれ、スベニの法律では、誘拐は重罪ですな。鉱山送りは確定ですし、拉致された者が怪我をした場合には、死罪の可能性も捨てきれませんな」
「判りました。では、全員修練場まで戻るぞ。おっと、その前に……コロニ、俺達が戻るまで教会で待って居なさい」
すると、コロニは俺の足に抱きついて来て、頭を何度も横へ振る。
そして、コロニの頭の上に座っていたパサラが、すかさずコロニの代弁をした。
「コロニも一緒に行く。置いて行かないで」
まあ、初めて来たスベニで、行きなり一人じゃ淋しいのも良く判る。
俺が責任を持って面倒を見ると言ったんだから、今回は仕方ないな……。
「よし、それじゃコロニも一緒だ。全員、トラックへ乗車だ」
「「「「「はいっ!」」」」」




