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墓標

 狼人族のコロニちゃんへガイドを依頼する事になり、俺達は冒険者ギルドの建物に入って行く。

 ロックの話しでは、古代遺跡都市の探索を行うには、入場料が必要との事で、それを支払い入場パスを貰う必要があるとの事。

 入場料は、冒険者ギルドの収益となり、税からは警備隊の維持費用なども捻出される様だ。

 料金は、一人、一日分で銀貨一枚との事で、決して安くは無い。

 観光目的で来てる客であれば、一日で十分なのだが、探索目的だと数日以上を要するので、結構な金額だ。


 フェアウェイ大公やシムカス伯爵から紹介状を頂いているので、ローランさんの話しでは冒険者ギルドでも紹介状が有効だと言われていた。

 冒険者ギルドの受付の列に、俺とサクラさんが並び受付を待つ。

 程なくして、俺達の受付順番となり、受付嬢へ入場を申請する。

 入場パスは、個人用とパーティー用があると、これもローランさんに教えてもらっていたので、今回は"自衛隊"と"九ノ一"のパーティで登録だ。

 受付嬢へ俺とサクラさんの身分票と共に、フェアウェイ大公とシムカス伯爵の紹介状を添えて提出する。


「ジングージ様とサクラ様、パーティーでの入場申請、承りました。ガイドは、既におきまりですか?」

「決まっています。あの子です」


 俺は、そう答えてから、コロニちゃんを指さした。


「まあ、コロニを……。ありがとうございます。中々、あの子をガイドに雇ってくれる方も居りませんので、私たち職員も皆が心配しているのです」

「仲間が以前に、あの子の母親へガイドを依頼した事がありまして、その縁です」

「そうですか……エリーンさんは、残念でした。……失礼しました。紹介状の方は、私では判断が出来ませんので、会長(ギルド・マスター)へ確認してまいります。少々、お待ち下さい」


 受付嬢は、そう言うと受け付けカウンターを後にして、奥へと消えて行った。

 そして少しの間、受付カウンターの前で待っていると、受付嬢が戻って来る。


「ジングージ様、サクラ様、会長がお会いしたいとの事ですので、パーティーの皆様とご一緒に会長室までお越し下さい」

「判りました。コロニちゃんも一緒で宜しいのですか?」

「はい。コロニも連れて来て行って下さい」

「それでは、案内をお願いします」

「はい、では此方へどうぞ」


 受付嬢に案内され、俺達はカウンター横の通路をとおり、奥のギルド・マスター室まで行く。

 俺達は、総勢18人の大所帯なので、かなり目を引く。

 受付をしている客達はもちろんの事、受付嬢達も俺達に注目している。

 そして、最後尾から木製の箱車を引きながら付いてくるコロニちゃんを見つけると、受付嬢達の表情が笑顔に変わるのが見て取れた。

 この子、本当に職員全員に愛されているのだな。


 ギルド・マスター室の扉の前に来ると受付嬢は、ノックをして「ジングージ様ご一行をご案内しました」と言うと、部屋の中から「お通ししてちょうだい」と女性の声が聞こえた。

 受付嬢はドアを開いてから、「どうぞ、お入り下さい」と言い、俺達を部屋の中へと導く。

 ギルド・マスター室は広く、どうやら会議室も兼ねている様でテーブルや椅子の数も多い。

 部屋には、一人の女性が居り此方を見ている。

 30歳前後位だろうか、調った顔立ちで茶色の髪は、肩くらいで切られているので既婚者らしい。

 そして、窓際のテーブルの奥に座って居た女性が立ち上がり、俺達へにこやかに言った。


「ようこそ、カタンへ。歓迎しますよ、勇者ジングージ殿と、そのお仲間の皆さん。私は、カタンの冒険者ギルドでマスター(会長)を勤めているシラリアです。よろしく」

「シラリアさん、初めまして。自分はジョー、ジョー・ジングージです。宜しくお願いします」

「いや、こんな田舎の小さな町にも、ジングージ殿の武勇伝は聞こえてきております。お会いできて光栄ですよ」

「恐縮です。早速ですが、フェアウェイ大公閣下とシムカス伯爵からの紹介状には、何と書かれておりましたか?」

「勿論、便宜を図れと指示を頂きましたので、その様に致します。当面、パーティー全員への1ヶ月の無料入場を許可します。おっと、コロニの分も合わせてね」

「有り難うございます。お言葉に甘えさせていただきます」

「何を申されますか、タースのみならずイサドイベまで救った勇者パーティーが。心ゆくまで古代遺跡を探索して下さい。延長が必要であれば、もちろん許可しますよ」

「はい、感謝いたします。1ヶ月あれば当面の目的が達せられと思います」

「では、何かあれば私へ相談してください。おっと、警備隊長へ着任されたヴァンチュラ殿とも親交が有ると伺っておりますので、心配は不要でしたね」

「そうですね。ヴァンチュラ卿とは、タースの一件以来ですが、まさか今日お会いするとは、驚かされました」

「ジングージ殿を驚かせるのだと、子供の様に楽しそうにして居られましたからね。それでは、此方が入場票になります、お受け取り下さい。これはコロニの分です。コロニ、良かったな」


 女性ギルドマスターのシラリアさんが、俺達へ入場票を渡してくれる。

 入場票は、革紐が付いた革製で、これを首から提げておかないと入場出来ないとの事。

 俺達が受け取った革製と違い、コロニちゃんが貰ったのは木製の入場票で、それに革紐が着けられている。

 こっくりと頷いて、入場票を受け取ったコロニちゃんは、嬉しそうに微笑んでおり、尻尾が激しく振られている。


「それでは、皆さん気を付けて探索を行ってください。リーダーのお二人には、少しお話が有りますので残ってください。コロニ、しっかりガイドをするのだよ」


 シラリアさんの言葉に、コロニちゃんは大きく頷いてから、頭をぴょこんと下げてから退室する。

 そして俺とサクラさんを残し、"自衛隊(ジエータイ)"と"九ノ一(くのいち)"、そしてミラ達も退室して行った。

 部屋には、俺とサクラさん、そしてシラリアさんの三人だけとなり、シラリアさんが口を開く。


「ジングージ殿、サクラ殿、コロニの事、宜しく頼みます。こんなお願いが出来るのは、貴殿らのパーティーならば、コロニに危険が及ぶ事も無いからなのです」


 そう言って、シラリアさんは、俺達に頭を下げた。


「成る程……そう言う事ですか。本来ならば、あの子にガイドをさせてはならないのですね?」

「そうなのです。規定では、ガイドの見倣いは10歳からで、正式ガイドは12歳以上なのです。コロニは未だ8歳になったばかりですから……」

「孤児院とかは、この町には無いのですか?」

「有りません。かと言ってイサドイベやタースへ送るのも忍びなくて……。エリーンは、結婚するまでギルド職員でしたので、ギルド職員の皆がコロニを可愛がっているのです」

「そう言う事情でしたか。判りました。大丈夫ですよ、シラリアさん。俺達に任せておいてください」

「はい。申し訳ありませんが、宜しくお願いします。ところで、宿はどうされますか?この町には四軒しか宿が無く、どれも満室と聞いております」

「お気遣い無く。野営の装備を持っておりますので、空いた土地さえ有れば問題ありません」

「そうでしたか。ならば町の外れにコロニの住んでいる家が有り、すぐ側に広い空き地が有りますから、そこをお使い下さい」

「それは好都合ですね。では、これから早速コロニちゃんにガイドしてもらって、宿営の準備を行います」

「はははは……。それはコロニも喜ぶでしょう。本当に、有り難うございます、ジングージ殿、サクラ殿」


 俺達が部屋を退出する際、シラリアさんが一枚の羊皮紙を渡してくれた。

 それは古代遺跡都市の地図で、カタンの町や古代遺跡入り口でも地図は売られているのだが、粗悪品が多くて役に立たない地図が多いのだと言う。

 俺は、有り難く地図を頂き、シラリアさんへ礼を言い皆が待つギルド受付まで戻る。

 コロニちゃんを連れて、警備隊の宿舎まで戻り、ローランさんへ挨拶を済ませてから16式機動戦闘車と96式装輪装甲車へ分乗し、コロニちゃんの家がある町外れまで移動を開始した。


 カタンの町を走る俺達に、町の住人達やガイドの冒険者達も、驚いて道を空けてくれる。

 先頭を走る96式装輪装甲車には、車長用ハッチから誰かに肩車されたコロニちゃんが、嬉しそうにはしゃいでいる姿が見えており微笑ましい。

 やはり、幼い子共は、乗り物が大好きなのは、この異世界でも同じ様だ。

 暫く走ると、町の外れまで来てしまい、コロニちゃんの指さす方へと96式装輪装甲車が進路を変えた。

 俺達の乗っている16式機動戦闘車も、その後を追従して行く。


 少し進むと、小さな小屋が見えて来て、どうやら此処がコロニちゃんの家らしい。

 96式装輪装甲車を操縦しているのは、以前来た事の有るロックなので、間違いは無さそうだ。

 小屋の先は、広い空き地になっており、この空き地がイラリアさんの言った野営可能な空き地だろう。

 俺達は、小屋を通り過ぎて空き地まで車輌を進め、小屋に近い場所へ停車した。

 エンジンを切り全員が下車して、分担して宿営の準備を開始する。


 96式装輪装甲車の後部ハッチから、箱車を引いてコロニちゃんが小屋へと向かう。

 そして、小屋の脇にある場所へ行くと、箱車から何処かで摘んで来たのだろう花を取り出して手向ける。

 これは恐らく、コロニちゃんの母親の墓なのだろう。

 そこには、二つの墓標らしき石が有ったので、片方は父親のものなのかもしれない。

 俺達"自衛隊"とミラ、そして"九ノ一"も全員で、その二つの墓に手を合わせて、コロニちゃんの両親の冥福を祈る。

 俺は、最後に二つの墓標へ向けて敬礼をし、亡きコロニちゃんの両親へ安らかに眠る様、祈りを捧げた。






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連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

作者X(旧ツイッター):Twitter_logo_blue.png?nrkioy) @heesokai

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