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3枚の海図

 黒船から、縄梯子を使って下船する俺とアン、そしてナーク。

 ベルとサクラさんは、俺達が護岸まで下りるのを確認してから、そのままジャンプして、スタッと護岸へ華麗に着地する。

 俺も、この跳躍力が欲しいと思うが、それは生まれついての能力なのだから無い物ねだりだ。

 俺がもし、あの高さから飛び降りたら、間違いなく足の骨を折ってしまうだろう。

 獣人は、筋力もそうなのだが、骨の強度も人族より高いに違いない。

 俺達が、護岸化された岬へ降り立つと同時に、ハンディー・トランシーバーからロックの声が聞こえた。


『ジョーさん、聞こぇますか?此方、ロックです。どぅぞ……ザッ』

「了解。こちらジョー。良く聞こえるよ。どうぞ」

『はぃ。今、港に到着しました。岬まで行きましょうか?どぅぞ……ザッ』

「いや、そこに居てくれ。此方は敵船の調査が終わったので、詳細はマヌー隊長達に任せて、そちらへ戻るよ。どうぞ」

『了解です。では、此処で待機してぃます。どぅぞ……ザッ』

「そうしてくれ、それじゃ、後でね。以上、通信終了」


 ロック達の到着は、グッド・タイミングだ。

 俺達は、黒船の調査が粗方は終わったので、もう此処に居ても仕方が無い。

 全員へ16式機動戦闘車に搭乗する様に指示を出し、俺も車長用ハッチから砲塔内へ入る。

 ナークが、操縦席へ乗り込むのを待ってから、港へ戻る様に指示を出す。

 岬の突端は、少し広くなっていたので、此処で何度か後退と前進を繰り返し、ハンドルを切り返して車体の向きを変えてから、そのまま港へと前進する。

 念の為に、砲塔は180度回転させて、後方を何時でも砲撃できる体勢だ。


 それにしても、ナークの16式機動戦闘車を操縦する技術は、日増しに上手になって行く。

 やはり、車の運転と同じで、慣れる事が上達に繋がるのだろう。

 岬の石畳道路を走って行き港の施設まで行くと、ロックの操る96式装輪装甲車が停車しているのが見えた。

 96式装輪装甲車の隣まで行き、俺達も乗った16式機動戦闘車も停車させる。

 砲塔は、再び180度回転させ、何時でも湾内へ向けて砲撃が可能な状態とし、ナークがエンジンを切った。


 既に96式装輪装甲車は、後部ハッチを開いており"九ノ一"部隊が全員、俺達を出迎えている。

 レティシア姫の護衛に付いていた3人は、黒のメイド服を身につけているが、他のメンバーは私服のままだ。

 俺達が到着すると、操縦席からロックが下りて来て、その後をミラが続いて下りて来る。

 ミラは、イサドイベの教会へ出向いて居たので修道服に身を包んでいる。

 俺達も、直ぐに16式機動戦闘車から下車するが、俺は下車する前に広帯域多目的無線機(車両用)を無限収納(インベントリー)から召喚し、16式機動戦闘車へ装備しておく。

 こうして置けば再び戦闘が起こっても、車輌間の通信は万全だ。


「ロック、お疲れ様。みんな無事で何よりだったね」

「はぃ、ジョーさん達も、ぉ疲れ様でした。レティシア姫が心配なさってぉりましたよ」

「うん、砲弾が、街中へ飛んで行った時は、着弾点が教会じゃないかと心配したけど無事で何よりだった」

「聞ぃた話しでは、大分海寄りに着弾して怪我人も無かった様です」

「そうか、それは良かったな。ミラが活躍しないに超した事は無いからね」

「はい、ジングージ様。皆さん、お怪我が無くて本当に良かったです」

「うん、ありがとう、ミラ。港の人達も、"九ノ一"のみんなが避難誘導してくれたので、怪我人も出なかったしね」

「皆の者、ご苦労だった」

「「「「「はい。お頭様も、ご無事で何よりでございました」」」」」

「私は何もしていない。主様と、アンさん、ベルさん、そしてナークさんが、三隻の黒船を全て撃退したのだ」

「「「「「はい、主様の爆裂魔法を、私達も拝見しておりましたが、素晴らしき術でございました」」」」」

「うむ。我らの主様と、そのお仲間の末席に私達も加えて頂いた事、皆の者も感謝するのだ」

「「「「「はいっ!」」」」」


 なんだか、サクラさんの賞賛の声に、"九ノ一"達の視線が一斉に俺や、アン、ベル、ナークへ向かう。

 恐らく、サクラさんは既に爆裂魔法なんかでは無く、武器による攻撃である事は薄々、気がついているはずだが、それを承知で部下達へ話しているのだろう。

 俺達が、そんな話しをしていると、岬の方からマヌー隊長と部下達が馬に乗って帰って来た。

 恐らく、黒船の細部まで調査が終わったのだろう。

 何名かの騎士達は、黒船の警備に残っている様で、人の乗って居ない馬も連れて来ていた。


「ジングージ卿。敵船には、生存者は居りませなんだ。船室内にあった資料を全て回収してまいりましたぞ」

「ドロン卿、お疲れ様でした。俺達が回収した海図なども詳細に調べてみる必要がありますね」

「そうですな。何か、判り申したか?」

「敵船の所属する国は、ガウシアン帝国という名の、遙か南の大陸にある国だそうです」

「……ガウシアン帝国ですか。それがしも南の大陸にある国と言う知識しか持っておりませぬが、あの爆裂魔法は侮れませぬ」

「はい、彼らの放つ爆裂魔法の発動体は、大砲(・・)という名の武器です。後で詳しく説明しましょう。シムカス城だと危険なので、港から海へ放つのが良いでしょう」

「なんと、ジングージ卿は敵の爆裂魔法をも使いこなせるのですか?」

「たぶん……出来ると思います。シムカス伯爵も同席して頂いて、ご説明を致したいと思います」

「そうですな、伯爵様には、その様にお伝え申し上げましょう」

「お願いします。魚人族さんが敵兵を捕縛してきたら尋問も合わせて行いたいので、シムカス伯爵にも立ち会ってもらえないか伝言をお願いします」

「承りました。おい、伯爵様に直ちに伝えに走れ」

「「はっ、直ちに!」」


 マヌー隊長の命を受け、騎士二人が直ちにシムカス城へと走り去る。

 俺は、黒船から回収した海図をマヌー隊長へ見せた。

 海図は、3枚あり一枚は縮尺の荒い海図で、ガウシアン帝国が有ると思われる南の大陸と、俺達の居る大陸が描かれている。

 俺は、ポケットからスマートフォンを取り出し、マップ表示を行ってから一気に縮尺を下げる。

 海図がどれ位、正確に描かれているのかをチェックするため、比較してみる事にしたのだ。


 一枚目の海図は、デフォルメされては居るが、距離などは大きな違いが無い様に見えた。

 二枚目の海図には、俺達の居る大陸が描かれており、そこにはイサドイベの街が描かれている。

 大きく、"×"印が描かれており、そこに向かって矢印が書かれている。

 この矢印が、攻撃目標を意味しているのかもしれない。

 そして、三枚目の海図は、縮尺は二枚目と同じなのだが、そこに描かれているのは、イサドイベの街では無く俺達の住む街、スベニへ"×"印が描かれ居たのだ。

 スベニへは、イサドイベから大河を遡る様に矢印が書かれており、どうやら次の攻撃目標はスベニが予定されている様だ。


 これらの海図から考察すると今回の襲撃は、かなり用意周到に計画されて居たと考えて良さそうだ。

 事前に密偵を潜り込ませて、攻撃目標とするイサドイベとスベニを調べ尽くしているのだろう。

 となると、今回の襲撃を行った三隻の黒船だけとは考えづらい。

 恐らく、奴らは斥候船団で本体の艦隊は、後から航行して来ると考えた方が良さそうだ。

 黒船からの艦砲砲撃で街を混乱に陥れて、その後にマスケットを持った兵士が攻め入って来るのだろう。

 イサドイベとスベニを攻略するには、それなりの数の兵力が必要だが、マスケットを持った銃撃部隊がメインの兵士だとすれば、大砲や銃を持たないイサドイベとスベニは、あっと言う間に征服されてしまう。


 マヌー隊長は、俺が開いた三枚の海図を見て、少し間を置き俺に尋ねて来た。


「ジングージ卿……これは、イサドイベだけではなく、スベニも攻撃すると言う事でしょうか?」

「明らかに、その様な作戦行動を計画しているのでしょう。恐らく、本隊は10倍以上の艦隊だと思います」

「……10倍以上と言う事は、なんと30隻以上の爆裂魔法軍艦が攻めてくると申すのか!」

「はい。それ以上かもしれません。最低でも30隻は、あの黒船が攻めて来ると思います」

「我らの戦力では、到底太刀打ちできませんぞ。いや、ジングージ卿が居られれば何とかなりましょうが……」

「防戦では、間違い無く我々が不利になります。自分達には限られた人数での迎撃しか出来ませんから」

「かと申しましても、船にあの勇者様の"鉄の箱車"を積み込んで立ち向かうなど出来るのでしょうか?」

「それは、現実的ではありませんね。何れにしても捕縛した敵兵の指揮官を尋問して、詳細な情報を得てから、迎撃する計画を立てるしかありません」

「左様ですな……おっ、魚人族の方々が艀を此方へ曳航して来ましたぞ」


 マヌー隊長が指さした方を見ると港の入り口を、イルカ達に牽引された大型の艀が此方へ向かって進んで来るのが見えた。






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連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

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