黒船調査
鯨の親子を見送りつつ、接岸された黒船を見上げる。
間近に見ると、かなり巨大な帆船だった。
それでも、一番大きかった黒船よりは、一回りほど小型で砲門も片側2門の計4門が装備されている。
接岸された側の砲門は、扉が閉じられており反対側の砲門は、俺達を砲撃しようとしたので空いたままだと思われる。
こちら側は、積載していた火薬の爆発による損傷も少ないが、反対側は大きな損傷がある筈だ。
さて、どうやって黒船の調査を行おうか。
梯子らしき装備も無く、誰かが乗船してロープか縄梯子でも下ろさないと、俺には手も足も出ない高さだ。
俺は、その事を思わず声に声に出してしまう。
「とても登れる高さじゃないな……」
「ジョー様、私にお任せ下しゃい」
「ええ、ベルは、どうやって登るんだい?」
「この高さなら、大丈夫でしゅ。乗船したら、綱を探して下ろしましゅね。ナークさん、少し後ろへ下がって下しゃい」
「……どの位?」
「船の真ん中くらいへ、お願いしましゅ」
「……判った」
ベルに依頼されてナークは、16式機動戦闘車を後退させる。
黒船の船体は、中央部分が最も喫水線から低かった。
ナークは、黒船の中央まで下がると停車させてベルに尋ねる。
「……此処で大丈夫?」
「はい、ナークさん。大丈夫でしゅ」
そう言うと、ベルは16式機動戦闘車の砲塔のハッチから外へ出て、そのまま砲塔の上に立った。
そして、大きくしゃがみ込んでから、「えいっ!」とかけ声を発し、そのまま大きくジャンプする。
ベルは、戦闘服では無くスカートとブラウスと言う普通の女の子の格好だが、一直線に黒船の甲板まで軽々とジャンプしたのだ。
獣人の身体能力は、これほどまで高いのか……。
確かにベルは兎人族だからジャンプが得意なのかも知れないが、助走も無しに、これだけのジャンプをするとは元の世界であればハイジャンプで金メダルは間違い無しだ。
「一人では危険ですので私も参ります。主様」
「えっ?サクラさんもですか?」
「ベルさん程では有りませぬが、私も飛び上がるのは得意でございます」
サクラさんは、そう言うとベルが出て行った砲塔のハッチから、砲塔へ出るとベルと同じ様に大きくしゃがみ込み、少し間を取ると、「はっ!」と言う、かけ声と共に大きくジャンプした。
そして、身体を丸めて空中で一回転して、綺麗に黒船の甲板へと舞い降りる。
なんと、サクラさんもベル同様に、棒高跳び並みの高さを、助走無しでジャンプしたのだ。
獣人の身体能力、恐るべし。
そう言えば、サクラさんは、妖狐人族と言っていたから、狐の様にジャンプする能力も備えていたのか。
それは、兎を追う狐の如く、ベルを追ってサクラさんもジャンプした訳だ。
「ジングージ卿、船から舫綱を下ろして頂ければ、我らが係留いたしますぞ」
「あ、はい。乗船してから舫綱を探します」
「お願い致します。我らでは、ご両名の様な身軽な事は出来ませぬ故」
「そうですね。それは自分も同じです。仲間とはいえ、自分も彼女達には、驚かされています」
「獣人族の身体能力は、我ら人族を遙かに凌いでおりますからな。いやはや、面目ない」
マヌー隊長も、そう言って苦笑いしながら、被っている兜を自らの手で叩いた。
「ジョー様、綱が何本か有りましゅたので、下ろしましゅ」
「うん、船首の方から頼むよ。ドロン卿、舫綱を船首から下ろします」
「忝ない。おい、皆の者。直ちに係留作業にかかれ」
「「「「「はっ!直ちに」」」」」
「主様、縄梯子が有りましたので、下ろします」
「頼む。直ぐに、俺達も乗船するから、周囲の警戒を怠るなよ」
「はい、主様」、「はい。ジョー様」
サクラさんが探し出した縄梯子が、黒船から護岸へ向かって下ろされた。
俺は、その縄梯子を登るため、砲塔の車長ハッチから外へ出て、縄梯子の下ろされた場所まで走って行く。
89式小銃のストラップを肩に掛けて、そのまま背中へ回し、下ろされた縄梯子を登る。
俺の後には、アンが続き、俺が縄梯子を登りきるのを待つ。
アンも、89式小銃を背中に回して、俺の方を見上げている。
そして、ナークも同様に16式機動戦闘車の操縦席ハッチから外へ出て、アンの傍らに立った。
俺が縄梯子を登り切って黒船の甲板へ降り立つと、破壊されたメイン・マストの有った所は、アンが発射した105mm榴弾によって見事に破壊されていた。
そして、積載していた火薬の爆発によって、甲板には大きな穴が中央と、船尾の方にも空いている。
前後のマストは焦げてはいるが、まだそそり立っているが帆は完全に燃え落ちており、焦げた残骸が風に靡いていた。
甲板には、爆発による死傷者の姿は見えない。
恐らく、鯨の起こした大波を被り、海へと流されてしまったのだろう。
ベルとサクラさんは、船尾へと走って行き、船体に結びつけられているロープを、次々と護岸へ向かって下ろしている。
俺は、船首に有った碇を止めてあるロープを見付けたので、そのロープを89式多用途銃剣で切断した。
碇は勢いよく海面へと落ちて行き、そのまま海中へと沈んだ。
護岸側の碇は、そのまま落とすと護岸に衝突してしまう位置だったので、そのままにして置く。
これで、この船艦も風で流されてしまう事は無いだろう。
護岸の上では、騎士達が下ろされた舫綱を、護岸の脇に設置されている金属製の杭へ結び着けていた。
船首は、これで護岸に係留できたので後は船尾を係留すれば大丈夫だろう。
アンとナークも、既に縄梯子を登ってきて、甲板の上に立っている。
そして、最後にマヌー隊長が縄梯子を登って来て甲板を見回す。
甲板には、何も無いので船内を探査してみる事にし、俺は無限収納から、LED懐中電灯やLEDランタンを召喚した。
LED懐中電灯やランタンを、アン、ナーク、ベル、そしてサクラさんへも渡し、船尾にあった下層への階段を下りて行く。
俺とアンだけが89式小銃を持っているので、俺とアンが先頭だ。
直ぐ後にサクラさんが続き、その後を9mm拳銃を構えたベルとナークが続き、マヌー隊長が殿を勤める。
爆発で空いた甲板の穴からは、日の光が差し込んでいるので真っ暗では無い船内。
船内を、LED懐中電灯で照らしながら下層を調べてみると、投棄されずに大砲が残っていた。
取り敢えず証拠の品なので、そのまま無限収納へ格納。
マヌー隊長は、大型の大砲が消えたので驚いているが、「魔法収納鞄へ収納しました」と言いサクラさんの持っていた魔法収納鞄を指さすと納得する。
また、誘発しなかった火薬の詰まった樽も発見したので、これも収納して置く。
大砲への砲弾を詰め込む、砲弾の運搬用荷車の様な物も有ったので砲弾と共に、これも収納だ。
この下層には、爆発で死傷したと思われる兵士の姿も見付けたが、既に事切れていた。
生存者は、脱出して海へ飛び込んだのかも知れず、息のある兵士は皆無だ。
屍に変わり果てた兵士は、金属鎧を身につけた遺体もあり、彼らがガウシアン帝国の軍人である事を物語っている。
遺体の回収は、後でイサドイベの兵士にお願いする事にし、俺は他の物を探す。
そして、それは、直ぐに見付ける事が出来た。
一体の遺体が、マスケットを手にして居たのだ。
その遺体の腰には、水牛か何かの角を加工した火薬入れと、鉛玉が沢山入った革袋が有った。
俺は、それらを無限収納へ格納する。
マスケットの発射装置の火縄は、火が付いた状態では無く、その着火用の火種と思われる金属製の容器も発見した。
これを無限収納へ格納すると、火種も消えてしまうのだろうか。
試しに収納してから再び取り出してみると、火種は問題なく消えずに居た。
無限収納へ格納した段階で時間が凍結されるので、火種も消えないと言う事か。
その後も、船内の捜索を続け、何丁かのマスケットや火薬入れ、弾丸や予備の火縄なども見つけたので全て無限収納へ収納した。
船長室と思われる部屋では、海図や航海日誌、命令書なども発見し、全て証拠となるので勿論、収納だ。
結局、生存者は一人も居らず、生きて居た者は全員が下船した様子だった。
最後に砲撃した黒船は、拿捕されるのが決定的だったので、自爆による自沈を決断したのだろうが、この黒船は既に火薬が誘爆したので、恐らく沈没すると考え、そのまま待避を選んだのだろう。
下層から、再び甲板へと階段を上がると、マヌー隊長の部下達も甲板へ上がって来ていた。
より詳しい黒船の調査は、マヌー隊長達に行って貰う事にし、十分な証拠品や武器を鹵獲する事が出来たので、俺達は調査を終え黒船を下船する事にする。




