迎撃
俺は、艦砲攻撃と思われる着弾点へと走る。
破壊された路面には、大きな穴が石畳に出来ており、穴の中には石畳の瓦礫と共に、ボーリングのボール程の鉄球が見えた。
砲弾の形状からすると、四斤山砲では無く、初期の大砲の様だ。
着弾してからの爆発も無く、元の世界での鉄球を砲弾とする15世紀の大砲と同等だ。
どの程度の射程距離を持っているのかは、記憶に無いので不明だが、火薬の性能や量によっても変化するだろが、1Km~2Km程なのだろうか。
俺が、着弾点を調べていると、新たな爆発音が海の方から聞こえてくる。
くそ、この砲撃間隔だと、複数の砲門を備えているのは、間違いない。
ヒューンと言う音と共に、今度はイサドイベの街の方へと砲弾が飛んでいく。
やばい、街中へ着弾したら石造りの家屋は、完全に破壊されてしまうし、中にいる人も無事では無い。
俺は、直ちにハンディー・トランシーバでロックへ連絡を入れた。
『ロック、聞こえるか?……どうぞ!』
『こちら、ロック。聞こぇます。ぁの爆発音は何ですか?どぅぞ……ザッ』
『港の外に居る船からの砲撃だ。敵は不明だが、明らかにイサドイベを攻撃している。直ちに、教会から全員待避して、城へ戻れ。どうぞ』
『了解。城へ直ちに避難します。……ザッ』
『城へ戻ったら、連絡をくれ。以上、通信終了』
元の世界では、500年以上前の大砲が、この異世界にも存在していたとは、想像も出来なかったが、この砲撃は事実だ。
この異世界で、独自に開発された大砲なのだろうか。
それとも、俺と同じ女神様によって転生・転移してきた異世界人がもたらしたのかは、今の段階では全く不明だ。
兎に角、いきなり砲撃を行って来たという時点で、イサドイベに敵意があるのは間違いない。
そして、その攻撃対象には、俺達も含まれている。
そうであれば、防衛行動に移るのを躊躇してはならない。
被害が大きくなる前に、相手を撃退する必要がある。
「みんな、砲撃している船を叩くぞ!」
「砲撃しているのは、沖に居る船だよ」
「アン、見えるのか?」
「うん、黒い船が三隻居るよ」
「MCVの主砲で狙うとすれば、何処が良い?」
「この岬の先からなら、大丈夫だよ」
「よし、俺と、アン、ベル、ナークは一緒に護岸工事された岬の先まで行く。サクラさん達は、砲撃に注意しながら、避難民を誘導してくれ。怪我人が居れば看護して、ミラが来るのを待ってくれ」
「主様、私も同行させてくださいまし。部下達には、今の命令を実行させます」
「判った、サクラさんも一緒に来てくれ」
「皆の者、主様の命令を遂行せよ」
「「「「「はい!」」」」」
俺達は、"九ノ一"部隊へ避難民の誘導や、怪我人の救助を頼み、岬の突端まで全速力で走る。
護岸工事された岬と言っても、それは天然の小さな岬を石垣で整備している様で、現代の港の様なコンクリート製では無い。
突端までの道は、一応、石畳で舗装されては居るが、それほど幅も広くなかった。
16式機動戦闘車や96式装輪装甲車では、突端まで行くことも可能かどうか不明だ。
行けたとしても、帰って来るためのUターンをする場所もなく、バックで引き返すしか無いだろう。
そんな状態だったので、俺は16式機動戦闘車を無限収納から召喚せずに、護岸工事された岬の突端まで走る事を選択した。
久々に全速力で走っているので、息が切れてしまうが、今は一分、一秒を争うので、弱音は吐けない。
俺に続いて、ベル、サクラさん、アン、ナークが続いてくる。
流石に、獣人の走る速度と体力は凄い。
息も切らさず、俺に追従してくる。
しかし、アンやナークも、息を切らしている訳ではない。
どうやら、俺が一番の軟弱者の様だ。
全速力で走って、護岸工事された岬の突端まで到着する。
そこは、少し広くなっており、小さな灯台の様な塔が有った。
俺は、直ぐに無限収納から16式機動戦闘車を召喚し、全員へ搭乗する様に指示を出す。
今回は、重機関銃M2や通信機は召喚しない。
16式機動戦闘車の主砲だけが、迎撃に必要なのだ。
ナークが16式機動戦闘車をの操縦席へ乗り込み、直ちにエンジンを始動する。
砲塔のハッチから、アンとベルが乗り込む。
車長のハッチから、先ずサクラさんを乗り込ませ、続いて俺も砲塔内へと搭乗した。
そして俺は、直ぐにアンへ指示を飛ばす。
「アン、敵の船までの距離を測定しろ」
「うん、判ったよ」
俺は、双眼鏡を無限収納から召喚して、最大倍率で謎の黒船、三隻を見る。
その時、再び敵の砲門が火を噴いた。
三隻の内、一番大型の船からの砲撃だ。
黒船の側面には、砲門らしき物が、三門見える。
他の二隻には、砲門らしき物は見えないが、今は砲門の扉を閉じているだけかもしれない。
「ジョー兄い。砲撃している船まで、距離は893mだよ」
「よし、着弾補正は自動補正にしておけ」
「この距離だと、そうなっちゃうよね……」
「ベル、主砲へ榴弾を装填」
「はい、榴弾を装填しましゅ」
「アン、砲撃している黒船の側面中央、吃水線へ照準を合わせろ」
「……ごめんよ、キッスイセンて何?」
「ああ、船と海の接している水面線だ。海面の直ぐ上、船の側面を狙え」
「判ったよ、ジョー兄い」
「ジョー様、榴弾装填、完了しましゅた」
「了解、ベル。サクラさん、耳を押さえて、発射音に備えてくれ」
「はい、主様」
「よし、アン、撃て!」
「うん、発射するよ!」
アンが、16式機動戦闘車の主砲、105mmライフル砲のトリガーを引く。
105mm榴弾の発射音が、砲塔内に轟くと共に、主砲から火が噴き出した。
狙いは、此方を砲撃している大型の黒船の喫水線だ。
自動着弾補正を保険として動作させたが、恐らくアンの砲撃センスであれば、初撃は目標に命中しなくても、二撃目なら間違いなく命中させてくれるだろう。
しかし、今回は相手の砲撃を直ちに阻止せねばならない。
そして、目標を外す事無く、105mm榴弾が着弾し、爆発音と共に黒船から爆煙が立ち上った。
双眼鏡で大型の黒船を確認してみると、船体が真っ二つに別れて爆散し、ゆっくりと沈没して行く。
他の中型船を見てみると、船体の側面から、扉が二箇所開いた。
どうやら、また砲撃を行う様で、懲りない連中だ。
既に、火薬の準備と砲弾の装填は済んでいる様で、開いた扉から大砲の砲身が見える。
あんな骨董品の大砲では、あの距離から俺達を狙っても当たりはしないだろう。
しかし、まぐれ当たりが無いわけではない。
「ベル、次弾も榴弾を装填」
「はい、榴弾装填しましゅ」
「アン、今度は手前の中型船だ。狙いは中央の帆柱の根本を狙ってくれ」
「判ったよ。着弾点の補正値が判ったから、手動でも良い?」
「任せる」
「榴弾、装填完了でしゅ」
「良し。アン、撃て!」
「うん、発射!」
アンが、主砲を発射する直前、敵の黒船から大砲の発射音が聞こえて来る。
同時に、アンが105mmライフル砲を発射した。
敵の砲弾は、右手の海面へ着弾し、大きな水柱が出来る。
水しぶきが、俺の身体へと降り注ぐが、ゴーグルに付着した水滴を拭うだけだ。
そして、アンの発射した105mm榴弾も、同時に中型の黒船に命中した。
105mm榴弾が、敵船へ着弾と同時に大爆発をする。
黒船のメイン・マストが根本から折れ、帆が炎に包まれた。
そして、暫くすると、船体の中央や後方からも爆発が起こる。
恐らく、積載している火薬に引火したのだろう。
中型の黒船は沈没する事なく、そのまま海上で炎上した。
もう一隻の中型黒船は、開いた砲門の扉を閉じる事無く、全ての帆を張り、船首を沖へと向けている。
ふん、逃がすものか。
「ベル、榴弾装填!」
「はい、榴弾装填しましゅ」
「アン、逃走を開始した船へも攻撃だ」
「判ったよ。今度は何処を狙うの?」
「船首が完全に沖に向いてから、敵船の船尾、吃水線を狙ってくれ」
「判ったよ、お尻の吃水線を狙うよ」
「榴弾装填、完了しましゅた」
「良し。アン、狙いを定めておいて、敵船の尻が見えたら即砲撃だ」
「判ったよ…………今、見えたよ。発射!」




