マスケット
アンの発射した、16式機動戦闘車の主砲、105mmライフル砲が轟音と共に火を噴く。
既に、二隻の黒船を撃破したアンは、三隻目の標的も外す事なく、見事に船尾へ命中させる。
しかも、喫水線ギリギリへの着弾だ。
これで、敵船の舵は破壊したし、船尾には大穴が空いたので、浸水も激しいだろう。
帆船は、舵だけではなく、帆の角度によっても、ある程度の操船が可能だと聞いた事がある。
俺は、敵船の帆を破壊すべく、無限収納から、12.7mm重機関銃M2と、74式車載7.62mm機関銃を召喚し、16式機動戦闘車へ装備した。
「アン、次は敵船の帆を破壊する。機関銃で、帆の中央を撃ち抜いてくれ。俺も、重機関銃M2で狙う」
「うん、判ったよ。でも、徹甲弾で帆柱を打ち抜く方が早いんじゃない?」
「……帆柱を徹甲弾で狙うのかよ……出来るのか、アン?」
「う~ん、やってみないと判らないけど、試してみて良い?」
「よし、やってみてくれ。ベル、主砲へ徹甲弾を装填してくれ」
「はい、ジョー様。徹甲弾を装填しましゅ」
「砲撃は、アンの判断で撃って構わない。俺は、重機関銃M2で帆を穴だらけにする」
「判ったよ」
アンの提案で、徹甲弾による敵船のマスト破壊を試してみる事にした。
俄には信じられないが、アンが出来そうだと言うのなら試して貰おう。
俺は、銃座のハッチを開き、装備した重機関銃M2を敵船の帆を目掛けて発射する。
可能な限り、帆の中央へ当たる様に狙いを定めて、トリガーを引く。
ダダダダダダダッ!と、重機関銃M2が連続射撃音を発し、火を噴いた。
帆に命中しているかどうかは、俺の裸眼では確認できないので、双眼鏡で敵船の帆を確認してみる。
最大倍率の双眼鏡でも、帆に空いた穴までは確認出来なかったが、最後尾のマストの帆は、左側が大きく裂け始めていた。
どうやら、弾丸が帆に命中していた様だ。
風を受けて孕んだ帆は、風圧で穴の空いた弱い場所から布が裂けているのだ。
重機関銃M2の12.7mmNATO弾であれば、最低でも1cm以上の穴が空くし、貫通してメイン・マストの帆や前方の帆にも穴は空くだろう。
俺が、双眼鏡で敵船を確認していると、アンが「ジョー兄い、発射するよ」と声を下から発してきた。
俺は、銃座から一端、砲塔内へ入り、車長用のハッチへと戻り、「撃ってくれ」とアンに頼む。
アンは、「船が左右に揺れているから、調整するよ」と言ってスコープを覗いていた。
そして、「発射!」と、かけ声を発すると、16式機動戦闘車の105mmライフル砲が、敵船に向かって発射音と共に火を噴き、徹甲弾が発射された。
俺は、双眼鏡で敵船の後部マストを確認していたが、残念ながらマストを僅かに外して、帆に大きな穴が空き、そのまま貫通する。
しかし、船の揺れが逆へ揺れると、後部のマストは途中から、ポッキリと折れたのだ。
なんと、マストのど真ん中には命中しなかったが、半分近くはマストをえぐり取ったのだろう。
更に驚いたのは、なんと中央のマストも、後部のマスト同様に途中から折れ始めた。
それにしても、一発の砲弾で2本のマストをへし折るとは、本当に、この娘の射撃や砲撃能力は、人間離れしている。
以前、マーガレット司教に「アンは"女神様の加護"か"祝福"を持っているのではないか」と尋ねた事があるのだが、司教は「どちらも、ありません」と断言した。
元々、弓は上手だったらしいが、「銃撃や砲撃ほどは上手くないよ」と、アン本人の口から聞いている。
俺が銃や大砲を、この異世界へ持ち込まなければ、アンの才能も開花する事は無かったのだから、俺としては、なんとも複雑な心境だ。
「あははは……アタイ、外したと思ったけど、2本折れたよ」
「凄いぞ、アン!良くやった」
「凄いでしゅ、アンちゃん」
「アンさん、素晴らしいです」
「……凄い」
「よし、その調子で、前方のマストも狙ってくれ。ベル、徹甲弾を装填」
「はい。徹甲弾、装填しましゅ」
「アン、砲撃は任せた。好きな時に撃て」
「うん、今度は外さないよ」
アンは、2度目の砲撃タイミングを伺っている。
敵船は、2本のマストを失い、左右への揺れも少しだけ収まっている様だが、既に操船もままならない状況なのか、船体を徐々に此方へ向けていた。
船尾に被弾して浸水も激しいのだろう、船体後部がかなり海へ沈んでいる。
そして、アンが沈黙を破り叫んだ。
「発射!」
16式機動戦闘車の主砲、105mmライフル砲が、アンの叫び声と共に、再び火を噴いた。
そして、今度は狙い違わず、敵船前方のマストの根本へ命中する。
105mm徹甲弾が着弾すると同時に、マストは根本から吹き飛ぶ。
よし、これで敵船のマストは全て折れ、帆は無くなった。
もはや、海の上を漂うだけで、自力では航行する事も出来ないはずだ。
だが、敵船が軍の船舶だとしたら、恐らく次に取る行動は……。
「サクラさん、あの船の中の会話を聞き取れますか?」
「はい、主様。やってみます。表に出てよろしいでしょうか?」
「大丈夫です。その銃座のハッチから、半身を乗り出せます」
「では、失礼して……アンさん、失礼しますね」
「うん、アタイは大丈夫だよ」
砲塔の後部スペースに居たサクラさんが、アンの居る砲手席の上部にある、銃座のハッチへと移動し、そしてハッチから身を乗り出す。
俺の居る車長用のハッチの前に、狐耳のサクラさんが、ひょっこりと出てくる。
そして、両耳の後ろへ掌を翳して、沈黙した。
頭の大きな狐耳は、ピコピコと細かく動いており、はるか前方に漂う敵船の様子を探っている様だ。
「船長らしき者が部下へ命令している様です」
「聞こえている内容を、そのまま喋ってください」
「はい、主様。ますけっと……なんでしょうか、それを海へ投棄しろと言っています」
「マスケットですか。奴ら、銃まで持っていたのか……」
「大砲も投棄しろと言っています。それから……ガウシアン帝国の身元が判るものも投棄せよと」
「敵の国が判りました。ガウシアン帝国って知っていますか?」
「存じません。初めて聞く国の名です」
「アタイも知らないよ」
「私も初めて聞く国名でしゅ」
「……遙か南にある大陸の国と聞いた事がある」
「南の大陸か……他には何を言っていますか?」
「はい。お待ち下さいまし……かやくに火を放つ準備をしろと言っております」
「やはり……奴ら、自爆して船を自沈させるつもりだ」
「カヤクって、銃や大砲の発射に使う薬だよね?」
「そうだ。俺達の銃や大砲の弾の中に入っている薬だ」
「船長らしき者が、乗員に脱出を指示しております」
「判った。ありがとうサクラさん、奴らを捕縛しても、軍人では素直に白状しないだろうからね」
「主様のお役に立てて、嬉しゅうございます」
サクラさんは、そう言うと、ハッチから半身を出したまま、俺の方を振り向き、にっこりと微笑んだ。
しかし、サクラさんの神耳・真耳も凄い。
1000m離れている船の中の会話を聞き取るのだから、もはや集音器や盗聴器など全く不要だ。
それにしても、15世紀の大砲や、マスケットを独自開発したとは思えない。
恐らく、500年から600年前に、女神様に転移・転生された者が伝えたのだろう。
そして、火薬の製法も同時に伝わって、今に至ると言う事か。
マスケットと銃の名前を呼んでいる事から、日本人ではなくヨーロッパ人に間違い無いだろう。
日本人ならば火縄銃と呼ぶだろうし、年代的にもヨーロッパならば辻褄が合う。
しかし、500年も前に銃や大砲、そして火薬の製法までも得たにしては、全く進歩が無いのは少し解せない。
やはり、女神様が言っていた、「この世界では科学が全く発達していません」と言う事と無関係では無いのかもしれない。
科学技術の発想や発明に関しては、ドワーフ族は別にしても、根本的に他力本願な気がするのだ。
そんな事を俺が考えていると、俺達の後方から馬の嘶きと共に、多数の騎士達がやって来た。




