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叙勲式

 フェアウェイ大公家の執事長、セバスチャンさんからの伝言は叙勲式と言う、思いがけない朗報だ。

 俺は、風呂から上がって来た女性陣と、ロック、ナークや"九ノ一"の面々へも、その朗報を伝えると、皆はいまいち喜びが薄い表情だった。

 どうも、勲章の価値観が俺と違う様な感じで、ナークに至っては「……何、それ?」とまで言い切った。

 どうやら、名誉という概念が全員希薄な様子だ。


 ベルも「私はジョー様からレザー・ランカー用の素材を頂ける方が嬉しいでしゅ」と言っているし、アンは「その勲章って売れるのかな?」とか、ロックも「他の物も頂けるのでしょぅか?」と言った具合だ。

 サクラさんでさえ、「初代様が勇者コジロー様さから頂いた名前札の方が羨ましいです」と言っていた。

 そうか、西住小次郎大尉殿も、"九ノ一"全員の名前が覚えられずに、俺と同じ発想で名札を着けさせたのか。

 良いことを聞いたぞ、これは直ぐにでも実行せねばなるまい。


 兎に角、全員参加だから夕食前まで風呂に入って、身支度を調える様に頼んだ。

 と言っても、パーティー"自衛隊(ジエータイ)"は、予備の迷彩服3型と防弾チョッキ2型に着替え、88式鉄帽と戦闘靴2型を磨いて置くだけだ。

 "九ノ一"部隊は、私物を侯爵城から回収してきたので、その中に魔法収納鞄が幾つかあり、彼女達の着替えなどが収納されているのだと言う。


 サクラさんと"九ノ一"の面々は、「着替えて参ります」と言い残して別室へと移動する。

 "自衛隊"の面々も、同様に着替えのために別室へと、メイドさんに案内されて消えて行った。

 居間には、レティシア姫、ローランさん、そしてメイド達だけだ。

 俺は、レティシア姫へ魚人族アリエルさんの事を話す。

 もちろん、風呂場で裸の遭遇をしたことは除外した。

 するとレティシア姫は、「魚人族の長の血筋の方でございましたか、直ぐにお会いしとうございます」と言う。

 そう言えば、後で水槽へ会いに行くと約束したっけ。

 俺は、レティシア姫達と一緒に、外の水槽へと行く事にした。


 外の水槽――それは水槽と言うより池だったが――へ行くと、アリエルさんが元気に水槽を泳いでいた。

 俺達が近づくと「来てくれたの~!」と喜んで近づいてくるが、なんと胸には布を巻いている。

 どうやら、風呂場で遭遇したであろう、"自衛隊"女性陣が彼女を説得して着けさせた様だ。

 俺には少しも残念だと言う気持ちは無い、決して無い。


 アリエルさんへレティシア姫を紹介すると、二人は海と陸の違いはあるが同じイサドイベを故郷とするので、直ぐにうち解けて和気藹々と話しが弾む。

 時折、ローランさんが会話に加わり、アリエルさんの父親の話もしている。

 ローランさんは、アリエルさんの父親と面識があるとの事だ。

 まあ、アリエルさんも魚人族の姫だし、レティシア姫はイサドイベの正真正銘の姫なのだから、仲良くして貰った方が良い。


 暫くすると、俺達の居る池、いや水槽へセバスチャンさんが来て、「準備が調いました」と伝えてくれる。

 既に、他の面々は迎賓館の外へ出てきており、俺達も合流することにした。

 アリエルさんには、「またね」と言うと、「みんないっちゃうの、淋しいな……」と、ちょっと悲しそうだ。

 セバスチャンさんの案内で、叙勲式の会場となるエドワード大公の居館へと向かう。

 ちょっと驚いたのは、サクラさんの衣装だった。


 それは、どう見ても元の世界、それも日本の神社で巫女さんが着用している、白い着物に朱袴という出で立ちだった。

 そして、サクラさんの狐耳が、なんとよく似合うことか。

 それは、正にお稲荷様の使いだった。

 恐らく、これも西住小次郎大尉殿が初代サクラさんへ着せたのが始まりなんだろう。

 サクラさん曰く、「これが私の正装でございます」との事。

 他の"九ノ一"達は、黒のメイド服ではなく、蒼いメイド服へと着替えており、これもメイドの正装なんだとか。


 "自衛隊"の面々は。俺も含めてアンとミラ以外は89式小銃を肩に掛け、アンはバレットM82A3を背中に担いでいる。

 腰には全員が89式多用途銃剣と、9mm拳銃を装備している。

 俺を先頭に、"自衛隊"が一列縦隊で続き、その後からサクラさんを先頭にして"九ノ一"が同じく一列縦隊で続く。

 エドワード大公の居館へ入ると、いつもの大食堂ではなく謁見の間という叙勲式の会場へと案内され、その謁見の間の扉が開かれると、大勢の人々から拍手が巻き起こった。


 広間の奥にはエドワード大公が微笑んで俺達を迎えてくれ、その場所までの両脇には大勢の騎士達が整然と整列しており、剣を天に向けて掲げている。

 俺を先頭にして、騎士達が作っている道の真ん中を進んで行き、エドワード大公の前までたどり着く。

 すると、拍手が鳴りやみ騎士達が剣を一斉に下ろした。


「ジョー・ジングージと、その仲間達よ、この度の働き誠に大儀であった。余は、その働きに対して、タースの最高勲章を与える事にした。受け取ってくれ」

「はい、フェアウェイ大公閣下。有り難き幸せにございます。謹んでお受けいたします」

「うむ、合わせてジョー・ジングージには、騎士(ナイト)の爵位を与える」

「えっ……はっ、謹んで騎士の位を承ります」

「はははは……嫁ぐ相手が、爵位を持っておらんとな。のうベアトリス?」

「はい、お屋形様。父や妹も、これで安心ですわ」

「……大公閣下、奥方様。それは……」

「はははは、冗談だジョー。本当に、お主は面白いな」

「それから、これは報奨金だ。少ないが受け取ってくれ」

「はっ、有り難く頂きます」


 冗談だと言われたが、それは方便だと思う。

 それが証拠に、シスコンのチャールズさんが、渋い表情をしている。

 俺はエドワード大公から、首に大きなメダルのついた勲章を掛けてもらい、報奨金の入った革袋を頂く。

 何だか、意外に少ないぞ。

 金貨で言うと10枚くらいしか入っていない重さだ。

 まぁ、冒険者の依頼報酬だと思えば、こんなもんなのだろう。

 俺に続いて、ロック、ナーク、アン、ベル、ミラと、エドワード大公が直々に勲章を授けて行く。

 更に、サクラさん達"九ノ一"にも同様に勲章を与え、俺と同じように報奨金の入った革袋を貰った。


 叙勲式は、滞りなく終了して、俺達が謁見の間を後にする際も、集まって居たタースの貴族達から盛大な拍手が巻き起こる。

 騎士達が入室した際とは異なり、両側の騎士達の剣が斜めに掲げられ、その剣による山形の中を俺達は潜って退室して行く。

 なんだか、本当に中世ヨーロッパの貴族の様な風習だが、似ているだけで完全に同じでは無い。


 退室すると、廊下にはセバスチャンさんが待ち受けており、俺に向かってお辞儀をしてから「ジングージ様、大食堂の方へご案内いたします」と言い、俺達をいつもの大食堂へと導いてくれる。

 大食堂は、いつものテーブルと椅子が片付けられており、どうやら立食パーティー形式の会場へと配置換えされている様だ。

 大勢のメイドや執事が壁際に佇んでおり、その前にはテーブルが並べてある。

 テーブルの上には豪華な料理が山のように盛られており、多数の小皿も準備されていた。


 俺達が大食堂で暫く雑談をしていると、エドワード大公や、ベアトリスさん、そして公爵家のルイーズさんやチャールズさんも入室して来る。

 他にも、多くの貴族達が入室して来たが、誰が誰だか全く面識が無いので判らない。

 そして、その大勢の貴族達が、俺に近づいてきて自己紹介を次々に始めるのだが、人数が半端ではなく名前など全く覚えられない。

 こういう時こそ、名刺文化のある日本は有り難いと感じたが、そもそも紙が殆ど流通して無い、この異世界では無い物強請(ねだ)りだった。


 俺だけではなく"自衛隊"や"九ノ一"も、全員が貴族からの自己紹介攻撃を受けてしまい、皆が疲労困憊だ。

 料理を食べたり、ワインを飲んだりも出来たが、それよりも貴族達との挨拶の方が遙かに多い時間を要した。

 そして、俺と同じ位に貴族達の挨拶攻撃を受けていたのが、聖女となったミラだった。

 ロックが常にミラと一緒に居たのだが、その笑顔にも疲れの表情が隠せなくなってきている。

 いやはや、これが貴族達のパーティーなのか。

 想像以上に疲れてしまい、俺達は疲労困憊のまま宿舎の迎賓館へと戻り、そのまま全員がフラフラでベッドへと倒れ込んでしまった。







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連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

作者X(旧ツイッター):( Twitter_logo_blue.png?nrkioy) @heesokai

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― 新着の感想 ―
[気になる点] せめて常装制服とか無かったんですかね。 防衛大では卒業ダンスパーティーがあり、社交ダンス部まであるそうですね。 迷彩服で晩餐会は無いと思います。
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