スベニへの帰還
翌朝、何時もどおりに起床して朝食のために迎賓館内にある食堂へ行くと、既に仲間達は全員揃っており、どうやら俺が起きて来るのを待って居た様だ。
全員が「おはようございます」と、朝の挨拶をしてきたので、俺も「おはよう、みんな元気だね」と応える。
俺が執事が引いてくれた椅子へと腰掛けると、メイド達が直ぐにスープやパンを運んで来た。
すると、アンが俺に少し不満そうな表情をして聞いてくる。
「ジョー兄い、報奨金の革袋の中を見た?」
「いいや、見てないけど、どうしたんだい?」
「アタイ、貴族様から直接、報奨金を貰ったの初めてなんだけど、ちょっと驚いたよ」
「何を驚いたの?」
「金貨だと思ったら、見た事も無い銀貨だったんだよ」
「銀貨?そうだったんだ。みんなも同じ?」
「アンちゃん、これは銀貨じゃないよ。知らないのでしゅか?」
「えぇ~、ベルちゃん。これって銀色してるから銀貨でしょ?」
「……あたしも、タース独自の銀貨だと思った」
「僕も銀貨だと思ぃました」
「お兄ちゃん、私もそう思ったよ」
「ベルさんは、ご存じの様ですね。これは白金貨ですよ、アンさん」
「そうでしゅ。これ白金貨で、金貨100枚分の貨幣でしゅ」
「えぇ~~!金貨100枚分って、それじゃ、この一袋で金貨1000枚分ってこと!?」
「そうでございます。金貨10枚で大金貨、そして大金貨10枚で白金貨1枚になります」
「そうなんだ……アタイ、金貨より高額な貨幣なんて見た事ないよ」
「……これが白金貨。初めて見た」
「僕も初めてです。金貨が一番上だとばかり思ってました」
「私もお兄ちゃんと同じでした……司教様へお届けしなくては……」
どうやら、革袋の中身は金貨ではなく、白金貨幣だった様だ。
俺も、大金貨はアントニオさんが買い取ってくれた素材で受け取った事があるが、白金貨は初めてだ。
ベルは、商業ギルドで働いていたので、見る機会が有ったのだろう。
サクラさんもメタル・ランカーのメイドさんだし、闇ギルドへ潜入していたので、知っていたのだろう。
白金貨の価値が判ると、アンやナーク、ロックやミラも「流石は貴族様」と納得して居た。
朝食を済まして、俺達はスベニへ帰還するための支度を始める。
支度と言っても、荷物は少ないので、タースの街に居るアントニオさん一行や、テンダーのおっさんへ、フェアウェイ城まで来てもらう様にハンディー・トランシーバーで連絡をするだけだ。
ギルさんへ連絡すると、朝方にテンダーのおっさんがマリアンヌさん宅へ来たそうで、朝食を一緒に食べたとか。
本当に一晩中、友人達と飲み明かしたらしく、まるで酒樽が歩いてきたかと思うほど、酒臭かったそうだ。
迎賓館から表に出て、アリエルさんの居る水槽、いや大きな池まで行くと、朝から元気なアリエルさんが水槽からジャンプして俺達を出迎えてくれた。
水槽の横には、此処までアリエルさんを運んで来たと思われる小さな水桶が積んである荷車が置かれていたので、これでフェアウェイ城から表まで運べば良いみたいだ。
城の外へ出てから、大型水タンクを装備している73式大型トラック(新)を無限収納から召喚して、水タンクへ入ってもらう予定だ。
車輌を運転できるのは、俺達"自衛隊"のメンバーだけなので、5人しか居ないので5輛までしか運用出来ない。
既に、召喚している車輌は、96式装輪装甲車、16式機動戦闘車、高機動車の3輛だから、これに73式大型トラック(新)ベースの3 1/2t水タンク車を加えても、後1輛は召喚しても大丈夫だ。
73式大型トラック(新)は運転手の他に2人乗れるし、16式機動戦闘車には操縦者の他に3人か4人は乗れる。
96式装輪装甲車と高機動車で20人は乗車できるから、人数的には増加しても問題は無さそうだ。
運転には不慣れなベルとアンには、それぞれ高機動車と73式大型トラック(新)を任せれば、視野も広いから運転がし易いだろう。
"九ノ一"部隊は、ベルの運転する高機動車へ全員が搭乗してもらい、全員がメイドが本業という移動メイド車の運行だ。
ナークには96式装輪装甲車を任せ、もう1輛96式装輪装甲車を召喚して、それをロックに任せる。
そして、緊急時に備えて、俺が16式機動戦闘車を操縦して行くことにした。
水槽からアリエルさんを水桶に移す作業を行い、荷車を馬に引かせてフェアウェイ城を出るため、跳ね橋を渡る。
既に、タースの住民達が、俺達の車輌や指揮者ゴーレムの周辺へ集まっている。
俺達の姿を見つけると歓声が巻き起こるが、警備の兵士達が「静かに!」と住民達へ告げていた。
俺とロックは、指揮者ゴーレムの元まで行き、状態を確かめてから無限収納へと格納した。
住民や兵士から「おぉ~、消えたぞ!」と、再び歓声が巻き起こった。
正直、無限収納へ格納してしまうと、せっかく装備した無線装置やアンテナが無限収納から取り出した際に消えてしまうので、痛し痒しだ。
しかし、移動速度を考慮するとやむを得ない。
そして、空いたスペースへ73式大型トラック(新)を改造した3 1/2t水タンク車を召喚する。
このタンクには5000リットルの水も既に満タン状態だ。
俺とロックは、タンクの上部へと昇り、メンテナンス用のハッチを開く。
タンクの中には冷たい飲料水が、ハッチの直ぐ下まで満たされている。
ベルやサクラさん、アンに手伝ってもらい、アリエルさんをハッチからタンクの中へと移動させると、アリエルさんは「うわ~、このお水、冷たくて気持ちが良いの。それに、とっても綺麗なの!」と大喜びだ。
タンクのハッチは開けたまま移動すれば、タンクの中に潜っていても、明かり取りになるし、外を眺める事も可能だ。
運転を担当するアンが運転席へと乗り込み、シート位置を調整するのを俺が手伝ってやる。
ちゃんと、アクセルとブレーキへアンの足が届くのを確認したので、問題は無いだろう。
同様に、ベルの運転する高機動車の運転席もシートの位置調整を行い、助手席にはサクラさんが乗り込み、後部へ"九ノ一"の面々が次々と乗り込んで行く。
"九ノ一"部隊は全員がまた黒いメイド服へ戻っており、サクラさんも同じメイド服を着用していた。
巫女装束が似合っていただけに、ちょっと残念だ。
ナークは既に96式装輪装甲車の操縦席へ搭乗し、後部ハッチを開いている。
俺は、もう1輛の96式装輪装甲車を無限収納から召喚し、ロックへ搭乗してもらう。
念のために、攻撃用の重機関銃M2と、広帯域多目的無線機(車両用)も召喚して、自動装着されたのを確認する。
油圧式の後部ハッチを開き、搭乗する人たちを待ち受ける。
イサドイベまで、お連れするレティシア姫一行は、ローランさんとメイド達の合計7人だ。
後は、アントニオさん一家と、ギルさん達"雛鳥の巣"が3人なので、合計6人半、おっとテンダーのおっさん入れて7人半だ。
未だ、乗員には余裕があるので、スベニからの救援隊で帰還する人が居ても余裕だ。
俺達がスベニへ帰還する準備をしていると、フェアウェイ城からバンカー公爵軍のサンダース隊長とヘンリー副隊長がやって来た。
そして、サンダースさんはタースへ残留するので、自分の代わりにヘンリー副隊長をタースまで連れて行って欲しいと言う。
タースに居るバンカー公爵とエリザベス姫の護衛を行うためだと言うので、もちろん承諾する。
更に、アマンダ隊長も派遣されたタースの警備兵の指揮は副隊長へ任せ、スベニへ帰還するとの事なので、これも当然ながら了承した。
暫くすると、馬車に乗ったアントニオさん達がやって来た。
マーチンさんの営む商家の従業員が送ってきてくれたそうだ。
ギルさん達"雛鳥の巣"も一緒だし、テンダーのおっさんも一緒だ。
一行とアマンダさんには、ナークの操縦する96式装輪装甲車へ搭乗してもらう。
最後に、レティシア姫一行が跳ね橋を渡って来た。
その後ろからは、エドワード大公や奥方達、更にバンカー公爵家の方々の姿も見えるし、ラインハルトさんやセバスチャンさん、大勢のメイド達も一緒だ。
レティシア姫一行と、ヘンリー副隊長にはロックの操縦する96式装輪装甲車へ搭乗してもらい、大公家と公爵家の皆様への挨拶をする。
皆さん名残惜しいと言ってくれるが、また会う機会は幾らでもあるだろう。
特にエドワード大公は、「また会おうぞ、我が友よ」と言って、俺を抱擁してくれた。
正室のベアトリスさんも、優雅にカーテシーを決めて、「妹のリズを宜しく」と言って微笑んだ。
俺は返事をせずに、「あははは……」と笑って誤魔化すしか無かったが、エドワード大公も笑って居たので、これで良かったのだろう。
さあ、スベニへ戻ろう。
俺は、16式機動戦闘車の操縦席へ乗り込み、ハンディー・トランシーバーのハンドセットを握りしめ、PTTボタンを押し"自衛隊"全員へ指令を送った。
『全車、スベニへ向けて発進!』




