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第三話

美少年を押し倒したり舐めたりする美青年が出るなど、若干BL的要素が出てきますが頑張ってください。

「いいですか、人間の歴史は所有の歴史。人間は所有する生き物なんです。家畜という概念がなければ人間の文明は発展しなかったでしょう。それゆえ、家畜という存在は人間にとって非常に重要で、その所有の権利を誇示するためにもシンボルは必要なんです。牛には焼き印を、山羊には札を、そして犬には首輪が必要なんです。現代社会は実に恐ろしいところでして、首輪の無い犬は保健所に連れていかれて殺処分されてしまいます。私も犬のはしくれ。ご主人様に殺されるのであるなら千も万も我が身を捧げましょう。しかし、それ以外のものに殺されるくらいなら私は世界を敵にまわしたいのです。ですからご主人様、お願いです。私に首輪を、貴方様の所有の証をください」


「長いよ!そして嫌ですよ!」


息一つ切らさないで語りあげたお姉さんに、桃太郎くんはついツッコミをいれてしまいます。妙なカミングアウト以降、執拗につきまとうお姉さんに対して無視を決め込んでいた桃太郎くんにも、限界があったようです。

酷く嫌そうな顔をする桃太郎くん。けれどお姉さんは、反応があったことに感動しました。


「それでは、私は死んでしまえばいいと?」

「そういう訳じゃありませんよ!けど、なんで首輪なんですか……」

「ですから、人間の歴史は所有の――」

「それはもう分かったから!」


再びツッコむ桃太郎くん。お爺さんお婆さんにくらべたらさすがに大人しいものですが、やはり変態対策には体力を使うみたいです。


「ああ、分かりました。もしかしてご主人様はこれがお嫌いなのですか?」


これ、そう言いながらお姉さんは、手に持っていた首輪をガチャリと持ち上げました。それは鈍く白く光る、ゴツゴツとしたいかにもいかにもな首輪でした。


「そりゃあそうですよ。どうしてそんな重いものを、あの、その、お姉さんみたいな……綺麗な、人に……付けなくちゃいけないんですか」

「そうですか。ああ!なんとご主人様は優しいのでしょうか。犬めにそんなお気遣い、犬は嬉しゅうございます。なら、これならどうでしょうか」


持っていた首輪を、どこにそんな容量があるのか分かりませんがズボンのポケットに入れ、お姉さんはまた別の首輪を取り出しました。それは革製の、小さな茶色の首輪でした。先ほどとくらべると実に可愛らしいデザインです。


「これならまあ……」

「ありがとうございます。それでは、私につけてください」

「ボ、ボクがですか?」

「はい。所有の証ですので、ご主人様につけてもらわなければ意味がありません」


微笑むお姉さんについつい赤面してしまう桃太郎くん。これまで会ってきた女性といえばお婆さんだけというわびしい環境でしたから、女性らしい女性であるお姉さんに、どうしてか不思議な気持ちになってしまうのでした。


桃太郎くんはお姉さんから可愛らしい首輪を受けとると、つけるためにお姉さんの後ろにまわりました。

つけやすいようにしゃがみこんだお姉さんにそっと、首輪をつけた桃太郎くんは、ふんわりと優しい匂いを嗅ぎ、頭がクラクラしてしまいました。


「ありがとうございました。これで私は名実共に貴方様の犬になれました。なんとでもご命令くださいませ。貴方様の犬はなんでもやりましょう!」

「やっぱりしなかったらよかった……」


後悔してももう遅かったようで、桃太郎くんは犬を連れ、鬼ヶ島への道をとぼとぼと歩いて行きました。




「もーもたろさんももたろさん、お腰につけたキビ団子、ひとつ私にくださいなー♪」


道の途中、森の中から背の高いお兄さんが突然出てきたかと思うと、またまた妙な歌を歌い上げました。

やはりまだまだ子供だからでしょうか、純真無垢な桃太郎くんは、実に奇妙なシチュエーションにも関わらず、ニッコリと微笑みました。


「いいですよ。はい、どうぞ」

「ありがとう!じゃあ、いただきまー……」


お兄さんがキビ団子を一口かじったところ、さっきまで爽やかに笑っていたお兄さんが、急に地面に膝をつきました。


「あ、あのっ!大丈夫ですか!?」


慌ててお兄さんの顔を覗き込んだ桃太郎くん。するとお兄さんは、桃太郎くんの肩に両手を置いたかと思うと突然桃太郎くんを地面に押し倒しました。


「……えっ?」

「…………さあ!僕と一緒に快楽を貪ろう!大丈夫、安心して。悪いようにはしないから。ほら、分かるかな、僕がこんなにもドキドキしているのが。君のせいだよ。どうしてそんなに可愛らしいのかな。神様が僕に遣わしてくれた天使だろうか。いや、天使ですらこんなにも弾けそうな唇を持ちはしないだろうね。ああ、君の身体はどんな味がするのだろう!?君の身体は僕を駆り立てるんだ。君は初めて?なら、僕に全てを任せて」


二度目の長文台詞を言いながらお兄さんは、桃太郎くんの衣服を脱がしていきました。呆然とする桃太郎くんに防ぐ手立てはなく、白い肌にいささか紅色の入った桃太郎くんの美体があらわになってしまいました。


「やっぱり綺麗だ……。食べちゃいたいだなんて俗な言葉だけど、君は本当に美味しそうだ」

「ふぁあ……。な、なにっ、するんで、すかぁ……っ!」


桃太郎くんの首筋を舐めはじめたお兄さん。なんなのでしょう。本当に童話なんでしょうか、これ。地の文ですら驚いてしまいます。


「ほら、力を抜いて。いい子だから、ね。僕と一緒に二人だけの天国を作ろう。怖がることはないよ」

「貴様、ご主人様になにをする!離れろっ!」

涙ぐむ桃太郎くんにそっと唇を近づけたお兄さん。と、ちょうどその時、黙って見ていたお姉さんが、お兄さんに体当たりを仕掛けたのです。お兄さんは吹き飛び、その隙にお姉さんは桃太郎くんの着衣を整えます。ご主人様という言葉を無視すれば、なんと常識的な光景なのでしょう。

「いきなりなにをする!」

「それはこちらの台詞だ。ご主人様を押し倒すなどと、変態め。警察につき出すぞ」

「はん。やかましいよ雌犬。僕と桃太郎くんとの間に挟まらないでくれるかな。目が腐る」

「発情期の猿がうるさいな。貴様の目に映ったらご主人様が汚れるんだよ。死んで償え」


なんとも口が悪い二人。おそらくお互い生理的に合わないのでしょう。いがみ合いながらメンチを切り合っています。


「そうだ、桃太郎くんだ!桃太郎くんに判断してもらおう。桃太郎くん、君はどちらが好き?」


桃太郎くんにすがるようにお兄さんは訊ねました。けれど、非常に嫌そうな表情の桃太郎くん。


「……お姉さんです」

「なんで!?」

「当たり前だろうが、阿呆め」


お兄さんの首根っこを掴んで引き剥がし、地面に投げるお姉さん。瞳は勝利の優越感に満たされております。


「見も知らぬ人に、それも男の人に、その……エッチなことをされて嬉しい人がどこにいるんですか……!」


恥ずかしがりながら語る桃太郎くん。思い出したのか頬は赤くなっています。ウブな男の子なんです。


というか、どうしてこの男は押し倒しておきながら勝てると踏んだのでしょうか。


「ごめんよ!桃太郎くん!もう、押し倒したりしないからぁ……。ねっ?友達に、なってくれない?」


ズキュン、というよりはむしろズギャンでしょうか。桃太郎くんはハートを撃ち抜かれました。それはお兄さんが涙目で見上げてくる姿に興奮したからではなく、『友達』という語の甘美さ故でした。


ああ、生後3日で且つ先ほどまで山奥に住んでいたのです。友達なんて出来るはずがありません。そんな桃太郎くんに、友達。概念は知っていたけど、自分なんかが本当に友達……?


心動かされた桃太郎くん。ああ、そちらは地獄への一方通行ですのに。


「……もう、エッチなことはしませんね?」

「しない!神に誓ってしないよ!」

「……分かりました」

「ありがとう!ありがとね桃太郎くん!」


喜び勇んで桃太郎くんに抱きつくお兄さん。桃太郎くんも満更ではなさそう。ですが、どうしてお兄さんの手は桃太郎くんのお尻をさすっているのでしょう。お姉さんは不機嫌そうな顔をしながら、またもやお兄さんを引き剥がしました。



「調子に乗るなよ、クソ猿」

「はぁ?調子に乗ってるのはお前だろ? 犬風情が友達に勝てると思ってんの?」


再度睨み合う二人。ついつい桃太郎くんも溜め息を1つ。


「喧嘩したら駄目ですよ。仲良く行きましょう」

「はい。申し訳ありませんでした、ご主人様」

「……桃太郎くんがそう言うんなら、分かったよ」


なんとか喧嘩も収め、満足そうに歩き出した桃太郎くん。さあ、鬼ヶ島へと向かいましょう。


「……ご主人様の温情にすがるんだな、性犯罪者」

「……うっせぇ、奴隷願望者」

「ほらっ!二人とも、置いてっちゃうよ!」

「待ってください!ご主人様!」

「待ってよ桃太郎くん!」



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