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第四話

「桃太郎さん桃太郎さん、キビ団子はいらないので鬼退治に連れて行ってください」


おおっと、まさかの変化球。突然男の人が話しかけてきたかと思うと、鬼退治参加への要求をしました。しかし、さすがに二人の変態を抱えた桃太郎くん、明らかに身構えます。


「あの……どちら様でしょうか」

「雉ポジションだ。名前は羽鳥で、職業は会社員。一応、係長だ」


おっとっと、まさかの雉ポジション発言。童話を舐めてるんでしょうかこのおっさん。


「おっさん言うな。32はギリギリお兄さんに入るはずだ」


うわ、地の文に絡んできたよこの人。しかも自分をお兄さん呼ばわり。若干痛いです。


「うっせぇよ。ごちゃごちゃ言うな」

「あの……さっきから誰とお話を?」

「あー、気にすんな。こっちの事情だ。それで、どうする。まあ、駄目と言われてもついていかなきゃならないんだがな」

「……押し倒したり、奴隷にしてくださいとか、言いませんよね?」

「はあ?俺が、お前に?なんでそんなことしなくちゃなんねぇんだよ」


あぁあぁ、口が悪い鳥ですね。まったく、子供の教育に悪いじゃないですか。これだから鳥は。


「うっせぇな。鳥とか言うんじゃねぇよ!」


鳥に鳥と言ってなにが悪いんでしょうか。地の文に話しかけてくるんじゃありませんよ、メタは嫌われるんですからね。まぁ、鳥頭なあなたに言ったところでしかたないのですがねぇ。


「お前なぁ……殺してやろうか」


私を殺せるかはさておき、いいこと教えてあげましょう。


「あん、なんだよ」


桃太郎くん、忘れてませんか?


そう、先ほどから地の文に絡むおっさん改めて羽鳥さん。ついつい目の前に桃太郎くんがいるのを忘れてしまっていたのです。桃太郎くん、一人言の激しい羽鳥さんを見上げながら不思議そうな顔をしています。


「うわっと。すまん。さっきのは、まあ、気にしないでくれ」


恥ずかしさを紛らわすように頬をかく羽鳥さん。桃太郎くんはそんな羽鳥さんを見上げながら、小さく微笑みました。


「羽鳥さんって、面白い人ですね。これから、よろしくお願いします」


手をさしのべ、握手を求める桃太郎くん。先の二人に比べたらかなり常識人ですので、そのアクの薄さに惹かれたようです。


「あぁ、よろしくな」

「お待ちください。私は反対です。猿野郎でさえうざったらしいのに、また増えるとなると更にうざったらしいことになりますゆえに」

「僕も嫌だ。今でさえ犬畜生が邪魔なのに、更におっさんが増えたら僕と桃太郎くんとのパラダイスが汚される!」


握手する二人に、反対する二人。お姉さんもお兄さんも、自分の欲望のためには呉越同舟、タッグを組むことを決めたようです。しかし、二人とも相手を測り違えていたのです。目の前にいる男は会社員であって会社員ではないのです。無茶苦茶な上司に振り回される、非常に憐れな会社員だったのですから。


「うっせぇ、クソガキども。こちとらなぁ、ワケ分からんくそ上司にワケ分からん内に縛り上げられ、ワケ分からん中で目隠しされて、ワケ分からんところに放り出された挙げ句に『鬼退治してきて。終わった頃に迎えにくるから』とかワケ分からんこと言われてんだよ。なら、てめぇらが俺を家に帰してくれんのか。ああっ? こちとらな、平穏な生活がかかってんだよ」


嗚呼、不憫な羽鳥さん。奇妙な状況に放り出された32歳の悲劇であります。彼にはおそらく、子猫のように気儘で、傷つきやすい彼女がいて、一刻も早く元の場所に戻り彼女のご機嫌とりをしなければいけないなどという背景があるのでしょう。


「おい、なんでそれを知っている!」


はっはっは。私は地の文ですからね。大抵のことは知っていますよ。羽鳥さんの黒子の数だとか、羽鳥さんと彼女さんとの出会いですらもそりゃあはっきりと知っております。


さて、ギャーギャー喚いている羽鳥さんは放置して、お姉さんとお兄さんに目を向けましょう。まあ、目は無いのですが。

お兄さんは未だ桃太郎くんに説得を続けていますが、お姉さんは諦めたのか無言を貫きます。ふと、黙るお姉さんに気づいたお兄さんは八つ当たりのようにお姉さんに向かいます。


「なんでお前は黙ってるんだ! 桃太郎くんパラダイスはお前も望むところだろうが!」

「阿呆。お前の下劣な欲望とは違い、私のはご主人様を守るという崇高なものだ。しかし、まあ、別にアレが増えたところで別に構わないと気づいたからな」


そう言うと、お姉さんはおもむろに動きだし、どさぐさに紛れて桃太郎くんの腰の辺りをなぞっていたお兄さんの手を外しました。


「先の発言を聞けば、アレにご主人様を害する要素はない。むしろ、貴様のような変態からご主人様を守るくらいの常識はありそうだ。それに、私はご主人様の所有物モノだからな。ご主人様が決定なさったのだから、それに賛同する」


お姉さんは、喉に回る首輪を指差し誇らしげです。一方のお兄さんは不機嫌そうに黙り込みました。

生後3日の桃太郎くんが、人間の感情の機微をどうして悟れましょうか。黙ったのを、羽鳥さん参加の承諾と受け取り、朗らかに笑って言いました。


「それじゃあ、4人で行きましょう」

「ああ、ご主人様。おそれながら、進言させてくださいませ。もうそろそろ日暮れ時。そろそろ宿の準備を」

「そうですか。分かりました。近くに村があればいいんですが」

「村なら、森を出てすぐにある。というより俺が泊まっていたところがあるから、そこに泊まるのがいいだろう」


羽鳥さんの発言で、事は決まりました。一行は少し伸びた影と共に森の中を進んでいきます。一人お兄さんだけは、不機嫌そうに三人から遅れてから歩いて行きました。

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