第一部第四話 脱出
「じゃあ一緒に出るか?」
「え? ここって有名なドラゴンの巣穴でしょ。なんで道まで知ってるの。さすが126期主席にして過去最高のオールSで卒業した男!!」
「じゃ、はいどうぞ」
ノアがおぶってやる、とでもいうように背中を向けた。
「男として女性におぶられるなんて……」
「何言ってんのよ。そんな身なりで一人で歩けるわけないでしょ。誰彼かまわずおんぶするわけじゃないんだからね」
その背中を見ながら、俺は少し考えた。
右腕と左脚を失い、頭の中にはやかましい龍が一匹。
七日前とは、何もかも変わってしまった。
それでも――どうやら帰ることはできそうだ。
「あ、待ってほしい!」
「ん? 何、あんたもお花摘み? 手伝ってやろうか?」
「違うわ! おまえが倒したカブトクワガタの処理だよ」
さて、剥ぎ取りの時間だ。
脚部を開いてみると、中身は半透明でゼリー状。
これは生食確定だな。炙ると消えてしまいそうだ。
頭のカブトムシの角は左脚候補に。
両脇のクワガタ部分は、ハサミみたいに右腕に使えそうだ。
その前に――
「チャッピー、食べていいぞ」
「キタキタキタ! 古式龍の時は加工できず、食えなかったものが!」
「え? 精霊? もう精霊の依り代になってるの? アレン君やるじゃん!」
「いや、これは違くて……いや、違わなくはないか。確かに精霊だ。まあ今はそんな感じの認識でいてくれ」
「なんだ、人間の女。お前は我を知らんのか。我は――」
「チャッピー。それ以上しゃべるとご飯抜き!」
「えー。これから三日三晩、我の物語をな――」
「そういうの、なんていうか知ってるか?」
「承知したであります!」
この昆虫ゼリー、匂いに癖があるけど食ってみるとうまいぞ。
チャッピーは顔を近づけて、直接いっている。
あいつが精霊扱いになって助かった。
毎回清潔な姿で出てくるからな。
あれを拭いてやるのは、ごめんだ。
俺は食べるのもそこそこに、カブトクワガタの解体を始めた。
自分の骨の部分に腱を巻きつけてみると、ハサミの空洞に見事にマッチした。
お、ジャキンジャキンできるぞ!
それもチャッピーの肉様々だな。
余った腱は、いい木が見つかれば弓に使いたい。
まあ、まだ先の話だ。
左脚には、カブトクワガタの真ん中の角を使う。
ノアに切断してもらい、つなぎ目には軍兵装備品の滑車を関節代わりに取りつけた。
あとは紐で縛って、腹部の甲羅をレッグガードにして、と。
右腕はハサミ。関節はなし。
左脚には関節があり、丸い甲虫の甲羅も使える。
初回で甲虫を引き当てたのは、ノア様々だな。
剣技だけは敵わなかったもんな。
その分、LoTaS演習ではマシンカノンからグレランまで操作できた俺と違って、ノアはアサルトライフルレベルだったけどな。
LoTaSって、なんで武器によってあんなに扱いの差が出るんだろう。
魔力量も関係するのかもしれない。
まあ、あいつは銃剣用のいい穂先を見つけてやるだけで、見違えるように強くなるだろう。
同じ部隊になることはないだろうけど。
ノアとは学生時代から五年目の付き合いだ。
厳密には、俺より二つ年上。
初めて見た時から目立つ女だった。
……それなのに「面識がない」か。
まあ、人前で俺との関係を言いたくない理由でもあるんだろう。
さて。
このほりにしブレンドの甲虫ゼリーに、おすすめの香辛料を振りかけて食べる。
旨い!
この感動をノアにも体感してほしい。
振り返って声をかけた。
「ノアー、これうまいんだけど!」
ノアを見る。
レーション食ってやがる。
しかも、資産家の母親が部下に言って作らせた超豪華なやつ。
言えよ。
先に。
分けてほしかった。
とほほ。
そんなこんなで、おんぶは必要なくなった。
それでもノアという強力なメンバーが、一時的にしろ同行してくれるのは頼もしい。
だが、こいつには致命的な弱点がある。
……方向音痴だ。
学生時代、仮部隊を組んで彼女が指揮権を持った時は、ひどいでは済まされなかった。
全員腕立て伏せ百回はきつかったなぁ。
というわけで、巣穴の道案内は俺。
厳密にはチャッピーだけど。
正確すぎて、あっという間に脱出できた。
有能な先生ではあるんだよな、チャッピーは……。
なんと、その間の戦闘なし。
飯を食ってからのチャッピーはチートだな。
うん。
「あー、太陽の光が眩しい」
さて、どうしよう。
とりあえずはノア――ノア准尉を部隊まで送り届けないと。
俺みたいに捜索隊が出ていたら大変だ。
ノアを小隊長のもとへ送り届けた。
今度は小隊長の副官として、そばを離れさせないと言っていた。
いいなぁ。
さて。
俺はどうしようか。
どうせ捜索隊に見つかっても、今度こそ殺される。
なら、一旦帝都に戻ろう。
帝国大学で十席以内に入った者は少尉から始まる。
それ以外の順位から始まった者とは、給料からして違う。正直、倍はもらっている。
これは「帝国では優秀な者ほど稼ぎがいい」と示し、軍隊志望者を増やす仕組みでもある。
ぶっちゃけ、号俸で見れば給与テーブルはあのブルックとほぼ同じだ。
家族を養える程度にはもらっている。
毎月五十万ベラム。
普通の企業なら部長級の給料と変わらない。
なら、義肢屋へ行くのが最善か。
委託販売されているパーツをつなげてもらうとしよう。
「ねぇチャッピー。一旦帝都に戻ろうと思うんだけど、どう思う?」
「今のその姿、お前、乞食にしか見えんぞ?」
「大丈夫だよ。義肢屋で身体を付け替えて、人間らしい義肢を装着する。服屋で旅人の服でも買えばいい」
少し考えてから付け加えた。
「で、牛肉を食おう。もちろん俺のおごりだ。精霊持ちも多いから、変に目立たないし」
「アレン、ヒャッフーーー♪」
出会ってから、一番喜んでいるよね




