⑨ 天使降臨
「いけないなあ……そんなチカラの使い方をしちゃあ」
出し抜けに、背後からそんな声がした。
良かった。アタシ以外に動ける人が居たんだ。
アタシは安堵して、振り返った。
そこに居たのは、見知らぬ若い男だった。
あまり見かけないような、学ラン風のデザインの、白い服を着ている。
一見して顔の造形は、日本人のようだ。
そもそも日本語を喋っているし……。
どこかの私立高校の生徒か?それとも何かのコスプレ?
「貴方、誰?何故この止まった世界の中で動けるの?」
アタシは彼に尋ねる。
「僕は……天使だよ……と言ったら、キミは信じてくれるかい?」
彼はアタシに微笑んで、そんなふざけた事を言う。
「真面目に答えてもらえるかしら?アタシ、そんなに気の長い方じゃ無いのよ」
アタシはちょっとムッとして、そう返す。
「ああ、ごめんごめん。言い直すよ。僕は、キミたち人間から、"天使と呼ばれている存在"なんだよ」
「……はあ?」
その時のアタシは、きっと"ちいかわ"の"うさぎ"のような顔をしていただろう。
「まあ、そうなるよね。特にキミのような無神論者は」
「無神論者なんかじゃないわ。ウチの実家は浄土真宗。お盆とお彼岸には墓参りするし、正月には初詣もする。そんなごく普通の日本人よ」
「まあとにかく、何者にも、呼び名は必要だろう?どうぞ天使と呼んでくれたまえ」
ソイツは、少しドヤ顔をしてそう言った。
「ああ、そう。じゃあその天使様が、このアタシに何の用なのかしら?だいたい貴方、何処から湧いて出たの?」
「僕は天国……ではなく、四次元世界からやって来たのだよ。迷える子羊たるキミに、一つアドバイスを授けるためにね?」
「アドバイス?ああ、そう言えばさっき、黒猫の神様も、何かそんな事を言っていたような……?」
「ああ、ソレはバステトだね。彼女も、困った事を始めてくれたものだ。並行世界を縦横無尽に飛び回って、手当たり次第に、ピンチに陥った者を、助けて廻るなんて……」
「は?何ソレ?楽しそうじゃない!アタシもそうしようかしら?」
「……できれば、やめて頂きたい。そんな、並行世界を荒らすようなマネをする者は、一人で充分ですから」
天使は、本当に困ったという表情で、そう言った。
「それで?……一体このアタシに、どんなアドバイスをくれるのかしら?」
アタシは天使の返事を待った。




