⑤ ニンゲン
目を凝らして見ると、海面近くに、何か白い人影のようなモノが、漂うのが見える。まさかこんな冷たい水の中に?それにしても、人間だとすると、些かカラダが大き過ぎるような……一体アレは、何だろう?
やがてソイツは、海面から飛び出し、まるでイルカのようなジャンプを見せた。全身を見せたソイツは、独特な姿だった。
人間のような頭部。人間のような両腕。しかし脚は無く、イルカのような尾ヒレが有る。例えるならソレは、北極海に居るベルーガに、人間の頭と腕を足して、巨大化させたような、バケモノだった。
ソイツがジャンプしながら、コチラを見たのだ。チラリと視線を向けられただけだったが、その青い瞳まで、人間そっくりだった。
あまり気持ちの良い想像では無いが、もしも人間とベルーガの間で、異種交配をさせたら、こんな鬼子が出来そうな気がした。
と、同時に、アタシはそいつから、慣れ親しんだ気配を感じたのだ。そうだ。今のは間違いなく……そこまで考えた時、そいつが目の前の海面に浮上し、頭部だけを出して、コチラを見つめて来た。
『何しに来た?』
ソレは、ソイツからアタシに向けられた、テレパシーだった。
『別に何も。ただ無目的な旅の途中で、ふらりと立ち寄っただけよ』
アタシは、細かい事情を端折って答える。
『貴様はアノ真田雪子なのだろう?』
『あら、アタシったら、すっかり有名人なのね?そう言うアナタは、四次元人の成れの果てなのね』
『そうだとも。向こう側からコチラへやって来た者だ』
『何しに来たの?まさかこんな極地方から、三次元の世界の征服を始めるつもり?』
『まったく、貴様たち人間と来たら、二言目にはソレだな。何故それ程までに、常に発想が好戦的なのだ?』
『お陰様で。アナタ方の世界の住人から、何度も攻められて居るのでね』
『言葉を返すようだが、我々の領分を、先に侵したのは、貴様らサン・ジェルマンの仲間たちだからな?』
『いいじゃないの、少しくらい目を瞑っても。ちょっとしたタイムトラベルと、並行世界への旅よ。何も、アナタたちの世界を、征服しようってんじゃないんだし……』
『最初は小さな始まりでも、貴様ら人間は、やがて大きな欲望を抱き出す。そうなったら、本格的に四次元世界への進出を、目論むだろうさ。ソレはこれまでの、貴様らの歴史が、証明している。』
『……耳が痛い話ね。でも少なくとも、アタシたちは違うわ』




