㉓ 葬儀場
アタシが目を開けると、そこは葬儀場だった。
窓の外の紅葉具合から、季節は秋だと思われる。
アタシは沢山並んだパイプ椅子の一番後の席に座って居た。中央の通路から前の遺影を覗き込む。やはりソレは、真田雪村の写真だった。
すると、右手最前列の席に座っている老婦人が、喪主の弓子さんという訳だ。
アタシの時空を超えた弟の雪村と、その妻の弓子さん。
この二人は、チーム・サン・ジェルマンの中で、珍しく不老不死の人生を選ばなかった者たちだ。
正しく言えば、選んだのは雪村。追随したのが弓子さんなのだが……。それに、雪村が予定通り老衰で亡くならないと、このアタシが生まれないという、時空の約束になっている。だからコレは、仕方が無い事なのだ。
少しだけ時間を早送りする。
葬儀が終わり、通夜になった。
雪村と弓子さんの学友などが多数やって来ていた。
しかし、我々のチームの面々は、ここには顔を出せない。
何故なら、皆、不自然に若過ぎるからだ。
アンチエイジングの技術がが進んだこの時代とて、やはり無理があろう。
あ、妹の香子だ。彼女はちゃんと82歳になっていた。
そうか。彼女も不老不死を選ばなかったのだ。
何でもソクラテス先生と話し合って、そう決めたらしい。
自然な人生を選んだのだ。如何にも彼女らしい生き方だ。
下の妹の由理子は永遠の29歳である事を選んだ。
ソレも、彼女らしいと思う。
皆、自分らしく生きればイイのだ。アタシはそう思った。
更に時間を早める。
いよいよ出棺の時間になった。
迎えに来た霊柩車に棺桶が運び込まれる。
涙を抑えながら、クルマに乗り込む弓子さん。
アタシは空を飛んで、火葬場まで移動するクルマを追いかけた。
やがて霊柩車は、天白区にある八事斎場に到着した。
そして皆の見ている前で、棺が火葬炉に入れられた。
間違いなく、タネも仕掛けも無い。
アタシはまた少しだけ時間を早める。
火葬炉が開けられた。
見守っていた人々が愕然としている。
骨が一片も残っていないのだ。
通常、どんなに骨が脆くても、頭蓋骨ぐらいは、形が残るのだ。
しかし、拾う骨が無いのである。
それどころか、遺灰すら見当たらないのであった。
それはまるで、最初から遺体がそこに無かったかのようだった。
アタシも、人垣の間からこっそりとソレを確認し、直ぐに後ずさると、空を飛んで煙突付近を確認する。すると今まさに、空のゲートが閉じられようとしていた。どうやら無事に、全ての雪村の構成物質が、時空を超えて、無限の並行世界に、散らばって行ったようだった。
コレが"フェニックスのチカラ"か。まったく、大した能力だ。アタシは舌を巻いた。そして、ソレを実際に見る事で、大いに満足し、心の底から納得出来たのである。そんな訳で、今無事に、アタシはここに存在しているのだから。




