⑱ ゴータマ・シッダールタ
……アタシは考える。
強力なテレパシー能力。
年齢は、30歳台半ばくらいだろうか?
衣装は簡素な、古代インドのモノのようだ。
と言う事は、つまり……。
『私の名はゴータマ・シッダールタ。アナタが来るのを、ここで待っていました。』
その男は、テレパシーでそう言うと、そこで初めて、それまで半眼にしていた目を見開いた。そして、とても意外そうな顔をした。
『おやおや、コレは異な事。まさかアナタが、まだ年若いお嬢さんだとは……』
「ご期待に沿えなかったのなら、申し訳ない。さては、仙人のようなルックスを、期待していたのですね?因みに、アタシの見た目は18歳だけど、実年齢はきっと、貴方とタメ年くらいですよ?」
アタシはそう言って少し笑った。
『失礼。私は瞑想中に、不老不死の賢者を、呼び出したつもりだったので……』
「ああ、それなら合っていますよ。アタシは不老不死なんです。賢者ではないけど……」
『……そうですか』
「それで……瞑想中に、何かアタシに、尋ねたい事でも出来ましたか?」
『私は人間の老・病・死という、逃れられない3つの苦しみについて、長い間考えております。アナタの様な存在から、ソレらに対する見解を、是非、教えていただけたらと……』
何という事だ、釈迦がこのアタシに、説法を要求するとは……これぞ正に"釈迦に説法”……言ってる場合では無いか。どうする、アタシ?
「やはり、この世界は……修行の場だと思ういますよ?」
アタシは何とか答えを捻り出した。
「もちろん、楽しい事だって有るけど、少しでも油断すれば、簡単に地獄を見る事になる……少なくとも、アタシはそう思ってる」
『……まことにおっしゃる通りですね』
「だから人生は、病気や老化に留意しながら、時には楽しく、時には慎重に、努力を積み重ねて、こなしていく、寿命の限り続く短い旅なんですよ、きっと。そして最後には肉体的な死を迎え、その魂は、あの世……つまり四次元の世界に登って行くんです」
『……?最後の部分が意味不明なのですが』
「あ、ああ、その部分に関しては、余り気にしなくてイイんですよ。今我々が居るこの世界より、一つ次元が上の世界って言うか……諸説在りって事で」
アタシは誤魔化した。
仏教の教義に、うっかり量子物理学の理論をぶち込むところだった。
危ない、危ない。
「さ、参考になったんなら、何よりですよ。じゃあ、アタシはこれで失礼しますね?」
『ありがとうございます、賢者殿。今後作る教義に、是非取り入れてみたいと思います』
「あははは……まあ、参考になったのなら、ナニよりです。頑張って下さいね。私も陰ながら、応援していますよ……ウチの実家も浄土真宗だし」
『……?』
「ああ、今のも忘れて。じゃあ、ホントにさよなら」
アタシは慌てて、その場から姿を消した。
今頃、目の前で、煙のように消えてしまったアタシの事を、ブッダはびっくりしているだろう。
でもそれもまた、仙人のような振る舞いだから、良いではないか。そう思うと、アタシは少しだけ愉快な気分になったのだった。




